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見つかった妹
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エドモンの知らせを受けて、私は仕事を終えるとシャリエ伯爵家に向かった。レニエ様に話をすると一緒に来て下さるというので、エドモンも一緒にミオット侯爵家の馬車を使わせてもらう。
シャリエ伯爵家に着くと家令たちが直ぐに出迎えてくれて、そのまま応接室に案内された。応接室に入ると既に父が困惑した表情でミレーヌとその隣に座る男性に向かい合っていた。ミレーヌと男性は貴族とは思えない身なりで、お忍びで街に出た際に見かける平民と変わらなかった。私たちの登場にミレーヌがこちらを向いたが、そこに表情はなかった。こんな顔を見るのは初めてかもしれない。隣にいる男は恐縮してか怯えた表情をしていた。
「ミレーヌ、無事だったのね」
以前のような華やかさは失われていたけれど、血色も悪くないし具合が悪いようには見えなかった。
「お姉……セシャン伯爵令嬢様には関係ないでしょう」
返ってきたのは嫌味を何倍にも濃縮したような刺々しい言葉だった。
「ミレーヌ! そんないい方はないだろう! 散々心配かけて!!」
怒りの声を上げたのはエドモンだった。
「戻らないって言ったでしょう? 何なのよ、今まで散々邪険にしておいて今更……」
「邪険にされるようなことをしていたからだろうが。お前のせいでどれだけこっちが迷惑を被ったと思っているんだ!」
ミレーヌの恨みごとにエドモンが益々怒りを募らせた。でも、今は怒鳴り合っても仕方がない。落ち着いてとエドモンに声をかけて、宥めるように腕を叩いた。
「ミレーヌ、どういうことか説明してちょうだい。あれだけの書置きではこちらも不安になるし納得出来ないわ」
とにかく説明が先だろう。今までどうしていたのか、その男性は誰なのか、これからどうしたいのかを聞きたかった。とりあえず座ることにした。エドモンは三人掛けのソファに座る父の隣に、私はその横に座り、レニエ様は私の左側の一人掛けのソファに腰を下ろした。侍女にお茶を出すように頼むと、慌てて準備を始めた。
「まずそちらの男性はどなた? 初めて見る方ね」
「……彼は、私の夫……よ」
「夫?」
「おい、ミレーヌ! どういうことだ?」
またも声を荒げるエドモンに男性が怯えて顔を引き攣らせた。慌てて再度エドモンの腕を叩く。怒鳴っては話が進まないと言えば顔を歪めたけれど理解はしてくれたらしい。
「失礼だけど、どちら様かしら? ああ、私はミレーヌの姉で、この子は弟よ。今は二人共養子に出てしまったけれど、ちゃんと血が繋がった姉弟よ」
怯えさせないように務めて穏やかな声で話しかけると、少しだけ表情が緩んだ。
「お……私はロイと言います。王都にあるカフェに勤めていた者です」
「そう、私はジゼルよ。王都のカフェということは、街で知り合ったの?」
「は、はい。ミレーヌ様はよく私が勤めている店に来て下さって……それで……」
「ロイ、それ以上話さなくてもいいわ」
止めに入ったのはミレーヌだった。ロイの腕に手を添える様子から仲が良さそうに見える。夫というのは間違いではないのかもしれない。
「どういうことかしら? だったらミレーヌ、あなたが説明して」
「説明なんて必要? 私はもうこの家には戻らないわ。ロイと一緒に生きるから」
意外にもしっかりした口調は初めてのものだった。エドモンも目を見開いていた。
「一緒に生きると言ってもあなたは貴族でこの家の後継者なのよ。勝手に家を出ることは出来ないわ。今はこの家にはあなたしかいないのだから」
「知らないわよ、そんなこと! お姉様たちが勝手に出て行ったのでしょう!」
「そうせざるを得ない状況に追い込んだのはあなたとお父様よ。知らないなんて言わせないわ」
そう言うとミレーヌは私を睨んだけれど言い返しては来なかった。
「それに、今のままではそちらのロイ様は誘拐犯として捕まるわ。届け出もなしに貴族の跡取りと結婚なんて出来ないのだから」
現実を突きつけるとミレーヌは反論せずにこちらを睨んだ。どうやらそのことは理解していたらしい。意外だったけれど。
「だったら除籍してよ。私はこの家になんか戻らないわ」
吐き捨てるようにそう言ったミレーヌだったけれど、事はそう簡単ではない。
「貴族の後継者のこと、少しは理解しているのね。だったらわかるでしょう? それがとても難しいと」
「でも、私が望んだんじゃないわ!!」
「そうかもしれないわ。でも、この家はずっとあなたを中心に回っていた。散々好き勝手しておきながら義務は負わないと? そんなこと許されないわ」
貴族の嫡男の除籍は簡単ではない。家の存続がかかっているからだ。代わりになる者を選び、国と王家に申し出て許可を得られなければ叶わない。病気などで余命僅かとわかっていてもそれは変わらない。それくらい後継者を外れるのは簡単ではない。エドモンが出来たのはドルレアク公爵家の力があったのと、これまでのシャリエ家の状況があったからだ。
「勝手に出て行っても、連れ戻されるわ。そうなればそこのロイ様もただでは済まない。伯爵家の後継者が駆け落ちなんかしたら、その相手が誘拐したとして闇に葬り去られることもあるのよ。そうなってもいいの?」
「いいわけないじゃない!! 何よ、それ……ロイは何も悪くないのに……」
「そう思うなら、尚のこと手順を踏むしかないわ。
国内で暮らしたいならそうするしかない。そもそも体面を重視する貴族は平民との結婚を歓迎しない。どんなに優秀でもこの国では未だに血統が優先されるから。
「全く……そんなに想う相手がいたのなら、何で相談しなかったんだよ?」
「だって!! 相談に言ったけれど話を聞かなかったのはそっちじゃない!!」
「はぁ? じゃ、この前公爵家に押しかけて来たのって……」
「相談しに行ったのよ! なのに前触れもないとか言って取り合ってもくれないし……お姉様だってそうよ!」
あの時訪ねてきたのはそういうことだったのか。でも……
「それは仕方ないわよ。今までのあなたのやって来たことが問題ばかりだったのだから。どうしてもというなら前触れを出せばよかったのよ。事前に伺いを立ててくれたら追い返えしたりはしなかったわ」
せめて正規の手順を、それも普通に手紙をくれたら済んだ話だ。
「だって……前触れの出し方なんて……知らなかったんだもの……」
「え?」
「はぁあ?」
今、物凄く意外なことを聞いた気がした。思わずミレーヌの顔をまじまじと見つめてしまった。
シャリエ伯爵家に着くと家令たちが直ぐに出迎えてくれて、そのまま応接室に案内された。応接室に入ると既に父が困惑した表情でミレーヌとその隣に座る男性に向かい合っていた。ミレーヌと男性は貴族とは思えない身なりで、お忍びで街に出た際に見かける平民と変わらなかった。私たちの登場にミレーヌがこちらを向いたが、そこに表情はなかった。こんな顔を見るのは初めてかもしれない。隣にいる男は恐縮してか怯えた表情をしていた。
「ミレーヌ、無事だったのね」
以前のような華やかさは失われていたけれど、血色も悪くないし具合が悪いようには見えなかった。
「お姉……セシャン伯爵令嬢様には関係ないでしょう」
返ってきたのは嫌味を何倍にも濃縮したような刺々しい言葉だった。
「ミレーヌ! そんないい方はないだろう! 散々心配かけて!!」
怒りの声を上げたのはエドモンだった。
「戻らないって言ったでしょう? 何なのよ、今まで散々邪険にしておいて今更……」
「邪険にされるようなことをしていたからだろうが。お前のせいでどれだけこっちが迷惑を被ったと思っているんだ!」
ミレーヌの恨みごとにエドモンが益々怒りを募らせた。でも、今は怒鳴り合っても仕方がない。落ち着いてとエドモンに声をかけて、宥めるように腕を叩いた。
「ミレーヌ、どういうことか説明してちょうだい。あれだけの書置きではこちらも不安になるし納得出来ないわ」
とにかく説明が先だろう。今までどうしていたのか、その男性は誰なのか、これからどうしたいのかを聞きたかった。とりあえず座ることにした。エドモンは三人掛けのソファに座る父の隣に、私はその横に座り、レニエ様は私の左側の一人掛けのソファに腰を下ろした。侍女にお茶を出すように頼むと、慌てて準備を始めた。
「まずそちらの男性はどなた? 初めて見る方ね」
「……彼は、私の夫……よ」
「夫?」
「おい、ミレーヌ! どういうことだ?」
またも声を荒げるエドモンに男性が怯えて顔を引き攣らせた。慌てて再度エドモンの腕を叩く。怒鳴っては話が進まないと言えば顔を歪めたけれど理解はしてくれたらしい。
「失礼だけど、どちら様かしら? ああ、私はミレーヌの姉で、この子は弟よ。今は二人共養子に出てしまったけれど、ちゃんと血が繋がった姉弟よ」
怯えさせないように務めて穏やかな声で話しかけると、少しだけ表情が緩んだ。
「お……私はロイと言います。王都にあるカフェに勤めていた者です」
「そう、私はジゼルよ。王都のカフェということは、街で知り合ったの?」
「は、はい。ミレーヌ様はよく私が勤めている店に来て下さって……それで……」
「ロイ、それ以上話さなくてもいいわ」
止めに入ったのはミレーヌだった。ロイの腕に手を添える様子から仲が良さそうに見える。夫というのは間違いではないのかもしれない。
「どういうことかしら? だったらミレーヌ、あなたが説明して」
「説明なんて必要? 私はもうこの家には戻らないわ。ロイと一緒に生きるから」
意外にもしっかりした口調は初めてのものだった。エドモンも目を見開いていた。
「一緒に生きると言ってもあなたは貴族でこの家の後継者なのよ。勝手に家を出ることは出来ないわ。今はこの家にはあなたしかいないのだから」
「知らないわよ、そんなこと! お姉様たちが勝手に出て行ったのでしょう!」
「そうせざるを得ない状況に追い込んだのはあなたとお父様よ。知らないなんて言わせないわ」
そう言うとミレーヌは私を睨んだけれど言い返しては来なかった。
「それに、今のままではそちらのロイ様は誘拐犯として捕まるわ。届け出もなしに貴族の跡取りと結婚なんて出来ないのだから」
現実を突きつけるとミレーヌは反論せずにこちらを睨んだ。どうやらそのことは理解していたらしい。意外だったけれど。
「だったら除籍してよ。私はこの家になんか戻らないわ」
吐き捨てるようにそう言ったミレーヌだったけれど、事はそう簡単ではない。
「貴族の後継者のこと、少しは理解しているのね。だったらわかるでしょう? それがとても難しいと」
「でも、私が望んだんじゃないわ!!」
「そうかもしれないわ。でも、この家はずっとあなたを中心に回っていた。散々好き勝手しておきながら義務は負わないと? そんなこと許されないわ」
貴族の嫡男の除籍は簡単ではない。家の存続がかかっているからだ。代わりになる者を選び、国と王家に申し出て許可を得られなければ叶わない。病気などで余命僅かとわかっていてもそれは変わらない。それくらい後継者を外れるのは簡単ではない。エドモンが出来たのはドルレアク公爵家の力があったのと、これまでのシャリエ家の状況があったからだ。
「勝手に出て行っても、連れ戻されるわ。そうなればそこのロイ様もただでは済まない。伯爵家の後継者が駆け落ちなんかしたら、その相手が誘拐したとして闇に葬り去られることもあるのよ。そうなってもいいの?」
「いいわけないじゃない!! 何よ、それ……ロイは何も悪くないのに……」
「そう思うなら、尚のこと手順を踏むしかないわ。
国内で暮らしたいならそうするしかない。そもそも体面を重視する貴族は平民との結婚を歓迎しない。どんなに優秀でもこの国では未だに血統が優先されるから。
「全く……そんなに想う相手がいたのなら、何で相談しなかったんだよ?」
「だって!! 相談に言ったけれど話を聞かなかったのはそっちじゃない!!」
「はぁ? じゃ、この前公爵家に押しかけて来たのって……」
「相談しに行ったのよ! なのに前触れもないとか言って取り合ってもくれないし……お姉様だってそうよ!」
あの時訪ねてきたのはそういうことだったのか。でも……
「それは仕方ないわよ。今までのあなたのやって来たことが問題ばかりだったのだから。どうしてもというなら前触れを出せばよかったのよ。事前に伺いを立ててくれたら追い返えしたりはしなかったわ」
せめて正規の手順を、それも普通に手紙をくれたら済んだ話だ。
「だって……前触れの出し方なんて……知らなかったんだもの……」
「え?」
「はぁあ?」
今、物凄く意外なことを聞いた気がした。思わずミレーヌの顔をまじまじと見つめてしまった。
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