『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
45 / 71

結婚を急ぐ理由

しおりを挟む
(けっこん…って…)

 セレン様から求婚された私ですが、珍しいセレン様の真剣な表情に臆してしまい、思考が完全に飛んでいるのを他人事のように感じていました。人間、想定外の事が起きるとかえって冷静になる…と聞きますが、どうやら本当にその様ですね。でも…

「けっ、結婚って…」
「勿論、血の痕ではないよ?」
「そっ、それはわかっていますが…あの、私が、ですか?」
「そう言っているけど?」
「それは…セレン様と、という事で…」
「私が申し込んでいるのだから、そうなるね」
「えっと‥ど、どうして…」
「それはもちろん、ルネを愛しているからだよ」
「あ、愛してるっ?!」

 思わず大きな声が出てしまいましたが…どうしてそんな事に…いえ、確かに好きだと言われてお付き合いはしていますが…あ、愛してるって…私のどこにそんな要素があったでしょうか…?見た目も貧相ですし、髪は白くて老婆のようだと言われ、目は赤くて血のようで縁起が悪いと言われ、しかも孤児で平民で、今は聖女ですらありません。それに…

「何を考えているのかは何となくわかるけど、ルネは自己評価が低すぎるよ」
「そ、そんな筈は…」

 そうです。自分の価値は自分が一番わかっています。そしてさっき思った事は決して思い過ごしではないと言う事も…だってこれらはずっと言われ続けていた事なのですから。

「ルネの価値がわからない者達の戯言など気にする必要はないよ。ルネのその雪のように白い清らかな髪も、紅玉のように煌めく瞳も、真っ白で艶のある肌も、楚々とした顔立ちも、全てが私を魅了するよ」
「でも、孤児で…」
「出自はルネのせいじゃないだろう?それにルネは、王子妃教育も受けているのだろう?私の世界とはマナーが違う部分もあるからはっきりとは言えないけれど、立ち居振る舞いは十二分に淑女だよ」
「で、でも…」
「ルネが周りに不当に貶められていたから信じられないかもしれないけれど、貴女は自分が思う以上に女性としても魅力的だよ。私は変な虫が付かないか冷や冷やしているのだからね」

 …それはセレン様の方ではないでしょうか…無駄に麗しくて気品も威厳もあって、しかも凄い魔術をお使いになるのです。私の方こそ、セレン様に女性が色目を使うのを見る度に不安で泣きたくなるのですから…それに、セレン様が私を気に入って下さったのは、セレン様の魔力を受け入れる事が出来るからでしょうし…

「ああ、言っておくけど聖力は関係ないよ。仮にルネに聖力がなくても、私はルネを好きになったからね」

 どうして考えている事が伝わっているのでしょうか…これは魔術で相手の思考を読み取ったりできる…とか?どう考えても聖力がない私に価値があるとは思えないのですが…

「ルネの自己評価の低さは…これまでの周りの扱いのせいだろうね。だから今直ぐには信じられないかもしれないけれど、これから一生をかけて信じて貰えるよう、貴女の素晴らしいところを言い続けるよ」

 とっても爽やかな笑顔でそう言われてしまった私ですが…やっぱりこんな素敵な方がどうして私を…と思わずにはいられません。でも、セレン様も私を騙すとか、そんなんじゃないのですよね。私を騙したところで得られるものなどたかが知れているでしょうし……

「それでルネ?返事は貰えないのかな?」
「え?あ、あの…」
「勿論、いい返事しか受け付けないけどね」
「…っ!…はい…」

 にっこり笑みを深くされたセレン様の雰囲気が、何だか酷く剣呑に感じて、私はセレン様の望むいい返事しか返せませんでした。




「ルネ、結婚するんですって?」

 翌々日、マリアンヌ様の元に出仕した私に、マリアンヌ様が開口一番笑顔でそう尋ねてこられました。王太子妃だった頃はあまり表に出なかったマリアンヌ様ですが、バズレールに来てからは積極的に表に出られるようになられました。以前は地味な服装をしていらっしゃいましたが、今は明るい色のドレスを召される事も増えました。艶のある黒髪に深みのある紫の瞳、一見すると人形のような硬質なお美しさをお持ちで、華やかさが際立つオレリア王女殿下に対し、マリアンヌ様は凛とした気品が際立つので、私から見るとマリアンヌ様の方がより高貴に見えます。

「…マリアンヌ様、お耳が早いですね」
「そりゃあ、昨日のうちにセレン殿から連絡があったからね」
「はぁ?」
「ジルベール様に、ルネにプロポーズして了承を得た。早く結婚したいから直ぐにでも許可を出して欲しいと言ってきたそうよ」
「昨日って…」
「セレン殿の魔術のお手紙でね」

 悪戯っぽい表情でそう告げるマリアンヌ様ですが…そうなのです、セレン様は魔術を使って手紙を送られるのですよね。受け取る側は突然机の上に手紙が現れるのでビックリするのです。まぁ、一年も経てば皆さん慣れてしまって、驚く事は殆どありませんが。

「セレン殿、籍だけでも先に入れたいと仰っているそうね」
「せ、籍だけ、ですか?」
「ええ。どうやら王都の方が気になる様ね」
「王都が…」

 マリアンヌ様の言わんとしている事に、私は気持ちが沈むのを感じました。最近、王都のセザール殿下とオレリア王女様から手紙が来て、バズレールを訪問したいと仰ってるのだとか。私達がバズレールに来てから、ここの魔獣の被害が収まっている事が影響しているのでしょうか。

「どうやら陛下達は、魔獣の侵入を抑えているセレン殿の魔術を欲しているみたいね」

 それはセレン様を殺そうとした陛下達の、あまりにも身勝手な欲求でした。


しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。 日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。 しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。 続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574 完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。 おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。 合わせてお楽しみいただければと思います。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

処理中です...