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二章
逮捕
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「な…何を…馬鹿な事を…!」
部屋に駆けつけた騎士たちが囲っているのは、ラリー様ではなくエリオット様と私だった。エリオット様は未だに私にまたがった状態で、私は身体が動かせずに成す術もなかった。でも、たった今騎士は、エリオット様の名を告げて逮捕すると言った。これは一体…
「何で俺が逮捕されるんだ!違うだろう、逮捕されるのは叔父上だ。俺に不敬を働いたんだぞ!」
エリオット様はすっかり狼狽えて先頭にいる騎士に怒鳴りつけていたが、騎士はどこ吹く風だった。
「エリオット様、あなた様には王妃様の名を騙った容疑がかけられています。ご同行願います」
「なっ…!そんな事…」
「王妃様の公式の便箋を持ち出された事も把握済みです。これは重大事案に当たります故、陛下から早急に拘束せよとの命令が出ております」
「な…っ!父上が…そんな!う、嘘だぁ!」
やはり王妃様の便箋を勝手に持ち出されていたのか。あれは公式文書にもなるから簡単には持ち出せないし、持ち出しただけでも罪に問われるほど重要な物なのに。
でも、これでエリオット様が王妃様の名を騙ったのはハッキリしたし、ラリー様の不敬罪を問える状況ではなくなった。後はさっさと連れて行ってくれないかしら…さっきから唾が飛んできて気持ち悪いのだけど…
「くそっ!寄るな!こっちには人質がいるんだぞ!」
「っ!」
エリオット様に身体を起こされて何かと思ったら、抱きかかえられてしまった。そして首には何やらひんやりするものが当たっている…これはもしかして…
「…っ!エ、エリオット様、アレクシア嬢をお放しください」
「これ以上罪を重ねられませんように!」
「うるさい!こうなったらこいつも道連れだ!」
まさかあのエリオット様がこんな暴挙に出るなんて…これでは私は足手まといでしかない。これはよくない展開だけど、一体どうしたら…
「いい加減にしろ、エリオット!お仕置きされたいのか!」
「ひぃいいいっ!」
突然、雷のような怒号が部屋に響き渡った。声の主は…ラリー様だった。そして、その声にエリオット様はこれ以上ない程に竦み上がって後ろに仰け反った。さっきまでの勢いがすっかり抜け落ちていた。
「いい根性だな、エリオット。私に逆らうとは…」
「ひぇええぇ…お、叔父上…め、滅相もございません…っ!」
「まだ躾が足りなかったらしいな」
「と、とんでもございませんっ!も、申し訳ございませんっ!ほ、ほんとに…っぐえっ…!」
エリオット様に声をかけながらゆっくりラリー様が近づいてくると、エリオット様はその圧に押されたかのようにズルズルとベッドの上を後退っていったが、最後は鈍い悲鳴で終わった。どうやらベッドから落ちたらしい。そのエリオット様に騎士たちは一斉に群がると、あっという間に捕縛してしまった。さすがは王宮の騎士たちだ、仕事が早い。
しかし…エリオット様のあの怯えようと会話は一体…もしかしてお二人は…いえ、もしかしてラリー様、王都にいらした時はエリオット様にお仕置きしていたのかしら…?確かに年齢差などを考えると、その可能性は大いにあるのだけど…
「大丈夫か、シア!」
まだ夢見心地と言うか事態が把握しきれていないが、ラリー様が私を抱き起して声をかけて下さって、私はようやく助かったのだと実感出来た。エリオット様が何かを叫んでいるけど、騎士たちに引き立てられてその声はどんどん遠ざかっていった。
「大丈夫…ではなさそうですね。何か、薬を?」
「…し…び、れ…く…」
「まさか…痺れ薬か?…あの馬鹿…厄介なものをどこで…」
ラリー様にそう問いかけられた私は、渾身の力を振り絞ってそう告げた。それでも微かな声しか出なかったけれど、ラリー様には伝わったらしい。表情からかなりお怒りのようだが、それも仕方ないだろう。お忙しいのに余計なお手を煩わせてしまったのだから。
「とにかく、部屋に戻って医師に診せよう。イザード、医師の手配を」
「はっ、直ぐに」
そのまま私はラリー様に横抱きにされて、王宮内のラリー様の部屋に運ばれた。その間も怪我はないか、痛みを感じるところはないか、気分はどうかと散々聞かれたけど…
なんだかドキドキしてしまって困った…まだ喋れなくて答えられなかったのもあるけど…エリオット様にお怒りになったラリー様はいつものお優し気な態度とは一転して、別人のように厳しかった。それも影響したのだろうか…
ラリー様の部屋のベッドに下ろされた私は、直ぐに医師の診察を受け、解毒剤を飲まされた。幸い、私に痺れ薬を盛った侍女は直ぐにわかったし、殿下もあの後どんな薬を使ったかを直ぐに白状したため、思った以上に早く処置が終わった。
部屋に駆けつけた騎士たちが囲っているのは、ラリー様ではなくエリオット様と私だった。エリオット様は未だに私にまたがった状態で、私は身体が動かせずに成す術もなかった。でも、たった今騎士は、エリオット様の名を告げて逮捕すると言った。これは一体…
「何で俺が逮捕されるんだ!違うだろう、逮捕されるのは叔父上だ。俺に不敬を働いたんだぞ!」
エリオット様はすっかり狼狽えて先頭にいる騎士に怒鳴りつけていたが、騎士はどこ吹く風だった。
「エリオット様、あなた様には王妃様の名を騙った容疑がかけられています。ご同行願います」
「なっ…!そんな事…」
「王妃様の公式の便箋を持ち出された事も把握済みです。これは重大事案に当たります故、陛下から早急に拘束せよとの命令が出ております」
「な…っ!父上が…そんな!う、嘘だぁ!」
やはり王妃様の便箋を勝手に持ち出されていたのか。あれは公式文書にもなるから簡単には持ち出せないし、持ち出しただけでも罪に問われるほど重要な物なのに。
でも、これでエリオット様が王妃様の名を騙ったのはハッキリしたし、ラリー様の不敬罪を問える状況ではなくなった。後はさっさと連れて行ってくれないかしら…さっきから唾が飛んできて気持ち悪いのだけど…
「くそっ!寄るな!こっちには人質がいるんだぞ!」
「っ!」
エリオット様に身体を起こされて何かと思ったら、抱きかかえられてしまった。そして首には何やらひんやりするものが当たっている…これはもしかして…
「…っ!エ、エリオット様、アレクシア嬢をお放しください」
「これ以上罪を重ねられませんように!」
「うるさい!こうなったらこいつも道連れだ!」
まさかあのエリオット様がこんな暴挙に出るなんて…これでは私は足手まといでしかない。これはよくない展開だけど、一体どうしたら…
「いい加減にしろ、エリオット!お仕置きされたいのか!」
「ひぃいいいっ!」
突然、雷のような怒号が部屋に響き渡った。声の主は…ラリー様だった。そして、その声にエリオット様はこれ以上ない程に竦み上がって後ろに仰け反った。さっきまでの勢いがすっかり抜け落ちていた。
「いい根性だな、エリオット。私に逆らうとは…」
「ひぇええぇ…お、叔父上…め、滅相もございません…っ!」
「まだ躾が足りなかったらしいな」
「と、とんでもございませんっ!も、申し訳ございませんっ!ほ、ほんとに…っぐえっ…!」
エリオット様に声をかけながらゆっくりラリー様が近づいてくると、エリオット様はその圧に押されたかのようにズルズルとベッドの上を後退っていったが、最後は鈍い悲鳴で終わった。どうやらベッドから落ちたらしい。そのエリオット様に騎士たちは一斉に群がると、あっという間に捕縛してしまった。さすがは王宮の騎士たちだ、仕事が早い。
しかし…エリオット様のあの怯えようと会話は一体…もしかしてお二人は…いえ、もしかしてラリー様、王都にいらした時はエリオット様にお仕置きしていたのかしら…?確かに年齢差などを考えると、その可能性は大いにあるのだけど…
「大丈夫か、シア!」
まだ夢見心地と言うか事態が把握しきれていないが、ラリー様が私を抱き起して声をかけて下さって、私はようやく助かったのだと実感出来た。エリオット様が何かを叫んでいるけど、騎士たちに引き立てられてその声はどんどん遠ざかっていった。
「大丈夫…ではなさそうですね。何か、薬を?」
「…し…び、れ…く…」
「まさか…痺れ薬か?…あの馬鹿…厄介なものをどこで…」
ラリー様にそう問いかけられた私は、渾身の力を振り絞ってそう告げた。それでも微かな声しか出なかったけれど、ラリー様には伝わったらしい。表情からかなりお怒りのようだが、それも仕方ないだろう。お忙しいのに余計なお手を煩わせてしまったのだから。
「とにかく、部屋に戻って医師に診せよう。イザード、医師の手配を」
「はっ、直ぐに」
そのまま私はラリー様に横抱きにされて、王宮内のラリー様の部屋に運ばれた。その間も怪我はないか、痛みを感じるところはないか、気分はどうかと散々聞かれたけど…
なんだかドキドキしてしまって困った…まだ喋れなくて答えられなかったのもあるけど…エリオット様にお怒りになったラリー様はいつものお優し気な態度とは一転して、別人のように厳しかった。それも影響したのだろうか…
ラリー様の部屋のベッドに下ろされた私は、直ぐに医師の診察を受け、解毒剤を飲まされた。幸い、私に痺れ薬を盛った侍女は直ぐにわかったし、殿下もあの後どんな薬を使ったかを直ぐに白状したため、思った以上に早く処置が終わった。
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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