【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
50 / 213
二章

呼び出した人物は…

しおりを挟む
「久しぶりだな、アレクシア」

 現れたのは、私が最も会いたくなかった人物筆頭のエリオット様だった。あんなに私を嫌っていたのに、一体どういう事だと私は身構えた。彼は私を嫌っていたから接触してくる可能性は低かったが、万が一あるとすればそれはろくでもない理由だろうと思っていたからだ。

「…お久しぶりです、エリオット様。今日は王妃様のお召しで参上しておりますが、何の御用でしょうか?」

 あえて王妃様の名を出して、こんなところで油を売っていると王妃様の耳に入ると匂わせた。彼が王妃様を苦手としているのが明白だったからだ。最近は王子妃教育が上手くいかないメイベルを庇って、王妃様との仲は一層冷え込んでいるという。元より怠け癖があり、深く考えるのを嫌うエリオット様に王妃様は厳しい。他の王子殿下達は勤勉で聡明だけど、王族の自覚が薄いエリオット様は自分だけが理不尽に厳しくされていると思っているのだ。

「ああ、母上なら今は公務の最中だ」
「…左様でございますか」
「用があって呼び出したのは俺だ」
「なっ…王妃様の名を語るのは、例え親子でも許されない事ですが」

 やっぱりそうだったのか。何となく嫌な予感はしていたし、顔を見た瞬間騙されたとは思ったが、まさか本当にやったとは。いくらエリオット様が息子で王族だろうとも、陛下や王妃様の名をかたる事は決して許されない事だ。それは国を左右する立場である以上当然で、悪用されれば国の根幹にも関わる。そんな単純な事も理解出来ていないなんて…

「まぁ、せっかく来たのだ。茶でも飲んでいけ」
「ご遠慮申し上げます。王妃様の御用でないのであれば、これで失礼いたします。今後は二度とこのような事はなさいませんよう」

 胸に広がる嫌悪感を押さえながら、私はさっさと屋敷に帰る事にした。エリオット様と二人きりでいるなんて、誰かに見られたら何を言われるか分かったもんじゃない。いくら侍女たちがいても、未婚の、それも婚約者がいる男女が部屋に二人きりでなど、後ろ指をさされても仕方がない」

「そう言うな。今日はお前にとっていい提案を持ってきたんだ」
「…提案?」

 胡散臭いし、絶対に聞かない方がいい話に決まっている。エリオット様の頭の弱さと考えなしは今に始まった事ではないし、そんなエリオット様が今までに持ってきた「いい話」は全てろくでもない話だったのだ。とは言え、今は一臣下の私には、エリオット様を振り切って帰る事も難しかった。

「そう、提案だ。なに、簡単な事だ。叔父上との婚約を解消して、俺と婚約し直すだけの事だ」
「……」

 この人は、とうとう頭がおかしくなったのだろうか…言われた文章は頭に入ったが、その意味が消化しきれなくて、私は思わずこめかみを指で抑えた。うん、これは本当におかしくなったと言っていい案件だろう。王命の婚約を反故にして、一度婚約破棄すると言った相手と婚約し直そうとは…王妃様には直ぐにでも療養させるべきだと奏上した方がよさそうだ…

「何を馬鹿な事を。私とラリー様の結婚は王命です。そう簡単に解消など出来るはずがございませんわ」
「そんな事はない。ちゃんと手はあるからな」
「は?」

 なんだろう、エリオット様の余裕とすらも言える笑みは…元より妄想癖はあったが、今度は何を考えているのだろう。いくら息子であっても王命を覆る事など出来ようもないのに。

「それに、メイベルはどうされるのです?メイベルを愛しているからと私と婚約解消をされましたのに」
「…メイベルの事は気にする必要はない」
「はい?」
「確かに愛らしいが…、あんなにも出来が悪いとは思わなかった」
「それは最初から分かっていた事では…」
「そうだな。だが、淑女教育すらも出来ていなかったとは、普通思わないだろう?」

 いえ、あなた様ご自身も似たようなものなのでお似合いですが。そう言ってやりたかったが、さすがにそれは我慢して言わなかった。

「このままでは、俺は王家から追放だ」
「…それでも、メイベルをお選びになったのはエリオット様です」
「ああ、そうだ、俺は騙されていたのだからな」
しおりを挟む
読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
感想 167

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

処理中です...