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六章
訪ねてきた子ども達
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「足が痛てぇよ! これじゃ仕事が出来なくてパンも買えねぇ!」
地面に座り込んでそう叫ぶその子は、元気があり過ぎてとても怪我をしているようには見えなかった。それでも、その子の声に周りにいた人がこちらを注目しているのが目に入った。さすがに騒ぎになると変な意味で目立ってしまうので困るわね。ヘーゼルダインの名前にも影響が出る様な事は避けたいところだ。それに……怪我を治すにしても、あまり目立つのはよくないだろう。
「怪我をしているのね?」
「あ、ああ、そうだよ! この落とし前、どうしてくれるんだよ!?」
「どうって言われても……」
「仕方ねぇな。金貨一枚で許してやるよ!」
「ちょっといいかしら?」
「え?」
私はその子の手を取ると、目を閉じてそっと力を送った。
「はい、どうかしら?」
「は?」
「怪我よ。まだ痛むところはあるかしら?」
「え? あ? ええっ!!?」
私が尋ねると、その子は自分の身体を暫し見下ろしていたけれど、直ぐに異変を感じたらしく、立ち上がって身体を動かしていた。
「え? うそっ? 怪我が…前に痛めた膝が……痛くない…?」
どうやら痛みはないらしい。ついでに昔の傷も癒せたみたいで、その事に気付いて驚いているように見えた。
「もう大丈夫みたいね?」
「え? あ、あ……」
まだ信じられないようで混乱が収まらないようだったけど、よほどの傷でなければ治せるから今はどこも痛くないはずだ。病気だったらわからないけれど……
「まだ何か問題があるようだったら、この先にあるヘーゼルダインのタウンハウスに訪ねていらっしゃい」
「え? あ、あんたは……」
「私はアレクシアよ。ヘーゼルダイン辺境伯の夫人なの」
「アレク、シア……」
「さぁ。これで仕事に行って、弟さん達にパンを買えるわね?}
「あ、ああ……」
どうやら怪我も問題ないみたいだったから、ラリー様は騎士の一人にその子を家まで送り届けるように指示した。故意かどうかはともかく、怪我をさせたのはこちらだから、親御さんに一言お詫びを伝える必要があるからだ。私たちが行けば騒ぎになるから、ここは騎士の方が向いているだろうとの判断だった。
「若奥様!」
そんなことがあってから五日ほど経ったある朝、ラリー様と朝食を頂いた後で他愛もない話をしているところに、侍女が慌てた様子でやってきた。ラリー様も眉がピクリと動いて、少し不機嫌になったのを感じた。ラリー様は細かいことは仰らないけれど、さすがにちょっと無作法だったのだろう。
「どうかしたの?」
「それが……子どもが、奥様に会いたいと押しかけていて……」
「子ども?」
「ええ。どうしてもお願いしたいことがあると。小さい子を連れているので、イザード様も無下に出来ず……」
どうやら私を訪ねてきた子どもがいるらしい。今日は誰かと会う約束はしていなかったと思うのだけど……名前を尋ねても侍女が口籠ってしまったので、私はラリー様と一緒に玄関ホールに向かった。
「あの子が?」
玄関ホールでこの屋敷の管理者でもあるイザードと押し問答しているのは、まだ十四、五歳くらいの子どもと、十になったかどうかと思われる子どもだった。二人とも似たような茶色の髪をしていて、兄弟のようにも見える。身なりからしても平民、それもかなり貧しいように見えた。そんな子供が貴族の屋敷に押しかけてくるなんて、我が家でなければ危険でしかないのだけど……
「アレクシア!」
大きい方の子供が、私の姿を見つけて大きな声で呼んだけれど、私はその子を見ても心当たりが全くなかった。どこかで会っただろうか……
「シア、あの子の心当たりは?」
「えっと、全く……」
その子には申し訳ないけれど、心当たりがなかった。それくらいの年齢の子どもの知り合いに心当たりがない。もっと小さい子か、もう少し大きい子なら何人か心当たりがなくもないけれど……でもそれはヘーゼルダインでの話だ。
「アレクシア! お願いがあるんだ。頼む、姉さんを、姉さんを助けて!」
ホールの床に頭を付けていたから顔は見えなかったけれど、玄関ホールに響き渡るその声に、私の記憶のピースが転がり落ちてきた。あの声って……
「あの子って……この前の馬車の……」
私が言葉にする前に、ラリー様がそう呟いた。
その後私たちは、その子たちを使用人たちのための食堂へと連れて行った。お腹を空かせているのが丸わかりだったからだ。この時間なら使用人たちの食事がまだ残っているだろう。それに貴族の食事は子供には食べにくいだろうとイザードに言われたのもあった。
「た、食べて、いいのか?」
遠慮しているのは年上の子だけで、小さい子は今にも手が伸びそうな勢いでパンを凝視していた。よほどお腹が空いているらしいのが伝わってきたので、まずは食事が先だろうと思ったのだ。
「どうぞ。好きなだけ食べてね」
そう告げると、いい終わる前に小さな手が目の前のパンを手にしていた。使用人向けの食事といっても、我が家では私たちが豪華な食事を好まないし、使用人にひもじい思いをさせたくないとラリー様が仰るので、普段の食事にはあまり差がなかったりする。これはヘーゼルダインが貧しいことも関係しているけれど、ラリー様が質素な食事を望んでいるのもあるだろう。遠征に出れば保存食が中心になるから、贅沢な食事に慣れてそれが苦痛になるのが嫌なのだという。質素倹約を良しとするヘーゼルダインだけど、隣国との小競り合いが続くあの地では、そんな現実的な理由もあった。
地面に座り込んでそう叫ぶその子は、元気があり過ぎてとても怪我をしているようには見えなかった。それでも、その子の声に周りにいた人がこちらを注目しているのが目に入った。さすがに騒ぎになると変な意味で目立ってしまうので困るわね。ヘーゼルダインの名前にも影響が出る様な事は避けたいところだ。それに……怪我を治すにしても、あまり目立つのはよくないだろう。
「怪我をしているのね?」
「あ、ああ、そうだよ! この落とし前、どうしてくれるんだよ!?」
「どうって言われても……」
「仕方ねぇな。金貨一枚で許してやるよ!」
「ちょっといいかしら?」
「え?」
私はその子の手を取ると、目を閉じてそっと力を送った。
「はい、どうかしら?」
「は?」
「怪我よ。まだ痛むところはあるかしら?」
「え? あ? ええっ!!?」
私が尋ねると、その子は自分の身体を暫し見下ろしていたけれど、直ぐに異変を感じたらしく、立ち上がって身体を動かしていた。
「え? うそっ? 怪我が…前に痛めた膝が……痛くない…?」
どうやら痛みはないらしい。ついでに昔の傷も癒せたみたいで、その事に気付いて驚いているように見えた。
「もう大丈夫みたいね?」
「え? あ、あ……」
まだ信じられないようで混乱が収まらないようだったけど、よほどの傷でなければ治せるから今はどこも痛くないはずだ。病気だったらわからないけれど……
「まだ何か問題があるようだったら、この先にあるヘーゼルダインのタウンハウスに訪ねていらっしゃい」
「え? あ、あんたは……」
「私はアレクシアよ。ヘーゼルダイン辺境伯の夫人なの」
「アレク、シア……」
「さぁ。これで仕事に行って、弟さん達にパンを買えるわね?}
「あ、ああ……」
どうやら怪我も問題ないみたいだったから、ラリー様は騎士の一人にその子を家まで送り届けるように指示した。故意かどうかはともかく、怪我をさせたのはこちらだから、親御さんに一言お詫びを伝える必要があるからだ。私たちが行けば騒ぎになるから、ここは騎士の方が向いているだろうとの判断だった。
「若奥様!」
そんなことがあってから五日ほど経ったある朝、ラリー様と朝食を頂いた後で他愛もない話をしているところに、侍女が慌てた様子でやってきた。ラリー様も眉がピクリと動いて、少し不機嫌になったのを感じた。ラリー様は細かいことは仰らないけれど、さすがにちょっと無作法だったのだろう。
「どうかしたの?」
「それが……子どもが、奥様に会いたいと押しかけていて……」
「子ども?」
「ええ。どうしてもお願いしたいことがあると。小さい子を連れているので、イザード様も無下に出来ず……」
どうやら私を訪ねてきた子どもがいるらしい。今日は誰かと会う約束はしていなかったと思うのだけど……名前を尋ねても侍女が口籠ってしまったので、私はラリー様と一緒に玄関ホールに向かった。
「あの子が?」
玄関ホールでこの屋敷の管理者でもあるイザードと押し問答しているのは、まだ十四、五歳くらいの子どもと、十になったかどうかと思われる子どもだった。二人とも似たような茶色の髪をしていて、兄弟のようにも見える。身なりからしても平民、それもかなり貧しいように見えた。そんな子供が貴族の屋敷に押しかけてくるなんて、我が家でなければ危険でしかないのだけど……
「アレクシア!」
大きい方の子供が、私の姿を見つけて大きな声で呼んだけれど、私はその子を見ても心当たりが全くなかった。どこかで会っただろうか……
「シア、あの子の心当たりは?」
「えっと、全く……」
その子には申し訳ないけれど、心当たりがなかった。それくらいの年齢の子どもの知り合いに心当たりがない。もっと小さい子か、もう少し大きい子なら何人か心当たりがなくもないけれど……でもそれはヘーゼルダインでの話だ。
「アレクシア! お願いがあるんだ。頼む、姉さんを、姉さんを助けて!」
ホールの床に頭を付けていたから顔は見えなかったけれど、玄関ホールに響き渡るその声に、私の記憶のピースが転がり落ちてきた。あの声って……
「あの子って……この前の馬車の……」
私が言葉にする前に、ラリー様がそう呟いた。
その後私たちは、その子たちを使用人たちのための食堂へと連れて行った。お腹を空かせているのが丸わかりだったからだ。この時間なら使用人たちの食事がまだ残っているだろう。それに貴族の食事は子供には食べにくいだろうとイザードに言われたのもあった。
「た、食べて、いいのか?」
遠慮しているのは年上の子だけで、小さい子は今にも手が伸びそうな勢いでパンを凝視していた。よほどお腹が空いているらしいのが伝わってきたので、まずは食事が先だろうと思ったのだ。
「どうぞ。好きなだけ食べてね」
そう告げると、いい終わる前に小さな手が目の前のパンを手にしていた。使用人向けの食事といっても、我が家では私たちが豪華な食事を好まないし、使用人にひもじい思いをさせたくないとラリー様が仰るので、普段の食事にはあまり差がなかったりする。これはヘーゼルダインが貧しいことも関係しているけれど、ラリー様が質素な食事を望んでいるのもあるだろう。遠征に出れば保存食が中心になるから、贅沢な食事に慣れてそれが苦痛になるのが嫌なのだという。質素倹約を良しとするヘーゼルダインだけど、隣国との小競り合いが続くあの地では、そんな現実的な理由もあった。
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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