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私達の婚約披露

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 義務感満載で参加したクラウス王子とマイヤー侯爵令嬢の婚約披露の夜会から十日後。今度は私とウィルバート様の婚約披露のパーティーを我が家で行いました。今日は親しい方を招いての事なので、この前の夜会に比べて気が楽です。
 今日の私とウィルバート様の衣裳は、我が家の色の水色のドレスです。これは彼が婿に入るからで、妻でも婿でも迎える側の色を纏うのが一般的です。
 私は水色に青と金の刺繍が施されたマーメイドラインのドレス、ウィルバート様も同じ色の正装になりました。婚約の際は特にお揃い感を出すのが今の流行りなので、この婚約を私達が受け入れていると周りに示すためにも必要なのです。そうでないと…横槍を入れようとする方が出てくる可能性があるので、その牽制ですわ。

「…このドレスもよくお似合いですね…お美しいです…」
「そ、そうですか? あ、ありがとうございます」

 もう! この方ったらどうしてこうも恥ずかしい台詞をさらっと口にされるのでしょうか。褒め慣れていないせいかドキッとしてしまいましたわ。慣れてくるとこのもちもちした肉団子のようなお顔も、何だか可愛く見えてくるから不思議ですわ。いえ、決してデブ専ではありませんわよ?

 お父様が会の開会を宣言した後、私達の婚約とウィルバート様が我が家の専属魔術師になったことが発表されました。私達の婚約は皆様ご存じでしたが、専属魔術師の件は驚きで迎えられました。専属魔術師を手に入れるのはどこの家も悲願ですが、ただでさえ魔術の力が大きい我が家が専属魔術師を得た意味は非常に大きいです。我が家とリートミュラー家と関係が深い家にとっては、一層の安心材料になるでしょうね。

「アルーシャ様、おめでとうございます」
「ゲルスター公爵令嬢、いい婿を見つけられたな」
「まぁ、ケビン様にイルーゼ様、ありがとうございます」

 最初に声を掛けて来られたのは、キルンベルガー公爵家に嫁いだ親友のイルーゼ様と、その夫のケビン様でした。お二人は一年前に結婚された大変仲のいいご夫婦で、幸せな結婚をなさった彼女は未婚のご令嬢の羨望の的なのです。私も是非彼女にあやかりたいですわ。
 そんなイルーゼ様は艶やかな黒髪に新緑の瞳を持つ、小柄で愛らしい顔立ちで、マイヤー侯爵令嬢よりもずっと美少女といえるでしょう。そんな彼女は騎士の家系のグレーデル公爵家の生まれで、自ら剣を手に魔獣討伐の最前線に立つ武闘派でもあります。そのギャップをケビン様は溺愛していらっしゃるのですよね。

「リートミュラー辺境伯令息の事は噂で伺っておりますわ。大変優秀な魔術師だと」
「いえ、その様な…」
「私達の間では謙遜は不要ですわ。私とアルーシャ様は親友ですもの。ね? アルーシャ様」
「ええ、そうですわ。ウィルバート様もこれからは一緒に過ごす事も増えますわ。ですから気楽になさって下さい」
「わ、わかりました」

 そうはいっても相手が公爵家ではウィルバート様も気遣いでしょうね。ここはゆっくり慣れていって頂きたいですわ。でも、お二人は堅苦しいことを嫌うとても気安い方々なので、きっと大丈夫でしょう。

「ウィルバート様の魔獣討伐の鮮やかな魔術のお話は伺っていますわ」
「ええ、大変優秀だとか」
「是非一度、そのお話を伺いたいですわ」

 さすがは武闘派のイルーゼ様、見た目に反して話の内容が魔獣に向かうのはいつもの事ですが、さすがにウィルバート様は戸惑っていらっしゃるようですわね。

「ウィルバート様、イルーゼ様はご自身も魔獣討伐の前線に立たれるのですよ」
「そうなのですか?」
「ええ。彼女は剣を使っての魔術が得意なのです」
「剣を使って…」
「ええ。ですから是非、魔術の造詣が深いリートミュラー様のご意見も伺いたいのです」

 相変わらず魔獣退治がお好きですのね、イルーゼ様。彼女は魔獣の中でも特に強いAクラスの魔獣肉が大好物で、趣味と実益を兼ねているのです。その愛らしい外見からは想像もつきませんが、剣を振るって戦うイルーゼ様は惚れ惚れする程お美しいのです。

 その後も仲のいいご令嬢や我が家の傘下にいるご令嬢たちに囲まれました。皆様、ウィルバート様の噂をご存じのためか私が嫌々婿に迎えると思われていたようですが、私が彼を誉めるので皆様の彼への視線も会が終わる頃には随分と柔らかくなりましたわ。
 彼にはこれから魔獣退治をお願いする事になるでしょう。彼の機嫌を損ねればどうなるか、もお話しておきましたし。それに、公爵家のイルーゼ様達が好意的だったのもあり、お披露目としては中々にいい感じで終わりましたわ。


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