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見舞いに来た兄妹

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「急な訪問をお受けくださり、心から感謝いたします」
「お初におめにかかります」

 そう言って挨拶をしたのは、ベルクール公爵家の後継者でもあるマティアス様とその妹のエリアーヌ様だった。
 マティアス様の金色の髪はエリアーヌ様よりも濃く、瞳は紫で神経質そうな顔立ちだが美男子と言えるだろう。既に結婚もして子供もいると聞いているけれど、まさか妻子を置いて妹に付き添ってくるとは思わなかった。ここから王都までの移動日数を思えば、わざわざお見舞いに付き添うのは不自然だ。
 その横で遠慮がちに挨拶をしたのはエリアーヌ様だった。柔らかそうな癖のある金の髪と、澄んだ水色の瞳を持つ、可憐な美少女だ。楚々とした印象は私といい勝負だろうか。見た目だけなら。私の場合、中身は真逆とも言われているし、辺境では深窓の令嬢などやっていられないのだけど。
 姉のジョアンナ様もそうだけど、お会いするのは初めてだった。彼らとは年代が違うし、科が違うために学園で顔を合わせることはなかった。私が社交界に出なかったのもある。

「ようこそ、遠路はるばるこのような辺境へ」
「リファール辺境伯、訪問を受け入れて下さってありがとうございます」
「無事にご到着なさったようで、ようございましたわ」
「ありがとうございます。幸い天気に恵まれたようです。辺境伯夫人、いえ、ジゼル王女殿下、ご尊顔を拝謁出来て至極光栄です」
「王女だったのは遥か昔のこと。今は一介の辺境伯の妻です。そのような礼は不要ですわ」

 挨拶を返しながらも、お祖母様の目が笑っていなかった。お祖母様は王女だっただけあって、他人の思惑に聡く、決して楽観視しない。今回も何か裏があると感じているのだろう。

「オードリック様はただ今、不調を訴えていらっしゃいますの。面会は殿下と侍医の意向を聞いてからにさせて頂きますわ」
「そう、ですか」

 お祖母様の言葉に、二人はあからさまに落胆を露わにした。自分たちが訪問すればオーリー様は直ぐに会って下さると思ったのだろうか。急な訪問という訳ではないけれど、オーリー様が不調を理由に断ったのにやってきたのだ。もっとも、彼らの態度も想定内ではあるのだけど。というのも……

「マティアス殿とエリアーヌ嬢が? 私に会いたいと?」

 訪問の意をオーリー様に伝えたところ、意外にもオーリー様が思いもしなかったと言わんばかりの表情をされたのだ。

「お親しかったわけでは、なかったのですか?」

 元婚約者の兄と妹となれば、それなりに面識も交流もあっただろうに。そう思った私に帰ってきたのは、予想しない答えだった。

「いや、彼らとは殆ど顔を合わせることはなかったんだ。エリアーヌ嬢は身体が弱くて殆ど社交に出なかったし、マティアス殿は年が離れていたから、私の相手として選ばれなかったし」
「そうだったのですか」
「それに、婚約者の兄妹とも親しくなれば、他の貴族が面白くないからね。パワーバランスの点からも、彼らは敢えて私からは遠ざけられていたんだ」

 なるほど、外戚になるベルクール公爵家の者で周囲を固めれば、他の貴族が不満と不安を募らせるだろう。それにオーリー様とマティアス殿は五つほど年が離れているという。それでは遊び相手としては少々無理があるかもしれない。

「それに、ジョアンナ嬢に婚約破棄を突きつけた私に接触してくるなんて、おかしいだろう?」
「た、確かに……」
「見舞いにと言うけれど、王都にいた時には訪ねて来なかった。それが今になって来るなんて……」

 なるほど、こっちも納得だ。別にオーリー様に面会制限はなかったのだから、王都にいた頃にいくらでも見舞いに行けただろう。なのに、今になってどうしてあの鬼の峠を越えてまでわざわざやって来たのか。こうなると何か裏があるとしか思えなかった。

 彼らは屋敷から馬車で五分ほどの場所にある、我が家の別邸に滞在することになった。ここは王都から来た貴族たちが滞在する時のために建てたものだ。オーリー様はまだ我が家の婿ではないけれど、王命で私との結婚が約束されている。そんな屋敷に彼らを泊めるのは不適切だからだ。



 彼らがやって来て三日後、ようやくオーリー様が面会の許可を出した。今でも王族の彼は、訪ねれば簡単に会える存在ではないと示す必要があるためだ。王族には一々面倒な柵が多かった。
 面会は我が家のサロンだった。オーリー様と共にサロンに入ると、そこにはマティアス様とエリアーヌ様が既にいらっしゃっていた。

「オーリー様!」

 オーリー様の姿を認めると、エリアーヌ様が立ち上がってその名を呼んだ。淑女らしからぬその姿に驚いていた私の視界の端には、不快そうに眉をしかめるマティアス様がいた。エリアーヌ様の不作法に対してだろうか。そんな兄を気にすることなく、エリアーヌ様は両手を胸の前で組んで目を潤ませていた。

「……ミア! 生きて、いたのか……?」

 そんなに接点があっただろうか、と私が彼らの関係を思い返していると、オーリー様がうめくような声を上げた。オーリー様が信じられないような表情で彼女を見つめていた。



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