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常夜の魔女の呪い
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「なっ!!!」
私の指摘に、クラウス様は目に見えて赤くなりました。これが自身の無作法を恥じ入るものならいいのですが、彼にそんな殊勝な考えはないでしょうね。
「貴様、馬鹿にする気か!?」
「そんなつもりはありませんわ。でも、ここは公式の夜会です。このような場で元王族だった貴方様がルールを破られては、下の者に示しがつきませんでしょう?」
元王族なんだからその辺弁えなさいよと言ってやると、その意味が伝わったのでしょうか、それ以上は何も言えないようです。あら、それだけでも随分な進歩ですわね。
(まぁ、王太子殿下辺りから、問題を起こすなときつく釘を刺されているのでしょうけど…)
この度の婚約破棄で王家は大きく信用を損ね、王太子殿下が大層お怒りだと聞いています。弟の不義理が次代の治世に及ぼす影響を、王太子殿下はよく理解されていらっしゃるからでしょうね。
「そう言えばお二人は入籍なさったとか。おめでとうございます」
「…ああ」
こぶしを握り締めて耐えるクラウス様ですが…頑張っていますわね。ちょっと見直しましたわ。いえ、砂粒の半分以下のレベルですが。
「ウィルも婚約したんでしょう。こんな気の強い人が相手で可哀相…」
何を思ったのか、マイヤー侯爵令嬢がウィルバート様を見上げてそう言いだしました。上目遣いで一見すると可憐なご令嬢ですが、私より背が高いので違和感が拭えませんわ。ああ、この長身で肥満体となると…迫力がありそうですわね。
「ご心配なく、マイヤー侯爵令嬢。アルーシャ様は聡明で心優しい女性です」
「まぁ、ウィルったら…」
まさかそんな風に反論されるとは思っていなかったのでしょうね。令嬢は鼻白んだ表情になりましたわ。それにしても…もう婚約者でもないのに愛称呼びとは…不快ですわね。
「可哀相…きっとそう言えと命令されているのね」
「…そんな事実はありませんよ。アルーシャ様は思いやり深く、私を馬鹿にするような態度を取られたことは一度もありません」
「まさか…」
「それに…私の呪いを解こうと尽力して下さっていますから」
「…え?」
マイヤー侯爵令嬢が目に見えて固まりましたわ。呪いの事を覚えていたのですね。意外ですわ。もうとっくに忘れていると思っていましたから。
「…呪いだと?」
そんな彼女の反応に、クラウス様が怪訝な表情を浮かべました。
「なんだ、呪いとは?リーゼ、何か知っているのか?」
「え…あ、あの…」
急に呪いの事を聞かれたマイヤー侯爵令嬢は狼狽えました。呪いの中身もかかった経緯も、彼女にとっては知られたくない内容でしょうから仕方ありませんわね。
「ウィルバート様には呪いが掛かっているのですわ」
「何だと?」
「マイヤー侯爵領にある『常夜の森』の魔女の呪いだそうです」
「マイヤー領に?魔女だって?」
クラウス様が大きな声を上げたために、皆様の視線がこちらに向いてしまいましたわ。でも、これも予定通りです。どうせならたくさんの方の前で解呪した方が効果的ですものね。
「ええ。ご存じありませんか? 十年前、マイヤー侯爵令嬢が魔女の怒りを買ったそうですわ。魔女が彼女に呪いを掛けようとしたのをウィルバート様が庇って、呪いに掛ってしまったそうです」
「本当なのか、リーゼ?」
「あ、あの…それは…」
クラウス様が問い詰めますが、令嬢は呪いの事が暴露されてそれどころではないようです。
「呪いが本当にあるのか? それはどんなものだ?」
意外にもクラウス様が興味津々です。呪いなどある筈がないと言うだろうと思っていましたが、この反応は想定外ですわね。
「ああ。確かにその令息には、古代文字の術式が掛けられているな」
ナイスタイミングですわ、ギルベルトおじ様。
私の指摘に、クラウス様は目に見えて赤くなりました。これが自身の無作法を恥じ入るものならいいのですが、彼にそんな殊勝な考えはないでしょうね。
「貴様、馬鹿にする気か!?」
「そんなつもりはありませんわ。でも、ここは公式の夜会です。このような場で元王族だった貴方様がルールを破られては、下の者に示しがつきませんでしょう?」
元王族なんだからその辺弁えなさいよと言ってやると、その意味が伝わったのでしょうか、それ以上は何も言えないようです。あら、それだけでも随分な進歩ですわね。
(まぁ、王太子殿下辺りから、問題を起こすなときつく釘を刺されているのでしょうけど…)
この度の婚約破棄で王家は大きく信用を損ね、王太子殿下が大層お怒りだと聞いています。弟の不義理が次代の治世に及ぼす影響を、王太子殿下はよく理解されていらっしゃるからでしょうね。
「そう言えばお二人は入籍なさったとか。おめでとうございます」
「…ああ」
こぶしを握り締めて耐えるクラウス様ですが…頑張っていますわね。ちょっと見直しましたわ。いえ、砂粒の半分以下のレベルですが。
「ウィルも婚約したんでしょう。こんな気の強い人が相手で可哀相…」
何を思ったのか、マイヤー侯爵令嬢がウィルバート様を見上げてそう言いだしました。上目遣いで一見すると可憐なご令嬢ですが、私より背が高いので違和感が拭えませんわ。ああ、この長身で肥満体となると…迫力がありそうですわね。
「ご心配なく、マイヤー侯爵令嬢。アルーシャ様は聡明で心優しい女性です」
「まぁ、ウィルったら…」
まさかそんな風に反論されるとは思っていなかったのでしょうね。令嬢は鼻白んだ表情になりましたわ。それにしても…もう婚約者でもないのに愛称呼びとは…不快ですわね。
「可哀相…きっとそう言えと命令されているのね」
「…そんな事実はありませんよ。アルーシャ様は思いやり深く、私を馬鹿にするような態度を取られたことは一度もありません」
「まさか…」
「それに…私の呪いを解こうと尽力して下さっていますから」
「…え?」
マイヤー侯爵令嬢が目に見えて固まりましたわ。呪いの事を覚えていたのですね。意外ですわ。もうとっくに忘れていると思っていましたから。
「…呪いだと?」
そんな彼女の反応に、クラウス様が怪訝な表情を浮かべました。
「なんだ、呪いとは?リーゼ、何か知っているのか?」
「え…あ、あの…」
急に呪いの事を聞かれたマイヤー侯爵令嬢は狼狽えました。呪いの中身もかかった経緯も、彼女にとっては知られたくない内容でしょうから仕方ありませんわね。
「ウィルバート様には呪いが掛かっているのですわ」
「何だと?」
「マイヤー侯爵領にある『常夜の森』の魔女の呪いだそうです」
「マイヤー領に?魔女だって?」
クラウス様が大きな声を上げたために、皆様の視線がこちらに向いてしまいましたわ。でも、これも予定通りです。どうせならたくさんの方の前で解呪した方が効果的ですものね。
「ええ。ご存じありませんか? 十年前、マイヤー侯爵令嬢が魔女の怒りを買ったそうですわ。魔女が彼女に呪いを掛けようとしたのをウィルバート様が庇って、呪いに掛ってしまったそうです」
「本当なのか、リーゼ?」
「あ、あの…それは…」
クラウス様が問い詰めますが、令嬢は呪いの事が暴露されてそれどころではないようです。
「呪いが本当にあるのか? それはどんなものだ?」
意外にもクラウス様が興味津々です。呪いなどある筈がないと言うだろうと思っていましたが、この反応は想定外ですわね。
「ああ。確かにその令息には、古代文字の術式が掛けられているな」
ナイスタイミングですわ、ギルベルトおじ様。
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