【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
59 / 213
二章

エリオットの罰

しおりを挟む
 ラリー様が王太子殿下殺害の主犯で、自身は彼に利用されたのだというエリオット様の告白は、その場にいた者達を大いに動揺させた。私も寝耳に水の内容に驚きを隠せなかった。一体何をどうしたらそんな話になるのだろうか。

「確かに…辺境に追いやられたとも言えますな…」
「当時は…才能に嫉妬したという噂も…」
「いや、あの時は…」
「しっ!滅多な事を申すな。王の御前で…」
「しかし…」

 一部の貴族の間からは、エリオット様の発言に同調するような声が上がった。彼らはエリオット様に取り入ろうとする貴族達で、王太子殿下よりもエリオット様を王にと言っている者たちだ。聡明で隙のない王太子殿下よりも、甘ちゃんのエリオット様の方が御しやすいと考えている連中でもあった。今回の騒動でエリオット様が失脚しては困るからか、ラリー様を首謀者に仕立て上げようとしているのが見え見えだ。

「ヘーゼルダイン辺境伯、な…」
「そうです。辺境の田舎に追いやった父上を恨み、父上の息子である我々が邪魔だと思われたのです」
「なるほど…それでヘーゼルダイン辺境伯がお前を使い、王太子であるアルフレッドに毒を盛ろうとした、と?」
「そ、そう…です」

 なんて事をいうのだろう、エリオット様は。ラリー様が王位を望んでいるなど、どう考えてもあり得ないと思うのだけど。それにこれでは、自分も陰謀に加担したと言っているも同然だ。罪を擦り付けるにしてはあまりにもお粗末すぎる。大丈夫だろうか、この人…

「いい加減にせんかっ!」
「ひぃいっ!すっ、すみま…」

 呆れながらもエリオット様の話を聞いていた陛下だったが、少しの沈黙の後、大声で一喝された。その鋭さにエリオット様が悲鳴を上げて跳ね上がったが…いくら何でも驚きすぎじゃないだろうか…

「全く…嘘をつくならもう少しましな嘘をつけ!」
「ち、父上…これは本当の事で…」
「黙れ!ラリーが王位を狙うだと?そんな筈があるか!」
「で、ですが…」
「いいか、よぉく聞け!ラリーは政争の種になるのは国のためにならぬと、自らヘーゼルダイン辺境伯を選んで臣籍降下したのだ。跡取りがおらず、騎士団で世話になったギルバート卿の助けになりたいと言ってな!」
「そ、れは…」
「第一、お前らがいなくなったとて、わしとローレンスの間には二人の弟がおる」
「しかし…ヘーゼルダイン辺境伯領の騎士がいれば…王都に攻め込む事も…」
「…」

 エリオット様の発言に、とうとう陛下は黙り込んでしまわれたが…これは呆れていらっしゃるのだろう…額に手を当てて俯かれてしまった。
 でも、お気持ちは分からなくもない。ヘーゼルダイン辺境伯領から王都までの距離を思えば、挙兵して王都を攻めるなんて現実的ではない。

「…エリオット…ここから辺境伯領まで何日かかると思っているのだ?」
「え?そ、それは…」
「いくら挙兵したところで、ここに着くまでに見つかるであろう。それに辺境伯領の騎士の数は王都の五分の一以下じゃ。しかも国境の警備もある。それでどう攻めようというのだ…」
「…あ…」

 ああ、陛下も最後は呆れを通り越して絶望されていらっしゃる。でも、陛下のお気持ちは物凄くわかる。王子でありながら辺境伯領と王都の騎士の数も把握していないのは確かにどうかと思う。私ですら、王都と各辺境伯領の騎士の数くらいは把握しているのに…

「こんな簡単な事もわからないとは…お前には失望したよ」
「父上…」
「じゃが、王族とて罪には罰が必要だ。辺境伯の婚約者に毒を盛った上で襲い、更には王太子にまで毒を盛ろうとした。幸い事なきを得たとはいえ、それは偶然が重なっての幸運ゆえ。しかも叔父に無実の罪を着せようなどとは…お前がやった事は決して許される事ではない」
「……」
「エリオット、お前を王族から追放する」
「なっ…!そんな、父上…」
「王族を追放したお前はもう、わしの息子ではない。二度と父と呼ぶな。そなたは王位継承権と王族の身分を剥奪の上、王領の屋敷に生涯幽閉とする」
「…生涯…幽閉…」

 陛下からの沙汰に、エリオット様は虚ろな目で陛下を見上げた。陛下も苦し気な表情を浮かべ、その決断をせねばならなかった苦悩を滲ませていた。いつもは無表情な王妃様ですら、苦しそうな表情でエリオット様を見ている。実の息子の暴挙と、その先の未来にお心を痛めていらっしゃるのだろう。何だかんだ言いながらも、王妃様はエリオット様を一番に案じておられたのだ。

「残念だよ、エリオット。お前は愚かではあったが残虐ではなかった。しっかりした伴侶を得れば問題なく務めを果たせると思っていた…そのためにアレクシア嬢と婚約させたというのに…」
「…父上…」

 陛下の沈痛な声に含まれた親としての想いは、僅かながらもエリオット様に伝わったらしい。呆然としながらも、陛下が断腸の思いでこの決断を下した事を理解されたのだろうか。エリオット様はその後騎士たちによって連れていかれたが、もう抵抗する事はなかった。
しおりを挟む
読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
感想 167

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

処理中です...