『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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「セレン殿にルネ殿、ここにいたのか」

 声をかけてきたのは、元々このバズレールを治めていた元バズレール辺境伯のご子息のクロード様でした。今はカンテ伯爵としてジルベール様の補佐をしていらっしゃいますが、生まれも育ちもバズレールで、この地を治めるには必要不可欠な方です。魔獣討伐を担っていらしたのもあって、貴族ですが荒々しい感じが抜けず冒険者のような印象ですが…今日は貴族的な正装をお召しで、ぱっと見た感じは王都の貴族にも引けを取らない気品があります。

「ああ、面倒な事は避けたいからね」
「ああ、あの王族の二人か…王女様は随分お前さんにご執心らしいな。あんなにあからさまに色を合わせてくるなんざ、品がなさ過ぎるだろう」

 何と、貴族的に見えないクロード様がそんな風に仰るなんて。でも、気持ちとしては非常に納得と言いますか、同じです。先ほどからモヤモヤしていましたが…あからさま過ぎるところも気持ち悪かったのだと今自覚しました。

「確かにお綺麗な王女様だが…ルネ殿だって引けは取らねぇだろう。むしろ清らかな風情のルネ殿の方が好ましく見えるけどね」
「ふふ、ルネの良さを分かって頂けるのは嬉しいけど…」
「うわ、殺気向けるなよ。心配するな、取ろうなんて考えてねぇよ。そもそもお前さんを敵に回してもメリットがないからな」

 にやりと悪ぶった笑みを浮かべるクロード様だったけれど、彼は元より王家に対して批判的です。それはこれまでのバズレールへの王家の対応が一番の理由でしょう。魔獣で苦しむ民がいるのに、殆ど野放しだったのですから。王家としては他国から押し付けられた手に負えない土地でしかなく、不良債権のようなものです。それもあってバズレールからの騎士や医師の派遣、対策に係る費用の要請は殆ど無視されてきたので、この地の多くの方は王家への忠誠心も薄く、むしろ独立精神旺盛なのです。

「王家はお前さんを連れて帰りたいんだろう?どうするんだ?」
「行くわけがないだろう?こっちは抹殺されかけたんだぞ」
「だよなぁ。でもあいつらは自分たちの都合の悪い事はきれいさっぱり忘れる便利な頭の持ち主だ。簡単に諦めるとは思えないな」
「そこは否定出来ないね」

 ざっくばらんなクロード様相手だと、セレン様も随分砕けた物言いになるのですが、なんだかクロード様と話をする時のセレン様は楽しそうです。気を負う必要がないからでしょうか。

「しっかし、王家も馬鹿だよなぁ。聖女を召喚しようとしたら来たのは男、しかも聖女なんかとは似ても似つかない魔王だったんだからな」
「…随分な言い草だね」
「ははっ!怒るなって、これでも褒めてるんだ。お前さん、その気になりゃあの国くらい簡単に滅ぼせるんだろ?」
「…さぁね」
「うわ、ご謙遜だねぇ」

 セレン様は呆れた表情を隠しもしませんが、クロード様は気を悪くされた風もありませんでした。見た目は貴公子と冒険者と言った感じのお二人ですが、セレン様はクロード様には気を許していらっしゃるのですよね。裏表のないクロード様だからでしょうか。
 それにしても…セレン様が国を滅ぼすだなんて…まだセレン様の魔術を全て見たわけではありませんが、どれくらいの事が出来るのか、私には想像も出来ません。しかもリアさんもいるのです。リアさんは聖獣と呼ばれ、セレン様の世界では信仰の対象になるほどの存在らしいので、リアさんが一緒なら敵なしなのかもしれません。

「ああ、どうやら見つかったらしいぞ」

 そういってクロード様が顎をしゃくるのでそちらの方をチラと見ると、オレリア様がこちらに真っすぐに向かってくるのがみえました。後ろにはセザール様の姿も見えます。

「このまま帰りたいんだけどね」
「そりゃあ、相手が許さんだろ」

 こっそりと、不敬な事を小声で話す二人でしたが、私も気持ちとしては同じでした。合えば面倒な事になるのはわかりきっています。気が重くなるのを自覚しながらも、これから来る嵐を迎え撃つしかありません。

「セレン様!」

 いくら夜会とは言え、大きな声でセレン様を呼ぶオレリア様。無邪気な王女様というにはいささか無理があるというものです。ご本人は満面の笑顔ですが、セレン様はというと欠片も柔らかさがない表情になりました。あからさま過ぎではないでしょうか…ひやひやする私の横で、クロード様はにやにやと人の悪い笑みを浮かべていて、これから起きる事を楽しもうと思っているのは明らかです。

「お会いしとうございましたわ」

 抱きつかんばかりの勢いで向かってきたオレリア様でしたが、セレン様と後三歩の距離で急に立ち止まってしまわれました。オレリア様が驚きの表情を浮かべていますが…直ぐに理由はわかりました。セレン様が私の腰に回していた手を更に強めたからで、今はぴったりとくっついている状態です。私とオレリア様の間にセレン様が入る形になっていて、見ようによってはオレリア様から私を守ろうとしているようにも見えます。

「これはオレリア王女殿下、ようこそバズレールへ」

 嬉しさの欠片も滲ませない、極めて事務的な挨拶を返したセレン様に、オレリア様もそれ以上は近づけないようです。もしかして…歓迎される、なんてお考えだったわけじゃない、ですよね?父君でもある国王陛下がセレン様にした事をもうお忘れでしょうか?

「セレン様…あ、あの…その女性は…」

 セレン様が私にぴったりとくっついて離さないので、オレリア様は不快に思いながらもそれを現すのは不味いとの自覚はおありのようで、戸惑いながらもそう尋ねて来られました。

「ああ、彼女は私の妻ですが?」
「つ、妻っ?!」
「それが何か?」

 オレリア様の驚く姿もセレン様は気にしないようです。だから何だと言わんばかりですが、王族相手にいいのでしょうか…私がどんな表情をすればいいのかと悩んでいると、別の声が入り込んできました。

「お前…まさか、ルネ…か…」

 セザール様が茫然と言った風に、その場に立ち尽くしていました。

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