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一章
国王夫妻の嘆きと息子への罰
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「エリオット、どういう事か説明しなさい」
あの忌々しいアレクシアに婚約破棄を告げ、愛するメイベルとの婚約を発表した後。夜会に顔を出した父上は事の顛末を知ると、王太子である兄上と父の弟であるオードリー公爵を呼び、後は任せたと言うと母上を伴って退出してしまわれた。そして俺は、父の執務室に呼び出されたのだ。
執務室に入った俺を待っていたのは、周りの空気すらも凍らせてしまいそうなほどに冷たい声色の母上からの尋問だった。
「アレクシア嬢との婚約破棄。お前はそれがどういう事かわかっているの?」
初めて聞く、地を這う様な低い声の母上に俺は背筋が凍る気がしたが、ここで怯むわけにはいかなかった。あのアレクシアは実の妹を虐める醜悪な心根の悪女で、あんな女を王族に加えるなど我が国の恥だ。俺はこの国の王族として、何としてもあの女との婚約破棄をせねばいけなかった。
「母上!先走った事は謝ります。ですがアレクシアは実の妹を虐める悪魔のような女なのです。あんな性根の腐った女を王族に迎えるなど、この国の汚点にしかなりません!」
そう、あのアレクシアは、愛らしくて美しい妹のメイベルを妬んで陰湿ないじめを繰り返しているのだ。以前、酷く落ち込んだ様子のメイベルを見かけたため、婚約者の妹だし…と思って声をかけたところ、渋りに渋った末にそう告白してきたのだ。
最初はあの融通が利かない生真面目なアレクシアが…と信じられなかったが、メイベルがアレクシアに壊されたという宝物の髪飾りや、学園で使っている教本やノート、泥に汚れたハンカチなどを見せられると、さすがに俺も信じざるを得なかった。
更に令嬢たちからの噂では、アレクシアは自分の成績がいい事を鼻にかけて周りを見下したり、得意げに人前で間違いを指摘したりなど、品位のない行動をとっているのだと聞いた。
これに関しては、俺自身もアレクシアに下に見られているような気がする事が多々あったし、人前で王子としての品格がないなどと馬鹿にした様に言ってくる事があったため間違いない。
あいつは成績優秀で教師たちからの評判もよく、俺は教師達からも「アレクシア様を見習って下さい」「アレクシア様なら出来たのに…」と言われていた。きっとそれも、あの女が俺を見下すために教師にそう言うように強要したのだろう。
「いい加減にしなさい!」
自分の発言に何も問題ない、悪いのはアレクシアだと確信を持っていた俺は、またしても母上から雷を落とされた。うちの両親は、父上よりも母上の方が厳しく、父上ですらも母上に頭が上がらない。子供の頃から厳しかった母上への恐怖心は未だに俺の中でトラウマになっていた。
だが、今は引くわけにはいかない。母上は、アレクシアに騙されているのだから…!
「アレクシアが妹を虐める訳がないでしょう。あの子がセネット家で冷遇されているのは、貴族なら誰でも知っている話です」
「そ、そんな筈は…それはアレクシアが嘘を…」
「…影も使って調査済みです」
はぁ…と母上がまた大きなため息をついた。影とは王家の密偵で、国内の貴族の不正などを調査する隠密部隊だ。彼らがそう言うのなら…間違いはないのだろう…だが、しかし、あの愛らしいメイベルが嘘をつくはずが…
「お前には失望したよ、エリオット。アレクシア嬢と婚約した意味も分かっていなかったのだな」
「意味…?」
「もういい。それに、あれだけ大っぴらにセネット家の次女と婚約すると言ってしまったからには仕方ない、一度だけチャンスをやろう。セネット家の次女に、王子妃教育をしっかり受けさせろ。それが出来なければお前の王位継承権は剥奪、結婚は臣籍降下後とする」
「な…!そんな、父上!」
父上の言葉に、俺は抗議の声を上げるしか出来なかった。いくら何でも厳しすぎる。俺は王家のために婚約破棄したというのに…
「本来、王命に逆らった場合、即刻王位継承権の剥奪と王族からの追放だ。内容によっては死を賜る事もあると教えただろう。王命の重さをお前は理解していなかったのか?」
「そ、それは…」
「チャンスが貰えるだけでもありがたいと思え。王子妃教育の期限は半年だ。まともな教育を受けていれば問題なかろう」
父上の言葉に、俺は何も言い返せなかった。確かに王命は簡単に反故にする事は出来ない。そんな事を許せば王家の権威が失墜し、それは国の威信にも関わるのだ。それだけで死罪にもなり得るのだと繰り返し教えられていた。
だが、俺が父上の命に逆らったのも、全てはこの国のためだし、元凶はあの忌々しいアレクシアだ。俺は全ての元凶となったあの女への怒りを募らせた。
あの忌々しいアレクシアに婚約破棄を告げ、愛するメイベルとの婚約を発表した後。夜会に顔を出した父上は事の顛末を知ると、王太子である兄上と父の弟であるオードリー公爵を呼び、後は任せたと言うと母上を伴って退出してしまわれた。そして俺は、父の執務室に呼び出されたのだ。
執務室に入った俺を待っていたのは、周りの空気すらも凍らせてしまいそうなほどに冷たい声色の母上からの尋問だった。
「アレクシア嬢との婚約破棄。お前はそれがどういう事かわかっているの?」
初めて聞く、地を這う様な低い声の母上に俺は背筋が凍る気がしたが、ここで怯むわけにはいかなかった。あのアレクシアは実の妹を虐める醜悪な心根の悪女で、あんな女を王族に加えるなど我が国の恥だ。俺はこの国の王族として、何としてもあの女との婚約破棄をせねばいけなかった。
「母上!先走った事は謝ります。ですがアレクシアは実の妹を虐める悪魔のような女なのです。あんな性根の腐った女を王族に迎えるなど、この国の汚点にしかなりません!」
そう、あのアレクシアは、愛らしくて美しい妹のメイベルを妬んで陰湿ないじめを繰り返しているのだ。以前、酷く落ち込んだ様子のメイベルを見かけたため、婚約者の妹だし…と思って声をかけたところ、渋りに渋った末にそう告白してきたのだ。
最初はあの融通が利かない生真面目なアレクシアが…と信じられなかったが、メイベルがアレクシアに壊されたという宝物の髪飾りや、学園で使っている教本やノート、泥に汚れたハンカチなどを見せられると、さすがに俺も信じざるを得なかった。
更に令嬢たちからの噂では、アレクシアは自分の成績がいい事を鼻にかけて周りを見下したり、得意げに人前で間違いを指摘したりなど、品位のない行動をとっているのだと聞いた。
これに関しては、俺自身もアレクシアに下に見られているような気がする事が多々あったし、人前で王子としての品格がないなどと馬鹿にした様に言ってくる事があったため間違いない。
あいつは成績優秀で教師たちからの評判もよく、俺は教師達からも「アレクシア様を見習って下さい」「アレクシア様なら出来たのに…」と言われていた。きっとそれも、あの女が俺を見下すために教師にそう言うように強要したのだろう。
「いい加減にしなさい!」
自分の発言に何も問題ない、悪いのはアレクシアだと確信を持っていた俺は、またしても母上から雷を落とされた。うちの両親は、父上よりも母上の方が厳しく、父上ですらも母上に頭が上がらない。子供の頃から厳しかった母上への恐怖心は未だに俺の中でトラウマになっていた。
だが、今は引くわけにはいかない。母上は、アレクシアに騙されているのだから…!
「アレクシアが妹を虐める訳がないでしょう。あの子がセネット家で冷遇されているのは、貴族なら誰でも知っている話です」
「そ、そんな筈は…それはアレクシアが嘘を…」
「…影も使って調査済みです」
はぁ…と母上がまた大きなため息をついた。影とは王家の密偵で、国内の貴族の不正などを調査する隠密部隊だ。彼らがそう言うのなら…間違いはないのだろう…だが、しかし、あの愛らしいメイベルが嘘をつくはずが…
「お前には失望したよ、エリオット。アレクシア嬢と婚約した意味も分かっていなかったのだな」
「意味…?」
「もういい。それに、あれだけ大っぴらにセネット家の次女と婚約すると言ってしまったからには仕方ない、一度だけチャンスをやろう。セネット家の次女に、王子妃教育をしっかり受けさせろ。それが出来なければお前の王位継承権は剥奪、結婚は臣籍降下後とする」
「な…!そんな、父上!」
父上の言葉に、俺は抗議の声を上げるしか出来なかった。いくら何でも厳しすぎる。俺は王家のために婚約破棄したというのに…
「本来、王命に逆らった場合、即刻王位継承権の剥奪と王族からの追放だ。内容によっては死を賜る事もあると教えただろう。王命の重さをお前は理解していなかったのか?」
「そ、それは…」
「チャンスが貰えるだけでもありがたいと思え。王子妃教育の期限は半年だ。まともな教育を受けていれば問題なかろう」
父上の言葉に、俺は何も言い返せなかった。確かに王命は簡単に反故にする事は出来ない。そんな事を許せば王家の権威が失墜し、それは国の威信にも関わるのだ。それだけで死罪にもなり得るのだと繰り返し教えられていた。
だが、俺が父上の命に逆らったのも、全てはこの国のためだし、元凶はあの忌々しいアレクシアだ。俺は全ての元凶となったあの女への怒りを募らせた。
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読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
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