【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
12 / 213
一章

襲撃者の正体

しおりを挟む
 今日宿泊する予定の宿に着いたのは、お昼を過ぎた頃だった。ここまでくると街と街の間が離れている。急ぎの旅でもなく、私がいるのもあって安全を第一にしているため、街に着く時間はお昼過ぎが多かった。

 街に着くとマーローとコーエンは、連れてきた一人を引きずる様にして町の自警団に向かった。私達を襲撃した者達の事を通報して、回収してもらうためだ。いくら襲撃した者たちとは言え、あのまま放っておいては夜に野犬や魔獣に襲われる可能性もある。仲間が助けに来ているなら仕方ないけれど、放っておいて殺されるのはさすがに気の毒だし、背後関係を調べる必要もある。

 二人を送り出した私達は、宿でようやく一息ついた。さすがに襲撃されたのはショックだったし、ユーニスやビリーも護衛達も、相当神経をすり減らしたと思う。さすがに精神的な疲れは癒しの魔法では治しようがないので、今日は早めに休んでもらった方がいいだろう。

「アレクシア様、大丈夫でしたか?」
「ええ、ありがとう。みんなのお陰で助かったわ」

 ユーニスが出してくれたお茶を飲みながら、私はホッと一息ついた。ここまで来ると、街一番の宿とは言っても、王都の周辺と比べると素朴でシンプルだ。警護するのが大変ですと護衛の方々が言っていたけれど、実際他の客との距離も近いし、セキュリティも甘い。実際に襲撃があっただけに、私は自分の身が思っている以上に危険だと思い知らされたから、これからは宿にいる時も警戒を怠る事は出来ないだろう。

「襲ってきた者達が、ただの盗賊ならいいのですが…」
「そうね…」

 ビリーの指摘に私も同感だった。彼らがただの盗賊で、たまたま通りがかった私たちを襲ったのならいい。
 困るのは、彼らが誰かから依頼を受けて襲った場合だ。相手が誰であれ依頼を受けての場合、失敗してもまた襲ってくる可能性があるし、今度はより一層確実に狙ってくるだろう。この場合はもう、辺境伯の屋敷に着くまで一瞬も油断出来ないのだ。こちらは人数が少ないだけに、次に襲われた場合、逃げ切れるか自信がなかった。




 夕食前になって、ようやくマーローとコーエンが、自警団の隊長を伴って戻ってきた。あの後、マーローは街まで連れてきた男の事情聴取に立ち会い、コーエンは自警団と共に襲撃された場所に向かったという。幸いと言うべきか、木に縛り付けた男たちは獣に襲われる事なく無事に見つかり、自警団に回収された。その後、先に連れて帰った男達と一緒に事情聴取されたという。

 事情聴取の結果、彼らは過去に違法な事をして冒険者から追放された連中で、今は犯罪者ギルドから違法な依頼を受けて生計を立てていたという。自警団も前から彼らを追っていて、一度に六人も捕まえた事で随分と感謝されてしまった。

 彼らは隣町の犯罪者ギルドから、ここ数日の間にこの街道を通る貴族の馬車を襲えとの依頼があって、報酬がよかったために受けたのだという。誰との指定がなかったが、多くの貴族はそれなりに武装していて、襲う事が出来なかった。そこにちょうど私達が通りがかり、護衛が少ないために襲ったのだという。
 依頼主は今のところわからず、自警団によると犯罪ギルドに依頼するのは基本的に匿名で、依頼者に辿り着くのは容易ではないそうだ。隣町の自警団と共に犯罪ギルドに乗り込む予定だと言われたが、旅の途中の私達がその結果を知るのは難しいように思えた。

「残念ながら依頼者はわからないままです。申し訳ございません」
「ううん、マーローが謝る必要はないわ。でも、依頼されて襲ってきたのが分かっただけでもいいわ。どう対処すべきか、これで方向性が決まるもの」
「確かにそうですが…」

 マーローが苦々しい思いを隠そうとしなかったのは、これからの旅が危険なものになると思ったからだろう。実際、狙われていると分かったからには、寝ている間も警戒を怠れない。それは護衛するのが大変になるのと同意語だった。

「辺境伯様のお屋敷には、あと何日かかるかしら?」
「そうですね…今のスピードでしたら四日、急げば…二日で行けない事はありませんが…」
「領主様の元に向かわれるのでしたら、連絡して迎えに来て頂いては?何でしたら我々が辺境伯様の元に早馬をやりましょう」

 自警団の隊長にそう言われて、私達は顔を見合わせた。迎えに来て頂くなど全く考えていなかったからだ。

しおりを挟む
読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
感想 167

あなたにおすすめの小説

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。  一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。  そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...