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一章
婚約披露のドレス
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「パーティー、ですか?」
それから数日は穏やかな日が過ぎた。ラリー様はお忙しそうだったので、私はギルおじ様とお茶をしたり、おじ様に頼んでこの辺境伯領についての勉強をしたりと、婚姻に向けての準備を進めていた。王命だから結婚しないのはなしだし、仮に白い結婚になっても領主の妻の務めはしなきゃいけない。王子妃教育で大抵の事は出来るようになったけれど、この辺境伯領については世間一般的な事しか知らなかったから、より深い知識が必要だった。
そんな中、珍しくラリー様がお茶に誘って下さった。今日はギルおじ様も一緒だ。たわいもない近況の話が終わったところで、私はラリー様にそう言われたのだ。
「そう。王命で結婚する事になったわけだが、婚約期間を置くのか、直ぐに婚姻を結ぶのか、その辺が分からなかったから、陛下に問い合わせしたんだ。昨日、陛下からの書状が届いて、さすがに直ぐには準備が間に合わないだろうから、一旦婚約披露して、準備が整い次第婚姻するようにとの事でね」
「それで…婚約披露のパーティーですか」
「そういう事」
長い足を組んでティーカップを手にそう語るラリー様は、まるで一枚の絵のようだ。エリオット様も黙っていればとても素晴らしくて、これほど美麗な殿方もいらっしゃらないと思っていたけれど…どう贔屓目に見てもラリー様の方が上だ。
でも、私としてはやっぱりギルおじ様の方が好ましいのだけれど…だめだわ、こんな風に考えるなんてラリー様に失礼よね。
「異存はございませんが…それは何時頃に?」
「そうだな、ドレスの準備もあるし、早くても一月後くらいが妥当かな。近隣の貴族も招待するし、あまり急いでは迷惑だろう」
「そうですわね」
「じゃ、一月後でいいかな?」
「はい。ですが…」
時期は何時でも構わないのだけど…私は一つ気になった事があった。
「ああ、ドレスなどに関しては気にしなくていい。私が準備しよう。そう思ってこの町一番のデザイナーを呼んでおいた」
「そ、それは…申し訳ございません」
普通なら、花嫁の衣装全般は実家が持つのだけど…残念ながら私の実家は私を厄介者としか見ていないから、世間一般的な準備などもする気がないらしい。あれから無事辺境伯領に着いたと手紙を出したけれど、返事すらないのだ。もう私の事はいなくなったと思っているのだろう。
「気にせんでいい、シア。シアはもうこのヘーゼルダイン家の一員だから。もっと我儘を言ってくれてもいいんじゃよ」
「そんな…今でも十分よくして頂いていますわ」
おじ様にそう言われて、目の奥がじんとしてきた。おじ様はどうしてこうも私が欲しい言葉をくれるのだろう。諦めなきゃと思うのに…困ってしまう。
そんな思いに囚われていたが、ラリー様がメイナードに目くばせするとドアが開いて、デザイナーやその侍女たちが部屋に入って来た。デザイナーはヘイローズと言う名の恰幅のいい中年の女性で、着ている服はセンスがよくて目は生き生きと輝いていた。私に視線を向けると、一瞬だけ眼光が鋭くなったようにも感じた。何だろう…この感覚。どこかで感じたような…
そんな風に思っていた私は、身をもってその感覚を感じた時の事を思い出した。あれは王妃様のサロンで王妃様が私のためにとドレスを作ろうと王家御用達の商会を呼んだ時だ。あの時の商会のデザイナーと同じ目だと理解したのは、散々着せ替え人形をさせられた後だった。
「お嬢様は色も白く、髪色も瞳も大変お珍しい色でいらっしゃいますのね。これは今までにない色使いのドレスが作れそうですわ!」
デザイナーは興奮気味にドレスの色やデザインを語っていたけれど、私は半分も理解出来なかった。元よりそういう事は興味がないのでよくわからないのだ。
「辺境伯様のお色は金と青、お嬢様は青銀と紫。どう組み合わせるか、これは腕が鳴りますわ!」
どうやらデザイナーは凄くやる気になったらしい。数日中に原案を持ってまいりますわ!と興奮冷めやらぬ感じで退出した彼女に、私は呆気に取られていた。
それから数日は穏やかな日が過ぎた。ラリー様はお忙しそうだったので、私はギルおじ様とお茶をしたり、おじ様に頼んでこの辺境伯領についての勉強をしたりと、婚姻に向けての準備を進めていた。王命だから結婚しないのはなしだし、仮に白い結婚になっても領主の妻の務めはしなきゃいけない。王子妃教育で大抵の事は出来るようになったけれど、この辺境伯領については世間一般的な事しか知らなかったから、より深い知識が必要だった。
そんな中、珍しくラリー様がお茶に誘って下さった。今日はギルおじ様も一緒だ。たわいもない近況の話が終わったところで、私はラリー様にそう言われたのだ。
「そう。王命で結婚する事になったわけだが、婚約期間を置くのか、直ぐに婚姻を結ぶのか、その辺が分からなかったから、陛下に問い合わせしたんだ。昨日、陛下からの書状が届いて、さすがに直ぐには準備が間に合わないだろうから、一旦婚約披露して、準備が整い次第婚姻するようにとの事でね」
「それで…婚約披露のパーティーですか」
「そういう事」
長い足を組んでティーカップを手にそう語るラリー様は、まるで一枚の絵のようだ。エリオット様も黙っていればとても素晴らしくて、これほど美麗な殿方もいらっしゃらないと思っていたけれど…どう贔屓目に見てもラリー様の方が上だ。
でも、私としてはやっぱりギルおじ様の方が好ましいのだけれど…だめだわ、こんな風に考えるなんてラリー様に失礼よね。
「異存はございませんが…それは何時頃に?」
「そうだな、ドレスの準備もあるし、早くても一月後くらいが妥当かな。近隣の貴族も招待するし、あまり急いでは迷惑だろう」
「そうですわね」
「じゃ、一月後でいいかな?」
「はい。ですが…」
時期は何時でも構わないのだけど…私は一つ気になった事があった。
「ああ、ドレスなどに関しては気にしなくていい。私が準備しよう。そう思ってこの町一番のデザイナーを呼んでおいた」
「そ、それは…申し訳ございません」
普通なら、花嫁の衣装全般は実家が持つのだけど…残念ながら私の実家は私を厄介者としか見ていないから、世間一般的な準備などもする気がないらしい。あれから無事辺境伯領に着いたと手紙を出したけれど、返事すらないのだ。もう私の事はいなくなったと思っているのだろう。
「気にせんでいい、シア。シアはもうこのヘーゼルダイン家の一員だから。もっと我儘を言ってくれてもいいんじゃよ」
「そんな…今でも十分よくして頂いていますわ」
おじ様にそう言われて、目の奥がじんとしてきた。おじ様はどうしてこうも私が欲しい言葉をくれるのだろう。諦めなきゃと思うのに…困ってしまう。
そんな思いに囚われていたが、ラリー様がメイナードに目くばせするとドアが開いて、デザイナーやその侍女たちが部屋に入って来た。デザイナーはヘイローズと言う名の恰幅のいい中年の女性で、着ている服はセンスがよくて目は生き生きと輝いていた。私に視線を向けると、一瞬だけ眼光が鋭くなったようにも感じた。何だろう…この感覚。どこかで感じたような…
そんな風に思っていた私は、身をもってその感覚を感じた時の事を思い出した。あれは王妃様のサロンで王妃様が私のためにとドレスを作ろうと王家御用達の商会を呼んだ時だ。あの時の商会のデザイナーと同じ目だと理解したのは、散々着せ替え人形をさせられた後だった。
「お嬢様は色も白く、髪色も瞳も大変お珍しい色でいらっしゃいますのね。これは今までにない色使いのドレスが作れそうですわ!」
デザイナーは興奮気味にドレスの色やデザインを語っていたけれど、私は半分も理解出来なかった。元よりそういう事は興味がないのでよくわからないのだ。
「辺境伯様のお色は金と青、お嬢様は青銀と紫。どう組み合わせるか、これは腕が鳴りますわ!」
どうやらデザイナーは凄くやる気になったらしい。数日中に原案を持ってまいりますわ!と興奮冷めやらぬ感じで退出した彼女に、私は呆気に取られていた。
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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