6 / 27
謎の術式
しおりを挟む
「こ、これは…」
リートミュラー様が初めて感情を含んだ言葉を発しましたわ。やはり予想通りですわね。
「ここは…一体…」
「ここはうちの魔術研究用の建物ですわ」
彼を案内したのは私が普段研究に使っている部屋です。私は子供の頃からリューネルト古代文明で使われていた古代文字の研究をしています。古代文字は古魔術でも使われていた文字で、祖父から研究を引き継いだのですよね。そのための部屋なので、室内には古代文字に関する物が並べられています。
そしてリューネルト古魔術を支えていたのが、ラザレ魔石という魔力を含んだ石です。このラザレ魔石を使った研究をリートミュラー様がしていると小耳に挟んだので、彼をここに案内すれば絶対に反応すると思っていたのです。
「研究部屋…これが…あ、あなたの…?」
「ええ。家の領地にはリューネルト文明の遺跡がいくつかあります。私はそこで使われていた古代文字を研究していますの。まぁ、研究といっても私は学者ではありませんので、そこまで本格的なものではありませんが…」
「古代文字を…」
リートミュラー様の声からも表情からも、驚きが伝わってきましたわ。まぁ、令嬢が古代文字を研究するなんて普通ではありませんものね。殆どの令嬢は、勉強よりも社交や慈善活動を重視するものですから。
でも我が家は皆、何かしらの研究や活動をしています。父はリューネルト古代魔術を、母は主に女性向けの看護技術の普及活動をしていて、それはライフワークのようなものと言えるでしょう。
「…ゲルスター公爵令嬢、貴女は古代文字がお分かりになるのか?」
「そうですわね。あまり古い物でなければ」
「だったら…私の身に掛けられている術式は…」
「見えておりますわ。その術式の一部は古代文字ですわね」
私がそうお答えすると、リートミュラー様が息を飲まれました。その驚きは見える方にでしょうか。それとも古代文字という事にでしょうか…
「やはり…そうなのか…」
リートミュラー様が何かに納得したようにそう呟かれましたが…それってあの術式は彼が掛けたものではない、という事でしょうか。いえ、古代文字で術を掛けられる方なんて王宮魔術師でもかなり上位で古代文字に精通している方でないと無理でしょう。彼が自分に掛けたのだと何となく思っていましたが…よくよく考えるとその可能性は高くありませんわ。私でも…出来ないわけではないでしょうが、かなり難儀するでしょう。それでも、あのクラスはさすがに無理です。
「ゲルスター公爵令嬢、折り入ってお願いがございます」
突然改まった口調でそう言われて、ちょっとドキッとしてしまいましたわ。お声が意外にも私好みだからでしょうか。いえ、それにこの方、ちゃんとお話出来るのですね。ドキッとしたのはそのせいでしょうか。
「な、何でしょう?」
「このような事を頼める立場ではないのは百も承知ですが…どうか私に掛けられているこの術式を、解除して頂けないでしょうか?」
何と、婚約を前提とした顔合わせでしたが、まさかの術式の解除の話になるなんて、意外ですわ。それにしても…
「術式の解除の危険性はご存じですよね?」」
「ええ」
「その上で私に、と仰いますの?」
そうです。術式は自分と同等かそれ以下の力の者が掛けたものは、可視化する事も可能です。ですが、それはあくまでも「見る」だけで、解除となると話は大きく変わってきます。
というのも、術式の解除は非常に繊細かつ相応の力量と集中力が必要で、一歩間違えればその術が解除しようとする者に発動してしまうのです。だから他人の掛けた術式を解除するなんて普通はやりません。やるのは本当に命がかかっているような緊急時なのです。優秀だと言われている彼が、それを知らない訳がないと思いますが…
「そもそも、その術式、一体何なんですの?」
リートミュラー様が初めて感情を含んだ言葉を発しましたわ。やはり予想通りですわね。
「ここは…一体…」
「ここはうちの魔術研究用の建物ですわ」
彼を案内したのは私が普段研究に使っている部屋です。私は子供の頃からリューネルト古代文明で使われていた古代文字の研究をしています。古代文字は古魔術でも使われていた文字で、祖父から研究を引き継いだのですよね。そのための部屋なので、室内には古代文字に関する物が並べられています。
そしてリューネルト古魔術を支えていたのが、ラザレ魔石という魔力を含んだ石です。このラザレ魔石を使った研究をリートミュラー様がしていると小耳に挟んだので、彼をここに案内すれば絶対に反応すると思っていたのです。
「研究部屋…これが…あ、あなたの…?」
「ええ。家の領地にはリューネルト文明の遺跡がいくつかあります。私はそこで使われていた古代文字を研究していますの。まぁ、研究といっても私は学者ではありませんので、そこまで本格的なものではありませんが…」
「古代文字を…」
リートミュラー様の声からも表情からも、驚きが伝わってきましたわ。まぁ、令嬢が古代文字を研究するなんて普通ではありませんものね。殆どの令嬢は、勉強よりも社交や慈善活動を重視するものですから。
でも我が家は皆、何かしらの研究や活動をしています。父はリューネルト古代魔術を、母は主に女性向けの看護技術の普及活動をしていて、それはライフワークのようなものと言えるでしょう。
「…ゲルスター公爵令嬢、貴女は古代文字がお分かりになるのか?」
「そうですわね。あまり古い物でなければ」
「だったら…私の身に掛けられている術式は…」
「見えておりますわ。その術式の一部は古代文字ですわね」
私がそうお答えすると、リートミュラー様が息を飲まれました。その驚きは見える方にでしょうか。それとも古代文字という事にでしょうか…
「やはり…そうなのか…」
リートミュラー様が何かに納得したようにそう呟かれましたが…それってあの術式は彼が掛けたものではない、という事でしょうか。いえ、古代文字で術を掛けられる方なんて王宮魔術師でもかなり上位で古代文字に精通している方でないと無理でしょう。彼が自分に掛けたのだと何となく思っていましたが…よくよく考えるとその可能性は高くありませんわ。私でも…出来ないわけではないでしょうが、かなり難儀するでしょう。それでも、あのクラスはさすがに無理です。
「ゲルスター公爵令嬢、折り入ってお願いがございます」
突然改まった口調でそう言われて、ちょっとドキッとしてしまいましたわ。お声が意外にも私好みだからでしょうか。いえ、それにこの方、ちゃんとお話出来るのですね。ドキッとしたのはそのせいでしょうか。
「な、何でしょう?」
「このような事を頼める立場ではないのは百も承知ですが…どうか私に掛けられているこの術式を、解除して頂けないでしょうか?」
何と、婚約を前提とした顔合わせでしたが、まさかの術式の解除の話になるなんて、意外ですわ。それにしても…
「術式の解除の危険性はご存じですよね?」」
「ええ」
「その上で私に、と仰いますの?」
そうです。術式は自分と同等かそれ以下の力の者が掛けたものは、可視化する事も可能です。ですが、それはあくまでも「見る」だけで、解除となると話は大きく変わってきます。
というのも、術式の解除は非常に繊細かつ相応の力量と集中力が必要で、一歩間違えればその術が解除しようとする者に発動してしまうのです。だから他人の掛けた術式を解除するなんて普通はやりません。やるのは本当に命がかかっているような緊急時なのです。優秀だと言われている彼が、それを知らない訳がないと思いますが…
「そもそも、その術式、一体何なんですの?」
81
お気に入りに追加
1,655
あなたにおすすめの小説
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。
水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。
その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。
そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。
悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
【完結】結婚しておりませんけど?
との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」
「私も愛してるわ、イーサン」
真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。
しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。
盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。
だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。
「俺の苺ちゃんがあ〜」
「早い者勝ち」
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\
R15は念の為・・
虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?
リオール
恋愛
両親に虐げられ
姉に虐げられ
妹に虐げられ
そして婚約者にも虐げられ
公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。
虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。
それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。
けれど彼らは知らない、誰も知らない。
彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を──
そして今日も、彼女はひっそりと。
ざまあするのです。
そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか?
=====
シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。
細かいことはあまり気にせずお読み下さい。
多分ハッピーエンド。
多分主人公だけはハッピーエンド。
あとは……
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる