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二章
エリオットの罰
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ラリー様が王太子殿下殺害の主犯で、自身は彼に利用されたのだというエリオット様の告白は、その場にいた者達を大いに動揺させた。私も寝耳に水の内容に驚きを隠せなかった。一体何をどうしたらそんな話になるのだろうか。
「確かに…辺境に追いやられたとも言えますな…」
「当時は…才能に嫉妬したという噂も…」
「いや、あの時は…」
「しっ!滅多な事を申すな。王の御前で…」
「しかし…」
一部の貴族の間からは、エリオット様の発言に同調するような声が上がった。彼らはエリオット様に取り入ろうとする貴族達で、王太子殿下よりもエリオット様を王にと言っている者たちだ。聡明で隙のない王太子殿下よりも、甘ちゃんのエリオット様の方が御しやすいと考えている連中でもあった。今回の騒動でエリオット様が失脚しては困るからか、ラリー様を首謀者に仕立て上げようとしているのが見え見えだ。
「ヘーゼルダイン辺境伯、な…」
「そうです。辺境の田舎に追いやった父上を恨み、父上の息子である我々が邪魔だと思われたのです」
「なるほど…それでヘーゼルダイン辺境伯がお前を使い、王太子であるアルフレッドに毒を盛ろうとした、と?」
「そ、そう…です」
なんて事をいうのだろう、エリオット様は。ラリー様が王位を望んでいるなど、どう考えてもあり得ないと思うのだけど。それにこれでは、自分も陰謀に加担したと言っているも同然だ。罪を擦り付けるにしてはあまりにもお粗末すぎる。大丈夫だろうか、この人…
「いい加減にせんかっ!」
「ひぃいっ!すっ、すみま…」
呆れながらもエリオット様の話を聞いていた陛下だったが、少しの沈黙の後、大声で一喝された。その鋭さにエリオット様が悲鳴を上げて跳ね上がったが…いくら何でも驚きすぎじゃないだろうか…
「全く…嘘をつくならもう少しましな嘘をつけ!」
「ち、父上…これは本当の事で…」
「黙れ!ラリーが王位を狙うだと?そんな筈があるか!」
「で、ですが…」
「いいか、よぉく聞け!ラリーは政争の種になるのは国のためにならぬと、自らヘーゼルダイン辺境伯を選んで臣籍降下したのだ。跡取りがおらず、騎士団で世話になったギルバート卿の助けになりたいと言ってな!」
「そ、れは…」
「第一、お前らがいなくなったとて、わしとローレンスの間には二人の弟がおる」
「しかし…ヘーゼルダイン辺境伯領の騎士がいれば…王都に攻め込む事も…」
「…」
エリオット様の発言に、とうとう陛下は黙り込んでしまわれたが…これは呆れていらっしゃるのだろう…額に手を当てて俯かれてしまった。
でも、お気持ちは分からなくもない。ヘーゼルダイン辺境伯領から王都までの距離を思えば、挙兵して王都を攻めるなんて現実的ではない。
「…エリオット…ここから辺境伯領まで何日かかると思っているのだ?」
「え?そ、それは…」
「いくら挙兵したところで、ここに着くまでに見つかるであろう。それに辺境伯領の騎士の数は王都の五分の一以下じゃ。しかも国境の警備もある。それでどう攻めようというのだ…」
「…あ…」
ああ、陛下も最後は呆れを通り越して絶望されていらっしゃる。でも、陛下のお気持ちは物凄くわかる。王子でありながら辺境伯領と王都の騎士の数も把握していないのは確かにどうかと思う。私ですら、王都と各辺境伯領の騎士の数くらいは把握しているのに…
「こんな簡単な事もわからないとは…お前には失望したよ」
「父上…」
「じゃが、王族とて罪には罰が必要だ。辺境伯の婚約者に毒を盛った上で襲い、更には王太子にまで毒を盛ろうとした。幸い事なきを得たとはいえ、それは偶然が重なっての幸運ゆえ。しかも叔父に無実の罪を着せようなどとは…お前がやった事は決して許される事ではない」
「……」
「エリオット、お前を王族から追放する」
「なっ…!そんな、父上…」
「王族を追放したお前はもう、わしの息子ではない。二度と父と呼ぶな。そなたは王位継承権と王族の身分を剥奪の上、王領の屋敷に生涯幽閉とする」
「…生涯…幽閉…」
陛下からの沙汰に、エリオット様は虚ろな目で陛下を見上げた。陛下も苦し気な表情を浮かべ、その決断をせねばならなかった苦悩を滲ませていた。いつもは無表情な王妃様ですら、苦しそうな表情でエリオット様を見ている。実の息子の暴挙と、その先の未来にお心を痛めていらっしゃるのだろう。何だかんだ言いながらも、王妃様はエリオット様を一番に案じておられたのだ。
「残念だよ、エリオット。お前は愚かではあったが残虐ではなかった。しっかりした伴侶を得れば問題なく務めを果たせると思っていた…そのためにアレクシア嬢と婚約させたというのに…」
「…父上…」
陛下の沈痛な声に含まれた親としての想いは、僅かながらもエリオット様に伝わったらしい。呆然としながらも、陛下が断腸の思いでこの決断を下した事を理解されたのだろうか。エリオット様はその後騎士たちによって連れていかれたが、もう抵抗する事はなかった。
「確かに…辺境に追いやられたとも言えますな…」
「当時は…才能に嫉妬したという噂も…」
「いや、あの時は…」
「しっ!滅多な事を申すな。王の御前で…」
「しかし…」
一部の貴族の間からは、エリオット様の発言に同調するような声が上がった。彼らはエリオット様に取り入ろうとする貴族達で、王太子殿下よりもエリオット様を王にと言っている者たちだ。聡明で隙のない王太子殿下よりも、甘ちゃんのエリオット様の方が御しやすいと考えている連中でもあった。今回の騒動でエリオット様が失脚しては困るからか、ラリー様を首謀者に仕立て上げようとしているのが見え見えだ。
「ヘーゼルダイン辺境伯、な…」
「そうです。辺境の田舎に追いやった父上を恨み、父上の息子である我々が邪魔だと思われたのです」
「なるほど…それでヘーゼルダイン辺境伯がお前を使い、王太子であるアルフレッドに毒を盛ろうとした、と?」
「そ、そう…です」
なんて事をいうのだろう、エリオット様は。ラリー様が王位を望んでいるなど、どう考えてもあり得ないと思うのだけど。それにこれでは、自分も陰謀に加担したと言っているも同然だ。罪を擦り付けるにしてはあまりにもお粗末すぎる。大丈夫だろうか、この人…
「いい加減にせんかっ!」
「ひぃいっ!すっ、すみま…」
呆れながらもエリオット様の話を聞いていた陛下だったが、少しの沈黙の後、大声で一喝された。その鋭さにエリオット様が悲鳴を上げて跳ね上がったが…いくら何でも驚きすぎじゃないだろうか…
「全く…嘘をつくならもう少しましな嘘をつけ!」
「ち、父上…これは本当の事で…」
「黙れ!ラリーが王位を狙うだと?そんな筈があるか!」
「で、ですが…」
「いいか、よぉく聞け!ラリーは政争の種になるのは国のためにならぬと、自らヘーゼルダイン辺境伯を選んで臣籍降下したのだ。跡取りがおらず、騎士団で世話になったギルバート卿の助けになりたいと言ってな!」
「そ、れは…」
「第一、お前らがいなくなったとて、わしとローレンスの間には二人の弟がおる」
「しかし…ヘーゼルダイン辺境伯領の騎士がいれば…王都に攻め込む事も…」
「…」
エリオット様の発言に、とうとう陛下は黙り込んでしまわれたが…これは呆れていらっしゃるのだろう…額に手を当てて俯かれてしまった。
でも、お気持ちは分からなくもない。ヘーゼルダイン辺境伯領から王都までの距離を思えば、挙兵して王都を攻めるなんて現実的ではない。
「…エリオット…ここから辺境伯領まで何日かかると思っているのだ?」
「え?そ、それは…」
「いくら挙兵したところで、ここに着くまでに見つかるであろう。それに辺境伯領の騎士の数は王都の五分の一以下じゃ。しかも国境の警備もある。それでどう攻めようというのだ…」
「…あ…」
ああ、陛下も最後は呆れを通り越して絶望されていらっしゃる。でも、陛下のお気持ちは物凄くわかる。王子でありながら辺境伯領と王都の騎士の数も把握していないのは確かにどうかと思う。私ですら、王都と各辺境伯領の騎士の数くらいは把握しているのに…
「こんな簡単な事もわからないとは…お前には失望したよ」
「父上…」
「じゃが、王族とて罪には罰が必要だ。辺境伯の婚約者に毒を盛った上で襲い、更には王太子にまで毒を盛ろうとした。幸い事なきを得たとはいえ、それは偶然が重なっての幸運ゆえ。しかも叔父に無実の罪を着せようなどとは…お前がやった事は決して許される事ではない」
「……」
「エリオット、お前を王族から追放する」
「なっ…!そんな、父上…」
「王族を追放したお前はもう、わしの息子ではない。二度と父と呼ぶな。そなたは王位継承権と王族の身分を剥奪の上、王領の屋敷に生涯幽閉とする」
「…生涯…幽閉…」
陛下からの沙汰に、エリオット様は虚ろな目で陛下を見上げた。陛下も苦し気な表情を浮かべ、その決断をせねばならなかった苦悩を滲ませていた。いつもは無表情な王妃様ですら、苦しそうな表情でエリオット様を見ている。実の息子の暴挙と、その先の未来にお心を痛めていらっしゃるのだろう。何だかんだ言いながらも、王妃様はエリオット様を一番に案じておられたのだ。
「残念だよ、エリオット。お前は愚かではあったが残虐ではなかった。しっかりした伴侶を得れば問題なく務めを果たせると思っていた…そのためにアレクシア嬢と婚約させたというのに…」
「…父上…」
陛下の沈痛な声に含まれた親としての想いは、僅かながらもエリオット様に伝わったらしい。呆然としながらも、陛下が断腸の思いでこの決断を下した事を理解されたのだろうか。エリオット様はその後騎士たちによって連れていかれたが、もう抵抗する事はなかった。
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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