【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
56 / 213
二章

逮捕

しおりを挟む
「な…何を…馬鹿な事を…!」

 部屋に駆けつけた騎士たちが囲っているのは、ラリー様ではなくエリオット様と私だった。エリオット様は未だに私にまたがった状態で、私は身体が動かせずに成す術もなかった。でも、たった今騎士は、エリオット様の名を告げて逮捕すると言った。これは一体…

「何で俺が逮捕されるんだ!違うだろう、逮捕されるのは叔父上だ。俺に不敬を働いたんだぞ!」

 エリオット様はすっかり狼狽えて先頭にいる騎士に怒鳴りつけていたが、騎士はどこ吹く風だった。

「エリオット様、あなた様には王妃様の名を騙った容疑がかけられています。ご同行願います」
「なっ…!そんな事…」
「王妃様の公式の便箋を持ち出された事も把握済みです。これは重大事案に当たります故、陛下から早急に拘束せよとの命令が出ております」
「な…っ!父上が…そんな!う、嘘だぁ!」

 やはり王妃様の便箋を勝手に持ち出されていたのか。あれは公式文書にもなるから簡単には持ち出せないし、持ち出しただけでも罪に問われるほど重要な物なのに。
 でも、これでエリオット様が王妃様の名を騙ったのはハッキリしたし、ラリー様の不敬罪を問える状況ではなくなった。後はさっさと連れて行ってくれないかしら…さっきから唾が飛んできて気持ち悪いのだけど…

「くそっ!寄るな!こっちには人質がいるんだぞ!」
「っ!」

 エリオット様に身体を起こされて何かと思ったら、抱きかかえられてしまった。そして首には何やらひんやりするものが当たっている…これはもしかして…

「…っ!エ、エリオット様、アレクシア嬢をお放しください」
「これ以上罪を重ねられませんように!」
「うるさい!こうなったらこいつも道連れだ!」

 まさかあのエリオット様がこんな暴挙に出るなんて…これでは私は足手まといでしかない。これはよくない展開だけど、一体どうしたら…

「いい加減にしろ、エリオット!お仕置きされたいのか!」
「ひぃいいいっ!」

 突然、雷のような怒号が部屋に響き渡った。声の主は…ラリー様だった。そして、その声にエリオット様はこれ以上ない程に竦み上がって後ろに仰け反った。さっきまでの勢いがすっかり抜け落ちていた。

「いい根性だな、エリオット。私に逆らうとは…」
「ひぇええぇ…お、叔父上…め、滅相もございません…っ!」
「まだ躾が足りなかったらしいな」
「と、とんでもございませんっ!も、申し訳ございませんっ!ほ、ほんとに…っぐえっ…!」

 エリオット様に声をかけながらゆっくりラリー様が近づいてくると、エリオット様はその圧に押されたかのようにズルズルとベッドの上を後退っていったが、最後は鈍い悲鳴で終わった。どうやらベッドから落ちたらしい。そのエリオット様に騎士たちは一斉に群がると、あっという間に捕縛してしまった。さすがは王宮の騎士たちだ、仕事が早い。
 しかし…エリオット様のあの怯えようと会話は一体…もしかしてお二人は…いえ、もしかしてラリー様、王都にいらした時はエリオット様にお仕置きしていたのかしら…?確かに年齢差などを考えると、その可能性は大いにあるのだけど…

「大丈夫か、シア!」

 まだ夢見心地と言うか事態が把握しきれていないが、ラリー様が私を抱き起して声をかけて下さって、私はようやく助かったのだと実感出来た。エリオット様が何かを叫んでいるけど、騎士たちに引き立てられてその声はどんどん遠ざかっていった。

「大丈夫…ではなさそうですね。何か、薬を?」
「…し…び、れ…く…」
「まさか…痺れ薬か?…あの馬鹿…厄介なものをどこで…」

 ラリー様にそう問いかけられた私は、渾身の力を振り絞ってそう告げた。それでも微かな声しか出なかったけれど、ラリー様には伝わったらしい。表情からかなりお怒りのようだが、それも仕方ないだろう。お忙しいのに余計なお手を煩わせてしまったのだから。

「とにかく、部屋に戻って医師に診せよう。イザード、医師の手配を」
「はっ、直ぐに」

 そのまま私はラリー様に横抱きにされて、王宮内のラリー様の部屋に運ばれた。その間も怪我はないか、痛みを感じるところはないか、気分はどうかと散々聞かれたけど…
 なんだかドキドキしてしまって困った…まだ喋れなくて答えられなかったのもあるけど…エリオット様にお怒りになったラリー様はいつものお優し気な態度とは一転して、別人のように厳しかった。それも影響したのだろうか…

 ラリー様の部屋のベッドに下ろされた私は、直ぐに医師の診察を受け、解毒剤を飲まされた。幸い、私に痺れ薬を盛った侍女は直ぐにわかったし、殿下もあの後どんな薬を使ったかを直ぐに白状したため、思った以上に早く処置が終わった。
しおりを挟む
読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
感想 167

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

処理中です...