『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
46 / 71

王都の思惑

しおりを挟む
「セレン様の魔術を…」

 マリアンヌ様の指摘はセレン様との話でも出ていたものでしたが、それでもざらりとした嫌な感覚を思えずにはいられませんでした。セレン様を亡き者にしようとしたのに、今になってその力を望むなんて…不敬とわかっていても厚かましいと思ってしまいました。

「フェロー王国の結界をセレン殿が修復したでしょう?そのお陰で被害が抑えられているから、欲が出たのでしょうね」
「そう、ですか…」

 確かにセレン様はフェロー王国を去る間際、手切れ金のような形で結界を構築し直し、これまでよりもずっと少ない力でも結界が維持出来るように作り変えたのです。この先聖力を持つ女性が減るのを見越し、複数人で維持出来るようにしたので、これからは安定して結界を維持出来る筈なのに、欲、ですか…

「魔獣討伐の成果が上がっているのもあるわね」
「でも、それはセレン様の力だけでは…」
「そう、バズレールの騎士団の力もあるけど…セレン殿の魔術でその成果は格段に上がったわ。今では魔獣を素材として売って利益が出るほどにね」

 そうです、魔獣は強いので退治するのが大変ですが、ずっと魔獣と戦ってきたバズレールの騎士団は、フェロー王国のそれに比べて格段に優れていました。そこにセレン様の魔術が加わって、今では殆ど被害を出さずに魔獣を討伐出来るようになったのです。その魔獣は素材として高値で取引されているので、バズレールの貴重な収入源になりつつあるのです。

「セレン殿の価値を、ようやく理解し始めたのでしょうね」
「でも、セレン様は…」
「セレン殿がフェローに戻ることはないだろうれど…陛下達のお考えは違うのでしょう。見返りにオレリア様を娶らせて、それなりの爵位と地位を…と考えてもおかしくないわ」
「オレリア様を?」

 思いがけないお考えに、私は思わず大きな声が出てしまいましたが…そういえばオレリア様はセレン様に強い興味をお持ちでした。離宮に突撃してくるほどに…

「オレリア様はまだ嫁ぎ先が見つからないそうよ。元より王族でないと自分には釣り合わないと仰っていた方ですものね。でも、今は打診を受けても相手の方がいい顔をなさらないそうよ。でも当然よね。あんなに臣下には嫁がないと仰っていたのですもの」
「でも、それならセレン様は…」
「セレン殿は元の世界では王族だったというし、あの麗しいお姿と比類ないお力をお持ちですもの。陛下がそれ相応の爵位と地位を与えれば及第点、という感じなのでしょう。誰からも相手にされないから必死なのかもしれないわ」

 そうでした。セレン様は元の世界では王族で、類い稀な魔術の使い手だったとリアさんが言っていました。そしてセレン様には従魔のリアさんの力もあるのです。こうなればセレン様よりも強い人など、この世界にはいないかもしれません。

「それで、ルネはどうなの?セレン殿と結婚するの?」

 にっこりと、いつも以上にいい笑顔でマリアンヌ様はそう問われました。

「どう、と言われましても…」
「まぁ、セレン殿がルネを手放す筈がないわよね」
「ええ?」
「だって、ルネったらこの一年で見違えるほど綺麗になったわ」
「そんな事は…」
「あるわよ。髪も肌も艶々だし、頬も体つきもふっくらして女性らしくなったわ。立ち居振る舞いも申し分ないし、セレン殿の隣に立っても遜色ないわよ」
「まさか…」

 あんなに素敵なセレン様の隣に立って遜色なしって…それはいくら何でも褒め過ぎだと思います。そりゃあ、骨が目立っていた頬も人並みに丸みが出てきましたし、絶壁だった胸もそれなりに大きくなりましたが…

「それにセレン殿って、ルネの事になると人が変わるもの。今回の視察だって散々渋っていたのに、ルネのためだってジルベール様が言ったらコロッと態度を変えて」
「は?」
「ルネと結婚するにはそれなりの地位と身分がないと格好がつかない、視察を無事終えたら釣り合うものを用意するとジルベール様が仰ったのよ。そうしたら…」

 まさかそんな話になっていたとは驚きでした。確かに視察に行く前、何度かルネに相応しくなりたいと仰っていました。その時はそんな必要などないのにどうして…と不思議に思っていましたが、そういう事だったのですね、納得しました。

「そんな…私こそ元は孤児で…」
「聖女は貴族も同じよ。元より王子妃になる予定だったのですもの」
「でも、それだって…」
「あれはセザール様が馬鹿だったのですわ。きっと今のルネを見たら悔しがるんじゃないかしら?王都でもルネほど清らかな女性はいないわよ」
「…」

 あれだけ私をこき下ろしていたセザール殿下が悔しがるなど、天変地異が起きてもあり得ないでしょうに。いえ、そもそももう二度とお会いしたくありませんが。

「それとも、セレン殿に不満でも?」
「まさか…!それはありませんが…」
「そう?異世界の方ですし、不安にならない?」
「それは…少しは…でも私は…」

 その点に関しては、考えても仕方のない事だと思いますが不安はあります。習慣などが違うと感じる事は少なくありません。それでも、こんなに大切に扱われた事はありませんし、セレン様の優しさもお気持ちも疑うところはありません。ただ、あんなに素敵な方なので、いつか飽きられるのでは…と思ってしまうのです。

「ルネは孤児だった事を気にしすぎるわ。確かにフェローでは身分制度が厳しかったけれど、ジルベール様はこの地では身分をうるさく言うおつもりはないの。だからもっと自信をもって欲しいわ」

 そうは言われても…昔からの習慣はそう簡単には変えられません。神殿で最初に習ったのは、従順であれ、自己主張は聖女には相応しくないという事でした。子供のころから繰り返しそう言われてきたので、急に自信を持てと言われても困ってしまいます。

「彼らは来るわよ、セレン殿を手に入れるために。だからルネ、セレン殿を奪われたくないのなら、先に籍だけでも入れてしまいなさい」
「セレン様を…」

 入籍はセレン様一人の暴走かと思っていましたが…それだけではなかったのですね。そういう事なら私にも否やはありません。今更セレン様の優しい手を失うなど、考えられないのですから…
 そんな私の気持ちをマリアンヌ様に告げたところ…その日のうちに婚姻届にサインさせられて、ジルベール様が承認してしまわれました。あまりの早業に実感がないまま、私はルネ=アルトーからルネ=アシャルティになっていました。


しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。 日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。 しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。 続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574 完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。 おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。 合わせてお楽しみいただければと思います。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

処理中です...