『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
67 / 71

王族の誓い

しおりを挟む
 セザール様とオレリア様が、アデライン様が贈った腕輪をはめたのを見届けると、アデライン様はにっこりと笑みを浮かべました。招待された王族の中でも最年少のアデライン様が相手となると、オレリア様も我を押し通す事は出来ないようです。セレン様にチラチラと視線を送りながらも、それ以上の事は出来ずにいました。

「皆様とお揃いの腕輪、とっても嬉しいですわ」
「え、ええ…」
「そうですね。ありがとうございます、アデライン様」
「いいえ、私、お姉さま達に憧れていましたの。ですからこうしてお揃いの物を身に付けられて、とても感激ですわ」

 無邪気にはしゃぐアデライン様の愛らしさに、周りにいる貴族たちも目元を緩めて微笑ましそうに見ています。すっかりこの場はアデライン様の独断場ですわね。

「そうだわ!セレン、貴方の国には腕輪におまじないをかける風習があるのですって?」

 アデライン様がパン!と手を合わせると、セレン様に向かってそう尋ねました。

「ええ、そうですね。お揃いのアクセサリーを身に付けて、誓いを立てる習慣がありますね」
「誓いを?」
「ええ、友人同士なら末永い友情を、恋人や夫婦なら永遠の愛を。私の国では王子や王女が王族としての誓いを立てていましたね」
「王族としての誓い?」
「ええ。王族として民に寄り添い、民のために尽くすと。私も王族の一人として、この身を民の幸せのために捧げると誓いを立てましたね」
「まぁ!セレン様の世界には素敵な習慣がありますのね!」
「ああ、それはいい習慣だな」

 セレン様の言葉に、アデライン様をはじめとしてジルベール様やマリアンヌ様が賛同していました。一方でセザール様とオレリア様は複雑な表情を浮かべています。彼らにとって民は自分たちに奉仕するものとの考えなので、セレン様の世界の考えが意に沿わないのでしょう。

「ねぇ、皆さま。せっかく同じ腕輪を身に付けたのですもの。私達も同じように誓いを立てません事?」

 アデライン様がいい事を思いついたと、目を輝かせてそう提案されました。

「まぁ、それは素敵ね」
「そうだな、セレン殿の世界は粋な事をされるのですね」

 ジルベール様とマリアンヌ様はすっかりやる気です。お二人はその言葉通り、民のために日々努力を重ねていらっしゃるので、その誓いは当然のものなのでしょう。
 一方でセザール様とオレリア様は微妙な表情です。心情的にはそんな誓いを立てたくないのでしょうが、それをはっきり拒否する事も憚られるのでしょう。場の雰囲気はすっかり誓いを立てる方向に向かっていて、回りの貴族たちも興味津々で王族の様子を見ているので、ここで否定的な事を言うのも気まずいでしょう。

「そうだね、それなら是非お願いしよう。セレン殿、いいだろうか?」
「ええ、構いませんよ」
「うふっ、素敵ですわ。フェローとバズレールの方々と一緒に、王族としての誓いを立てられるなんて。私、これからもっと頑張りますわ」
「アデライン様は素晴らしいですね。きっと立派な王女殿下におなりですわ」
「そうでしょうか?だったら嬉しいです」

 そうしている間にも、誓いを立てる方に話が進み、セレン様は何やら魔術を展開しました。

「私の世界の王族の誓いと同じでよろしいですか?」
「そうだね」
「それでは、腕輪をはめたまま、誓いの言葉をお一人ずつどうぞ」

 そうセレン様に促されて、王家の方々は順番にそれぞれの誓いを口にされました。ジルベール様とマリアンヌ様、アデライン様とオーブリー様、そしてジルベール様とオレリア様は、国と民のために身を賭して働くと誓いました。全員の誓いが終わると、魔法陣が一瞬眩しいほどに光を放ち、その光はそれぞれの腕輪へと吸い込まれていきました。

「あれ?腕輪が…?」
「どこに?」

 光を吸い込んだ王族の六人の腕輪は、いつの間にかその腕から消えていました。セレン様は術をかけた事で腕輪が身体と同化し、身に付けなくてもずっとその効力を持ち続けるのだと説明しました。

「じゃ、失くす心配がないわね」
「そうね。それに、目に見えなければ他の腕輪を身に付ける事も出来るし、これは便利だわ」

 アデライン様とマリアンヌ様が楽しそうに話しています。アデライン様の無邪気さのせいで、魔術がおまじないとして微笑ましい話でまとまりました。腕輪が見えないので、今の事は夢なのかと感じてしまいそうです。

 夜会も後半に入ると、まだ十五歳のアデライン様は程なくして退出されました。彼らがドアの向こうに消えると、早速オレリア様がセレン様の元にやってきました。先ほどからアデライン様がいたため、セレン様に話しかけられなかったのですよね。
しかもアデライン様がセレン様を呼び捨てにして親しく話をしているのを、険しい表情で見ていました。未成年のアデライン様にまで嫉妬するなんて、少々大人気ないと思ったのは私だけではないでしょう。

「セレン様!貴方は私の夫となる身ですわ。早く私の手を取りなさい」

 アデライン様達の登場で中断していた話を、オレリア様が再び蒸し返しました。このような人目のあるところで、妻のいる男性にそんな事を言うなんて…周りにいた貴族たちも何事かとこちらを見ています。

「おい、オレリア、この場ではよせ」
「まぁ、セザール様お兄様。だって、セレン様ったらずっとあの聖女崩れの女を側に置いているのですもの。彼は私の夫となるお方ですわ。その方に虫がつくなんて許し難いですわ」

 先ほどの王族の誓いはどこへやら…オレリア様はそんな事などすっかり忘れ、私を射殺さんばかりに憎々し気に睨みつけたのでした。


しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...