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二章
元婚約者の暴走
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王妃様の名を使って呼び出された私は、エリオット様からとんでもない提案をされた。それは、ラリー様と婚約解消して、エリオット様ともう一度婚約し直すというものだった。そしてそれを断ると、今度は騙されたと言い出した。
「…騙された?」
「ああ、そうだろう。お前は勉強もマナーも講師に褒められるほど完璧だった。だったらその妹だって人並みに出来て当然と思うのが普通だろう?」
「失礼ですがエリオット様。メイベルの淑女教育が出来ていない事は、何度も御前でも申しておりました。でも、それでも構わない、むしろ純粋で好ましいと仰ったのはエリオット様ですよ。騙すなどとは…」
「うるさいっ!!!」
「…っ!」
これまで珍しく私の前で薄ら寒い笑顔を浮かべていたエリオット様だったが、急に声を荒げた。どうやら痛いところを突いてしまったらしい。
「このままじゃ、俺は王族から追放の上ただの伯爵になってしまうんだぞ!冗談じゃない!何で王族に生まれた俺が臣下に下らなきゃならない!」
「…」
「メイベルもメイベルだ。母上に結婚の条件は王子妃教育を半年以内に終わらせる事と言われたのに、殆ど出来ていない。最初は頑張ると言ったのに、それも1週間も続かなかった。講師から逃げてばかりでちっとも進まないし、母上からも叱咤されると泣くばかり。その度にこの俺が庇ってやったのに何も努力しない。しかも、教育の時間だって言うのに、いつの間にか逃げ出して他の男と茶など飲んでいるなんて!」
これには、私も驚きを隠せなかった。半年で王子妃教育を終わらせる必要があるとの話は聞いていたし、メイベルには無理なんじゃないかとは思っていたけれど…授業を放り出して他の男性とお茶していたとは…メイベルからすると、もうエリオット様と結婚したくないという事なのだろうか…
確かに、万が一にも王子妃になってもあの王妃様にずっとお小言を言われ続けるし、臣下に下れば伯爵位で実家の侯爵家よりも下だ。あの怠け者で何も考えていない妹は、だったら違う相手にした方がいいと思っても不思議はない。メイベルからすれば、チヤホヤして甘やかしてくれる相手なら誰でもいいのだろうし…
「それに、お前もお前だ!聖女の力があるなら何故隠していた?」
「隠してなどおりません。エリオット様にはお伝えしてあると王妃様は仰っていました」
「嘘だ!じゃ、何故他の貴族は知らなかった?」
「それは陛下に口止めされていたからです。私がよからぬ事を考える者共に奪われないようにするためにと」
「でも、お前の両親だって知らなかったじゃないか!」
「…両親は、祖母と同じ色を持つ私を疎ましく思い、遠ざけていましたから。両親にとって、セネット家の色も聖女の力も忌々しいものだったのでしょう」
「…なんだと…」
「彼らが必要としていたのは、家の利益になる道具としての私でしたから。王家から私にと下賜された支度金も、殆どがメイベルに使われていました。メイベルが私よりも高価なドレスを着ていた事、お気付きになりませんでしたか?」
「……」
やっぱり私とメイベルの扱いの差に気が付いていなかったのか、この人は…着る衣装もアクセサリーも、いつだってメイベルの方が上等なものだったのに。夜会などで着るドレスも、王妃様が気を使って贈ってくださったから体裁を保てただけだ。
「どちらにしても、エリオット様とメイベルの結婚も王命です。今更反故にするなど陛下がお許しになりませんでしょうに」
「確かに今のままじゃ、父上だって許してはくれないだろうな。父上はお前と婚約破棄をした時点で俺を追放する気だったのだろう。最初から無理難題を吹っかけて…」
「陛下はそのようなお考えではなかったと思いますが…」
「いいや、昔から俺は兄上や弟と比べられてはため息を付かれていた。父上も母上も俺が嫌いだったんだ」
「…」
そうか、エリオット様も多少周りの空気は読んでいたのか。
でも、陛下達がエリオット様を疎ましく思っていたというのはないと思う。むしろ他の王子殿下達よりも気にかけていらしたのだ。
「だが…それでも俺は王族なんだ。だから、どんな手を使ってでもお前ともう一度婚約し直す」
「な…」
既にエリオット様の目は熱に浮かされて、ここではない何かを見ているようにも見えた。そんな姿に押さえていた恐怖感が一気に高まった。立ち上がって逃げ出そうとして…私はその場に崩れ落ちた。どうして?身体に力が入らない…
「な、にを…?」
「なに、ちょっと身体が痺れる薬を飲んだだけだ。心配は無用だ。お前は俺の妃になるのだからな」
「…騙された?」
「ああ、そうだろう。お前は勉強もマナーも講師に褒められるほど完璧だった。だったらその妹だって人並みに出来て当然と思うのが普通だろう?」
「失礼ですがエリオット様。メイベルの淑女教育が出来ていない事は、何度も御前でも申しておりました。でも、それでも構わない、むしろ純粋で好ましいと仰ったのはエリオット様ですよ。騙すなどとは…」
「うるさいっ!!!」
「…っ!」
これまで珍しく私の前で薄ら寒い笑顔を浮かべていたエリオット様だったが、急に声を荒げた。どうやら痛いところを突いてしまったらしい。
「このままじゃ、俺は王族から追放の上ただの伯爵になってしまうんだぞ!冗談じゃない!何で王族に生まれた俺が臣下に下らなきゃならない!」
「…」
「メイベルもメイベルだ。母上に結婚の条件は王子妃教育を半年以内に終わらせる事と言われたのに、殆ど出来ていない。最初は頑張ると言ったのに、それも1週間も続かなかった。講師から逃げてばかりでちっとも進まないし、母上からも叱咤されると泣くばかり。その度にこの俺が庇ってやったのに何も努力しない。しかも、教育の時間だって言うのに、いつの間にか逃げ出して他の男と茶など飲んでいるなんて!」
これには、私も驚きを隠せなかった。半年で王子妃教育を終わらせる必要があるとの話は聞いていたし、メイベルには無理なんじゃないかとは思っていたけれど…授業を放り出して他の男性とお茶していたとは…メイベルからすると、もうエリオット様と結婚したくないという事なのだろうか…
確かに、万が一にも王子妃になってもあの王妃様にずっとお小言を言われ続けるし、臣下に下れば伯爵位で実家の侯爵家よりも下だ。あの怠け者で何も考えていない妹は、だったら違う相手にした方がいいと思っても不思議はない。メイベルからすれば、チヤホヤして甘やかしてくれる相手なら誰でもいいのだろうし…
「それに、お前もお前だ!聖女の力があるなら何故隠していた?」
「隠してなどおりません。エリオット様にはお伝えしてあると王妃様は仰っていました」
「嘘だ!じゃ、何故他の貴族は知らなかった?」
「それは陛下に口止めされていたからです。私がよからぬ事を考える者共に奪われないようにするためにと」
「でも、お前の両親だって知らなかったじゃないか!」
「…両親は、祖母と同じ色を持つ私を疎ましく思い、遠ざけていましたから。両親にとって、セネット家の色も聖女の力も忌々しいものだったのでしょう」
「…なんだと…」
「彼らが必要としていたのは、家の利益になる道具としての私でしたから。王家から私にと下賜された支度金も、殆どがメイベルに使われていました。メイベルが私よりも高価なドレスを着ていた事、お気付きになりませんでしたか?」
「……」
やっぱり私とメイベルの扱いの差に気が付いていなかったのか、この人は…着る衣装もアクセサリーも、いつだってメイベルの方が上等なものだったのに。夜会などで着るドレスも、王妃様が気を使って贈ってくださったから体裁を保てただけだ。
「どちらにしても、エリオット様とメイベルの結婚も王命です。今更反故にするなど陛下がお許しになりませんでしょうに」
「確かに今のままじゃ、父上だって許してはくれないだろうな。父上はお前と婚約破棄をした時点で俺を追放する気だったのだろう。最初から無理難題を吹っかけて…」
「陛下はそのようなお考えではなかったと思いますが…」
「いいや、昔から俺は兄上や弟と比べられてはため息を付かれていた。父上も母上も俺が嫌いだったんだ」
「…」
そうか、エリオット様も多少周りの空気は読んでいたのか。
でも、陛下達がエリオット様を疎ましく思っていたというのはないと思う。むしろ他の王子殿下達よりも気にかけていらしたのだ。
「だが…それでも俺は王族なんだ。だから、どんな手を使ってでもお前ともう一度婚約し直す」
「な…」
既にエリオット様の目は熱に浮かされて、ここではない何かを見ているようにも見えた。そんな姿に押さえていた恐怖感が一気に高まった。立ち上がって逃げ出そうとして…私はその場に崩れ落ちた。どうして?身体に力が入らない…
「な、にを…?」
「なに、ちょっと身体が痺れる薬を飲んだだけだ。心配は無用だ。お前は俺の妃になるのだからな」
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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