29 / 213
一章
婚約披露のドレス
しおりを挟む
「パーティー、ですか?」
それから数日は穏やかな日が過ぎた。ラリー様はお忙しそうだったので、私はギルおじ様とお茶をしたり、おじ様に頼んでこの辺境伯領についての勉強をしたりと、婚姻に向けての準備を進めていた。王命だから結婚しないのはなしだし、仮に白い結婚になっても領主の妻の務めはしなきゃいけない。王子妃教育で大抵の事は出来るようになったけれど、この辺境伯領については世間一般的な事しか知らなかったから、より深い知識が必要だった。
そんな中、珍しくラリー様がお茶に誘って下さった。今日はギルおじ様も一緒だ。たわいもない近況の話が終わったところで、私はラリー様にそう言われたのだ。
「そう。王命で結婚する事になったわけだが、婚約期間を置くのか、直ぐに婚姻を結ぶのか、その辺が分からなかったから、陛下に問い合わせしたんだ。昨日、陛下からの書状が届いて、さすがに直ぐには準備が間に合わないだろうから、一旦婚約披露して、準備が整い次第婚姻するようにとの事でね」
「それで…婚約披露のパーティーですか」
「そういう事」
長い足を組んでティーカップを手にそう語るラリー様は、まるで一枚の絵のようだ。エリオット様も黙っていればとても素晴らしくて、これほど美麗な殿方もいらっしゃらないと思っていたけれど…どう贔屓目に見てもラリー様の方が上だ。
でも、私としてはやっぱりギルおじ様の方が好ましいのだけれど…だめだわ、こんな風に考えるなんてラリー様に失礼よね。
「異存はございませんが…それは何時頃に?」
「そうだな、ドレスの準備もあるし、早くても一月後くらいが妥当かな。近隣の貴族も招待するし、あまり急いでは迷惑だろう」
「そうですわね」
「じゃ、一月後でいいかな?」
「はい。ですが…」
時期は何時でも構わないのだけど…私は一つ気になった事があった。
「ああ、ドレスなどに関しては気にしなくていい。私が準備しよう。そう思ってこの町一番のデザイナーを呼んでおいた」
「そ、それは…申し訳ございません」
普通なら、花嫁の衣装全般は実家が持つのだけど…残念ながら私の実家は私を厄介者としか見ていないから、世間一般的な準備などもする気がないらしい。あれから無事辺境伯領に着いたと手紙を出したけれど、返事すらないのだ。もう私の事はいなくなったと思っているのだろう。
「気にせんでいい、シア。シアはもうこのヘーゼルダイン家の一員だから。もっと我儘を言ってくれてもいいんじゃよ」
「そんな…今でも十分よくして頂いていますわ」
おじ様にそう言われて、目の奥がじんとしてきた。おじ様はどうしてこうも私が欲しい言葉をくれるのだろう。諦めなきゃと思うのに…困ってしまう。
そんな思いに囚われていたが、ラリー様がメイナードに目くばせするとドアが開いて、デザイナーやその侍女たちが部屋に入って来た。デザイナーはヘイローズと言う名の恰幅のいい中年の女性で、着ている服はセンスがよくて目は生き生きと輝いていた。私に視線を向けると、一瞬だけ眼光が鋭くなったようにも感じた。何だろう…この感覚。どこかで感じたような…
そんな風に思っていた私は、身をもってその感覚を感じた時の事を思い出した。あれは王妃様のサロンで王妃様が私のためにとドレスを作ろうと王家御用達の商会を呼んだ時だ。あの時の商会のデザイナーと同じ目だと理解したのは、散々着せ替え人形をさせられた後だった。
「お嬢様は色も白く、髪色も瞳も大変お珍しい色でいらっしゃいますのね。これは今までにない色使いのドレスが作れそうですわ!」
デザイナーは興奮気味にドレスの色やデザインを語っていたけれど、私は半分も理解出来なかった。元よりそういう事は興味がないのでよくわからないのだ。
「辺境伯様のお色は金と青、お嬢様は青銀と紫。どう組み合わせるか、これは腕が鳴りますわ!」
どうやらデザイナーは凄くやる気になったらしい。数日中に原案を持ってまいりますわ!と興奮冷めやらぬ感じで退出した彼女に、私は呆気に取られていた。
それから数日は穏やかな日が過ぎた。ラリー様はお忙しそうだったので、私はギルおじ様とお茶をしたり、おじ様に頼んでこの辺境伯領についての勉強をしたりと、婚姻に向けての準備を進めていた。王命だから結婚しないのはなしだし、仮に白い結婚になっても領主の妻の務めはしなきゃいけない。王子妃教育で大抵の事は出来るようになったけれど、この辺境伯領については世間一般的な事しか知らなかったから、より深い知識が必要だった。
そんな中、珍しくラリー様がお茶に誘って下さった。今日はギルおじ様も一緒だ。たわいもない近況の話が終わったところで、私はラリー様にそう言われたのだ。
「そう。王命で結婚する事になったわけだが、婚約期間を置くのか、直ぐに婚姻を結ぶのか、その辺が分からなかったから、陛下に問い合わせしたんだ。昨日、陛下からの書状が届いて、さすがに直ぐには準備が間に合わないだろうから、一旦婚約披露して、準備が整い次第婚姻するようにとの事でね」
「それで…婚約披露のパーティーですか」
「そういう事」
長い足を組んでティーカップを手にそう語るラリー様は、まるで一枚の絵のようだ。エリオット様も黙っていればとても素晴らしくて、これほど美麗な殿方もいらっしゃらないと思っていたけれど…どう贔屓目に見てもラリー様の方が上だ。
でも、私としてはやっぱりギルおじ様の方が好ましいのだけれど…だめだわ、こんな風に考えるなんてラリー様に失礼よね。
「異存はございませんが…それは何時頃に?」
「そうだな、ドレスの準備もあるし、早くても一月後くらいが妥当かな。近隣の貴族も招待するし、あまり急いでは迷惑だろう」
「そうですわね」
「じゃ、一月後でいいかな?」
「はい。ですが…」
時期は何時でも構わないのだけど…私は一つ気になった事があった。
「ああ、ドレスなどに関しては気にしなくていい。私が準備しよう。そう思ってこの町一番のデザイナーを呼んでおいた」
「そ、それは…申し訳ございません」
普通なら、花嫁の衣装全般は実家が持つのだけど…残念ながら私の実家は私を厄介者としか見ていないから、世間一般的な準備などもする気がないらしい。あれから無事辺境伯領に着いたと手紙を出したけれど、返事すらないのだ。もう私の事はいなくなったと思っているのだろう。
「気にせんでいい、シア。シアはもうこのヘーゼルダイン家の一員だから。もっと我儘を言ってくれてもいいんじゃよ」
「そんな…今でも十分よくして頂いていますわ」
おじ様にそう言われて、目の奥がじんとしてきた。おじ様はどうしてこうも私が欲しい言葉をくれるのだろう。諦めなきゃと思うのに…困ってしまう。
そんな思いに囚われていたが、ラリー様がメイナードに目くばせするとドアが開いて、デザイナーやその侍女たちが部屋に入って来た。デザイナーはヘイローズと言う名の恰幅のいい中年の女性で、着ている服はセンスがよくて目は生き生きと輝いていた。私に視線を向けると、一瞬だけ眼光が鋭くなったようにも感じた。何だろう…この感覚。どこかで感じたような…
そんな風に思っていた私は、身をもってその感覚を感じた時の事を思い出した。あれは王妃様のサロンで王妃様が私のためにとドレスを作ろうと王家御用達の商会を呼んだ時だ。あの時の商会のデザイナーと同じ目だと理解したのは、散々着せ替え人形をさせられた後だった。
「お嬢様は色も白く、髪色も瞳も大変お珍しい色でいらっしゃいますのね。これは今までにない色使いのドレスが作れそうですわ!」
デザイナーは興奮気味にドレスの色やデザインを語っていたけれど、私は半分も理解出来なかった。元よりそういう事は興味がないのでよくわからないのだ。
「辺境伯様のお色は金と青、お嬢様は青銀と紫。どう組み合わせるか、これは腕が鳴りますわ!」
どうやらデザイナーは凄くやる気になったらしい。数日中に原案を持ってまいりますわ!と興奮冷めやらぬ感じで退出した彼女に、私は呆気に取られていた。
283
読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
お気に入りに追加
3,615
あなたにおすすめの小説
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
いつだって二番目。こんな自分とさよならします!
椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。
ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。
ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。
嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。
そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!?
小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。
いつも第一王女の姉が優先される日々。
そして、待ち受ける死。
――この運命、私は変えられるの?
※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。
ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」
ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。
「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」
一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。
だって。
──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる