『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
50 / 71

高まる熱

しおりを挟む
ただイチャイチャしているだけで話は進みません。
苦手な方は読み飛ばしOKです。
- - - - - - 


「マリアンヌ様は中々にいい趣味をお持ちだね」

 そう言いながらセレン様が近づいてくるのを感じました。私はセレン様の姿が刺激的過ぎて、恥ずかしくて視線を上げる事が出来ません。しかし室内です、セレン様が私の元に来るなどほんの数秒で事足りてしまいました。

「さぁ、可愛い姿を見せておくれ」

 そういってセレン様は私の目線に合わせてしゃがみこまれましたが…ち、近すぎです…!そうしている間にも、セレン様の髪から雫が一つ、私の夜着の上に零れました。

「ああ、すまない。そういえば…」

 何かに気づいたらしいセレン様は、そう呟くと一歩下がりました。次の瞬間、セレン様を強い風が囲みました。風はあっという間にセレン様の周りを巡ると、次の呼吸の頃には何も残りませんでした。でも…

「セレン様…髪が…」

 そうです、濡れていたはずのセレン様の髪が、今はさらさらに乾いています。えっと…もしかしてそれって…

「ああ、魔術を使って乾かしたんだよ」
「魔術で…?!」

 それは思いがけない新発見でした。髪を魔術で一瞬で乾かせるなんて…私たちはいつも、タオルでふき取ってから自然に任せるしか出来ません。長ければ長いほど時間がかかるので、平民の女性は髪を短くしている人も多いのです。貴族は長くないと侮られるのもあって、みんな我慢しているのですが、冬などは寒くて大変なのです。そんな私も老婆のような髪をよく揶揄われていたので、短く切ってしまいたいとずっと思っていたのですが…

「あれ?こっちでは…無理…だった、ね」
「そう、ですね」
「向こうでは誰もがやっていたから…気にしたこともなかった…すまないね、気が付かなくて」
「い、いえ…」

 謝って頂く事ではありませんが…向こうの世界では誰もって、それじゃ平民も魔術を使える、という事でしょうか…そんな私にセレン様は、元の世界では平民でも殆どの者が魔力を持っていて、火を起こしたり明りを灯したり、髪を乾かすのは当たり前だったのだと教えてくれました。
 
「なんて便利な…」
「ああ、気付かずに申し訳ない。今度からはルネの髪は私が乾かそう」
「いえ…そんな姿をお見せするのは…」
「どうして?夫婦になったのだから問題ないだろう?」
「…ぅ」

 至近距離で甘い笑顔でそう言われてしまうと…否が応でも結婚した事を突きつけられた気がします。という事は…やっぱりこれから先の事は…

「さ、座りこんでいては風邪をひいてしまうよ。それに、せっかくの可愛い姿を見せて欲しいな」
「で、でも…」

 どうやらまた話が戻ってしまいました。うう、こんな貧弱な身体を晒すだなんて…一生の恥、かもしれません…あまりの貧相さに幻滅されるのは確実ではないでしょうか…一日でお気持ちが離れてしまったら、立ち直れそうにないのですが…

「…ああ、なんて愛らしいんだ…」

 もう絶望的な気持ちのまま、促されるままにベッドに腰かけた私でしたが…セレン様の口から出た言葉は、私の予想に反して肯定的なものでした。表情も…お世辞で言っている…わけではなさそう?です。ですが…

「ああ、心配しなくても、ルネの気持ちを無視したりはしないから安心して?」
「でも…それじゃ…」

 そう言って頂けるのは嬉しいのですが、本当にいいのでしょうか…それに、レリアの言っていた事も物凄く気になります。同時に、こういう事は流れに任せるのが一番、待たせると後が大変よ、と茶目っ気たっぷりで告げられたマリアンヌ様の言葉が蘇りました。

「あ、あの…」
「じゃ、キスくらいはいいかい?」
「え?あ…はい…」

 さすがに最後までは心の準備が出来ませんが…キスなら魔力交換で何度もしていますし…問題ない、ですよね。私の返事を聞いたセレン様は、そのまま私の上に覆いかぶさってきて、私はそのままシーツに背を預けました。

「ルネ、愛しているよ…」

 掠れる声が耳に届くのと同時に、セレン様の唇が私のそれに重なると、舌がゆっくりと入り込んできました。それと同時にセレン様の魔力が伝わってきます。セレン様の魔力は温かくて心地よくて、身体の奥底まで温められる、そんな感じがするのです。今はベッドの上という事もあって、私の心臓は今までにないほどに跳ねていて、薄い夜着のせいもあってセレン様に伝わってしまいそうです。

(…ぁ…また…)

 セレン様の優しい舌の動きと流れ込んでくる魔力に、身体の奥がキュっとなるのを感じました。時々キスをしているとなるのですが…何だかもどかしいような、何かが足りないような、そんな不思議な感じがするのです。それが何なのかわかりませんが…今日はいつもよりも長くキスをしているせいか、その感覚がどんどん強くなっていきます。

「セ、セレン様…」

 強くなり過ぎたその感覚が怖くて、唇が離れた私は思わずセレン様の名を呼んでしまいました。身体の芯が熱くて…まるで聖力が不足している時のような物足りなさに襲われます。十分に魔力を貰ったはずなのに…いつもとは違う自分の身体に不安を感じて見上げると、困ったような表情のセレン様が視界に入りました。

「ルネ、これ以上は煽ってはダメだよ」
「あ、煽ってなんて…でも、身体が変で…」

 身体の奥の不思議な感じが怖いと、そう告げるとセレン様が暫く考え込みながら私を見下ろしました。その表情は何かを迷っているようにも、耐えているようにも見えます。

「それを解消する方法はあるけど…」
「だったら…」
「それは…貴女を抱く事になるよ。それに、始めたら途中では止められない。それでもいいの?

 揶揄うような声色は、これ以上はダメだと言われているのだと感じました。言われた言葉の意味は不思議な熱に囚われた私の頭にもゆっくりと降りてきました。それでも、このままこの熱を放っておく不安の方が勝りました。レリアとマリアンヌ様の顔が浮かんで、後で自分から言うくらいなら…との気持ちもあったでしょう。私は…小さく頷くと、強張っていた身体の力を抜きました。

しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。 日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。 しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。 続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574 完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。 おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。 合わせてお楽しみいただければと思います。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

処理中です...