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三章
家宝の紫蛍石
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ラリー様とメアリー様の様子にもやもやした私は、その夜、何となく目についた家宝でもある紫蛍石を取り出してみた。
紫蛍石は聖女の象徴とも言われる石で、薄紫色で不純物が多いせいか不透明だが、聖女の力に反応すると暗闇でもほんのり光ると言われている。宝石というより聖女の儀礼用に使われる石で、装飾品として使う事は稀だ。国や神殿が管理し、その殆どが聖女に使われているが、数は少ないがお守りとしても流通している。
我が家の家宝となっている紫蛍石は赤ちゃんの握りこぶしくらいの大きさの物で、この石としてはかなり大きいと言えるだろう。私が見た事があるのは、大きな物でも小指の爪くらいの大きさだから、もしかすると神殿にある物よりも大きいかもしれない。これはセネット家が建国時に現王家を支えた功績によるもので、そもそもこの国の聖女の始まりはセネット家が元だとも言われている。
そしてもう一つ、小指の爪ほどの大きさの紫蛍石のペンダントも一緒に入っていた。こちらは見たところ対のようにも見えたが、それにしてはサイズが違い過ぎた。
大きい方を首にかけ、石を手に取って両手で包み込み、ゆっくりと力を流し込んでみた。これで石が光ると思うのだけど…と思っていた私は、次の瞬間、眩い程の薄紫の光が石から放たれるのを見た。
「な、に…」
光が広がったのは一瞬で、その後は石がぼんやりと弱い光を放っていたが…石の真ん中に赤く文様が浮かび上がっていた。この文様はセネット家の家紋だ。これは…もしかしたら私の力に反応したせいだろうか?もう一つの小さい方も同じように光を発していたが、こちらには家紋は浮かび上がっていなかった。
ふと石が入っていた箱を見ると、箱の底から紙切れが僅かに顔を出しているのが見えた。そっと底板を押すと底板が浮き上がり、奥から紙が数枚出てきていた。
「これは…お祖母様の字…」
出てきた紙は、祖母から私宛の手紙だった。懐かしい祖母の文字は見間違えようもなく、そこには私への謝罪と、この石を王家に託した事、そしてこの石の使い方が記されていた。
祖母は自分亡き後、両親が私を冷遇すると予感し、エリオット様との婚約という名の保護を王家に頼んだ事、父に力がないため、侯爵家の当主にはなれても本当の意味でセネット家の当主にはなれない事、祖母亡き後は私しかおらず、それは同じ両親を持ちメイベルではダメな事などが、その理由と共に記されていた。
真の意味でのセネット家の当主は、青銀髪に紫の瞳を持ち、聖女の力が使える事が条件で、この紫蛍石はその者にだけ渡される事。資格ある者が亡くなった場合、一旦は王家に返還し、次代の子が成人した時や当主になった際に渡される事なども。
なるほど、私が陛下からこの石を受け取った時、それはあの両親のせいだと思っていたけれど…実際はこれが正しいやり方だったのだ。
そして三枚目の紙には、この石の使い方が説明されていた。この三枚目の紙は祖母の字ではなく、紙も厚みがあるかなり特殊なものだった。今までこの様な紙を見た事がないから、この石のために誂えられたものかもしれない。
紙に記されている情報が正しいのであれば、この石はセネット家の聖女の力に反応し、石の持ち主の意志に添うのだとあった。持ち主の意志に添う…という意味がよくわからないが、具体的にどう使うのかがわからず、想像出来なかった。
そしてもう一つの小さい方は、守りたいと思う相手に渡すものだという。説明書にはこの二つの石は元々一つで、互いに共鳴し合うようになっているとあった。
使い方がよくわからないから、私は石を身に着ける事にした。これを付けたまま騎士の治療をしたらどうなるのだろう、と思ったからだ。正直言うと、力を増幅させたり疲れを軽減させたり出来るなら…との期待もあった。家宝で資格のある者にしか渡さないのであれば、何かしら意味があると思ったからだ。
「アレクシア様、今日は何だか調子がよろしそうですわね」
翌日、治療が終わった私に、ユーニスが笑みを浮かべながらそう話しかけてきた。彼女によると、昨日ほど疲れていないように見えるし、傷を治す時間が短くなっているように感じたらしい。
今日もいつもと同じように三十人程の治療をしたが、確かに私もいつも以上に力が使えている気がした。何と言うのだろう…必要なところに必要な力がぴったり入ったというか、いつも以上に無駄がない気がした。きっとこれが紫蛍石の効果なのだろう。
紫蛍石は聖女の象徴とも言われる石で、薄紫色で不純物が多いせいか不透明だが、聖女の力に反応すると暗闇でもほんのり光ると言われている。宝石というより聖女の儀礼用に使われる石で、装飾品として使う事は稀だ。国や神殿が管理し、その殆どが聖女に使われているが、数は少ないがお守りとしても流通している。
我が家の家宝となっている紫蛍石は赤ちゃんの握りこぶしくらいの大きさの物で、この石としてはかなり大きいと言えるだろう。私が見た事があるのは、大きな物でも小指の爪くらいの大きさだから、もしかすると神殿にある物よりも大きいかもしれない。これはセネット家が建国時に現王家を支えた功績によるもので、そもそもこの国の聖女の始まりはセネット家が元だとも言われている。
そしてもう一つ、小指の爪ほどの大きさの紫蛍石のペンダントも一緒に入っていた。こちらは見たところ対のようにも見えたが、それにしてはサイズが違い過ぎた。
大きい方を首にかけ、石を手に取って両手で包み込み、ゆっくりと力を流し込んでみた。これで石が光ると思うのだけど…と思っていた私は、次の瞬間、眩い程の薄紫の光が石から放たれるのを見た。
「な、に…」
光が広がったのは一瞬で、その後は石がぼんやりと弱い光を放っていたが…石の真ん中に赤く文様が浮かび上がっていた。この文様はセネット家の家紋だ。これは…もしかしたら私の力に反応したせいだろうか?もう一つの小さい方も同じように光を発していたが、こちらには家紋は浮かび上がっていなかった。
ふと石が入っていた箱を見ると、箱の底から紙切れが僅かに顔を出しているのが見えた。そっと底板を押すと底板が浮き上がり、奥から紙が数枚出てきていた。
「これは…お祖母様の字…」
出てきた紙は、祖母から私宛の手紙だった。懐かしい祖母の文字は見間違えようもなく、そこには私への謝罪と、この石を王家に託した事、そしてこの石の使い方が記されていた。
祖母は自分亡き後、両親が私を冷遇すると予感し、エリオット様との婚約という名の保護を王家に頼んだ事、父に力がないため、侯爵家の当主にはなれても本当の意味でセネット家の当主にはなれない事、祖母亡き後は私しかおらず、それは同じ両親を持ちメイベルではダメな事などが、その理由と共に記されていた。
真の意味でのセネット家の当主は、青銀髪に紫の瞳を持ち、聖女の力が使える事が条件で、この紫蛍石はその者にだけ渡される事。資格ある者が亡くなった場合、一旦は王家に返還し、次代の子が成人した時や当主になった際に渡される事なども。
なるほど、私が陛下からこの石を受け取った時、それはあの両親のせいだと思っていたけれど…実際はこれが正しいやり方だったのだ。
そして三枚目の紙には、この石の使い方が説明されていた。この三枚目の紙は祖母の字ではなく、紙も厚みがあるかなり特殊なものだった。今までこの様な紙を見た事がないから、この石のために誂えられたものかもしれない。
紙に記されている情報が正しいのであれば、この石はセネット家の聖女の力に反応し、石の持ち主の意志に添うのだとあった。持ち主の意志に添う…という意味がよくわからないが、具体的にどう使うのかがわからず、想像出来なかった。
そしてもう一つの小さい方は、守りたいと思う相手に渡すものだという。説明書にはこの二つの石は元々一つで、互いに共鳴し合うようになっているとあった。
使い方がよくわからないから、私は石を身に着ける事にした。これを付けたまま騎士の治療をしたらどうなるのだろう、と思ったからだ。正直言うと、力を増幅させたり疲れを軽減させたり出来るなら…との期待もあった。家宝で資格のある者にしか渡さないのであれば、何かしら意味があると思ったからだ。
「アレクシア様、今日は何だか調子がよろしそうですわね」
翌日、治療が終わった私に、ユーニスが笑みを浮かべながらそう話しかけてきた。彼女によると、昨日ほど疲れていないように見えるし、傷を治す時間が短くなっているように感じたらしい。
今日もいつもと同じように三十人程の治療をしたが、確かに私もいつも以上に力が使えている気がした。何と言うのだろう…必要なところに必要な力がぴったり入ったというか、いつも以上に無駄がない気がした。きっとこれが紫蛍石の効果なのだろう。
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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