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一章
ラリー様の古傷
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「それは…」
私の提案を聞いたラリー様は、さすがに驚かれたのか言葉を詰まらせていた。まぁ、確かにこんな話、いきなり聞かされては驚いても仕方ないだろう。世間には公表されていなかったのだし。
ラリー様の後ろに控えるメイナードも、胡散臭いものをみるような視線を向けているし。う~ん、家令筆頭なのだから、もっと表情を抑えられないだろうか。これじゃ相手に余計なスキを与えてしまうのに。この屋敷の家令たちも、教育し直す必要がありそうだ。
「それは本当なのか?君が…治癒魔法を使えると?」
「ええ。そうでなければお話しませんでしょう?」
「それはそうだが…」
これは言葉だけでは伝わらないようだ。王弟だったラリー様が知らないなんて意外だけど、こうなれば実践しかないだろう。
「ラリー様は、今は傷などございませんか?」
「傷?」
「ええ。それを治せば信じて頂けますでしょう?」
「あ、ああ…」
結局は実際にやっていないと信じてはもらえないらしい。まぁ、いきなり治癒魔法が使えますと言ったところで、信じる人など稀だろう。治癒魔法は珍しいし、何と言っても私は聖女として認められていないのだから。
「そうだな…古傷でも?」
「あまり古いものや、深いものは完治が難しいですけれど…痛みなどを取り除くことはできると思います」
「そうか、それなら…」
ラリー様が示したのは、右手の親指の根元にある古傷だった。何年か前に敵の剣を受けてしまったため、そこからは思うように動かなくなり、剣を握るにも支障があるという。利き手だから執務や食事でも不便を感じているとか。年数が経っているし、動きが悪いなら傷も深いのだろうけれど…今よりマシにすることは出来る筈だ。
ラリー様の親指の付け根に意識を集中させて、手をかざして治った状態をイメージする。ゆっくりと親指に力を流し込むと、すうっと魔力の流れが切れた。これは完治した時に起きる現象だ。
「如何でしょう?」
「…う、ごく…」
「大丈夫そうですね?」
「あ、ああ…不思議だ…ずっと痺れが残っていて、思うように動かせなかったのに…」
ラリー様は暫く、驚きの表情を浮かべながらご自身の指を動かしていた。王弟だったラリー様でも治癒魔法を利用した事はなかったのは意外だったけれど、この方は優秀だったから怪我をする事もなかったのでしょう。
ユーニスは知っていたから平然としているけれど、メイナードも驚きに目を見開いていた。まぁ、これが普通の反応だろう。第一騎士団の四人も、モーガンもそうだったから。
「シア、疑ってすまなかった。だが…」
「いいえ、この力は陛下の命で公にされていませんでしたから」
「それは…」
「セネット家は聖女の家系。王家としては聖女の力を王家に取り込みたかったのでしょう。エリオット様との婚約も、その一環かと」
「…なるほど」
そう、セネット家で聖女の力と呼べるほどの力を持つ女児が生まれるのは稀だ。最近では祖母と私だけれど、祖母の力は私ほどではなかったという。その為、先王様の求婚を断れたのだ。祖母の力では、王家にメリットは少なかったから。
でも、その後生まれた私は、聖女に匹敵するかそれ以上の力を持っていた。だから祖母の反対を押し切っても、私とエリオット様の婚約が成ったのだ。王家にとっては滅多にないチャンスだっただけに、何としてでも王族と婚姻させて、聖女の血を汲む子供を産ませたかったのだろう。
「エリオット様が私にラリー様に嫁げと言ったのを陛下たちが黙認したのも、相手がラリー様だったからだと思いますわ。他の貴族だった場合は、反対されたと思います」
「…だろうな」
そう、今の王族で私と結婚が可能なのは、エリオット様とラリー様、そしてまだ十歳の第三王子殿下くらいだ。だが、第三王子は既に公爵家の令嬢との婚約が成立している。王子の婚約は政略も絡んでくるから、今から変更は難しいのだ。
「それで…シアは何を望むのだ?」
ようやく私のお願いに話を進める事が出来る環境が整った。
私の提案を聞いたラリー様は、さすがに驚かれたのか言葉を詰まらせていた。まぁ、確かにこんな話、いきなり聞かされては驚いても仕方ないだろう。世間には公表されていなかったのだし。
ラリー様の後ろに控えるメイナードも、胡散臭いものをみるような視線を向けているし。う~ん、家令筆頭なのだから、もっと表情を抑えられないだろうか。これじゃ相手に余計なスキを与えてしまうのに。この屋敷の家令たちも、教育し直す必要がありそうだ。
「それは本当なのか?君が…治癒魔法を使えると?」
「ええ。そうでなければお話しませんでしょう?」
「それはそうだが…」
これは言葉だけでは伝わらないようだ。王弟だったラリー様が知らないなんて意外だけど、こうなれば実践しかないだろう。
「ラリー様は、今は傷などございませんか?」
「傷?」
「ええ。それを治せば信じて頂けますでしょう?」
「あ、ああ…」
結局は実際にやっていないと信じてはもらえないらしい。まぁ、いきなり治癒魔法が使えますと言ったところで、信じる人など稀だろう。治癒魔法は珍しいし、何と言っても私は聖女として認められていないのだから。
「そうだな…古傷でも?」
「あまり古いものや、深いものは完治が難しいですけれど…痛みなどを取り除くことはできると思います」
「そうか、それなら…」
ラリー様が示したのは、右手の親指の根元にある古傷だった。何年か前に敵の剣を受けてしまったため、そこからは思うように動かなくなり、剣を握るにも支障があるという。利き手だから執務や食事でも不便を感じているとか。年数が経っているし、動きが悪いなら傷も深いのだろうけれど…今よりマシにすることは出来る筈だ。
ラリー様の親指の付け根に意識を集中させて、手をかざして治った状態をイメージする。ゆっくりと親指に力を流し込むと、すうっと魔力の流れが切れた。これは完治した時に起きる現象だ。
「如何でしょう?」
「…う、ごく…」
「大丈夫そうですね?」
「あ、ああ…不思議だ…ずっと痺れが残っていて、思うように動かせなかったのに…」
ラリー様は暫く、驚きの表情を浮かべながらご自身の指を動かしていた。王弟だったラリー様でも治癒魔法を利用した事はなかったのは意外だったけれど、この方は優秀だったから怪我をする事もなかったのでしょう。
ユーニスは知っていたから平然としているけれど、メイナードも驚きに目を見開いていた。まぁ、これが普通の反応だろう。第一騎士団の四人も、モーガンもそうだったから。
「シア、疑ってすまなかった。だが…」
「いいえ、この力は陛下の命で公にされていませんでしたから」
「それは…」
「セネット家は聖女の家系。王家としては聖女の力を王家に取り込みたかったのでしょう。エリオット様との婚約も、その一環かと」
「…なるほど」
そう、セネット家で聖女の力と呼べるほどの力を持つ女児が生まれるのは稀だ。最近では祖母と私だけれど、祖母の力は私ほどではなかったという。その為、先王様の求婚を断れたのだ。祖母の力では、王家にメリットは少なかったから。
でも、その後生まれた私は、聖女に匹敵するかそれ以上の力を持っていた。だから祖母の反対を押し切っても、私とエリオット様の婚約が成ったのだ。王家にとっては滅多にないチャンスだっただけに、何としてでも王族と婚姻させて、聖女の血を汲む子供を産ませたかったのだろう。
「エリオット様が私にラリー様に嫁げと言ったのを陛下たちが黙認したのも、相手がラリー様だったからだと思いますわ。他の貴族だった場合は、反対されたと思います」
「…だろうな」
そう、今の王族で私と結婚が可能なのは、エリオット様とラリー様、そしてまだ十歳の第三王子殿下くらいだ。だが、第三王子は既に公爵家の令嬢との婚約が成立している。王子の婚約は政略も絡んでくるから、今から変更は難しいのだ。
「それで…シアは何を望むのだ?」
ようやく私のお願いに話を進める事が出来る環境が整った。
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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