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術のかけられた腕輪
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どうやらオレリア様は正直といいますか、策略には全く向かない方のようです。腕輪の事をあっさり口にして、今は満面の笑みを浮かべています。これではこの腕輪は自分が絡んでいると言っているも同然でしょう。オレリア様の後ろでセザール様がぎょっとした表情で戸惑っていますが、その気持ちがわからなくもないと思ってしまいました。
「オレリア王女殿下、この腕輪がどうされましたか?」
オレリア様が大きな声で腕輪の事を口にしたので、セレン様も無視するわけにもいかなかったのでしょう。仕方なしという風にそう尋ねました。そう、この腕輪は建前上はジルベール様からのものと言って送ってきたのに、それをご自身で暴露してしまうなんて…でも、それほどにセレン様がこの腕輪をつけた事が、セレン様がご自身の言いなりになったと思った事がそれほどに嬉しいのでしょう。
「まぁ、そんな事、言わずと知れた事ですわ。ねぇ、セレン様、これらかセレン様は私の夫ですわ」
うっとりと、夢見る乙女のような笑みを浮かべて、歌うようにオレリア様はそうセレン様に告げました。その姿は確かに、王女の中の王女とも讃えられる麗しさと愛らしさに相応しい者でしょう。あんな笑みを向けられたら、拒否できる男性などいないのではないでしょうか。セレン様はあの腕輪の術は解除したと仰っていましたが…そんな術などなくても、あの笑みだけで男性を虜にしてしまいそうです。
「セレン様、聞こえていらっしゃいます?」
セレン様が何も反応を示さないため、オレリア様が不審に思われたのでしょうか。訝しげな表情を向けて問いかけました。セレン様が何をお考えなのかがわからず、私はふと顔をあげると…セレン様は先ほどの笑みを消し、珍しく表情をすっかり消していました。こんなセレン様は珍しいです。
「…ええ、聞こえておりますよ。オレリア王女殿下」
「え…?あの…」
二呼吸程間を置いた後、セレン様がそう答えると、オレリア様ははっきりと動揺を露わにしました。セレン様の態度が想定外だったから、でしょうか。確かに私にも今のセレン様の態度の意味がわかりません。もしかして…腕輪にかけられた術がかかって、それに抵抗しているのでしょうか…セレン様の話では、あの腕輪の術はかなり強力なものだと言っていましたし、もしかしてご本人を前にして何らかの変化があったのでしょうか。セレン様の態度に、私は一気に不安が増すのを感じました。
「…不愉快だな…」
「え?」
忌々しそうに一言そういったセレンに、オレリア様も私も戸惑いました。オレリア様にその呟きは届かなかったようですが、私の耳にははっきり聞こえたため、私は心が少し軽くなるのを感じました。
「セレン様、どうしましたの?さぁ、早く私の手を…」
そう言ってセレン様に向けてオレリア様が手を差し出しました。それはその手を取ってエスコートしろという意味でしょうか。セレン様の先ほどの呟きを聞いていないので、オレリア様の中では術が利いている方に大きく傾いているようです。しかし…
「まぁ、これはセザール様にオレリア様。探しましたわ」
「…あ、アデライン様…オーブリー様も…」
まだ十五歳ながらも美少女として有名で、しかも王族らしい威厳とオーラを持つアデライン様に急に話しかけられて、セザール様もオレリア様も戸惑っているように見えました。今日はこのお二人も参加するのはご存じでしたが、話しかけるタイミングが悪かったのでしょうね。でも、それもこちらには想定内ですが…
「久しぶりにお会い出来ましたが、今日で最後ですわね」
「え、ええ…残念ですわ」
「この前お会いした時に渡しそびれてしまったのですが…これをお渡ししたくて」
「これを、私に?」
「ええ、セザール様とオレリア様に。我が国の習慣として、相手の健康と長寿を祝ってお贈りする品ですの。是非お二人にと思って」
そう言ってアデライン様は無邪気な笑顔と共に、重厚な布に包まれた高級そうな小箱をお二人に渡しました。どうやら贈り物のようです。
「開けても?」
「ええ、是非とも。装飾品ですので、身に付けて下さると嬉しいですわ」
満面の笑みを浮かべたアデライン様に、セザール様とオレリア様は笑顔を浮かべて箱を開けました。仮にも他国の王族が、夜会の会場で直接渡す物となれば、相当に自信のあるお品だと思われたのでしょう。しかし…
「な…!」
「こ、これ、は…」
箱の中にあったのは、セレン様が腕に付けているのと同じデザインの腕輪でした。ここまで似ているなんて、私もビックリですが、それはフェローのお二人の方がずっと顕著でした。
「ふふ、素敵でしょう?我が国の名工が心を込めて作ったお品ですわ。是非お二人に」
「あ、ありがとう、ございます」
「これは邪気払いの魔除けにもなるのですよ。普段使いに出来る様なデザインにしてありますの」
「そ、そうですか」
「身に付けていると悪しき者の恨みなども跳ね返してくれるのだとか。我が国では皆が身に付けていますのよ」
無邪気にそう語るアデライン様に、フェローのお二人の顔色が段々悪くなっているように見えます。腕輪のデザインがセレン様に贈ったものと全く同じなので、何か術がかかっているのではないかと警戒しているのでしょうか。
「ああ、その腕輪ですか。私も頂きましたよ」
「ええ、私も」
腕輪を手に戸惑っているお二人に、今度はジルベール様とマリアンヌ様が左手を見せながらそう告げました。お二人の手首にも、全く同じ腕輪が輝いています。
「どうした、セザールにオレリア。せっかくアデライン姫が下さったのだ、身に付けて差し上げたらどうだ?」
まだ年若い無邪気な王女殿下を労わるように、ジルベール様がフェローのお二人にそう促しました。さすがに兄でもあるジルベール様にそう言われてしまえば、お二人も無下には出来ないようです。しかも贈り主は他国の王族、ここで断れば両国の関係にも悪影響でしょう。お二人は戸惑いをそのままに、ゆっくりとその腕輪を左手首にはめました。
「オレリア王女殿下、この腕輪がどうされましたか?」
オレリア様が大きな声で腕輪の事を口にしたので、セレン様も無視するわけにもいかなかったのでしょう。仕方なしという風にそう尋ねました。そう、この腕輪は建前上はジルベール様からのものと言って送ってきたのに、それをご自身で暴露してしまうなんて…でも、それほどにセレン様がこの腕輪をつけた事が、セレン様がご自身の言いなりになったと思った事がそれほどに嬉しいのでしょう。
「まぁ、そんな事、言わずと知れた事ですわ。ねぇ、セレン様、これらかセレン様は私の夫ですわ」
うっとりと、夢見る乙女のような笑みを浮かべて、歌うようにオレリア様はそうセレン様に告げました。その姿は確かに、王女の中の王女とも讃えられる麗しさと愛らしさに相応しい者でしょう。あんな笑みを向けられたら、拒否できる男性などいないのではないでしょうか。セレン様はあの腕輪の術は解除したと仰っていましたが…そんな術などなくても、あの笑みだけで男性を虜にしてしまいそうです。
「セレン様、聞こえていらっしゃいます?」
セレン様が何も反応を示さないため、オレリア様が不審に思われたのでしょうか。訝しげな表情を向けて問いかけました。セレン様が何をお考えなのかがわからず、私はふと顔をあげると…セレン様は先ほどの笑みを消し、珍しく表情をすっかり消していました。こんなセレン様は珍しいです。
「…ええ、聞こえておりますよ。オレリア王女殿下」
「え…?あの…」
二呼吸程間を置いた後、セレン様がそう答えると、オレリア様ははっきりと動揺を露わにしました。セレン様の態度が想定外だったから、でしょうか。確かに私にも今のセレン様の態度の意味がわかりません。もしかして…腕輪にかけられた術がかかって、それに抵抗しているのでしょうか…セレン様の話では、あの腕輪の術はかなり強力なものだと言っていましたし、もしかしてご本人を前にして何らかの変化があったのでしょうか。セレン様の態度に、私は一気に不安が増すのを感じました。
「…不愉快だな…」
「え?」
忌々しそうに一言そういったセレンに、オレリア様も私も戸惑いました。オレリア様にその呟きは届かなかったようですが、私の耳にははっきり聞こえたため、私は心が少し軽くなるのを感じました。
「セレン様、どうしましたの?さぁ、早く私の手を…」
そう言ってセレン様に向けてオレリア様が手を差し出しました。それはその手を取ってエスコートしろという意味でしょうか。セレン様の先ほどの呟きを聞いていないので、オレリア様の中では術が利いている方に大きく傾いているようです。しかし…
「まぁ、これはセザール様にオレリア様。探しましたわ」
「…あ、アデライン様…オーブリー様も…」
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「ええ、私も」
腕輪を手に戸惑っているお二人に、今度はジルベール様とマリアンヌ様が左手を見せながらそう告げました。お二人の手首にも、全く同じ腕輪が輝いています。
「どうした、セザールにオレリア。せっかくアデライン姫が下さったのだ、身に付けて差し上げたらどうだ?」
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