22 / 213
一章
侍女の上司の来襲
しおりを挟む
「アレクシア様、お話がございます」
侍女達に物申した翌日、朝食後に読書をしていた私は女性の訪問を受けた。事前に何も聞いていないけれど誰だろう。女性にしては長身で、服装は侍女たちのそれではなく騎士服に見える。最近は騎士の女性進出が進んでいるから珍しくはないけれど、私に用事があるとは意外だ。
それに…この家の序列は辺境伯様が一番で、ギルおじ様は二番目、その次は辺境伯様の結婚相手の私になる。その私に対して、事前の伺いも立てずにいきなり押しかけてきて話があるとはどういう事だろう。隣ではユーニスが仕事用の笑みを浮かべているけど、目は臨戦態勢だ。
「どなたかしら?今日は来客の予定はなかった筈ですけれど?」
「失礼いたしました。私はスザンナ=ハウエルと申します。ラリー様の護衛と、侍女たちの采配を任されている者です」
とりあえずさりげなく無作法だとけん制してみたが、通じなかった。この方がスザンナか…この前おじ様がラリー様の気になる方として名を上げた…
彼女の事は既にビリーが情報を集めて来てくれていた。辺境伯の家令であるレイズ子爵の娘で、ハウエル男爵の三男と結婚したが、三年ほどで夫を戦闘で亡くしているという。今は確か二十八歳で、女性としては大柄で騎士としても有能らしい。噂ではラリー様の愛人との噂もあるけれど…なるほど、護衛だけでなく侍女の采配も任せていればそう思われても仕方ない。それにしても、妻となる私の前でラリー様と愛称で呼ぶなんて、随分挑戦的だ。
「そう。セネット侯爵家のアレクシアです」
要件の見当は付くけれど、ここは様子をみる事にした。どう話を持ってくるかによって、こちらも態度を変える必要があるかもしれない。
「昨日、我が辺境伯家を侮辱されたと侍女から聞きました」
「そう」
「アレクシア様が王都の侯爵家の出とは伺っております。でも、だからと言って我が主と領を侮辱するのはやめて頂きたい!」
「侮辱した覚えはないけれど…あの二人は何て言っているのかしら?」
「…っ…二人は丁寧にお仕えしているのに、お茶の一つも入れられない田舎者だと言い、ラリー様に恥をかかせたと言っています」
「そう…おかしいわね。私はカップのお茶を零す様な侍女ではラリー様が恥をかくと言ったのだけれど?」
「それに、身分を鼻にかけて横柄な物言いだったそうですね」
「身分を鼻にかけたつもりはないわ。乱暴にお茶を入れる侍女に、あなたは私の何かと尋ねはしたけれど」
どうやらこのスザンナも、私が言い返すとは思っていなかったらしい。まぁ、王都では私は地味で大人しいと言われていたし、昨日までは侍女の横柄な態度に何も言わなかったからそう思っても仕方ないけれど。スザンナは想定外の私の反論に、目を血走らせて怒りを必死で抑えようとしていた。あの侍女たちよりは我慢が出来るみたいだ。
「彼女たちの態度は、そのままラリー様の評判に繋がるわ。あなたが侍女たちの采配をしていると言ったわね。どのような教育をしているのか、伺ってもいいかしら?」
「な…!私はきちんと教育をしています」
「そう。では、私への無作法はわざとという事ね?」
「なっ…!」
「だってそうでしょう?他ではきちんとしているのに、私にはお茶が零れるほどの乱暴な態度だなんてあり得ないもの。一介の侍女が一存で出来る事ではないから、誰かがそう指示しているという事になるわね」
暗にお前のせいかと言ってやると、さすがにスザンナはそれ以上何も言えなかった。図星なのだろう。全く、ビリーから聞いてはいたが、思っていた以上の脳筋だった。
「それに、あの二人にも言ったけれど、私はいつ、あなたに名前を呼ぶ許可を出したのかしら?」
「そ、それは…」
「主の許可なく名前や愛称で呼んではいけないという事は、平民の子供でも知っている事よ。こんな基本的な事すらも出来ていないなんて、ラリー様がご存じになったらさぞやがっかりされるでしょうね」
スザンナはもう何も言えず、顔を赤くしたまま申し訳ございませんと言って、逃げるように去っていった。頭に血が上ったらしいが、さすがに一線を超えないだけの忍耐力と頭はあるらしい。
私の事をラリー様に告げ口するだろうか?でも、言えば自分の行いもラリー様の知るところになるから言えないだろうけど。とりあえず今日は、弱みを一つ握ったから良しとしよう。これで少しは態度を改めるだろう。
侍女達に物申した翌日、朝食後に読書をしていた私は女性の訪問を受けた。事前に何も聞いていないけれど誰だろう。女性にしては長身で、服装は侍女たちのそれではなく騎士服に見える。最近は騎士の女性進出が進んでいるから珍しくはないけれど、私に用事があるとは意外だ。
それに…この家の序列は辺境伯様が一番で、ギルおじ様は二番目、その次は辺境伯様の結婚相手の私になる。その私に対して、事前の伺いも立てずにいきなり押しかけてきて話があるとはどういう事だろう。隣ではユーニスが仕事用の笑みを浮かべているけど、目は臨戦態勢だ。
「どなたかしら?今日は来客の予定はなかった筈ですけれど?」
「失礼いたしました。私はスザンナ=ハウエルと申します。ラリー様の護衛と、侍女たちの采配を任されている者です」
とりあえずさりげなく無作法だとけん制してみたが、通じなかった。この方がスザンナか…この前おじ様がラリー様の気になる方として名を上げた…
彼女の事は既にビリーが情報を集めて来てくれていた。辺境伯の家令であるレイズ子爵の娘で、ハウエル男爵の三男と結婚したが、三年ほどで夫を戦闘で亡くしているという。今は確か二十八歳で、女性としては大柄で騎士としても有能らしい。噂ではラリー様の愛人との噂もあるけれど…なるほど、護衛だけでなく侍女の采配も任せていればそう思われても仕方ない。それにしても、妻となる私の前でラリー様と愛称で呼ぶなんて、随分挑戦的だ。
「そう。セネット侯爵家のアレクシアです」
要件の見当は付くけれど、ここは様子をみる事にした。どう話を持ってくるかによって、こちらも態度を変える必要があるかもしれない。
「昨日、我が辺境伯家を侮辱されたと侍女から聞きました」
「そう」
「アレクシア様が王都の侯爵家の出とは伺っております。でも、だからと言って我が主と領を侮辱するのはやめて頂きたい!」
「侮辱した覚えはないけれど…あの二人は何て言っているのかしら?」
「…っ…二人は丁寧にお仕えしているのに、お茶の一つも入れられない田舎者だと言い、ラリー様に恥をかかせたと言っています」
「そう…おかしいわね。私はカップのお茶を零す様な侍女ではラリー様が恥をかくと言ったのだけれど?」
「それに、身分を鼻にかけて横柄な物言いだったそうですね」
「身分を鼻にかけたつもりはないわ。乱暴にお茶を入れる侍女に、あなたは私の何かと尋ねはしたけれど」
どうやらこのスザンナも、私が言い返すとは思っていなかったらしい。まぁ、王都では私は地味で大人しいと言われていたし、昨日までは侍女の横柄な態度に何も言わなかったからそう思っても仕方ないけれど。スザンナは想定外の私の反論に、目を血走らせて怒りを必死で抑えようとしていた。あの侍女たちよりは我慢が出来るみたいだ。
「彼女たちの態度は、そのままラリー様の評判に繋がるわ。あなたが侍女たちの采配をしていると言ったわね。どのような教育をしているのか、伺ってもいいかしら?」
「な…!私はきちんと教育をしています」
「そう。では、私への無作法はわざとという事ね?」
「なっ…!」
「だってそうでしょう?他ではきちんとしているのに、私にはお茶が零れるほどの乱暴な態度だなんてあり得ないもの。一介の侍女が一存で出来る事ではないから、誰かがそう指示しているという事になるわね」
暗にお前のせいかと言ってやると、さすがにスザンナはそれ以上何も言えなかった。図星なのだろう。全く、ビリーから聞いてはいたが、思っていた以上の脳筋だった。
「それに、あの二人にも言ったけれど、私はいつ、あなたに名前を呼ぶ許可を出したのかしら?」
「そ、それは…」
「主の許可なく名前や愛称で呼んではいけないという事は、平民の子供でも知っている事よ。こんな基本的な事すらも出来ていないなんて、ラリー様がご存じになったらさぞやがっかりされるでしょうね」
スザンナはもう何も言えず、顔を赤くしたまま申し訳ございませんと言って、逃げるように去っていった。頭に血が上ったらしいが、さすがに一線を超えないだけの忍耐力と頭はあるらしい。
私の事をラリー様に告げ口するだろうか?でも、言えば自分の行いもラリー様の知るところになるから言えないだろうけど。とりあえず今日は、弱みを一つ握ったから良しとしよう。これで少しは態度を改めるだろう。
311
読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
お気に入りに追加
3,615
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。
ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」
ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。
「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」
一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。
だって。
──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。
ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。
その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。
十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。
そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。
「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」
テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。
21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。
※「小説家になろう」さまにも掲載しております。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる