3 / 213
一章
家族からの罵声と嘲笑
しおりを挟む
「全く、エリオット様から愛想を尽かされるなんて…」
「やっぱりお前はダメな子ね…」
「お姉さまみたいな可愛げのない女に王子妃が務まるわけないじゃない」
婚約破棄された私を待っていたのは、両親からの罵声と妹からの嘲笑だった。まぁ、想定内だからどうでもいいのだけれど。それにしても、姉の婚約者を奪った恥さらしな妹と、それを擁護する両親の残念さにため息しか出ない…婚約者がいるのに別の相手と親密になるなんて、かなり恥ずかしい事なのに何とも思わないなんて…
あの時は陛下がいらっしゃる前に退出したけど、その後どうなったのかは気がかりだった。陛下のご命令で婚約したのに、それを勝手に反故にしたエリオット様を、陛下はともかくあの厳しい王妃様が許すとも思えなかった。それは新しい婚約についてもで、勝手にそんな事を決めたエリオット様にお咎めなしとは思えなかった。
それに、無事婚約破棄されたのかしら…
「とにかく、陛下からもヘーゼルダイン辺境伯の元へ嫁ぐようにとのご命令だ」
「陛下から?」
それはちょっと…いや、かなり意外だった。陛下や王妃様はいつもエリオット様よりも私の味方だったからだ。それもエリオット様は気に入らなかったみたいだけど、陛下はともかく王妃様まで了承されるとは思わなかった。それなりの時間をかけて国王ご夫妻とは信頼関係を築いていたと思っていたから、辺境伯への輿入れはないと思っていたけれど…どうやらそれは私の独りよがりだったらしい…
「エリオット様からは、準備が出来次第すぐに出発するようにとのご命令だ」
「…そうですか」
「何と言ってもお前は殿下から愛想を尽かされた我が家の恥さらしだからな。必要な荷物は追々送ってやるから、早々に出立するように」
「…わかりました」
これはさっさと厄介払いしたいのだと察した私は、早急にこの家を出る事にした。本当はお友達や仲良くしてくれたみんなに挨拶をしたかったけど、それが許される状況にはないらしい。仕方ない、向こうについてから手紙を出すしかなさそうだ。お礼や別れの挨拶もしないのはマナーに反するけれど、王家からの命令とあらば仕方ないだろう。
「ふふっ、お姉様みたいに勉強ばっかりしているだけじゃダメなのよ。女は見た目と性格も大事なのよ。私みたいにね」
両親の元を辞した私のところにわざわざメイベルがやってきた。確かにメイベルは美人で、男性には人気だった。赤みのかかった金の髪に、零れ落ちそうなほど大きな黄色がかった緑色の瞳は、セネット家特有の銀髪と紫瞳の私とは姉妹と思えないほど色が違う。庇護欲をそそる愛らしい顔立ちで、この見た目のせいで大抵の事は許してもらえるのだが…そのせいでこの子は勉強もマナーもさっぱり出来ない。勉強嫌いで家庭教師を追い返したり、仮病でサボったりとやりたい放題で、お祖母様が生きていらした頃はよく叱られていたっけ。
「そう、でも王妃様は大変厳しい方よ。王子妃教育、頑張ってね」
「ご心配なく。王子妃に必要なのはみんなから愛される事よ。私のように美少女で可愛くて愛嬌があればそれで十分よ。難しい事は臣下たちの仕事ですもの」
「そう」
多分、無理なんじゃないかなぁ…いや無理だろうとは思うが、言い返すと際限なく絡んでくるので反論はやめた。いずれ身をもって知る事になるのだ。今まで散々私を馬鹿にしてきた相手に、親切丁寧に教えてやる必要はないだろう。慌てふためく様が見れないのは残念だけど。
「わたしたちの結婚式には、是非とも辺境伯様とお姉さまも出てくださいね」
「そうね」
「辺境伯様って昔はお美しかったけど、顔の怪我が原因で大層恐ろしい顔に変わってしまわれたそうよ。お姉さま、お可哀想に…でも、一応王族だし、面目は保てるわね。婚約破棄された令嬢など、どこかの後妻かうんと年の離れた難ありの方しか貰い手がありませんもの」
「そうね」
「エリオット様もお優しいわね。お姉様にちゃんと縁談をご用意してくれて」
「そうね」
「ふふっ。お姉様ったら、悔しくてそうねしか言えないのね。でも安心して。エリオット様は私が幸せにするから。ああ、お母様に新しいドレスをお願いしなきゃ!」
勝ち誇った笑みを浮かべたメイベルはそう言うと、さっさと去っていった。言いたい事が言えて満足したのだろう。あの妹は自分が一番でマウントするのが生きがいみたいなものだから。そんな事をして、痛い目にあわなきゃいいけど…とは思うが、もう知った事ではなかった。
「やっぱりお前はダメな子ね…」
「お姉さまみたいな可愛げのない女に王子妃が務まるわけないじゃない」
婚約破棄された私を待っていたのは、両親からの罵声と妹からの嘲笑だった。まぁ、想定内だからどうでもいいのだけれど。それにしても、姉の婚約者を奪った恥さらしな妹と、それを擁護する両親の残念さにため息しか出ない…婚約者がいるのに別の相手と親密になるなんて、かなり恥ずかしい事なのに何とも思わないなんて…
あの時は陛下がいらっしゃる前に退出したけど、その後どうなったのかは気がかりだった。陛下のご命令で婚約したのに、それを勝手に反故にしたエリオット様を、陛下はともかくあの厳しい王妃様が許すとも思えなかった。それは新しい婚約についてもで、勝手にそんな事を決めたエリオット様にお咎めなしとは思えなかった。
それに、無事婚約破棄されたのかしら…
「とにかく、陛下からもヘーゼルダイン辺境伯の元へ嫁ぐようにとのご命令だ」
「陛下から?」
それはちょっと…いや、かなり意外だった。陛下や王妃様はいつもエリオット様よりも私の味方だったからだ。それもエリオット様は気に入らなかったみたいだけど、陛下はともかく王妃様まで了承されるとは思わなかった。それなりの時間をかけて国王ご夫妻とは信頼関係を築いていたと思っていたから、辺境伯への輿入れはないと思っていたけれど…どうやらそれは私の独りよがりだったらしい…
「エリオット様からは、準備が出来次第すぐに出発するようにとのご命令だ」
「…そうですか」
「何と言ってもお前は殿下から愛想を尽かされた我が家の恥さらしだからな。必要な荷物は追々送ってやるから、早々に出立するように」
「…わかりました」
これはさっさと厄介払いしたいのだと察した私は、早急にこの家を出る事にした。本当はお友達や仲良くしてくれたみんなに挨拶をしたかったけど、それが許される状況にはないらしい。仕方ない、向こうについてから手紙を出すしかなさそうだ。お礼や別れの挨拶もしないのはマナーに反するけれど、王家からの命令とあらば仕方ないだろう。
「ふふっ、お姉様みたいに勉強ばっかりしているだけじゃダメなのよ。女は見た目と性格も大事なのよ。私みたいにね」
両親の元を辞した私のところにわざわざメイベルがやってきた。確かにメイベルは美人で、男性には人気だった。赤みのかかった金の髪に、零れ落ちそうなほど大きな黄色がかった緑色の瞳は、セネット家特有の銀髪と紫瞳の私とは姉妹と思えないほど色が違う。庇護欲をそそる愛らしい顔立ちで、この見た目のせいで大抵の事は許してもらえるのだが…そのせいでこの子は勉強もマナーもさっぱり出来ない。勉強嫌いで家庭教師を追い返したり、仮病でサボったりとやりたい放題で、お祖母様が生きていらした頃はよく叱られていたっけ。
「そう、でも王妃様は大変厳しい方よ。王子妃教育、頑張ってね」
「ご心配なく。王子妃に必要なのはみんなから愛される事よ。私のように美少女で可愛くて愛嬌があればそれで十分よ。難しい事は臣下たちの仕事ですもの」
「そう」
多分、無理なんじゃないかなぁ…いや無理だろうとは思うが、言い返すと際限なく絡んでくるので反論はやめた。いずれ身をもって知る事になるのだ。今まで散々私を馬鹿にしてきた相手に、親切丁寧に教えてやる必要はないだろう。慌てふためく様が見れないのは残念だけど。
「わたしたちの結婚式には、是非とも辺境伯様とお姉さまも出てくださいね」
「そうね」
「辺境伯様って昔はお美しかったけど、顔の怪我が原因で大層恐ろしい顔に変わってしまわれたそうよ。お姉さま、お可哀想に…でも、一応王族だし、面目は保てるわね。婚約破棄された令嬢など、どこかの後妻かうんと年の離れた難ありの方しか貰い手がありませんもの」
「そうね」
「エリオット様もお優しいわね。お姉様にちゃんと縁談をご用意してくれて」
「そうね」
「ふふっ。お姉様ったら、悔しくてそうねしか言えないのね。でも安心して。エリオット様は私が幸せにするから。ああ、お母様に新しいドレスをお願いしなきゃ!」
勝ち誇った笑みを浮かべたメイベルはそう言うと、さっさと去っていった。言いたい事が言えて満足したのだろう。あの妹は自分が一番でマウントするのが生きがいみたいなものだから。そんな事をして、痛い目にあわなきゃいいけど…とは思うが、もう知った事ではなかった。
277
読んで下さいってありがとうございます。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
ゆっくりになりますが、更新再会しました。
お気に入りに追加
3,615
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。
ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」
ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。
「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」
一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。
だって。
──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。
ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。
その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。
十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。
そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。
「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」
テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。
21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。
※「小説家になろう」さまにも掲載しております。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる