『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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騒ぎの後

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 セザール様とオレリア様がいなくなった後、夜会は恙なく終わりました。どうやらジルベール様にはあのお二人の態度は想定内だったらしく、むしろ騒ぎを起こしてくれた事で彼らとフェローの評判を下げるという目的は達成できたとお喜びだったそうです。
 まぁ、マリアンヌ様に聞いた話では、彼らや国王陛下達は、容姿が人並みのジルベール様やマリアンヌ様を長年小馬鹿にしていたそうで、彼らの態度に憤りながらもいずれ王になれば黙らせることが出来ると耐え忍んでいたのだとか。
 そんな中、マリアンヌ様が流産してしまい、お二人は失意の中で過ごしていたのですが、彼らはその時も無神経な言動を繰り返したため、完全に彼らを見限ったそうです。タイミングよくそこにセレン様が現れたため、王国を捨てる決心をされたのだと聞いています。

「これでオレリアは益々婚期が遠ざかるだろう」
「そうですわね、あれだけ人前で騒ぎを、それも驕慢さを露わにしては、縁談を持ち込む者もいないでしょう」
「水面下で打診をしていた話も、今回の件で全て断られたよ」
「まぁ、熱心なお話もありましたのに、残念ですわ」
「見た目だけはいいからな。だが、中身があれでは無理だと言われてしまったよ」

 オレリア様の事をジルベール様とマリアンヌ様は嬉々として話題にされました。フェローの至宝とも謳われたオレリア様でしたが、婚期を過ぎた上に今回の振る舞いですっかりその価値を落としてしまったようです。ジルベール様はよほど腹に据えかねていたのか、こうなって大変楽しそうに見えます。マリアンヌ様を溺愛しているので、これで少しは溜飲が下がったのでしょう。

「いっそ本当に結界を解呪してくれてもよかったのだぞ?」

 ジルベール様がにこやかな表情でさらりと物騒な事を仰って、私は思わずお茶でむせそうになりました。さすがにそれは…マズくないでしょうか…

「それも考えましたが…その前に盛大に恩を売っておくのもありかと思いまして。あれで少なくとも弟君の方は考えを改めたようにも見えましたが?」
「そう、だな…確かにセザールはオレリアと一緒になって騒ぎ立てるかと思っていたが…」
「王太子になって、少しは自覚が出たのではありませんの?」
「いや、どうだか…」

 どうやらジルベール様はセザール様が少しはまともになった、とのマリアンヌ様の見解には否定的でした。

「セザールも信用は出来ないな。あいつが今回大人しかったのは、ルネ嬢に見とれていたからじゃないか?」
「確かに。オレリア様が目立っていてわかり難かったけど、視線はルネにしっかり向かっていましたものね」

 お二人の指摘に、私はあの時感じた視線を思い出しました。話しかけてこなかったので、もう私には興味がないのだと思っていましたが…

「もう結婚しちゃったのですもの。今更ルネに何か言ってくるとは思えないけど…」
「確かに。愚弟がそこまで命知らずだとは思いたくないね」

 大公ご夫妻の会話をセレン様は薄く笑みを浮かべて聞くだけで、話に加わることはありませんでしたが…その笑みに何だか危険なものを感じたのは気のせいでしょうか…私の視線に気づいたセレン様がにこりと甘い笑みを浮かべられました。

「セレン殿にルネ嬢、いちゃつくのは二人の時にしてくれ」
「でしたら、そろそろ帰ってもよろしいでしょうか?こちらは新婚なのですよ」
「ああ、すまない。配慮が足りなかったな。夜会もそろそろお開きだし、帰っていいぞ」
「ありがとうございます」

 一応夜会が終わるまではと思っていましたが、お許しを頂いたので私達はその場を辞しました。今日は遅くなるので大公宮で私達が頂いている部屋に泊まる予定です。部屋に着くと、侍女がオレリア様から手紙が届いていると告げました。何でしょうか…先ほどきっぱり拒否されていましたのに…

「……」

 着替えを済ませて湯あみをしている間に、セレン様はオレリア様からの手紙に目を通していました。私が夜着に着替えて寝室に戻ると、セレン様はソファでワインを手に軽食を頂いていました。

「ルネも食べるだろう?夕方から何も食べていなかったからお腹が空いただろう」
「え、ええ、そうですね」

 そう言えば…ドレスを着る前に少しサンドイッチなどを頂きましたが…それからはほとんど飲まず食わずだったと思い出すと同時に、私のお腹が鳴きました。私はセレン様に促されるまま隣に座ると、セレン様がぴったりとくっついてきました。うう、まだこの体勢には慣れなません…

「それで…オレリア様は、何と…」

 食事を頂きながらも、セレン様が何も仰らないので、私は痺れを切らして手紙の内容を尋ねました。いえ、何となく予想はつくのですが…

「ああ、あまり気分のいいものじゃないからルネには見せたくなかったけど…やっぱり気になる、よね?」
「…ええ」
「ルネと別れて私の夫になれと。まぁ、予想通りだよ。全く、あんな驕慢な女、好かれるのも遠慮したいのだけどね」

 ため息をつきながらセレン様は手紙を私に見せてくれました。そこにははっきりと、私との婚姻を無効にさせるから、自分の夫になってフェローに戻るように。もし自分と結婚すれば公爵位を授けると書いてありました。

「公爵って…」

 フェローでは公爵は王族の分家の位置付で、公爵になっても三代限り、四代目には伯爵位に降爵されるルールです。今は公爵家は八家のみで、次代には五家に減ります。王女は公爵にはなれないので、特例でセレン様を公爵とするとありました。これは特例中の特例ですが…

「馬鹿馬鹿しい。私が公爵位という餌に飛びつくと思われているとはね」
「セレン様、でも…フェローで王族以外が公爵になるのはとても異例です」

 そうです、公爵位と王女との結婚は、普通の男性なら喉から手が出るほどの幸運でしょう。そしてそれにふさわしいものをセレン様はお持ちです。きっとフェローでは誰も反対しないでしょう。そうした方がセレン様にとってはずっといい人生を送れる可能性も高いです。

「だからって、ルネと別れるのが条件だなんて、受け入れられないね」
「セレン様…」
「ルネ、私の全ては貴女だけのものだ。あんな見た目だけの無神経な女など、ルネの足元にも及ばないよ」

 王女殿下、それも周辺国でもフェローの至宝と呼ばれたオレリア様をそんな風に言って大丈夫なのでしょうか…それに、私にはオレリア様のような美貌も教養も品格も身分もありませんのに…

「ルネ、何を考えているか凡その見当はつくけど、貴女は自分が思う以上に価値があるよ」
「そ、そうでしょうか…」

 何でしょう?セレン様の笑顔はそのままですが…何と言いますか、目が笑っていないと言いますか、表現のしようのない圧を感じると言いますか…

「全く、貴女は自分の素晴らしさを全く理解していない」
「え?そ、そんな事は…」
「まぁいい。これからたっぷりと教えて差し上げるよ」

 そういってセレン様に押し倒された私は…恥ずかしさに気を失いたくなるほどの称賛の言葉と甘い攻めを受け、翌日自宅へ戻る際はセレン様に抱きかかえられて運ばれるという、途方もなく恥ずかしい経験をする羽目になったのでした。



 
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