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二章
俺に相応しい未来は…
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「どこがいいか、選んでおけ」
夜会の翌日、俺を呼び出した父上が示したのは、一枚の文書だった。前置きも何もなしで告げられた言葉に、直ぐには何の事かがわからず、不審に思いながらも文章に目をやると、そこには三カ所の伯爵領とその詳細らしきものが記載されていた。
「ち、父上…これは…!」
「お前が臣下に下る場合に得る伯爵領の候補だ。幸い今はそこの三つの所領が空いている。これからお前が治める事になるとなれば、ある程度中身を理解した上で選んだ方がやりやすいだろう」
「な…っ!」
父上の言葉に、俺は頭が真っ白になって言葉を失った。まだメイベルの王子妃教育が終わったわけでもないのにそんな…
これはつまり…父上は教育が終わらないと判断されたという事だろうか…
「父上!まだメイベルの王子妃教育は終わっていません!まだ三週間は…」
「残り三週間でやり切れるのか?」
「そ…それは…」
父上の言葉に、俺は何も返せなかった。そうだ、確かに今の状況では終わる可能性は限りなく低い。むしろ終わらないと思う方が妥当だろう。俺でさえも、もう無理だと思っているのだ…
それでも、俺は王子だ。そんな俺が臣下に下るなどあり得ない。俺は王太子でもある兄上のスペアであり、兄上に万が一のことがあった場合は俺が王太子になり国王になるのだ。国のナンバー3とも言える立場にある俺が臣下に下っては、王家としても損失なはずだ。
「昨夜の騒ぎも話にならん。セネット家のラリーへの態度は許容できる範囲を超えている。その令嬢もだ。社交界にデビュー前の子どもでも、もう少しマシであろうよ。とてもではないが王族として他国の大使たちに紹介など出来ようもない」
「それは…」
「だが、そんな娘を妻にと請うたのはお前だ。しかもわざわざ王宮の夜会で、貴族たちの前で、わしの命令を無視して。自分がやった事に責任を取るのは、当然であろう?」
「……」
「教育期間が終わるのは三週間後。講師たちの見立てではまず無理だろうとの事。最近では授業を抜け出して、お前以外の子息と呑気に茶を飲んでいるというではないか。王家も随分と馬鹿にされたものよな…」
「…!」
父上の言葉に俺は息を飲んだ。メイベルが授業を抜け出して他の子息とお茶をしている事は俺も知っていたが、まさか父上のお耳にまで入っていたとは…
この状況で俺以外の男と親しくすることがどういう事なのか、メイベルは全く分かっていない。王子妃候補の教育期間に他の男と親しくなれば、それは王族を蔑ろにしたとして不敬罪に問われても仕方ないのだ。しかもその話は、父上にまで伝わっている…
こうなっては…教育が無事終えられたとしても、両親に認められない可能性が高いだろう。王子妃には厳しい貞操観念が求められるのだ。
何度かメイベルには注意したが彼女は全く反省せず、それどころか最近では、王子妃教育なんて聞いていなかった、殿下は何もしなくていい、隣で笑っていてくれるだけでいいと言ったじゃないかと逆に俺を責めてくる。
だが、俺だってまさか淑女教育すらも出来ていないとは思っていなかったんだ。姉のアレクシアは完璧で、マナーの講師からも絶賛されていた。だったらその妹だってそれなりに出来ると誰もが思うだろう。
父上の元を辞して自室に戻ると、言いようのない虚無感に襲われた。これまではほぼ順風満帆に過ごしてきたはずなのに、どうしてこんな事になってしまったのか…
ふと、昨日のアレクシアの姿が蘇った。久しぶりに会ったアレクシアは…別人のように美しくなっていた。以前は痩せて地味で貧相だったが、今は頬もふっくらとし、くすんで老人のようだった肌も髪も、すっかり艶を帯びて輝いていた。何よりも、表情が違った。俺といた時には滅多に笑わず、いつも一歩後ろで目立たないようにしていたが、昨夜は堂々と胸を張って笑顔を浮かべ、叔父上と並んでいる様は一対の絵のようだった。
俺はどこで間違えたんだ?
アレクシアもメイベルも、どうして俺に本当の姿を見せなかった?
あいつらが本来の姿を俺に見せていれば、俺はアレクシアとの婚約を破棄しなかったし、メイベルを婚約者にしようなんて思わなかったのに…
しかも聖女の力まで持っていたなんて…どうして俺に黙っていた?父上も母上もどうして教えてくれなかった?
もしかして…俺を王族から追い出すため…なの、か…
確かに弟のグレンは賢くて、兄上にそっくりだと言われていたが…
(くそっ…!このままで終わるもんか…)
そうだ、考えるんだ、俺が王族に残れる方法を…俺に相応しい姿を取り戻すために…!
夜会の翌日、俺を呼び出した父上が示したのは、一枚の文書だった。前置きも何もなしで告げられた言葉に、直ぐには何の事かがわからず、不審に思いながらも文章に目をやると、そこには三カ所の伯爵領とその詳細らしきものが記載されていた。
「ち、父上…これは…!」
「お前が臣下に下る場合に得る伯爵領の候補だ。幸い今はそこの三つの所領が空いている。これからお前が治める事になるとなれば、ある程度中身を理解した上で選んだ方がやりやすいだろう」
「な…っ!」
父上の言葉に、俺は頭が真っ白になって言葉を失った。まだメイベルの王子妃教育が終わったわけでもないのにそんな…
これはつまり…父上は教育が終わらないと判断されたという事だろうか…
「父上!まだメイベルの王子妃教育は終わっていません!まだ三週間は…」
「残り三週間でやり切れるのか?」
「そ…それは…」
父上の言葉に、俺は何も返せなかった。そうだ、確かに今の状況では終わる可能性は限りなく低い。むしろ終わらないと思う方が妥当だろう。俺でさえも、もう無理だと思っているのだ…
それでも、俺は王子だ。そんな俺が臣下に下るなどあり得ない。俺は王太子でもある兄上のスペアであり、兄上に万が一のことがあった場合は俺が王太子になり国王になるのだ。国のナンバー3とも言える立場にある俺が臣下に下っては、王家としても損失なはずだ。
「昨夜の騒ぎも話にならん。セネット家のラリーへの態度は許容できる範囲を超えている。その令嬢もだ。社交界にデビュー前の子どもでも、もう少しマシであろうよ。とてもではないが王族として他国の大使たちに紹介など出来ようもない」
「それは…」
「だが、そんな娘を妻にと請うたのはお前だ。しかもわざわざ王宮の夜会で、貴族たちの前で、わしの命令を無視して。自分がやった事に責任を取るのは、当然であろう?」
「……」
「教育期間が終わるのは三週間後。講師たちの見立てではまず無理だろうとの事。最近では授業を抜け出して、お前以外の子息と呑気に茶を飲んでいるというではないか。王家も随分と馬鹿にされたものよな…」
「…!」
父上の言葉に俺は息を飲んだ。メイベルが授業を抜け出して他の子息とお茶をしている事は俺も知っていたが、まさか父上のお耳にまで入っていたとは…
この状況で俺以外の男と親しくすることがどういう事なのか、メイベルは全く分かっていない。王子妃候補の教育期間に他の男と親しくなれば、それは王族を蔑ろにしたとして不敬罪に問われても仕方ないのだ。しかもその話は、父上にまで伝わっている…
こうなっては…教育が無事終えられたとしても、両親に認められない可能性が高いだろう。王子妃には厳しい貞操観念が求められるのだ。
何度かメイベルには注意したが彼女は全く反省せず、それどころか最近では、王子妃教育なんて聞いていなかった、殿下は何もしなくていい、隣で笑っていてくれるだけでいいと言ったじゃないかと逆に俺を責めてくる。
だが、俺だってまさか淑女教育すらも出来ていないとは思っていなかったんだ。姉のアレクシアは完璧で、マナーの講師からも絶賛されていた。だったらその妹だってそれなりに出来ると誰もが思うだろう。
父上の元を辞して自室に戻ると、言いようのない虚無感に襲われた。これまではほぼ順風満帆に過ごしてきたはずなのに、どうしてこんな事になってしまったのか…
ふと、昨日のアレクシアの姿が蘇った。久しぶりに会ったアレクシアは…別人のように美しくなっていた。以前は痩せて地味で貧相だったが、今は頬もふっくらとし、くすんで老人のようだった肌も髪も、すっかり艶を帯びて輝いていた。何よりも、表情が違った。俺といた時には滅多に笑わず、いつも一歩後ろで目立たないようにしていたが、昨夜は堂々と胸を張って笑顔を浮かべ、叔父上と並んでいる様は一対の絵のようだった。
俺はどこで間違えたんだ?
アレクシアもメイベルも、どうして俺に本当の姿を見せなかった?
あいつらが本来の姿を俺に見せていれば、俺はアレクシアとの婚約を破棄しなかったし、メイベルを婚約者にしようなんて思わなかったのに…
しかも聖女の力まで持っていたなんて…どうして俺に黙っていた?父上も母上もどうして教えてくれなかった?
もしかして…俺を王族から追い出すため…なの、か…
確かに弟のグレンは賢くて、兄上にそっくりだと言われていたが…
(くそっ…!このままで終わるもんか…)
そうだ、考えるんだ、俺が王族に残れる方法を…俺に相応しい姿を取り戻すために…!
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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