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三章
ラリー様の出立
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隣国の侵攻を受けて、ヘーゼルダインはこれまでにない緊張感に包まれていた。その日、私が自分の部屋に戻ったのは日付が変わってからだった。それでも緊急時の高揚感のせいか、それともまだ外では慌ただしく出立の準備が行われているせいか、ベッドに入っても中々寝付けなかった。
ラリー様と話がしたかったが、ラリー様はあの後騎士団に行ったっきりで、夜になっても帰ってこなかった。多分今後の事を話し合っているのだろう。ラリー様とはこちらに戻ってからは交流も殆ど途絶えていたから、今回もこのまま何も話さずに終わりそうだった。私が気後れして、積極的に会いに行かなかったのもあったのだけれど…
出立は明日の未明、まだ明るくなる前だと聞いた。私も見送るつもりだったが、今から寝ては寝過してしまうかもしれない…そう思った私は早々に寝るのを諦めた。どうせ眠れそうもないし、だったら起きていた方がいいだろう。私は簡易なドレスに着替えると、何とはなしに気になった紫蛍石の箱を手にした。
初代の聖女は王のために力を使って勝利へと導き、建国を助けたという。さすがに私にそんな力があるとは思えないが、聖女の力が国造りに使えたのなら、こういう事態にも対処できるような気もした。思い浮かぶのはせいぜい怪我をした者を癒す事くらいだったが…王やその側近が怪我をしても癒されれば、それだけでも大違いな気がした。そうであれば…例えば、ラリー様が無事にお戻りになるように…なら叶いそうな気がした。
今のヘーゼルダインにラリー様は必要な方だ。おじ様に子はおらず、親戚にも領主になれるほどの器の者はいないと聞く。ラリー様は王族の中でも王に近い者と言われていたのだ。国内を探しても代わりが出来る人は少ないだろう。逆を言えば、ラリー様を失えばこの地は一気に政情が不安定になる可能性が高かった。私は紫蛍石を手に、出立するみんなが無事に帰れるようにと願いを込めた。
コツコツ…
どれくらいそうしていただろうか…私は小さく何かを叩くような音で意識が浮上するのを感じた。いつの間にか寝落ちしていたらしい。耳を澄ますと、音はラリー様の部屋側のドアから聞こえて来た。もしかしてラリー様が戻ってこられたのだろうか…
「…シア、起きているか?私だ、ローレンスだ」
「…はい。何か?」
聞き取れるかどうかわからないくらいの小さな声だったが、間違いなくラリー様の声だった。私がそれに応えると、ラリー様は暫くためらったようだったが、少し話がしたいと言われた私は鍵を解除して部屋に招き入れた。
「すまない、こんな時間に…」
「いえ、私も眠れなかったので構いません」
昼間会ったばかりだというのに、ラリー様は随分お疲れのように見えた。ずっと準備のために根を詰めていらしたのだろう。
「どうかされましたか?」
「いや…今後の事を話しておきたいと思って…」
ラリー様のお話は、まずはこの戦いで自分に万が一の事があった場合の話だった。縁起でもないとは思ったが、万が一の事を話し合う必要性は確かにあるのだ。ラリー様はもしもの時は、私の好きにしていいと仰ってくれた。王都に戻るもよし、ここで暮らすもよし、これまで王家に振り回されてきたから、今後は出来る限り自由にして欲しいと。今後ここで暮らす場合は、ギルおじ様の養女となって身分を保証するとも仰った。
また、戦争が長引く可能性があり、いつ戻れるかもわからず、結婚が何時履行されるかわからない。もし私がこの結婚を望まないと思うようになった時は陛下と相談し、婚約を解消して王都に戻ってくれて構わない、自分には結果だけ知らせて欲しいと。
「そんな事にはなりませんわ。ラリー様はお強いですもの」
「そうだといいのだが…」
「大丈夫です。必ずラリー様は勝って無事にお帰りになりますわ。私が保証いたします」
「…それは、心強いな。建国の聖女の末裔である君がそういうのだ、間違いない…ありがとう」
何だか余所余所しいな…と、以前とは違う距離に私は寂しさを覚えたが、さすがにそれを表に出す事はなかった。ラリー様、そろそろ…とドアのところからレックスが呼びかけるのが聞こえた。
「後…シア、これを」
「これは…」
「セネット家の紫蛍石だ。一度返しておきたい」
「…いいえ、この様な時だからこそお持ちください」
「だが…」
「必勝のお守りですわ。ラリー様のご無事と勝利を祈っています」
「…それは…ああ、そうだな。シアの言う通りだ」
ためらいながらもラリー様がそう言って下さった事に私は安堵した。何も出来ない事がもどかしく、せめてこの石だけでもお側に…と思ったからだ。この片割れは守りたい者に渡せとあったのだ。きっと何かしらの効果はあるのだと信じたかった。
「あと、お手を…」
「手?」
私が手を差し出すと、ラリー様は少し躊躇したものの、私の手にご自身の手を重ねられた。私のしたい事を察して下さったらしく、すまないと困ったように笑った。
「あれから体調はいかがでしたか?」
「ああ、この前癒して貰ってからは問題ない。あんなにしつこかった頭痛も起きていないよ」
「そうでしたか。よかったですわ。でも、念のため」
そう言って私は癒しの力をラリー様に送った。今回は以前ほど力を使う事がなかった。あれから紫蛍石にラリー様が癒されるようにと願いを込めていたせいだろうか…
「どうかお気をつけて。ご武運をお祈りしていますわ」
「…ああ、シアも気を付けて。こうなった以上、私が帰るまで外に出ないでくれ。君を人質に取られてはこちらも身動きが取れなくなるから」
「わかりました。気を付けますわ」
再度レックスがラリー様を呼んだため、私達は最後に握手を交わして別れた。
出立の見送りは、ラリー様に近づく事も、言葉を交わす事も出来なかった。
この日は、私とラリー様が結婚式を挙げる筈の日だった。
ラリー様と話がしたかったが、ラリー様はあの後騎士団に行ったっきりで、夜になっても帰ってこなかった。多分今後の事を話し合っているのだろう。ラリー様とはこちらに戻ってからは交流も殆ど途絶えていたから、今回もこのまま何も話さずに終わりそうだった。私が気後れして、積極的に会いに行かなかったのもあったのだけれど…
出立は明日の未明、まだ明るくなる前だと聞いた。私も見送るつもりだったが、今から寝ては寝過してしまうかもしれない…そう思った私は早々に寝るのを諦めた。どうせ眠れそうもないし、だったら起きていた方がいいだろう。私は簡易なドレスに着替えると、何とはなしに気になった紫蛍石の箱を手にした。
初代の聖女は王のために力を使って勝利へと導き、建国を助けたという。さすがに私にそんな力があるとは思えないが、聖女の力が国造りに使えたのなら、こういう事態にも対処できるような気もした。思い浮かぶのはせいぜい怪我をした者を癒す事くらいだったが…王やその側近が怪我をしても癒されれば、それだけでも大違いな気がした。そうであれば…例えば、ラリー様が無事にお戻りになるように…なら叶いそうな気がした。
今のヘーゼルダインにラリー様は必要な方だ。おじ様に子はおらず、親戚にも領主になれるほどの器の者はいないと聞く。ラリー様は王族の中でも王に近い者と言われていたのだ。国内を探しても代わりが出来る人は少ないだろう。逆を言えば、ラリー様を失えばこの地は一気に政情が不安定になる可能性が高かった。私は紫蛍石を手に、出立するみんなが無事に帰れるようにと願いを込めた。
コツコツ…
どれくらいそうしていただろうか…私は小さく何かを叩くような音で意識が浮上するのを感じた。いつの間にか寝落ちしていたらしい。耳を澄ますと、音はラリー様の部屋側のドアから聞こえて来た。もしかしてラリー様が戻ってこられたのだろうか…
「…シア、起きているか?私だ、ローレンスだ」
「…はい。何か?」
聞き取れるかどうかわからないくらいの小さな声だったが、間違いなくラリー様の声だった。私がそれに応えると、ラリー様は暫くためらったようだったが、少し話がしたいと言われた私は鍵を解除して部屋に招き入れた。
「すまない、こんな時間に…」
「いえ、私も眠れなかったので構いません」
昼間会ったばかりだというのに、ラリー様は随分お疲れのように見えた。ずっと準備のために根を詰めていらしたのだろう。
「どうかされましたか?」
「いや…今後の事を話しておきたいと思って…」
ラリー様のお話は、まずはこの戦いで自分に万が一の事があった場合の話だった。縁起でもないとは思ったが、万が一の事を話し合う必要性は確かにあるのだ。ラリー様はもしもの時は、私の好きにしていいと仰ってくれた。王都に戻るもよし、ここで暮らすもよし、これまで王家に振り回されてきたから、今後は出来る限り自由にして欲しいと。今後ここで暮らす場合は、ギルおじ様の養女となって身分を保証するとも仰った。
また、戦争が長引く可能性があり、いつ戻れるかもわからず、結婚が何時履行されるかわからない。もし私がこの結婚を望まないと思うようになった時は陛下と相談し、婚約を解消して王都に戻ってくれて構わない、自分には結果だけ知らせて欲しいと。
「そんな事にはなりませんわ。ラリー様はお強いですもの」
「そうだといいのだが…」
「大丈夫です。必ずラリー様は勝って無事にお帰りになりますわ。私が保証いたします」
「…それは、心強いな。建国の聖女の末裔である君がそういうのだ、間違いない…ありがとう」
何だか余所余所しいな…と、以前とは違う距離に私は寂しさを覚えたが、さすがにそれを表に出す事はなかった。ラリー様、そろそろ…とドアのところからレックスが呼びかけるのが聞こえた。
「後…シア、これを」
「これは…」
「セネット家の紫蛍石だ。一度返しておきたい」
「…いいえ、この様な時だからこそお持ちください」
「だが…」
「必勝のお守りですわ。ラリー様のご無事と勝利を祈っています」
「…それは…ああ、そうだな。シアの言う通りだ」
ためらいながらもラリー様がそう言って下さった事に私は安堵した。何も出来ない事がもどかしく、せめてこの石だけでもお側に…と思ったからだ。この片割れは守りたい者に渡せとあったのだ。きっと何かしらの効果はあるのだと信じたかった。
「あと、お手を…」
「手?」
私が手を差し出すと、ラリー様は少し躊躇したものの、私の手にご自身の手を重ねられた。私のしたい事を察して下さったらしく、すまないと困ったように笑った。
「あれから体調はいかがでしたか?」
「ああ、この前癒して貰ってからは問題ない。あんなにしつこかった頭痛も起きていないよ」
「そうでしたか。よかったですわ。でも、念のため」
そう言って私は癒しの力をラリー様に送った。今回は以前ほど力を使う事がなかった。あれから紫蛍石にラリー様が癒されるようにと願いを込めていたせいだろうか…
「どうかお気をつけて。ご武運をお祈りしていますわ」
「…ああ、シアも気を付けて。こうなった以上、私が帰るまで外に出ないでくれ。君を人質に取られてはこちらも身動きが取れなくなるから」
「わかりました。気を付けますわ」
再度レックスがラリー様を呼んだため、私達は最後に握手を交わして別れた。
出立の見送りは、ラリー様に近づく事も、言葉を交わす事も出来なかった。
この日は、私とラリー様が結婚式を挙げる筈の日だった。
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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