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夫たちの雑談
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その後、コーベール公爵やエドガール殿は、崖を崩した後始末の準備のために出て行って、今はジルベール殿と二人だ。この地に来てからは彼とは一層親密な付き合いになった。ルネがマリアンヌ様に気に入られて話し相手として出仕するようになったのもあり、その間私が彼のもとに顔を出すようになったのもある。
だが、それだけではない。どうも彼は…私と同類なのだ。
「それにしても、ルネ嬢の変わり様は目を瞠るばかりだね」
やはり二人きりになるとこの話になるか…だが、確かに周りが注目するのも仕方ないだろう。あんなにルネの姿が変わるとは、私でも予測できなかったのだから。
「そうですね。私も、想定外でしたよ」
「そうなのか?セレン殿の事だから、予め予測していたと思っていたよ」
「私も万能ではありませんよ。まぁ、肌や髪の艶が戻れば見違えるとは思っていましたが」
そう、ルネの美しさはこれまでの悲惨な環境のせいですっかり損なわれていたが、十分な栄養と休養を与えれば、彼女本来の美しさが現れてきた。
「この一年で随分と女性らしく、年相応になったとは思っていたけど…」
「そうですね」
「ああ、そんなに警戒しないで。ルネ嬢に興味を持つことはないからね。私はマリアンヌ様一筋だし」
「わかっておりますよ。ジルベール殿のマリアンヌ様への愛情は重苦しいほどですからね」
そう、彼に関してはあまり心配していない。彼は重度のマリアンヌ様病と言えるだろう。本人は隠しているし、それに気づく者は少ないが。私が知っているのは、同類だからだ。
「だが、あれではセザールが黙っていないだろう。別の意味でオレリアもだが」
「そう、ですかねぇ…ですがセザール殿下は平民だとルネを見下していらした。そんな彼が今更ルネに興味を持つでしょうか?」
「あいつは今、ジオネ公爵令嬢と婚約している。彼女も見目麗しいが…美しいというよりは愛らしいといった感じだったはず」
「なるほど」
「その点、ルネ嬢は見た目が愛らしく身体つきも女性らしい。あいつの好みそのままだ。そして、一時は婚約者だったのだ。あいつが変な勘違いをしなければいいのだが…」
「変な勘違いとは?」
「未だに自分を想っていると、そういう類のものだ」
「まさか…」
ジルベール殿の話は、呆れるほどに身勝手なものだった。あんなにルネを虐げていたのだ、好かれているなどと思うなどあり得ないだろう。ルネだってあいつを前にすると表情が強張って警戒を露わにしていたのだから。
「あいつは自意識過剰どころか過多だからな。世の女性は皆、自分に惹かれると思い込んでいる節がある」
「ああ、なるほど…」
確かに見た目はいいし、第二王子という地位にもあるだ。ジルベール殿が王太子の座を辞した今、間違いなく彼が王太子だ。その見た目と地位に群がる女性は多いだろうし、一層驕慢になっている可能性はある。
「それに、あれはいずれ国王になる。そうなれば側妃も認められるから、婚約者の聖力不足を誤魔化すためにもルネ嬢を側に置くメリットは大きいだろ」
確かにあの国では国王となれば側妃が認められるから、ルネを側妃として手元に置こうと考えてもおかしくはないだろう。婚約者の令嬢は聖女と呼ばれているが、実態は名ばかりで聖力は殆どないという。ルネを手に入れれば結界の維持は容易だし、婚約者を聖女として遇するにも好都合なのだろう。あの自意識過剰な子供は見た目と身分に縛られて、本物と張りぼての違いもわからないのだから。
「ルネに手を出したら、その時点で制裁を科しますよ」
「セレン殿…さすがにそれは…」
「ご心配なく。魔術を使ってわからないようにしますから」
「…何をするか、聞いても?」
「そうですねぇ…」
一応実弟ではあるから、心配になったらしい。ジルベール殿が不安を隠しきれずにそう問うてきたので、いくつかの制裁例をあげると益々顔色を青くした。だが、私の可愛いルネに手を出してただで済むなどと思われては困る。
「ご心配なく。彼にまだ自制心が残っていれば問題ありませんよ。普通、他人の妻になった女性に手を出すなど、あり得ないでしょう?」
「そ、そうだな…」
「それに、十分に優しい制裁ですよ。もしマリアンヌ様に手を出す男が現れたら、これで済ませますか?」
「いや、それはない。そんな生温い方法で済ませるものか!」
「そういう事です」
「…そう、だな…」
ご自身を例にした場合、この制裁がどれほど優しいものか理解して頂けたようだ。彼だってマリアンヌ様に虫がついたら全力で潰す気満々なのだ。彼の場合、一族郎党まとめて制裁しそうだが、私はそこまではしないのだから優しい方だろう。
「オレリア王女殿下も、分を弁えて下さるといいのですけどね」
そう、私に色目を使ってきたあの女狐も今回の不安材料だ。自分が一番だと信じて疑わないが、私から見ればそれほど大層なものには思えない。見た目だけならルネやリアに遠く及ばないし、元の世界には彼女以上の美貌と、何よりも知性も品格も人格も上の女性はいくらでもいたのだ。自国の中で天狗になっているだけで、他国に行けばあの鼻っ柱を保っていられるかどうか…
「オレリアの事は心配いらないよ。彼女には一つ土産を用意しておいたからね」
そう言ってジルベール殿がにっこりと、この場にそぐわない笑顔で答えた。これは何か企んでいるらしい。何をと思ったが答える気はないらしくはぐらかされたから、それならその時のお楽しみにとっておこう。彼女にはマリアンヌ様が随分お世話になったというから、彼としては弟よりも妹への怒りが強いのだろう。まぁ、兄弟間の事は手出し無用だから、彼らの事は彼らに任せるのが一番だ。
「夜会での彼らの反応が楽しみだな」
「そうですね」
そう、彼らとの一年ぶりの再開はあの夜会になるだろう。私はジルベール殿の補佐官だが常に側に控えている必要はないし、私が大公宮にいればオレリア王女が騒ぎ出すからと、夜会までは出仕しなくていいとの言質を頂いた。その代わり崖の方を頼むとも。そちらは崖を崩せば後はする事もないだろうから、休暇を延長して貰えた。そういう事であれば遠慮なくゆっくりさせてもらおう。まだまだルネを可愛がり足りないのだから。
だが、それだけではない。どうも彼は…私と同類なのだ。
「それにしても、ルネ嬢の変わり様は目を瞠るばかりだね」
やはり二人きりになるとこの話になるか…だが、確かに周りが注目するのも仕方ないだろう。あんなにルネの姿が変わるとは、私でも予測できなかったのだから。
「そうですね。私も、想定外でしたよ」
「そうなのか?セレン殿の事だから、予め予測していたと思っていたよ」
「私も万能ではありませんよ。まぁ、肌や髪の艶が戻れば見違えるとは思っていましたが」
そう、ルネの美しさはこれまでの悲惨な環境のせいですっかり損なわれていたが、十分な栄養と休養を与えれば、彼女本来の美しさが現れてきた。
「この一年で随分と女性らしく、年相応になったとは思っていたけど…」
「そうですね」
「ああ、そんなに警戒しないで。ルネ嬢に興味を持つことはないからね。私はマリアンヌ様一筋だし」
「わかっておりますよ。ジルベール殿のマリアンヌ様への愛情は重苦しいほどですからね」
そう、彼に関してはあまり心配していない。彼は重度のマリアンヌ様病と言えるだろう。本人は隠しているし、それに気づく者は少ないが。私が知っているのは、同類だからだ。
「だが、あれではセザールが黙っていないだろう。別の意味でオレリアもだが」
「そう、ですかねぇ…ですがセザール殿下は平民だとルネを見下していらした。そんな彼が今更ルネに興味を持つでしょうか?」
「あいつは今、ジオネ公爵令嬢と婚約している。彼女も見目麗しいが…美しいというよりは愛らしいといった感じだったはず」
「なるほど」
「その点、ルネ嬢は見た目が愛らしく身体つきも女性らしい。あいつの好みそのままだ。そして、一時は婚約者だったのだ。あいつが変な勘違いをしなければいいのだが…」
「変な勘違いとは?」
「未だに自分を想っていると、そういう類のものだ」
「まさか…」
ジルベール殿の話は、呆れるほどに身勝手なものだった。あんなにルネを虐げていたのだ、好かれているなどと思うなどあり得ないだろう。ルネだってあいつを前にすると表情が強張って警戒を露わにしていたのだから。
「あいつは自意識過剰どころか過多だからな。世の女性は皆、自分に惹かれると思い込んでいる節がある」
「ああ、なるほど…」
確かに見た目はいいし、第二王子という地位にもあるだ。ジルベール殿が王太子の座を辞した今、間違いなく彼が王太子だ。その見た目と地位に群がる女性は多いだろうし、一層驕慢になっている可能性はある。
「それに、あれはいずれ国王になる。そうなれば側妃も認められるから、婚約者の聖力不足を誤魔化すためにもルネ嬢を側に置くメリットは大きいだろ」
確かにあの国では国王となれば側妃が認められるから、ルネを側妃として手元に置こうと考えてもおかしくはないだろう。婚約者の令嬢は聖女と呼ばれているが、実態は名ばかりで聖力は殆どないという。ルネを手に入れれば結界の維持は容易だし、婚約者を聖女として遇するにも好都合なのだろう。あの自意識過剰な子供は見た目と身分に縛られて、本物と張りぼての違いもわからないのだから。
「ルネに手を出したら、その時点で制裁を科しますよ」
「セレン殿…さすがにそれは…」
「ご心配なく。魔術を使ってわからないようにしますから」
「…何をするか、聞いても?」
「そうですねぇ…」
一応実弟ではあるから、心配になったらしい。ジルベール殿が不安を隠しきれずにそう問うてきたので、いくつかの制裁例をあげると益々顔色を青くした。だが、私の可愛いルネに手を出してただで済むなどと思われては困る。
「ご心配なく。彼にまだ自制心が残っていれば問題ありませんよ。普通、他人の妻になった女性に手を出すなど、あり得ないでしょう?」
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「それに、十分に優しい制裁ですよ。もしマリアンヌ様に手を出す男が現れたら、これで済ませますか?」
「いや、それはない。そんな生温い方法で済ませるものか!」
「そういう事です」
「…そう、だな…」
ご自身を例にした場合、この制裁がどれほど優しいものか理解して頂けたようだ。彼だってマリアンヌ様に虫がついたら全力で潰す気満々なのだ。彼の場合、一族郎党まとめて制裁しそうだが、私はそこまではしないのだから優しい方だろう。
「オレリア王女殿下も、分を弁えて下さるといいのですけどね」
そう、私に色目を使ってきたあの女狐も今回の不安材料だ。自分が一番だと信じて疑わないが、私から見ればそれほど大層なものには思えない。見た目だけならルネやリアに遠く及ばないし、元の世界には彼女以上の美貌と、何よりも知性も品格も人格も上の女性はいくらでもいたのだ。自国の中で天狗になっているだけで、他国に行けばあの鼻っ柱を保っていられるかどうか…
「オレリアの事は心配いらないよ。彼女には一つ土産を用意しておいたからね」
そう言ってジルベール殿がにっこりと、この場にそぐわない笑顔で答えた。これは何か企んでいるらしい。何をと思ったが答える気はないらしくはぐらかされたから、それならその時のお楽しみにとっておこう。彼女にはマリアンヌ様が随分お世話になったというから、彼としては弟よりも妹への怒りが強いのだろう。まぁ、兄弟間の事は手出し無用だから、彼らの事は彼らに任せるのが一番だ。
「夜会での彼らの反応が楽しみだな」
「そうですね」
そう、彼らとの一年ぶりの再開はあの夜会になるだろう。私はジルベール殿の補佐官だが常に側に控えている必要はないし、私が大公宮にいればオレリア王女が騒ぎ出すからと、夜会までは出仕しなくていいとの言質を頂いた。その代わり崖の方を頼むとも。そちらは崖を崩せば後はする事もないだろうから、休暇を延長して貰えた。そういう事であれば遠慮なくゆっくりさせてもらおう。まだまだルネを可愛がり足りないのだから。
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