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湖の散策
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翌朝、レニエ様と一緒に私は湖へと向かった。馬車では森の中を走れないので、今日は馬に乗っての移動だ。馬に乗ったことがない私はレニエ様と一緒に乗った。その前後を護衛と侍女に守られて向かったけれど……
(ち、近過ぎです……)
レニエ様に後ろから抱き込まれるようにして馬に乗っていた私は、余りの近さに気もそぞろだった。ゆっくり進んでいるせいか揺れる度に背中越しにレニエ様の身体を意識してしまう……
(や、やっぱり、思った以上にがっしりしていらっしゃるわ……)
そんな風に感じる自分が恥ずかしいのだけど、一度意識してしまうと止まらない。それでも半刻もしないうちに視界が開け、目の前にエメラルドグリーンの水面が光を反射しているのが見えた。キラキラと輝く光景に暫く言葉がなかった。
「さぁ、着いたよ。綺麗だろう?」
「え、ええ……凄く、綺麗です……こんなに素敵な光景、初めてです……」
まだ感動が冷めず、魅入られてしまったように目が離せない。湖は横長で貴族の屋敷の敷地程はあるだろうか。向かう先には桟橋のようなものがあり、そこにはボートが三艘繋がれていた。その少し離れたところには四阿があり、更にその向こうには小さな小屋が建っていた。岸辺には散策できるように道が整備されていて、その脇を花々が彩っていた。
「今年はジゼルと来たいと思っていたからね。早くから準備させておいたんだ」
「まぁ、そうでしたの?」
早くからっていつからなのだろう。小屋や桟橋などは新しくないけれど、散策用の道はまだ新しいように見えた。だったら花を植えたのもそうなのだろうか。私と来るために手入れして下さっていたなんて……目の奥がツンと熱くなった。
「う、嬉しいです……」
ああ、きっと頬どころか顔も耳も首も赤くなっていそうだ。嬉し過ぎて今ここで死んでも悔いはなさそう。
「ふふ、耳まで真っ赤だよ、ジゼル」
「レ、レニエ様が、嬉しいことを仰るから……」
「私のせい?」
耳元で囁かれて益々頭に血が上るのを感じた。レニエ様、絶対わざとやっていますよね?
「レ、レニエ様のせい、です」
恥ずかしくてそう言うのが精一杯だった。照れていると横から笑い声がして「よかった」とまた囁かれた。掠れ気味の声に背中がぞくぞくする。凄く健康的な場なのに背徳的なものを感じるなんて……
「今日は風も弱いし、ボートに乗るにはうってつけだ。さぁ、私の姫君、お手をどうぞ」
ひ、姫だなんて、私に使っていい単語じゃないと思うのだけど……そう思いながらも差し出された手を取った。レニエ様ってこんな恥ずかしいことを仰る方だっただろうか……
「さぁ、ゆっくりね。急に動いちゃだめだよ」
「は、はい」
揺れるボートに心許なさを感じながらも腰を下ろす。ボートは真ん中に座るための板が張られ、そこに向かい合って腰を下ろした。レニエ様がオールを動かすとボートは桟橋を離れて湖の中心へと向かった。
「レニエ様が漕がれるとは思いませんでした」
「そう? ここは子供の頃からよく来ていたんだよ。学園に入る前には自分で漕いでいたから大丈夫だよ」
「まぁ、そんな頃からですか?」
「うん、ここには休暇ごとに訪ねていたんだ。母がここを気に入っていてね」
「お母様が……」
「ああ、十五を超えた頃には、母を乗せてよくボートに乗っていたよ」
そう話すレニエ様は自然な笑顔で懐かしい目をしていた。
「ああ、すまない。ジゼルは母君がいなかったんだった。配慮が足りなかった」
「い、いえ、気になさらないで下さい。それよりも初めてボートに乗るのがレニエ様で嬉しいです」
「そんなことを言って……私を喜ばせるのが上手いな、ジゼルは」
そう言うと熱っぽい目を向けられて心拍数が跳ね上がった。近くには護衛が乗るボートもあるのに、レニエ様の甘い言葉が止まらない。
ボートに乗った後はゆっくりと湖畔を散策し、桟橋のある場所に戻ると木陰に敷物が広げられていた。
「さ、今日はここで昼食にしよう」
「ここで、ですか?」
食事は別荘に帰ってからだと思っていたから意外だったけれど、特別な感じがして心が躍った。敷物の上にレニエ様と共に座ると、侍女がバスケットから料理人が用意してくれた軽食を取り出して並べた。パンにジャムや肉、ハムを挟んだものが並ぶ。侍女が出してくれた冷たい果実水が散策で乾いた喉を潤してくれる。
「こんな簡単なもので済まないね」
「いえ、こんな風に食べるのも初めてですし、とても美味しいです」
「そう? よかった」
目尻の皴を深めてレニエ様が微笑んだ。簡単な物なのに凄く美味しく感じられるのは、きっとレニエ様が一緒だからだろう。少し離れたところでは侍女と護衛も昼食を摂っていた。静かにゆったりと流れる時間は王都では決して味わえないものだろう。頬を撫でる風が優しく、水面が朝とは違う輝きを放ってずっと見ていられそうなほどに綺麗だった。
食事の後は少し休んだ後、馬で周囲を散策しながら別荘に戻った。森の中は樹木が日差しを遮ってくれたお陰で暑すぎることもなく、さわさわと鳴る葉音と鳥のさえずりが耳に心地いい。
「……本当に、素敵なところですね」
「そう言って貰えると嬉しいよ。ここは領地でも王都寄りだから以前はよく来ていたんだ。ジゼルが気に入ったのなら嬉しいよ」
「ええ、とっても。隠れ家のようで何だかホッとします」
「隠れ家か。うん、確かにそんな感じだね」
森に囲まれてひっそりとした雰囲気は王都では決して味わえないものだ。今回は二日だけだけど、出来ればもう少し長く滞在してゆっくり過ごしてみたい。
「今度来る時は半月ほど滞在したいな」
レニエ様の呟きはたった今私が思っていたことと同じで、思わず笑みが漏れた。
(ち、近過ぎです……)
レニエ様に後ろから抱き込まれるようにして馬に乗っていた私は、余りの近さに気もそぞろだった。ゆっくり進んでいるせいか揺れる度に背中越しにレニエ様の身体を意識してしまう……
(や、やっぱり、思った以上にがっしりしていらっしゃるわ……)
そんな風に感じる自分が恥ずかしいのだけど、一度意識してしまうと止まらない。それでも半刻もしないうちに視界が開け、目の前にエメラルドグリーンの水面が光を反射しているのが見えた。キラキラと輝く光景に暫く言葉がなかった。
「さぁ、着いたよ。綺麗だろう?」
「え、ええ……凄く、綺麗です……こんなに素敵な光景、初めてです……」
まだ感動が冷めず、魅入られてしまったように目が離せない。湖は横長で貴族の屋敷の敷地程はあるだろうか。向かう先には桟橋のようなものがあり、そこにはボートが三艘繋がれていた。その少し離れたところには四阿があり、更にその向こうには小さな小屋が建っていた。岸辺には散策できるように道が整備されていて、その脇を花々が彩っていた。
「今年はジゼルと来たいと思っていたからね。早くから準備させておいたんだ」
「まぁ、そうでしたの?」
早くからっていつからなのだろう。小屋や桟橋などは新しくないけれど、散策用の道はまだ新しいように見えた。だったら花を植えたのもそうなのだろうか。私と来るために手入れして下さっていたなんて……目の奥がツンと熱くなった。
「う、嬉しいです……」
ああ、きっと頬どころか顔も耳も首も赤くなっていそうだ。嬉し過ぎて今ここで死んでも悔いはなさそう。
「ふふ、耳まで真っ赤だよ、ジゼル」
「レ、レニエ様が、嬉しいことを仰るから……」
「私のせい?」
耳元で囁かれて益々頭に血が上るのを感じた。レニエ様、絶対わざとやっていますよね?
「レ、レニエ様のせい、です」
恥ずかしくてそう言うのが精一杯だった。照れていると横から笑い声がして「よかった」とまた囁かれた。掠れ気味の声に背中がぞくぞくする。凄く健康的な場なのに背徳的なものを感じるなんて……
「今日は風も弱いし、ボートに乗るにはうってつけだ。さぁ、私の姫君、お手をどうぞ」
ひ、姫だなんて、私に使っていい単語じゃないと思うのだけど……そう思いながらも差し出された手を取った。レニエ様ってこんな恥ずかしいことを仰る方だっただろうか……
「さぁ、ゆっくりね。急に動いちゃだめだよ」
「は、はい」
揺れるボートに心許なさを感じながらも腰を下ろす。ボートは真ん中に座るための板が張られ、そこに向かい合って腰を下ろした。レニエ様がオールを動かすとボートは桟橋を離れて湖の中心へと向かった。
「レニエ様が漕がれるとは思いませんでした」
「そう? ここは子供の頃からよく来ていたんだよ。学園に入る前には自分で漕いでいたから大丈夫だよ」
「まぁ、そんな頃からですか?」
「うん、ここには休暇ごとに訪ねていたんだ。母がここを気に入っていてね」
「お母様が……」
「ああ、十五を超えた頃には、母を乗せてよくボートに乗っていたよ」
そう話すレニエ様は自然な笑顔で懐かしい目をしていた。
「ああ、すまない。ジゼルは母君がいなかったんだった。配慮が足りなかった」
「い、いえ、気になさらないで下さい。それよりも初めてボートに乗るのがレニエ様で嬉しいです」
「そんなことを言って……私を喜ばせるのが上手いな、ジゼルは」
そう言うと熱っぽい目を向けられて心拍数が跳ね上がった。近くには護衛が乗るボートもあるのに、レニエ様の甘い言葉が止まらない。
ボートに乗った後はゆっくりと湖畔を散策し、桟橋のある場所に戻ると木陰に敷物が広げられていた。
「さ、今日はここで昼食にしよう」
「ここで、ですか?」
食事は別荘に帰ってからだと思っていたから意外だったけれど、特別な感じがして心が躍った。敷物の上にレニエ様と共に座ると、侍女がバスケットから料理人が用意してくれた軽食を取り出して並べた。パンにジャムや肉、ハムを挟んだものが並ぶ。侍女が出してくれた冷たい果実水が散策で乾いた喉を潤してくれる。
「こんな簡単なもので済まないね」
「いえ、こんな風に食べるのも初めてですし、とても美味しいです」
「そう? よかった」
目尻の皴を深めてレニエ様が微笑んだ。簡単な物なのに凄く美味しく感じられるのは、きっとレニエ様が一緒だからだろう。少し離れたところでは侍女と護衛も昼食を摂っていた。静かにゆったりと流れる時間は王都では決して味わえないものだろう。頬を撫でる風が優しく、水面が朝とは違う輝きを放ってずっと見ていられそうなほどに綺麗だった。
食事の後は少し休んだ後、馬で周囲を散策しながら別荘に戻った。森の中は樹木が日差しを遮ってくれたお陰で暑すぎることもなく、さわさわと鳴る葉音と鳥のさえずりが耳に心地いい。
「……本当に、素敵なところですね」
「そう言って貰えると嬉しいよ。ここは領地でも王都寄りだから以前はよく来ていたんだ。ジゼルが気に入ったのなら嬉しいよ」
「ええ、とっても。隠れ家のようで何だかホッとします」
「隠れ家か。うん、確かにそんな感じだね」
森に囲まれてひっそりとした雰囲気は王都では決して味わえないものだ。今回は二日だけだけど、出来ればもう少し長く滞在してゆっくり過ごしてみたい。
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