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一章
パーティーと旧友
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婚約パーティーの会場は、異様な熱気と煌びやかさに包まれていた。
第二王子に婚約破棄された侯爵家令嬢が、王命で嫁ぐというのだ。しかもその経緯が異常だった。王子が王命に逆らって婚約破棄しただけでも大変な醜聞なのに、次の婚約者はその妹だという。しかも王に許可を取らずに結婚宣言したのだから、貴族の間では大変な騒ぎになったのだ。
そして、その渦中にいた元婚約者と、臣下に下ったとはいえ王弟の婚約だ。話題にならない筈がなかった。
正直言って、人前に出るのには不安が大きかった。なんせ公の場に出るのは、あの婚約破棄の夜会以来なのだ。あれ以来、親しい友人たちとすら別れの挨拶もする間もなく、王都を発ったため、私が世間でどう言われているか、私は全く知らなかった。しかもここは王都から離れた地だ。噂がどんな形で伝わっているか、見当もつかない。王都では白だと噂された事が、地方では黒だと真逆に伝わるのは珍しくないのだ。
「大丈夫ですよ、シア。顔を上げて、堂々として。あなたは何もやましいところはないのでしょう?」
ラリー様にそう言われて、私は思わずラリー様を見上げてしまった。そんなに分かりやすい表情をしていただろうか…表情を誤魔化すのは得意だったのに。
「口さがない者たちの事など気にする必要はありません。私達は国王陛下のお決めになった者同士。誰にも文句は言わせません。そうでしょう?」
にっこり笑われて、私は少しだけ指先に血が戻るのを感じた。そう、この結婚は勅命で誰が何と言おうとなしにはならないのだ。しかもラリー様はこうして気遣ってくれるくらいには好意的なのだ。
「あ、ありがとうございます」
「そうそう、その調子。せっかくのパーティーです、楽しみましょう」
不思議と、それまで心にずっしり居座っていた不安がすっと消えていくのを感じて、私はぎこちなくも笑みを浮かべた。それを見たラリー様も微笑んで、私の手を取って会場に向かう。そう、ここから先は戦場なのだ。私は覚悟を決めて、胸を張ってラリー様の隣に立った。
私とラリー様の婚約披露パーティーは、ギルおじ様の婚約の宣言とラリー様の挨拶で始まった。ラリー様の麗しいお姿に、会場内からは黄色い悲鳴が上がっていた。それも仕方ないだろう、ここまで麗しい男性は王都でも中々お目にかかれない。
そう言えば、怪我で顔が醜くなったって話について以前お伺いしたら、怪我をしたのは本当はギルおじ様の事で、どこでどうなってか話がラリー様になってしまったらしい。でも、そのお陰で縁談の申し込みが減ったから、それならとラリー様はわざと醜くなって性格まで変わったと広めたのだという。
あくまでも噂だから、実際に違っても問題ないだろう?と笑ったラリー様に、私は薄ら寒いものを感じたのは内緒だ。まぁ、私としては醜いよりは美麗な方が嬉しいけれど。
パーティーでは私は、ギルおじ様やラリー様の間で招待客からの挨拶を受けた。招待したのは近隣の領主や貴族で、やはり王弟であられたせいか、招待客はよっぽどの理由がない限りは参加していると聞いた。とは言え、王都で国王陛下主催の夜会やパーティーに何度も出ている私には余裕だったけれど。
挨拶を受けながら私は、敵と味方になり得る者を選別していた。婚約破棄の一件もあり、私をあからさまに見下す者もいたけれど、彼らは残念ながら敵認定。婚約披露の場で私が隣にいるのにラリー様に色目を使う令嬢は論外だ。
しっかし、ラリー様の人気は思った以上だった。今まで独身だったのもあってか、自分こそは…!と思っている人はかなりの数に上っていた。まぁ、実際にお会いすれば噂がデマだってわかるから仕方ない。中には既婚でありながらすり寄ってくる夫人もいて、愛人でもいいという方を入れたら数え切れそうもなかった。
「アレクシア様、ご婚約、誠におめでとうございます」
次々と挨拶を受けている中、私は一人の令嬢に声をかけられた。聞き覚えのある声は、私の学園時代の友人だった、リネットだった。リネットはマグワイナ公爵家の長女で、一時は王太子様の婚約者候補だった事もある、ただ、その頃に暴漢に遭って足を怪我し、それを理由に候補を辞退し、治療のためと領地に籠っていたのだ。マグワイナ公爵領はヘーゼルダイン辺境伯領の王都寄りの隣だし、街道続きで交流も盛んだからラリー様とも親しいのだろう。
「まぁ、リネット様、お久しぶりにございます」
「ふふっ、本当に。嬉しいわ、シアがここにきてくれるなら、またお会い出来ますもの」
仲のよかった旧友の存在に、私はまた一つ光明を見つけた。
第二王子に婚約破棄された侯爵家令嬢が、王命で嫁ぐというのだ。しかもその経緯が異常だった。王子が王命に逆らって婚約破棄しただけでも大変な醜聞なのに、次の婚約者はその妹だという。しかも王に許可を取らずに結婚宣言したのだから、貴族の間では大変な騒ぎになったのだ。
そして、その渦中にいた元婚約者と、臣下に下ったとはいえ王弟の婚約だ。話題にならない筈がなかった。
正直言って、人前に出るのには不安が大きかった。なんせ公の場に出るのは、あの婚約破棄の夜会以来なのだ。あれ以来、親しい友人たちとすら別れの挨拶もする間もなく、王都を発ったため、私が世間でどう言われているか、私は全く知らなかった。しかもここは王都から離れた地だ。噂がどんな形で伝わっているか、見当もつかない。王都では白だと噂された事が、地方では黒だと真逆に伝わるのは珍しくないのだ。
「大丈夫ですよ、シア。顔を上げて、堂々として。あなたは何もやましいところはないのでしょう?」
ラリー様にそう言われて、私は思わずラリー様を見上げてしまった。そんなに分かりやすい表情をしていただろうか…表情を誤魔化すのは得意だったのに。
「口さがない者たちの事など気にする必要はありません。私達は国王陛下のお決めになった者同士。誰にも文句は言わせません。そうでしょう?」
にっこり笑われて、私は少しだけ指先に血が戻るのを感じた。そう、この結婚は勅命で誰が何と言おうとなしにはならないのだ。しかもラリー様はこうして気遣ってくれるくらいには好意的なのだ。
「あ、ありがとうございます」
「そうそう、その調子。せっかくのパーティーです、楽しみましょう」
不思議と、それまで心にずっしり居座っていた不安がすっと消えていくのを感じて、私はぎこちなくも笑みを浮かべた。それを見たラリー様も微笑んで、私の手を取って会場に向かう。そう、ここから先は戦場なのだ。私は覚悟を決めて、胸を張ってラリー様の隣に立った。
私とラリー様の婚約披露パーティーは、ギルおじ様の婚約の宣言とラリー様の挨拶で始まった。ラリー様の麗しいお姿に、会場内からは黄色い悲鳴が上がっていた。それも仕方ないだろう、ここまで麗しい男性は王都でも中々お目にかかれない。
そう言えば、怪我で顔が醜くなったって話について以前お伺いしたら、怪我をしたのは本当はギルおじ様の事で、どこでどうなってか話がラリー様になってしまったらしい。でも、そのお陰で縁談の申し込みが減ったから、それならとラリー様はわざと醜くなって性格まで変わったと広めたのだという。
あくまでも噂だから、実際に違っても問題ないだろう?と笑ったラリー様に、私は薄ら寒いものを感じたのは内緒だ。まぁ、私としては醜いよりは美麗な方が嬉しいけれど。
パーティーでは私は、ギルおじ様やラリー様の間で招待客からの挨拶を受けた。招待したのは近隣の領主や貴族で、やはり王弟であられたせいか、招待客はよっぽどの理由がない限りは参加していると聞いた。とは言え、王都で国王陛下主催の夜会やパーティーに何度も出ている私には余裕だったけれど。
挨拶を受けながら私は、敵と味方になり得る者を選別していた。婚約破棄の一件もあり、私をあからさまに見下す者もいたけれど、彼らは残念ながら敵認定。婚約披露の場で私が隣にいるのにラリー様に色目を使う令嬢は論外だ。
しっかし、ラリー様の人気は思った以上だった。今まで独身だったのもあってか、自分こそは…!と思っている人はかなりの数に上っていた。まぁ、実際にお会いすれば噂がデマだってわかるから仕方ない。中には既婚でありながらすり寄ってくる夫人もいて、愛人でもいいという方を入れたら数え切れそうもなかった。
「アレクシア様、ご婚約、誠におめでとうございます」
次々と挨拶を受けている中、私は一人の令嬢に声をかけられた。聞き覚えのある声は、私の学園時代の友人だった、リネットだった。リネットはマグワイナ公爵家の長女で、一時は王太子様の婚約者候補だった事もある、ただ、その頃に暴漢に遭って足を怪我し、それを理由に候補を辞退し、治療のためと領地に籠っていたのだ。マグワイナ公爵領はヘーゼルダイン辺境伯領の王都寄りの隣だし、街道続きで交流も盛んだからラリー様とも親しいのだろう。
「まぁ、リネット様、お久しぶりにございます」
「ふふっ、本当に。嬉しいわ、シアがここにきてくれるなら、またお会い出来ますもの」
仲のよかった旧友の存在に、私はまた一つ光明を見つけた。
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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