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結婚を急ぐ理由
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(けっこん…って…)
セレン様から求婚された私ですが、珍しいセレン様の真剣な表情に臆してしまい、思考が完全に飛んでいるのを他人事のように感じていました。人間、想定外の事が起きるとかえって冷静になる…と聞きますが、どうやら本当にその様ですね。でも…
「けっ、結婚って…」
「勿論、血の痕ではないよ?」
「そっ、それはわかっていますが…あの、私が、ですか?」
「そう言っているけど?」
「それは…セレン様と、という事で…」
「私が申し込んでいるのだから、そうなるね」
「えっと‥ど、どうして…」
「それはもちろん、ルネを愛しているからだよ」
「あ、愛してるっ?!」
思わず大きな声が出てしまいましたが…どうしてそんな事に…いえ、確かに好きだと言われてお付き合いはしていますが…あ、愛してるって…私のどこにそんな要素があったでしょうか…?見た目も貧相ですし、髪は白くて老婆のようだと言われ、目は赤くて血のようで縁起が悪いと言われ、しかも孤児で平民で、今は聖女ですらありません。それに…
「何を考えているのかは何となくわかるけど、ルネは自己評価が低すぎるよ」
「そ、そんな筈は…」
そうです。自分の価値は自分が一番わかっています。そしてさっき思った事は決して思い過ごしではないと言う事も…だってこれらはずっと言われ続けていた事なのですから。
「ルネの価値がわからない者達の戯言など気にする必要はないよ。ルネのその雪のように白い清らかな髪も、紅玉のように煌めく瞳も、真っ白で艶のある肌も、楚々とした顔立ちも、全てが私を魅了するよ」
「でも、孤児で…」
「出自はルネのせいじゃないだろう?それにルネは、王子妃教育も受けているのだろう?私の世界とはマナーが違う部分もあるからはっきりとは言えないけれど、立ち居振る舞いは十二分に淑女だよ」
「で、でも…」
「ルネが周りに不当に貶められていたから信じられないかもしれないけれど、貴女は自分が思う以上に女性としても魅力的だよ。私は変な虫が付かないか冷や冷やしているのだからね」
…それはセレン様の方ではないでしょうか…無駄に麗しくて気品も威厳もあって、しかも凄い魔術をお使いになるのです。私の方こそ、セレン様に女性が色目を使うのを見る度に不安で泣きたくなるのですから…それに、セレン様が私を気に入って下さったのは、セレン様の魔力を受け入れる事が出来るからでしょうし…
「ああ、言っておくけど聖力は関係ないよ。仮にルネに聖力がなくても、私はルネを好きになったからね」
どうして考えている事が伝わっているのでしょうか…これは魔術で相手の思考を読み取ったりできる…とか?どう考えても聖力がない私に価値があるとは思えないのですが…
「ルネの自己評価の低さは…これまでの周りの扱いのせいだろうね。だから今直ぐには信じられないかもしれないけれど、これから一生をかけて信じて貰えるよう、貴女の素晴らしいところを言い続けるよ」
とっても爽やかな笑顔でそう言われてしまった私ですが…やっぱりこんな素敵な方がどうして私を…と思わずにはいられません。でも、セレン様も私を騙すとか、そんなんじゃないのですよね。私を騙したところで得られるものなどたかが知れているでしょうし……
「それでルネ?返事は貰えないのかな?」
「え?あ、あの…」
「勿論、いい返事しか受け付けないけどね」
「…っ!…はい…」
にっこり笑みを深くされたセレン様の雰囲気が、何だか酷く剣呑に感じて、私はセレン様の望むいい返事しか返せませんでした。
「ルネ、結婚するんですって?」
翌々日、マリアンヌ様の元に出仕した私に、マリアンヌ様が開口一番笑顔でそう尋ねてこられました。王太子妃だった頃はあまり表に出なかったマリアンヌ様ですが、バズレールに来てからは積極的に表に出られるようになられました。以前は地味な服装をしていらっしゃいましたが、今は明るい色のドレスを召される事も増えました。艶のある黒髪に深みのある紫の瞳、一見すると人形のような硬質なお美しさをお持ちで、華やかさが際立つオレリア王女殿下に対し、マリアンヌ様は凛とした気品が際立つので、私から見るとマリアンヌ様の方がより高貴に見えます。
「…マリアンヌ様、お耳が早いですね」
「そりゃあ、昨日のうちにセレン殿から連絡があったからね」
「はぁ?」
「ジルベール様に、ルネにプロポーズして了承を得た。早く結婚したいから直ぐにでも許可を出して欲しいと言ってきたそうよ」
「昨日って…」
「セレン殿の魔術のお手紙でね」
悪戯っぽい表情でそう告げるマリアンヌ様ですが…そうなのです、セレン様は魔術を使って手紙を送られるのですよね。受け取る側は突然机の上に手紙が現れるのでビックリするのです。まぁ、一年も経てば皆さん慣れてしまって、驚く事は殆どありませんが。
「セレン殿、籍だけでも先に入れたいと仰っているそうね」
「せ、籍だけ、ですか?」
「ええ。どうやら王都の方が気になる様ね」
「王都が…」
マリアンヌ様の言わんとしている事に、私は気持ちが沈むのを感じました。最近、王都のセザール殿下とオレリア王女様から手紙が来て、バズレールを訪問したいと仰ってるのだとか。私達がバズレールに来てから、ここの魔獣の被害が収まっている事が影響しているのでしょうか。
「どうやら陛下達は、魔獣の侵入を抑えているセレン殿の魔術を欲しているみたいね」
それはセレン様を殺そうとした陛下達の、あまりにも身勝手な欲求でした。
セレン様から求婚された私ですが、珍しいセレン様の真剣な表情に臆してしまい、思考が完全に飛んでいるのを他人事のように感じていました。人間、想定外の事が起きるとかえって冷静になる…と聞きますが、どうやら本当にその様ですね。でも…
「けっ、結婚って…」
「勿論、血の痕ではないよ?」
「そっ、それはわかっていますが…あの、私が、ですか?」
「そう言っているけど?」
「それは…セレン様と、という事で…」
「私が申し込んでいるのだから、そうなるね」
「えっと‥ど、どうして…」
「それはもちろん、ルネを愛しているからだよ」
「あ、愛してるっ?!」
思わず大きな声が出てしまいましたが…どうしてそんな事に…いえ、確かに好きだと言われてお付き合いはしていますが…あ、愛してるって…私のどこにそんな要素があったでしょうか…?見た目も貧相ですし、髪は白くて老婆のようだと言われ、目は赤くて血のようで縁起が悪いと言われ、しかも孤児で平民で、今は聖女ですらありません。それに…
「何を考えているのかは何となくわかるけど、ルネは自己評価が低すぎるよ」
「そ、そんな筈は…」
そうです。自分の価値は自分が一番わかっています。そしてさっき思った事は決して思い過ごしではないと言う事も…だってこれらはずっと言われ続けていた事なのですから。
「ルネの価値がわからない者達の戯言など気にする必要はないよ。ルネのその雪のように白い清らかな髪も、紅玉のように煌めく瞳も、真っ白で艶のある肌も、楚々とした顔立ちも、全てが私を魅了するよ」
「でも、孤児で…」
「出自はルネのせいじゃないだろう?それにルネは、王子妃教育も受けているのだろう?私の世界とはマナーが違う部分もあるからはっきりとは言えないけれど、立ち居振る舞いは十二分に淑女だよ」
「で、でも…」
「ルネが周りに不当に貶められていたから信じられないかもしれないけれど、貴女は自分が思う以上に女性としても魅力的だよ。私は変な虫が付かないか冷や冷やしているのだからね」
…それはセレン様の方ではないでしょうか…無駄に麗しくて気品も威厳もあって、しかも凄い魔術をお使いになるのです。私の方こそ、セレン様に女性が色目を使うのを見る度に不安で泣きたくなるのですから…それに、セレン様が私を気に入って下さったのは、セレン様の魔力を受け入れる事が出来るからでしょうし…
「ああ、言っておくけど聖力は関係ないよ。仮にルネに聖力がなくても、私はルネを好きになったからね」
どうして考えている事が伝わっているのでしょうか…これは魔術で相手の思考を読み取ったりできる…とか?どう考えても聖力がない私に価値があるとは思えないのですが…
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「勿論、いい返事しか受け付けないけどね」
「…っ!…はい…」
にっこり笑みを深くされたセレン様の雰囲気が、何だか酷く剣呑に感じて、私はセレン様の望むいい返事しか返せませんでした。
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「…マリアンヌ様、お耳が早いですね」
「そりゃあ、昨日のうちにセレン殿から連絡があったからね」
「はぁ?」
「ジルベール様に、ルネにプロポーズして了承を得た。早く結婚したいから直ぐにでも許可を出して欲しいと言ってきたそうよ」
「昨日って…」
「セレン殿の魔術のお手紙でね」
悪戯っぽい表情でそう告げるマリアンヌ様ですが…そうなのです、セレン様は魔術を使って手紙を送られるのですよね。受け取る側は突然机の上に手紙が現れるのでビックリするのです。まぁ、一年も経てば皆さん慣れてしまって、驚く事は殆どありませんが。
「セレン殿、籍だけでも先に入れたいと仰っているそうね」
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「ええ。どうやら王都の方が気になる様ね」
「王都が…」
マリアンヌ様の言わんとしている事に、私は気持ちが沈むのを感じました。最近、王都のセザール殿下とオレリア王女様から手紙が来て、バズレールを訪問したいと仰ってるのだとか。私達がバズレールに来てから、ここの魔獣の被害が収まっている事が影響しているのでしょうか。
「どうやら陛下達は、魔獣の侵入を抑えているセレン殿の魔術を欲しているみたいね」
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