27 / 213
一章
お願いの内容
しおりを挟む
「なるほど…それがシアのお願いか…」
私のお願いと言う名の提案に、ラリー様は口元に手を当てて考え込まれた。まぁ、影響の大きさを考えると簡単ではないだろう。それくらい、この提案は影響力が大きかった。
私が提案したのは、怪我が原因で退役せざるを得なかった元騎士達の治療だ。この辺境伯領は隣国と接していて、百年以上前から小競り合いが絶えない。そのせいで死者も怪我人も多数出ているのだが、その影響で慢性的な男手不足に陥っており、それが経済をはじめとする領民の生活に悪影響を与えていた。
さらに、怪我で退役した者には領内から恩給が出るのだが、その金額も騎士が生活するにはぎりぎりの額だが、領全体となると相当な額に上っている。その為、辺境伯領は慢性的な財政赤字を抱えているのだ。
そこで私が治癒魔法を使って怪我で退役した騎士を治療し、騎士団や社会活動に復帰させるのだ。領民も一家の大黒柱である男性が働けるようになれば暮らしも随分とマシになるし、恩給の支払い額も減らす事が出来る。そうなれば余ったお金で領内の公共事業への投資も出来るようになるし、領民の暮らしが豊かになれば経済も活性化するだろう。
私はその計画を実行するために、ラリー様の許可が欲しかったのだ。さすがに黙ってやると余計なトラブルを抱える事になるから。聖女の力は他国にとっても喉から手が出るくらいに渇望しているから、勝手にやってまた隣国との諍いの種になっても困るし…と、この力は結構厄介なものなのだ。
「これに関しては、少しお時間を頂いてもいいですか?非常に有り難い話だが、やり方を考えないと余計な問題を生む可能性がある。それに…大丈夫なのですか?」
「何がですか?」
「あなたですよ、シア。この力を使って、あなたにどれくらい影響が出るのかが私にはわからない。酷く消耗させたり、寿命を削ったりするのであれば、到底許す事は出来ません」
「…それは…」
「その辺については、あなたの言い分だけでは心許ない。無理をして事実と違う事を言われても困りますので、私の方でも調べさせて頂きますよ。あなたにだけ無理を強いるのは私の本意ではない」
「あ、ありがとう、ございます…」
秀麗な顔でそんな風に真剣に心配されると困ってしまう。なまじお顔が素敵なだけに…それに、そんな風に心配して貰った事がないから気恥ずかしくて仕方ない。今まで私を気遣ってくれたのは亡き祖母とギルおじ様、国王陛下と王妃様、ユーニスとビリー、そして数名のお友達だけだったから。これはもしかすると想像以上にマシな関係が築けるかもしれない…
「じゃ難しい話は後にして…どうです?天気もいいし、庭でも散策しませんか?」
ラリー様の提案を無下にする理由があるだろうか。私は素直にそのお誘いを受けた。
「辺境伯様とはいい関係が築けそうですね」
ラリー様とはあの後庭の散策をしてそこでお茶をし、何だかんだで結局、夕飯を終えるまでご一緒する事になった。途中で護衛に就いたスザンナが必死に表情を取り繕っていたけれど、彼女には想定外だったみたいだ。まぁ、私のお願いが何なのかが分からなくて、不安で仕方なかったのもあるだろうけど。向こうが先に喧嘩を売ってきたのだから、わざわざ安心させる必要もないだろう。せっかくだから私の敵になりそうな相手を炙り出すのに役に立ってもらえばいい。
「そうね、思いのほか好意的で助かったわ」
「アレクシア様は、前辺境伯様がいらっしゃれば満足のようでしたけれど」
「それはもちろんよ。でも、残念だけどおじ様との結婚は無理だから…」
「僭越ながら申し上げますと…私としては是非辺境伯様と真のご夫婦になって頂きたいですけれどね」
「まぁ、ユーニスったら…」
急にラリー様の事を言い出したため、私はびっくりしてしまった。結婚したくないと言っていた私の気持ちは伝わっているだろうに…
「お嬢様はあの馬鹿王子やご実家のせいでご自分を卑下し過ぎですわ。お嬢様はお綺麗なだけでなく、賢くてお優しくて聖女の力もお持ちの、実に稀なるお方ですわ。正直言って一介の辺境伯の妻では勿体ない程です。まぁ、でもこの国の王族や公爵家の令息にはろくなのがいませんけど…」
「もう、ユーニスったらほめ過ぎだし、貶し過ぎだわ」
「でも、それが私の本心ですわ。ただ、ヘーゼルダイン辺境伯様とでしたら、見た目もですが能力や心映えも及第点だと思います」
「もう、それは失礼よ、ユーニス」
「これくらい言わなければ、アレクシア様には伝わりませんからね」
そう言ってユーニスはわざとらしく大きなため息を付いた。そこまで言うほど私は出来た人間ではないのだ。それは私自身が一番わかっていた。
私のお願いと言う名の提案に、ラリー様は口元に手を当てて考え込まれた。まぁ、影響の大きさを考えると簡単ではないだろう。それくらい、この提案は影響力が大きかった。
私が提案したのは、怪我が原因で退役せざるを得なかった元騎士達の治療だ。この辺境伯領は隣国と接していて、百年以上前から小競り合いが絶えない。そのせいで死者も怪我人も多数出ているのだが、その影響で慢性的な男手不足に陥っており、それが経済をはじめとする領民の生活に悪影響を与えていた。
さらに、怪我で退役した者には領内から恩給が出るのだが、その金額も騎士が生活するにはぎりぎりの額だが、領全体となると相当な額に上っている。その為、辺境伯領は慢性的な財政赤字を抱えているのだ。
そこで私が治癒魔法を使って怪我で退役した騎士を治療し、騎士団や社会活動に復帰させるのだ。領民も一家の大黒柱である男性が働けるようになれば暮らしも随分とマシになるし、恩給の支払い額も減らす事が出来る。そうなれば余ったお金で領内の公共事業への投資も出来るようになるし、領民の暮らしが豊かになれば経済も活性化するだろう。
私はその計画を実行するために、ラリー様の許可が欲しかったのだ。さすがに黙ってやると余計なトラブルを抱える事になるから。聖女の力は他国にとっても喉から手が出るくらいに渇望しているから、勝手にやってまた隣国との諍いの種になっても困るし…と、この力は結構厄介なものなのだ。
「これに関しては、少しお時間を頂いてもいいですか?非常に有り難い話だが、やり方を考えないと余計な問題を生む可能性がある。それに…大丈夫なのですか?」
「何がですか?」
「あなたですよ、シア。この力を使って、あなたにどれくらい影響が出るのかが私にはわからない。酷く消耗させたり、寿命を削ったりするのであれば、到底許す事は出来ません」
「…それは…」
「その辺については、あなたの言い分だけでは心許ない。無理をして事実と違う事を言われても困りますので、私の方でも調べさせて頂きますよ。あなたにだけ無理を強いるのは私の本意ではない」
「あ、ありがとう、ございます…」
秀麗な顔でそんな風に真剣に心配されると困ってしまう。なまじお顔が素敵なだけに…それに、そんな風に心配して貰った事がないから気恥ずかしくて仕方ない。今まで私を気遣ってくれたのは亡き祖母とギルおじ様、国王陛下と王妃様、ユーニスとビリー、そして数名のお友達だけだったから。これはもしかすると想像以上にマシな関係が築けるかもしれない…
「じゃ難しい話は後にして…どうです?天気もいいし、庭でも散策しませんか?」
ラリー様の提案を無下にする理由があるだろうか。私は素直にそのお誘いを受けた。
「辺境伯様とはいい関係が築けそうですね」
ラリー様とはあの後庭の散策をしてそこでお茶をし、何だかんだで結局、夕飯を終えるまでご一緒する事になった。途中で護衛に就いたスザンナが必死に表情を取り繕っていたけれど、彼女には想定外だったみたいだ。まぁ、私のお願いが何なのかが分からなくて、不安で仕方なかったのもあるだろうけど。向こうが先に喧嘩を売ってきたのだから、わざわざ安心させる必要もないだろう。せっかくだから私の敵になりそうな相手を炙り出すのに役に立ってもらえばいい。
「そうね、思いのほか好意的で助かったわ」
「アレクシア様は、前辺境伯様がいらっしゃれば満足のようでしたけれど」
「それはもちろんよ。でも、残念だけどおじ様との結婚は無理だから…」
「僭越ながら申し上げますと…私としては是非辺境伯様と真のご夫婦になって頂きたいですけれどね」
「まぁ、ユーニスったら…」
急にラリー様の事を言い出したため、私はびっくりしてしまった。結婚したくないと言っていた私の気持ちは伝わっているだろうに…
「お嬢様はあの馬鹿王子やご実家のせいでご自分を卑下し過ぎですわ。お嬢様はお綺麗なだけでなく、賢くてお優しくて聖女の力もお持ちの、実に稀なるお方ですわ。正直言って一介の辺境伯の妻では勿体ない程です。まぁ、でもこの国の王族や公爵家の令息にはろくなのがいませんけど…」
「もう、ユーニスったらほめ過ぎだし、貶し過ぎだわ」
「でも、それが私の本心ですわ。ただ、ヘーゼルダイン辺境伯様とでしたら、見た目もですが能力や心映えも及第点だと思います」
「もう、それは失礼よ、ユーニス」
「これくらい言わなければ、アレクシア様には伝わりませんからね」
そう言ってユーニスはわざとらしく大きなため息を付いた。そこまで言うほど私は出来た人間ではないのだ。それは私自身が一番わかっていた。
302
読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
お気に入りに追加
3,615
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。
ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」
ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。
「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」
一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。
だって。
──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。
ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。
その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。
十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。
そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。
「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」
テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。
21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。
※「小説家になろう」さまにも掲載しております。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる