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二章
妹の告発と姉の実績
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「待ってくださいっ!」
ラリー様の理路騒然とした追及に、両親だけでなくこの場にいる誰もが言葉を発する事が出来ずにいる中、声を上げたのはメイベルだった。両手を前で組んで、ラリー様を潤んだ眼で見上げている。ほんの少し前に近づくなと言われたというのに、もう忘れたのだろうか…頭が痛くなる…
「ラリー様、お待ちくださいっ!両親は悪くありません…っ!」
怖いけど言いたい事は勇気を出して言う健気な私、という感じのメイベルに、周囲の目が集まった。まぁ、何も知らなければ可愛くて庇護欲を掻き立てられるのだろうが…この流れではあまり効果はなさそうだった。
「セネット侯爵令嬢、あなたに愛称を呼ぶ許可を与えた覚えはないと、先ほど言ったばかりだが?」
眉をひそめて不快感を露にしたラリー様に、メイベルは一瞬ビクッと怯えた様に身体を揺らしたが、泣きそうな、縋りつくような表情でラリー様を見上げた。ああ、またメイベルの十八番ね…何だかイラっとする。
「も、申し訳ございません、辺境伯、様…でも、辺境伯様は騙されているのですっ!」
「…騙されている?」
「はいっ!辺境伯様は、お姉様に騙されているのです」
「…ほぅ…」
一言、そう告げたラリー様に、先を促されたと思ったのか、メイベルは目を輝かせた。そこで喜色を表すなんて、ラリー様の怒りを余計に煽るだけだと思うのだけど…
「お姉様は、本当は意地悪なんです。私も何度も苛められました」
「…具体的には?」
「え…、っ…」
「具体的に、いつ、どこで、何をされたというのだ?そなたが姉の婚約者を奪った以上の事があったと?」
「な…あ、あれは…お姉様が意地悪だから、エリオット様が愛想を尽かされて…」
「他人の婚約者を奪うだけでも非常識だが、身内の、それも実姉の婚約者を奪う方がよほど意地が悪いであろう。その後のセネット家の対応も褒められたものではないしな」
「それは…」
「アレクシア嬢は文句も言わず、付き添ってくれた護衛達を労わりながら我が領に来られた。途中で襲撃を受けて傷を負った者には治癒魔法で癒し、我が領に来てからも隣国との戦闘で傷つき退役を余儀なくされた騎士たちを、身分に関わらず癒して社会復帰させている。その様な優しい心根の者が、どんな意地悪をしたというのだ?」
「……」
何も答えられないメイベルに対して、周りの貴族たちは一様に騒めいた。私が護衛や辺境伯領の騎士たちを癒した事もだが、私が襲撃を受けていた事には更に驚いたらしい。
「アレクシア嬢は我が領地のために戦い傷ついた騎士達を癒し、夫を失い困窮に喘ぐ未亡人には職を与え、その子供達には勉学の機会を与えようと新しい政策を始めた。その間、そなたは何をしていた?姉を上回るだけの事を成し遂げたのか?噂では、王子妃教育すらもまともに出来ていないと聞くが?」
「…っ…!」
ラリー様の糾弾が鋭すぎて怖いくらいだわ…こんなお厳しいお姿は始めて見るし、私でも足が竦みそうだ。甘やかされて嫌な事から逃げてばかりのメイベルにはさぞや厳しいだろう。
「…っ、…ひ、酷いですわ、ラリー様…」
やっぱりと言うべきか、当然と言うべきか。こんな場だというのに、メイベルは泣き出してしまった。でもまぁ、泣いて相手の同情を引くのはメイベルの常とう手段だから驚きはしないけど。でも、ラリー様相手では逆効果だろうに…
「泣けば許されると思うな。王族は非情でなければ務まらぬ厳しい立場だ。そのような甘い気持ちでは王子妃などとても無理であろうな」
冷たく一瞥したラリー様だったが、誰もメイベルや両親を庇う者はいなかった。周りにいる貴族たちは皆、両親とメイベルに冷たい視線を向けるだけだった。頼みの綱のエリオット様も側にいらっしゃらないし、これは居たたまれないだろう。
「私としては、アレクシア嬢と婚約解消してくれたエリオットに礼を言いたいほどだ。仮に意地が悪くとも、やるべきことをきちんとやってくれるのであれば私としては異存はなかったが、これほどに聡明で心優しく、慎ましい令嬢は今まで出会ったことがない。恥を恥とも思わず、礼儀も弁えない者とは雲泥の差だ」
ラリー様、褒め過ぎです!と私は叫びたくなったが、何とか堪えた。私はそんなに出来た人間じゃないのに。いやだ、顔が赤くなっていないだろうか…
ラリー様の理路騒然とした追及に、両親だけでなくこの場にいる誰もが言葉を発する事が出来ずにいる中、声を上げたのはメイベルだった。両手を前で組んで、ラリー様を潤んだ眼で見上げている。ほんの少し前に近づくなと言われたというのに、もう忘れたのだろうか…頭が痛くなる…
「ラリー様、お待ちくださいっ!両親は悪くありません…っ!」
怖いけど言いたい事は勇気を出して言う健気な私、という感じのメイベルに、周囲の目が集まった。まぁ、何も知らなければ可愛くて庇護欲を掻き立てられるのだろうが…この流れではあまり効果はなさそうだった。
「セネット侯爵令嬢、あなたに愛称を呼ぶ許可を与えた覚えはないと、先ほど言ったばかりだが?」
眉をひそめて不快感を露にしたラリー様に、メイベルは一瞬ビクッと怯えた様に身体を揺らしたが、泣きそうな、縋りつくような表情でラリー様を見上げた。ああ、またメイベルの十八番ね…何だかイラっとする。
「も、申し訳ございません、辺境伯、様…でも、辺境伯様は騙されているのですっ!」
「…騙されている?」
「はいっ!辺境伯様は、お姉様に騙されているのです」
「…ほぅ…」
一言、そう告げたラリー様に、先を促されたと思ったのか、メイベルは目を輝かせた。そこで喜色を表すなんて、ラリー様の怒りを余計に煽るだけだと思うのだけど…
「お姉様は、本当は意地悪なんです。私も何度も苛められました」
「…具体的には?」
「え…、っ…」
「具体的に、いつ、どこで、何をされたというのだ?そなたが姉の婚約者を奪った以上の事があったと?」
「な…あ、あれは…お姉様が意地悪だから、エリオット様が愛想を尽かされて…」
「他人の婚約者を奪うだけでも非常識だが、身内の、それも実姉の婚約者を奪う方がよほど意地が悪いであろう。その後のセネット家の対応も褒められたものではないしな」
「それは…」
「アレクシア嬢は文句も言わず、付き添ってくれた護衛達を労わりながら我が領に来られた。途中で襲撃を受けて傷を負った者には治癒魔法で癒し、我が領に来てからも隣国との戦闘で傷つき退役を余儀なくされた騎士たちを、身分に関わらず癒して社会復帰させている。その様な優しい心根の者が、どんな意地悪をしたというのだ?」
「……」
何も答えられないメイベルに対して、周りの貴族たちは一様に騒めいた。私が護衛や辺境伯領の騎士たちを癒した事もだが、私が襲撃を受けていた事には更に驚いたらしい。
「アレクシア嬢は我が領地のために戦い傷ついた騎士達を癒し、夫を失い困窮に喘ぐ未亡人には職を与え、その子供達には勉学の機会を与えようと新しい政策を始めた。その間、そなたは何をしていた?姉を上回るだけの事を成し遂げたのか?噂では、王子妃教育すらもまともに出来ていないと聞くが?」
「…っ…!」
ラリー様の糾弾が鋭すぎて怖いくらいだわ…こんなお厳しいお姿は始めて見るし、私でも足が竦みそうだ。甘やかされて嫌な事から逃げてばかりのメイベルにはさぞや厳しいだろう。
「…っ、…ひ、酷いですわ、ラリー様…」
やっぱりと言うべきか、当然と言うべきか。こんな場だというのに、メイベルは泣き出してしまった。でもまぁ、泣いて相手の同情を引くのはメイベルの常とう手段だから驚きはしないけど。でも、ラリー様相手では逆効果だろうに…
「泣けば許されると思うな。王族は非情でなければ務まらぬ厳しい立場だ。そのような甘い気持ちでは王子妃などとても無理であろうな」
冷たく一瞥したラリー様だったが、誰もメイベルや両親を庇う者はいなかった。周りにいる貴族たちは皆、両親とメイベルに冷たい視線を向けるだけだった。頼みの綱のエリオット様も側にいらっしゃらないし、これは居たたまれないだろう。
「私としては、アレクシア嬢と婚約解消してくれたエリオットに礼を言いたいほどだ。仮に意地が悪くとも、やるべきことをきちんとやってくれるのであれば私としては異存はなかったが、これほどに聡明で心優しく、慎ましい令嬢は今まで出会ったことがない。恥を恥とも思わず、礼儀も弁えない者とは雲泥の差だ」
ラリー様、褒め過ぎです!と私は叫びたくなったが、何とか堪えた。私はそんなに出来た人間じゃないのに。いやだ、顔が赤くなっていないだろうか…
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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