『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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腕輪の正体

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 翌日、セレン様に散々構い倒された私が目を覚ますと、既にお昼近くでした。休暇も残り一日、明日にはあのフェローのお二人も帰国され、私達の休暇も終わりです。ようやくこの爛れたと言いますか、セレン様に構い倒され、レリアに生温かい視線を向けられる日々も終わりです。

「ルネ、あの文官の正体がわかったよ」
「え?」
「昨日来たあの文官だよ」
「ジルベール様の…」

 湯あみを済ませ、一緒に昼食を頂くためにテーブルに着いた私に、セレン様がそう話しかけました。一瞬何のことかと思ってしまいましたが…そう言えば昨日、そんな事がありましたっけ…誰のせいとは言いませんが、精も根も尽き果てていた私は、すっかり失念していました。でも、これって私のせいではない、筈です。




「それじゃ、あの文官はオレリア様が…」

 昼食を頂きながら、セレン様はあれから調べた事やわかった事を話してくれました。セレン様が放った小鳥は諜報用というだけあって、小鳥が見た景色や聞いた音はセレン様にも伝わるように出来ているそうです。それによると、あの文官はオレリア様の元に報告に行ったそうで、その後もセレン様はオレリア様たちの言動を監視しているそうです。そんな事まで出来るなんて驚きといいますか…ちょっと怖いです。もしかしてそれ、私に使っていません…よね?

「心配しなくても、ルネには使っていないから大丈夫だよ」

 思っていた事が顔に出てしまったのでしょうか、セレン様に笑顔でそう言われましたが…これって信用していいのでしょうか…何となくですが、その言葉を鵜呑みにしていいのかちょっと疑問に感じます。

「あの文官はジルベール様の部下だけど、元はフェローの者だ。あの王女に買収されたようだね」
「そんな…」
「ジルベール様を慕ってバズレールに来たのに。こうも簡単に王女に買収されるなんて困ったものだ」
「買収って…」
「でもまぁ、相手はあの王女だから、ごり押しされて断れずに…といった感じかな。向こうももう帰国しなきゃいけないから焦ったんだろうね。ジルベール様に聞いたけど、腕輪など送っていないと仰っていたよ」
「やっぱり…」

 予想通りあの腕輪はジルベール様とは無関係だったのですね。それにしても…セレン様は楽しそうですが、どこにも楽しめる要素があるとは思えません。それにあの腕輪は一体…

「あの腕輪、予想通り術がかかっているよ」
「ええっ?」
「ルネが嫌な感じがしたというのは間違っていなかったね」
「そう、ですか…」

 どんな術がかかっているのかがわからないからと、あの腕輪は未だに箱に入れっ放しですが…ここに置いておいても大丈夫なのでしょうか。

「あの腕輪は王家が所有する古の魔道具らしい。彼らの会話からするに、あれを使えば相手を自分の思い通りに操る事が出来るそうだ」
「相手を…思い通りに?」

 そ、それってつまりは、オレリア様がセレン様を言いなりにするために、という事でしょうか。そんな物騒で得体の知れない物をセレン様に使おうという神経も理解できませんが、それ以上にセレン様への執着の度合いがドン引きレベルで鳥肌が立ってしまいました。

「私をフェローに連れて帰るのが、彼らの今回の訪問の真の目的なんだろうね。バズレールで魔獣の被害が収まっているし、ジルベール様との関係も問題ないから、私を使えると思ったんだろう」
「そんな…一度はセレン様を殺そうとしたのに…」
「彼らは自分達が望んだ事は何でも適うのが当然と考えているからね」
「それは…でも、どうするんですか?あの腕輪も…」
「そうだね…せっかくだから彼らの歌に合わせて踊ってみるのもありかな?」
「えええっ?」
「まぁ、こんなおもちゃで私をどうにかできると思っているなんて、甘く見られたものだけどね」

 そう言ってセレン様はあの腕輪を弄んでいます。でも…

「セレン様、それ、触ったら…!」

 そうです、あの腕輪には何か術がかけられていると言ったのはセレン様です。だったらそんなものを手にしたら…

「ああ、大丈夫だよ。この腕輪はオレリア王女に従うように術がかけられているけど、王女は魔力がないに等しい。だからその術も殆ど効果がないんだ。まぁ、魔力がない者なら従ってしまうだろうけどね」
「魔力が?」
「ああ、一般的に術というのは魔力が強い者の方がかける力も強くなる。だから自分より力のある者に術をかける事は出来ないんだよ」
「じゃ…この腕輪は…」
「私やルネが触っても術にはかからないから安心して」
「そう、ですか…よかった…」

 セレン様に害がないと言われて、私はホッと息を吐きました。物騒な腕輪とオレリア様のセットに神経質になっていたようです。レリアもいるからと私が寝ている間にセレン様が解呪して下さったそうで、今は何の問題もないそうです。

「せっかくだから、この腕輪を使ってお礼をしないとね」
「何をするおつもりですか?」
「う~ん、そうだねぇ…今回はジルベール様に相談、かな?」

 どうせなら有効活用した方がいいだろう?と、笑顔で何やら企んでいるように見えるセレン様だったけれど、詳しい事はまだ決まっていないからと教えてはくれませんでした。でも、一つだけわかっていることがあります。それはセレン様もジルベール様も、このチャンスを逃す気はない、という事です。
 奇しくも今夜は彼らの帰国前の夜会です。参加する予定はなかったのですが…急遽参加する事になったと私が知らされたのはその日の午後のお茶の時間が過ぎた頃で、私は急ピッチで夜会に参加するべく準備に追われるのでした。


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