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マイヤー侯爵令嬢の罪

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 ウィルバート様の解呪が成功し、その麗しいお姿にすっかり見とれていると、怒号が響き渡りました。何事かと声の方に視線を向けると…そこにはまん丸のお顔をした蜂蜜色の髪をした方がクラウス様にしがみ付いていて、青褪めたクラウス様が必死に離れようとしているところでした。

「あれは…」
「ええ。マイヤー嬢…でしょうね」

 ウィルバート様も驚きが隠せないようで、その光景を半ば茫然と眺めていました。令嬢は横に大きくなっていますが、背も高く広がりのあるドレスを着ているせいか、クラウス様よりもずっと大きく見えます。しかもドレスがパンパンで、今にもはちきれそうです。

「クラウス様!私です!リーゼですわ!」
「嘘をつけ!リーゼはそんなに太っていないし醜くもない!」
「ホントですわ!き、きっとウィルの呪いが私に…!そ、そうよ、きっとゲルスター公爵令嬢が私を恨んで、ウィルの呪いを私に掛けたのですわ!」
「そんな話、信じられるか!」

 必死に逃れようとするクラウス様と、逃がすまいとするマイヤー侯爵令嬢。ある意味カオスですわね。でも…

(そこでさりげなく私の名を出すのはやめてほしいですわ。私、今日は何もしていませんわよ?)

 そもそも今の姿はご自身の招いた事ですのに…

「ゲルスター公爵令嬢は無関係だ」

そう思っているとおじ様がそう断言して下さいました。更にウィルバート様に掛けられていた術式の内容を説明して下さって、そこにリートミュラー辺境伯様が呪われた経緯をお話になったため、私は無関係だと分かって頂けました。

「リ、リーゼが…そんなことを…」
「ク、クラウス様、違うんです! あれは子供の時の事で…!」

 まさか愛しの令嬢がそんな酷いことをしていたとはご存じなかったのでしょう、クラウス様は茫然としています。

「あ、あれは子供の頃の出来事で…解呪したくても…古代文字がわからなくて…」
「十年もあればこの程度の古代文字、解読出来ないことはないだろう?」
「…そ、それは…でも、ウィルも無理に解除しなくてもいいって…」
「だからと言って、放ったらかしにしていい理由にはならないだろう」
「…そ、それは…」

 おじ様の追及に令嬢はしどろもどろになっていますが、おじ様の言う通りですわね。十年もあれば解呪しようと思えば出来た筈で、それをしなかったのは怠慢と保身、そしてずるさからでしょう。

「…まぁ、庇ってくれた元婚約者にあのような仕打ちを…」
「なんて恩知らずな…」
「私、あのお二人を真実の愛だと信じて応援していましたのに…」
「ええ、騙された気分ですわ」

 周りで様子を窺っていた方々が、小声でそう囁き合っているのが聞こえました。ただでさえ家同士の契約を一方的に反故にしたとして、お二人は厳しい視線を向けられていましたが、ウィルバート様の呪いの件で一層心象を悪化させてしまいましたわね。自業自得なので当然ですけれど。

「古代文字など、誰でも学ぼうと思えば学べるものだ。それを十年も放置したのは君だろう。相手の優しさに胡坐をかいて恩を仇で返した君の態度は、人としてどうかと思うがね」

 言い訳に必死な令嬢におじ様が冷たくそう言い放ち、その横でマイヤー侯爵もがっくりと項垂れていました。子供の頃の事件なら親が責任を取るべきですが、侯爵も何の手も打たなかったのですから当然ですわ。

 こうして、私達の目的は無事に果たせました。クラウス様たちは会場から連れ出され、その後陛下達の耳にもこの件が届いたそうです。これから詳しく事情を聴いて何らかの罰が与えられるでしょう。既に婚姻が成立しているので離婚は出来ないでしょうし、これからの二人がどんな選択をするのかが見物ですわ。



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