【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
77 / 213
三章

新たな問題

しおりを挟む
「…これは…」

 メアリー様の噂を聞いてから三日後。領民からの陳情書の整理をしていた私は、陳情書の中にメアリー様の治療への苦情が入っているのを見つけた。陳情書は役所などに苦情を言っても受け付けて貰えなかった場合、領主に直接苦情申し立てをする制度で、ラリー様が始めた事だ。普段はラリー様が目を通されるが、今はお忙しくて時間がないため、代わりに私がやっていた。
 陳情書には、要求された額の現金を払ったが、言われていた程の効果がなかったとあった。金額はこの地の平均的な庶民の二年分の収入に相当するもので、決して安くはない。この話を持ってきたダウンズ男爵に抗議したが全く話を聞いてくれず、それどころか聖女を愚弄したと逆に責められたとあった。

 ダウンズ男爵と言えば、先日私に騎士の救護院への慰問をお遊びと一蹴した人物だ。私から話を聞きに行ってもいいけれど、私の事を下に見ているから話を聞いたとしてもまともに取り合ってくれるだろうか…私はこの問題にどう対処すべきか、直ぐに判断が出来なかった。

 私が対応に悩んでいると、翌日もその翌日も、メアリー様への苦情の陳情書が入ってきた。それらは最初のものと同じで、指定された多額の金を払ったが、聞いていた程の効果がなかったと訴えるものだった。
 思案した私は、陳情書を出した人物から話を聞くよう、ラリー様の副官のロバートに頼む事にした。彼はラリー様が私に護衛として付けてくれて、この地に詳しいから何かあったら彼に相談するようにとも言われていた。私から話を聞いたロバートは、うわぁ…と声を上げて驚いていたが、さすがにこれはマズいかもしれないと言って、早速陳情書を上げた人物に話を行くと言ってくれた。




 ロバートに調査を依頼した三日後、ロバートが私の部屋にやって来た。陳情を上げた者から話が聞けたらしい。彼もこの件は問題視していて、かなり念入りな調査を始めたのだと言った。

「中々に厄介な話になっていました」

 そう言ってロバートは、彼らから聞き取りをした内容を話してくれた。内容は陳情書と殆ど変わりはなかったが、別の問題が明らかになった。ダウンズ男爵が治療を受けた者に対し、交換条件としてラリー様の妻を私ではなくメアリー様にするよう宣伝しろと求めていたのだ。メアリー様が治療するのは貴族や商人などの裕福な者が多いため、その効果は大きい。治療院で世話役の女性達が話していたのも、その結果だったのだ。

「これは王命を反故にしようという、ある意味反逆罪と取られても仕方ない案件です」

 もしこんな事が王都に知れた場合、ラリー様の監督責任を問われる可能性もあるとロバートは言った。現時点で私は侯爵家当主であり、準王族の扱いだから、場合によっては不敬罪にもなるらしい。まさかこんな事で反逆罪なんて…と私は驚くしかなかった。でも…

「でも…ラリー様がメアリー様を望まれるのであれば、妻の件はこのままでもいいのでは?民の口に栓は出来ないし、民の声といえば陛下も何も仰らないでしょう」

 そう、そんな声が民から上がるのであれば、それはそれでいいのでは…と私は思った。もちろん金銭の要求はやめさせなければいけないが、民がメアリー様をと望むのであれば仕方ないだろう。であれば…

「お嬢様、それはあり得ませんよ。あんな女性を娶るなど…第一、この結婚を反故にした場合、我が領が王家から冷遇されるのは必須です」
「でも…ラリー様なら…」
「それはもちろん、ローレンス様が望めば陛下もお許しくださるとは思いますが…でも、王命を反故にするというのはとても大きな代償を要しますし、それはここの情勢をより一層不安定にします。王族出身だからこそローレンス様を引きずり下ろしたいと願う者もいるのです。独立派や隣国派からすれば、害になるような女性を娶らせて、それを理由に領主の座から追い出そうと考える者が出てもおかしくありませんから」
「そんな…」
「ギルバート様とローレンス様のお陰で王家との関係は落ち着いていますが…ここも一枚岩ではないのです。それでなくても今は隣国の事もあって危うくなっていますし」
「でも、ラリー様は…」
「ローレンス様はそこまで趣味が悪い方じゃないですよ。まぁ、あれじゃお嬢様が誤解しても仕方ないでしょうが…」
「え?」

 誤解とは何だろう…そう言えばおじ様も説明がどうとか仰っていたけれど…

「…お嬢様、この際はっきり申し上げておきますが、ローレンス様がメアリー様を望むなどあり得ませんから」
「ロバート?それはどういう…」
「あ~申し訳ありません。余計な事は言うなときつく言われているので…でも、これだけははっきり申し上げますが、私共はお嬢様がこの地の奥方になって頂きたいと心から思っております」
「そ、それは…嬉しいわ…でも…」
「そして、メアリー様は論外だと思っております」
「そ、そう…」
「どうかもう少しお待ちください。今は詳しくはお話出来ませんが…」
「え、っと…それは…」
「ああ、そう言えば最近、ローレンス様の疲れがかなりたまっている様で、調子がよくないそうです。もしよければお嬢様が癒して頂けませんか」
「え?ラリー様が?でも…私の力は怪我は治せても…」
「でも、もしかしたら疲れくらいは取れるんじゃありませんか?ほら、治療した人が前より体が軽くなったって言ってるじゃないですか」
「そ、そうかしら…でも…」
「ローレンス様の肩にこの地の将来がかかっていますからね。出来ればお願いします」
 
 ラリー様がお疲れでご不調とは知らなかった。でも、メアリー様がいらっしゃるなら問題ないのではないだろうか…それでも、様子をみるくらいなら…と私はメイナードにラリー様の様子を聞くことにした。
しおりを挟む
読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
感想 167

あなたにおすすめの小説

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。  ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。  その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。  十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。  そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。 「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」  テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。  21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。  ※「小説家になろう」さまにも掲載しております。  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

処理中です...