『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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 オレリア様がセレン様を諦めざるを得ない状況になってから、五年が経ちました。その後、あのお二人がこのバズレールの地を踏むことはなく、表面上の両国は穏やかな関係を維持していました。
 最初はあの術の事でフェローから苦情が来るのではないかと、私は不安で仕方ありませんでした。マリアンヌ様に聞くと、あの後で国王陛下から苦情が来たそうですが、王族として節度ある振る舞いをしていれば問題はない事、同じ術をかけたジルベール様やマリアンヌ様、ルーベルクのアデライン様とオーブリー様が痛みに悩まされる事はないと伝えると、それ以上は何も言えなかったようです。ジルベール様は、我儘が過ぎるからで、これで驕慢な性格を矯正出来てよかったではないかと伝えたのだとか。
 またあの後でルーベルクのお二人がフェローを訪問されましたが、その間に痛みを訴える事はなかったのですよね。フェローの二人にしか術がかかっていないので当然なのですが、そんな事は私達しか知らない事なので、フェロー国としてはそれ以上抗議すれば二人の名に傷がつくと思ったのか、それ以上は何も言わなかったそうです。


 あれから四年間、私達は領民や他国と協力して魔獣討伐に精を出しました。また一方で、魔獣が侵入出来ないような城壁や仕掛けを作り、街道の整備を進め、魔獣討伐の部隊の強化をするなどして、結界がなくても暮らしていけるように整えたのです。そして今から一年前、ジルベール様が治めるようになってから五年目に、セレン様の約束通り結界を解除しました。

「まさか、本当に実現するとはな…」
「これもジルベール様や側近、何よりも領民の努力と協力があっての事です」
「いや、セレン殿が魔獣を抑えてくれたおかげだ。それはなければ、五十年かかってもここまで進められたかどうか…」
「全くですな。結界がなければ、工事一つもままならなかったのですから」

 ジルベール様やセレン様、側近の皆様も感慨深い思いでこれまでの日々を振り返っていました。結界を解除した後はやはり魔獣の被害が領内のあちこちで出ましたが、それも想定内で、あちこちに魔獣討伐の実績がある部隊を送ってあったため、被害は最小限に抑えられたと思います。




 そして今…

「ルネ、ここにいたのか」
「セレン様」

 かれこれ六年の歳月を過ごした自室を眺めていると、セレン様が相変わらず甘い声色で私の名を呼びました。あれからも私達はレリアやリアさん、ルドさんと一緒に暮らしていましたが、今日、私達はセレン様の生まれ育った世界に旅立ちます。

 この五年間、セレン様はリアさんやルドさんと元の世界に戻る方法をずっと探していました。セレン様が言うには、三人の力はこの世界では協力過ぎて争いの種になるので、出来る事なら元の世界に戻った方がいいのだそうです。
 その事はジルベール様達にも相談していて、ジルベール様の協力でフェローの古文書なども調べることが出来ました。そして…逆召喚という、呼び出した人を元の世界に戻すための魔術を見つけたのです。

「もうお別れは済んだ?」

 異世界に旅立つのは、この六年を過ごした私達の家にある小さな庭からです。ここにリアさんが移転の術式を構築してくれたのです。その為数日前から私は、ジルベール様やマリアンヌ様達とお別れの挨拶のためにあちこち奔走していました。

「ええ。名残惜しいですが…セレン様は?」
「私も別れと、今後についての話し合いは済ませてきたよ。ジルベール殿がいらっしゃるから問題ないだろう」
「そうですか。あの…フェローの結界は…」
「あちらも、今後五年は結界が維持出来るようにしてきたから大丈夫だ。その間にジルベール殿がフェローに魔獣討伐などのノウハウを教授されるそうだ。この国のやり方を真似るだけなら、五年もかからないだろう」
「そう、ですね」

 私達は試行錯誤しながら五年かけて結界の不要な国を作り上げましたが、そのノウハウを実践するだけなら確かに時間はかからないでしょう。

「ま、フェローに関してはあの王と王太子次第かな。余計な欲をかかなければ成し遂げるだろうよ」

 相変わらず彼らとセレン様の間には深くて埋める事の出来ない溝があり、それは結局埋まる事はありませんでした。でも、それも今日で終わりです。

「セレン―!ルネ―!そろそろ行くよ!」

 異世界に向かう術は、リアさんによってすっかり出来上がっていました。実はリアさん、既に一度元の世界に戻って、私達が戻っても困らない様に、色々準備をして下さったのですよね。聖獣でもあるリアさんの言葉はセレン様の国では神の言葉に等しいそうで、向こうでは私達を迎える準備はすっかり出来上がっているのだとか。そして今日は、向こうの世界でも私達が迷わずに辿り着けるようにと、召喚の儀を行ってくれているそうです。

「ルネ、心配しないで。向こうに戻ってもあなたは私が守るから」
「セレン様…」

 不安がないとは言い切れませんが…この世界にいる限り、セレン様達はその力を手に入れようとする者達に狙われ続けます。これまでも何度か、非常に際どい場面もあって、私も攫われそうになったことがありました。この世界にいる限り安住の地はない、そう結論づけた皆さんは、元の世界に戻る事にしたのです。それには私と…ルドさんの番という伴侶のようなものになったレリアも一緒です。
 それともう一つ。結婚してから五年経った私達には、未だに子が出来ません。リアさん曰く、違う世界の者同士だから無理なのだろうとの事ですが、セレン様の世界に行けばもしかしたら何とかなるかもしれないのだそうです。あちらの方が魔術は発達しているので、もしかしたら何か手が見つかるのではないかと。私が向こうの世界に行こうと思えたのは、その事が一番の理由でした。

「行くよ、セレン。魔力の流れは今日が最適なんだ。これを逃したら十年後だからね」
「わかっているよ、リア。さ、ルネ、離れ離れにならない様にね」

 そう言ってセレン様が、私をその腕の中にすっぽりと包み込むように抱きしめました。私はその腕の力強さに身を委ねると、光が私達を取り囲むように集まり始めました。不安がないと言えば嘘になりますが、セレン様がいて、リアさんがいて、レリアもルドさんも一緒です。これまでの六年間の絆があれば、きっとこれからも大丈夫でしょう。

「さ、私達の祝いの門出だ」

 セレン様の言葉を合図に、私達は未知の旅路へと踏み出したのでした。


   【完】




- - - - -
ここまで読んで下さってありがとうございました。
もう少し大きな話になる予定だったのですが、力不足で不発に終わった感じが否めません。
もふもふが思ったほど描けなかったのも心残りです…
このまま続ける事も考えましたが、だらけそうな予感満載なので、ここですっきり終わる事にしました。
あと一話、あの王女の話で終わりです。
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