『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
53 / 71

同類の夫を持つ者同士

しおりを挟む
「本当に…随分と変わってしまったわね」

 あの後、セレン様達は今後の対応を話し合う事になったので、私とマリアンヌ様はジルベール様の執務室を辞して、マリアンヌ様の私室に移動しました。そうなれば、話は私の体型の変化になるのは必然でしょう。こんな事、普通ならあり得ないのですから…

「それで、一体どうしてこんな事に?」

 侍女たちがお茶とお菓子を出して下がると、マリアンヌ様がキラキラした目で本題に切り込みました。好奇心を隠さない、とっても楽しそうな笑顔に、私は逃げられない事を悟りました。う~ん、これは説明するまで…いえ、納得頂けるまで放してもらえないパターンですわね…仕方なく私は、リアさんとセレン様から聞いた話だけどと前置きして、こうなった理由を話しました。



「なるほどね。不思議なお話だけど、セレン殿がそう仰るのなら、そうなのでしょうね」

 マリアンヌ様も納得した訳ではないでしょうが、他の理由も思い浮かばないのでしょう。それに、それなりに辻褄が合っているので、それで納得して頂けたようです。一方の私は、初夜の事を話すことになったため、恥ずかしくて顔から火が出そうです。

「それにしても…セレン殿、婚姻は形だけと言っていたのに…まさか無理やり、なんて事はなかったわよね?」
「え?あ、そ、それは…」

 直ぐに違うと言えなかったのは、そうなった原因が私だったからです。その経緯は誰にも知られたくない黒歴史ですから。それにセレン様も最後までは…と仰っていたのです。あれってやっぱり私が強請った…という事になるのでしょうね…うう、思い出すと恥ずかしくて死にたくなるので、意識しないようにしていましたが…

「どうなの、ルネ?もしそうならセレン殿と言えども…」
「あ、あの、大丈夫です!」

 何やら剣呑な雰囲気になったマリアンヌ様に、私は慌てて否定しました。本当にセレン様が無理強いした訳ではないのです。

「そう?でも…もし何かあったら直ぐに言うのよ?ルネったら優しいから無体な事をされても我慢しちゃうから心配なのよ」
「そんな事は…」
「セザール様の時はそうだったじゃない。それに…セレン殿ってジルベール様と同類っぽいし」
「ジルベール様が…同類?」

 どういう事でしょうか?確かに先ほどの執務室では、お二人は妙に気が合いそうな感じがしましたが…

「ここだけの話、私、ジルベール様に外堀も内堀も埋められたのよ」
「ええっ?まさか…」
「本当よ、子供の頃から何かと絡んできたんだけど…私は興味なかったし、そもそも王太子妃なんて絶対に無理だと思っていたから、近づかないようにしていたのよ。なのに…」

 そこまで言うとマリアンヌ様は、苦々しい表情を浮かべました。ど、どうやらお二人の間には、他人が知らない複雑な事情がおありのようです。

「王太子妃候補は何人いたけど、次々に辞退していって…最後には誰も残らなかったの」
「ええ?」
「その頃にはジルベール様に釣り合う家格の令嬢は私だけになっていて、それで…」

 それって…どうやらジルベール様はマリアンヌ様を娶るために色々と裏工作をなさった、という事ですか。穏やかな表情のジルベール様ですが…そんな一面がおありだったとは意外です。

「そういう意味ではセレン殿も同類よね」
「セレン様が?」
「そうよ。って…ルネ、自覚ないの?」
「え?自覚、ですか?」
「そうよ!彼ったら魔力暴走を理由に、ずっとルネを囲っていたじゃない。そのままバズレールまで連れてきて、こっちでも一緒に暮らして、気が付けば結婚もしちゃって…」
「は、はぁ…」

 確かに、そう言われてみると、そんな風にも見えますが…でも、私はマリアンヌ様のような高位貴族の出ではありませんし、たまたま聖力があったから、ではないでしょうか…

「わかっていないわね、ルネったら。セレン殿は最初っからあなたに執着していたわよ」
「まさか…」
「そうよ。でもまぁ、気持ちはわかるわ。ルネは優しくて謙虚で、自我の強いご令嬢とは正反対ですもの。セレン殿もあの見た目なら随分女性に騒がれたでしょうから、ルネみたいな子に惹かれるのもわかるわ」

 そういうものでしょうか…未だにどうしてセレン様が私を…と思わなくもないのですが…でも、確かにセレン様は元の世界でも女性に迫られて大変だったと仰っていましたから、私のような地味で大人しい方が気楽かもしれません。

「ああ、そう、ルネ。これを羽織っておきなさい」
「え?」

 手渡されたのは、マリアンヌ様のショールでした。一体どういう事でしょうか…

「首元、隠しておきなさい」
「首元?」
「キスマークよ」
「はぁ?」
「全く…独占欲丸出しよね。牽制の意味もあるんだろうけど…でも、そんなもの見せられて不埒な事を考えるバカも出てくるかもしれないわ」
「な…!」
(何て事してくれるんですか、セレン様!!!)

 マリアンヌ様がそう仰るという事は…ここに来るまでにも皆さんに見られたという事、ですよね…

「全く、彼もジルベール様と似た者同士ね」
「え?じゃ、マリアンヌ様も?」
「ええ、何度もやられたわよ。それで喧嘩になった事なんか数えきれないほどよ。でも懲りないのよねぇ…」
「はぁ…」

 あの聖人君主のように見えるジルベール様が…意外と言いますか、何となく納得と言いますか…

「あれは病気だからきっと治らないわ。ルネも首が隠れるドレス、何着か持っていた方がいいわよ」

 しみじみと、ため息交じりにそうアドバイスして下さるマリアンヌ様に、穏やかな笑顔に隠れたジルベール様の闇を見たような気がしました。

しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。 日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。 しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。 続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574 完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。 おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。 合わせてお楽しみいただければと思います。

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

処理中です...