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二章
呼び出した人物は…
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「久しぶりだな、アレクシア」
現れたのは、私が最も会いたくなかった人物筆頭のエリオット様だった。あんなに私を嫌っていたのに、一体どういう事だと私は身構えた。彼は私を嫌っていたから接触してくる可能性は低かったが、万が一あるとすればそれはろくでもない理由だろうと思っていたからだ。
「…お久しぶりです、エリオット様。今日は王妃様のお召しで参上しておりますが、何の御用でしょうか?」
あえて王妃様の名を出して、こんなところで油を売っていると王妃様の耳に入ると匂わせた。彼が王妃様を苦手としているのが明白だったからだ。最近は王子妃教育が上手くいかないメイベルを庇って、王妃様との仲は一層冷え込んでいるという。元より怠け癖があり、深く考えるのを嫌うエリオット様に王妃様は厳しい。他の王子殿下達は勤勉で聡明だけど、王族の自覚が薄いエリオット様は自分だけが理不尽に厳しくされていると思っているのだ。
「ああ、母上なら今は公務の最中だ」
「…左様でございますか」
「用があって呼び出したのは俺だ」
「なっ…王妃様の名を語るのは、例え親子でも許されない事ですが」
やっぱりそうだったのか。何となく嫌な予感はしていたし、顔を見た瞬間騙されたとは思ったが、まさか本当にやったとは。いくらエリオット様が息子で王族だろうとも、陛下や王妃様の名をかたる事は決して許されない事だ。それは国を左右する立場である以上当然で、悪用されれば国の根幹にも関わる。そんな単純な事も理解出来ていないなんて…
「まぁ、せっかく来たのだ。茶でも飲んでいけ」
「ご遠慮申し上げます。王妃様の御用でないのであれば、これで失礼いたします。今後は二度とこのような事はなさいませんよう」
胸に広がる嫌悪感を押さえながら、私はさっさと屋敷に帰る事にした。エリオット様と二人きりでいるなんて、誰かに見られたら何を言われるか分かったもんじゃない。いくら侍女たちがいても、未婚の、それも婚約者がいる男女が部屋に二人きりでなど、後ろ指をさされても仕方がない」
「そう言うな。今日はお前にとっていい提案を持ってきたんだ」
「…提案?」
胡散臭いし、絶対に聞かない方がいい話に決まっている。エリオット様の頭の弱さと考えなしは今に始まった事ではないし、そんなエリオット様が今までに持ってきた「いい話」は全てろくでもない話だったのだ。とは言え、今は一臣下の私には、エリオット様を振り切って帰る事も難しかった。
「そう、提案だ。なに、簡単な事だ。叔父上との婚約を解消して、俺と婚約し直すだけの事だ」
「……」
この人は、とうとう頭がおかしくなったのだろうか…言われた文章は頭に入ったが、その意味が消化しきれなくて、私は思わずこめかみを指で抑えた。うん、これは本当におかしくなったと言っていい案件だろう。王命の婚約を反故にして、一度婚約破棄すると言った相手と婚約し直そうとは…王妃様には直ぐにでも療養させるべきだと奏上した方がよさそうだ…
「何を馬鹿な事を。私とラリー様の結婚は王命です。そう簡単に解消など出来るはずがございませんわ」
「そんな事はない。ちゃんと手はあるからな」
「は?」
なんだろう、エリオット様の余裕とすらも言える笑みは…元より妄想癖はあったが、今度は何を考えているのだろう。いくら息子であっても王命を覆る事など出来ようもないのに。
「それに、メイベルはどうされるのです?メイベルを愛しているからと私と婚約解消をされましたのに」
「…メイベルの事は気にする必要はない」
「はい?」
「確かに愛らしいが…、あんなにも出来が悪いとは思わなかった」
「それは最初から分かっていた事では…」
「そうだな。だが、淑女教育すらも出来ていなかったとは、普通思わないだろう?」
いえ、あなた様ご自身も似たようなものなのでお似合いですが。そう言ってやりたかったが、さすがにそれは我慢して言わなかった。
「このままでは、俺は王家から追放だ」
「…それでも、メイベルをお選びになったのはエリオット様です」
「ああ、そうだ、俺は騙されていたのだからな」
現れたのは、私が最も会いたくなかった人物筆頭のエリオット様だった。あんなに私を嫌っていたのに、一体どういう事だと私は身構えた。彼は私を嫌っていたから接触してくる可能性は低かったが、万が一あるとすればそれはろくでもない理由だろうと思っていたからだ。
「…お久しぶりです、エリオット様。今日は王妃様のお召しで参上しておりますが、何の御用でしょうか?」
あえて王妃様の名を出して、こんなところで油を売っていると王妃様の耳に入ると匂わせた。彼が王妃様を苦手としているのが明白だったからだ。最近は王子妃教育が上手くいかないメイベルを庇って、王妃様との仲は一層冷え込んでいるという。元より怠け癖があり、深く考えるのを嫌うエリオット様に王妃様は厳しい。他の王子殿下達は勤勉で聡明だけど、王族の自覚が薄いエリオット様は自分だけが理不尽に厳しくされていると思っているのだ。
「ああ、母上なら今は公務の最中だ」
「…左様でございますか」
「用があって呼び出したのは俺だ」
「なっ…王妃様の名を語るのは、例え親子でも許されない事ですが」
やっぱりそうだったのか。何となく嫌な予感はしていたし、顔を見た瞬間騙されたとは思ったが、まさか本当にやったとは。いくらエリオット様が息子で王族だろうとも、陛下や王妃様の名をかたる事は決して許されない事だ。それは国を左右する立場である以上当然で、悪用されれば国の根幹にも関わる。そんな単純な事も理解出来ていないなんて…
「まぁ、せっかく来たのだ。茶でも飲んでいけ」
「ご遠慮申し上げます。王妃様の御用でないのであれば、これで失礼いたします。今後は二度とこのような事はなさいませんよう」
胸に広がる嫌悪感を押さえながら、私はさっさと屋敷に帰る事にした。エリオット様と二人きりでいるなんて、誰かに見られたら何を言われるか分かったもんじゃない。いくら侍女たちがいても、未婚の、それも婚約者がいる男女が部屋に二人きりでなど、後ろ指をさされても仕方がない」
「そう言うな。今日はお前にとっていい提案を持ってきたんだ」
「…提案?」
胡散臭いし、絶対に聞かない方がいい話に決まっている。エリオット様の頭の弱さと考えなしは今に始まった事ではないし、そんなエリオット様が今までに持ってきた「いい話」は全てろくでもない話だったのだ。とは言え、今は一臣下の私には、エリオット様を振り切って帰る事も難しかった。
「そう、提案だ。なに、簡単な事だ。叔父上との婚約を解消して、俺と婚約し直すだけの事だ」
「……」
この人は、とうとう頭がおかしくなったのだろうか…言われた文章は頭に入ったが、その意味が消化しきれなくて、私は思わずこめかみを指で抑えた。うん、これは本当におかしくなったと言っていい案件だろう。王命の婚約を反故にして、一度婚約破棄すると言った相手と婚約し直そうとは…王妃様には直ぐにでも療養させるべきだと奏上した方がよさそうだ…
「何を馬鹿な事を。私とラリー様の結婚は王命です。そう簡単に解消など出来るはずがございませんわ」
「そんな事はない。ちゃんと手はあるからな」
「は?」
なんだろう、エリオット様の余裕とすらも言える笑みは…元より妄想癖はあったが、今度は何を考えているのだろう。いくら息子であっても王命を覆る事など出来ようもないのに。
「それに、メイベルはどうされるのです?メイベルを愛しているからと私と婚約解消をされましたのに」
「…メイベルの事は気にする必要はない」
「はい?」
「確かに愛らしいが…、あんなにも出来が悪いとは思わなかった」
「それは最初から分かっていた事では…」
「そうだな。だが、淑女教育すらも出来ていなかったとは、普通思わないだろう?」
いえ、あなた様ご自身も似たようなものなのでお似合いですが。そう言ってやりたかったが、さすがにそれは我慢して言わなかった。
「このままでは、俺は王家から追放だ」
「…それでも、メイベルをお選びになったのはエリオット様です」
「ああ、そうだ、俺は騙されていたのだからな」
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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