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一章
おじ様との楽しい一時
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「アレクシア様、少しは手加減されませんと」
そう言いながら私にお茶を出してくれたユーニスだったが、声は楽しげで全くそう思っていないのは確かだった。彼女の方が侍女の私への態度に憤慨していたのだ。私が止めていたから何もしなかったけど、そうでなかったら怒鳴りつけていたかもしれない。
「まぁ、これで大人しくなるか、何か企むかわからないけれどね」
「アレクシア様に手を出したら、私が成敗しますわ。何なら王妃様に名指してご報告してもいいですし」
「まぁ、それは怖いわね。王妃様の厳しさは有名だし」
私もユーニスも、実は売られた喧嘩は倍の値で買う派だ。エリオット様に大人しくしろ、目立つなと言われていたし、あの頃はそうした方が楽だったからそうしていたけれど、実際の私は大人しくもなければか弱くもない。弱くてはあの地獄の王子妃教育なんかに耐えられないのだ。特に今の王妃様はお厳しい方だから、私は随分と鍛えられた。まぁ、エリオット様がぼんくらだから、その分私にしっかりして欲しくてより厳しかったのだろうとは思うのだけれど。
「何か仕掛けてきても、ユーニスやビリーが助けてくれるのでしょう?」」
「勿論ですわ」
そう言ってユーニスはにこやかに微笑んだ。ユーニスは茶色の髪と瞳だが、顔立ちは整っていて実は男性にもてる。王都にいた時も、騎士や王宮に勤める文官から言い寄られていたのだ。それでいて騎士としての能力も高くて、諜報活動まですると聞く。うん、きっと女性としては最強ね。敵には回したくないけれど、仲間としてはこれほど頼りになる人もいないと思う。
「それよりもアレクシア様、そろそろギルバート様とのお茶の時間ですわ」
ユーニスに案内されて、私は辺境伯の屋敷の庭の一角に向かった。ラリー様のお屋敷は外からは城塞のように見えるが、城内には季節の花を取り入れた庭があるのだ。この庭は手入れもしっかりされていて、私はすっかり気に入ってしまった。
ギルおじ様は、自分は一線を退いたのだからと言って普段は馬車で一時間の別邸にお住まいだが、今は私が来たという事で暫くこの屋敷に滞在してくださることになった。私の父親や祖父の代わりでもあり、何と言っても初恋の方だ。正直言って結婚相手のラリー様よりも私は、ギルおじ様との時間の方が楽しみだった。
「おじ様、お待たせしてすみません」
「いや、わしも今来たところだ。今日はシアが好きなパイを作らせてきたよ」
おじ様がそう言うと、侍女がティーセットとパイを運んできた。焼きたてなのか甘い香りが辺りを漂う。実家にいた時はこんな風にお茶など出来る環境にはなかったし、パイなどのスィーツをくれる人もいなかったから、この時間があるだけでもここは天国のようだ。私がパイやケーキを食べられたのは、王妃様のお茶に誘われた時くらいだったから。
ああ、大好きなおじ様と庭でパイを食べながら、本音で語れる会話だなんて、なんて贅沢な時間だろう…おじ様、あの頃よりも白髪やシワが増えたけれど、大好きな声はまだ張りがあって変わらないし、お顔は怖く見えるけど、目はとても優しくて笑みを浮かべた時の目じりのシワもチャーミングだわ…本当に、おじ様が結婚相手だったらよかったのに…
「そう言えば…スザンナとやり合ったそうだな」
つい先ほどの事をおじ様に指摘されて、私は目を丸くした。
「おじ様、お耳が早いですわね。やり合ったというか…向こうから喧嘩を売ってきましたので買ってみたのですけれど…」
「なるほど、それは頼もしいな」
「でも、あれから一刻も経っていませんわよ」
「この屋敷の事は常に把握しておらんとな。いつどこに間者が入り込んでいるかわからないし、スピード感も大切なのだよ」
「まぁ、では私も間者と見られているのですね」
「いやいや、むしろ逆じゃ。気を付けねばならんのはスザンナ達の方じゃな。あやつらはラリーが何も言わないのをいい事に好き勝手している。レイズ子爵辺りが無い知恵を絞っているのじゃろう」
「まぁ…では何か手を打つおつもりで?」
「今までは大した事ではないし見逃していたが…シアが来たからにはそうもいかんだろう。何と言ってもわしの大切な義娘になるのだからな」
やっぱり娘なんだ…と私は若干の落胆を覚えてしまった。わかっているけれど、なかなか初恋というものは断ち切りにくいものだ。おじ様に会えないままだったら忘れていたのに…
「頼もしいですわ、おじ様。ところで、おじ様にお願いがあるのですけれど…」
そう言いながら私にお茶を出してくれたユーニスだったが、声は楽しげで全くそう思っていないのは確かだった。彼女の方が侍女の私への態度に憤慨していたのだ。私が止めていたから何もしなかったけど、そうでなかったら怒鳴りつけていたかもしれない。
「まぁ、これで大人しくなるか、何か企むかわからないけれどね」
「アレクシア様に手を出したら、私が成敗しますわ。何なら王妃様に名指してご報告してもいいですし」
「まぁ、それは怖いわね。王妃様の厳しさは有名だし」
私もユーニスも、実は売られた喧嘩は倍の値で買う派だ。エリオット様に大人しくしろ、目立つなと言われていたし、あの頃はそうした方が楽だったからそうしていたけれど、実際の私は大人しくもなければか弱くもない。弱くてはあの地獄の王子妃教育なんかに耐えられないのだ。特に今の王妃様はお厳しい方だから、私は随分と鍛えられた。まぁ、エリオット様がぼんくらだから、その分私にしっかりして欲しくてより厳しかったのだろうとは思うのだけれど。
「何か仕掛けてきても、ユーニスやビリーが助けてくれるのでしょう?」」
「勿論ですわ」
そう言ってユーニスはにこやかに微笑んだ。ユーニスは茶色の髪と瞳だが、顔立ちは整っていて実は男性にもてる。王都にいた時も、騎士や王宮に勤める文官から言い寄られていたのだ。それでいて騎士としての能力も高くて、諜報活動まですると聞く。うん、きっと女性としては最強ね。敵には回したくないけれど、仲間としてはこれほど頼りになる人もいないと思う。
「それよりもアレクシア様、そろそろギルバート様とのお茶の時間ですわ」
ユーニスに案内されて、私は辺境伯の屋敷の庭の一角に向かった。ラリー様のお屋敷は外からは城塞のように見えるが、城内には季節の花を取り入れた庭があるのだ。この庭は手入れもしっかりされていて、私はすっかり気に入ってしまった。
ギルおじ様は、自分は一線を退いたのだからと言って普段は馬車で一時間の別邸にお住まいだが、今は私が来たという事で暫くこの屋敷に滞在してくださることになった。私の父親や祖父の代わりでもあり、何と言っても初恋の方だ。正直言って結婚相手のラリー様よりも私は、ギルおじ様との時間の方が楽しみだった。
「おじ様、お待たせしてすみません」
「いや、わしも今来たところだ。今日はシアが好きなパイを作らせてきたよ」
おじ様がそう言うと、侍女がティーセットとパイを運んできた。焼きたてなのか甘い香りが辺りを漂う。実家にいた時はこんな風にお茶など出来る環境にはなかったし、パイなどのスィーツをくれる人もいなかったから、この時間があるだけでもここは天国のようだ。私がパイやケーキを食べられたのは、王妃様のお茶に誘われた時くらいだったから。
ああ、大好きなおじ様と庭でパイを食べながら、本音で語れる会話だなんて、なんて贅沢な時間だろう…おじ様、あの頃よりも白髪やシワが増えたけれど、大好きな声はまだ張りがあって変わらないし、お顔は怖く見えるけど、目はとても優しくて笑みを浮かべた時の目じりのシワもチャーミングだわ…本当に、おじ様が結婚相手だったらよかったのに…
「そう言えば…スザンナとやり合ったそうだな」
つい先ほどの事をおじ様に指摘されて、私は目を丸くした。
「おじ様、お耳が早いですわね。やり合ったというか…向こうから喧嘩を売ってきましたので買ってみたのですけれど…」
「なるほど、それは頼もしいな」
「でも、あれから一刻も経っていませんわよ」
「この屋敷の事は常に把握しておらんとな。いつどこに間者が入り込んでいるかわからないし、スピード感も大切なのだよ」
「まぁ、では私も間者と見られているのですね」
「いやいや、むしろ逆じゃ。気を付けねばならんのはスザンナ達の方じゃな。あやつらはラリーが何も言わないのをいい事に好き勝手している。レイズ子爵辺りが無い知恵を絞っているのじゃろう」
「まぁ…では何か手を打つおつもりで?」
「今までは大した事ではないし見逃していたが…シアが来たからにはそうもいかんだろう。何と言ってもわしの大切な義娘になるのだからな」
やっぱり娘なんだ…と私は若干の落胆を覚えてしまった。わかっているけれど、なかなか初恋というものは断ち切りにくいものだ。おじ様に会えないままだったら忘れていたのに…
「頼もしいですわ、おじ様。ところで、おじ様にお願いがあるのですけれど…」
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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