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想定外の申し出
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「ルネ、大丈夫?酷い事はされなかった?」
いつも通りの優しい笑みを浮かべながら、セレン様が私に声を掛けられました。陛下達が何をするつもりか、セレン様はどうなっているのかもわからず、不安しかありませんでしたが…いつも通りの優しい声に、不安が急速に萎んでいくのを感じました。
「だ、大丈夫です。セレン様は…」
「ああ、私も平気だよ」
そう言って私の頬にそっと手を添えたセレン様の指の温かさに、私はようやく無事だったのだと実感し、強張っていた身体から少しだけ力が抜けるのを感じました。目の奥がツンとして、気を抜いたら泣いてしまいそうです。
「彼らに私を害する事など出来やしないよ。そう、指一本触れる事もね」
「馬鹿な!眠り薬を仕込んでおいた筈だ。それも丸一日は目が覚めないような強力なものを」
笑みを浮かべてそう言ったセレン様に反応したのは、セザール殿下でした。元より下と見た者を痛めつける事に躊躇しない方なので、セレン様にも同様に扱ったのでしょう。なのに、実際は幻影で指一本すらも触れる事が出来なかったと言われれば、彼のプライドが大きく傷ついたのは安易に想像出来ます。
「お、お前達、ちゃんと言った通りにしたんだろうな?!」
「は、はいっ。ご命令通り、鞭打ちを五十回、確かに…」
殿下の怒りを受けて、セレン様の側に居た騎士達がオロオロしながらもそう答えましたが…ちょっと待ってください!鞭打ち五十回って…それは終身刑や死刑になるほどの重罪人への罰の筈です。そんな事をセレン様にやっていたなんて…
「ああ、彼らはちゃんと仕事をしていたよ」
覚えのある声のする方に視線を向けると…ドアに入り口にいたのは、身体中が傷つき、見るも無残な王太子殿下の姿がありました。いつもお使いとしていらっしゃる側近の方が、その身体を支えていました。
「な…ジルベール?!」
「あ、兄上…何故…?!」
「ひっ!ジルベールっ?!」
王太子殿下の姿に、陛下やセザール殿下だけでなく、普段は表情を一切変えないと言われる王妃様ですらも目を見開き、悲鳴のような声を上げました。オレリア王女様に至っては、驚きで声も出ないようです。これは一体どういう事でしょうか…
「貴様っ!まさか魔術でジルベールを身代わりにっ?!」
陛下の怒気が一層膨らみ、室内にはピリピリするほどの威圧感が広がっていました。さすがは一国の国王陛下でいらっしゃいます。その圧に私も今までの安堵の空気が一気に冷えるのを感じました。でも、セレン様は怯むどころか表情から笑みが消えません。
「父上、誤解のないように申し上げますが、これは私自ら申し出た事です」
「な、何だと…っ?!」
「アシャルティ殿が何れこうなると仰っていたが、私は信じられなかったのですよ。陛下が…父上がそんな身勝手な事をなさるなど…だから彼に頼んで、周りが私をアシャルティ殿と誤解するような術を掛けて欲しいと頼んだのです」
「馬鹿なっ…何故そんな事を…!一歩間違えればお前は死んでいたかもしれないんだぞ!」
王太子殿下がそう言うも、陛下は信じられないご様子でした。しかも陛下の言葉は、セレン様を消そうと、その命を奪おうとしていたと白状しているも同然です。
「…アシャルティ殿の言った通りでした、か…」
「い、いやッ…これは…っ!」
王太子殿下の苦渋の呟きに、陛下はご自身の発言思い出したのか、ハッと表情を崩しました。王太子殿下はずっとセレン様の協力を得て、結界を現状に合わせ、何れは結界に頼らない国作りをとお考えになっていました。その為、連日セレン様と話合いを重ねていたのです。
それを陛下は一蹴し、今回の暴挙に走ったのです。王太子殿下の意見を完全に無視したご自身の行為が、よりにもよって次代を継ぐはずの殿下に降りかかったのです。
「父上…いえ、陛下、残念ですよ。私の言葉は届かなかったのですね」
「それ、は…」
「兄上!父上は国のためにご決断されたのですぞ。どうしてその者の身代わりになど!」
「お前は黙っていろ!そもそもお前が勝手に召喚の儀を行ったのが原因だという事を忘れたか?!」
「あ、あに、上…?」
いつも穏やかな表情を崩さない王太子殿下が、感情をそのままセザール殿下にぶつけました。王太子殿下の厳しい態度に、傍若無人なセザール殿下も呆然としています。もしかして、今までこの様に怒りをぶつけられた事がなかったのでしょうか。
「陛下もです。私は再三にわたって召喚は危険だと申し上げた。その結果がこれですか?しかも都合が悪くなれば口封じなどと…」
「な…!だが、これも国のためなのだ。お前とていずれ王になる身。綺麗事だけでは…」
「それで?我々よりもはるかに大きな力を使う者相手に喧嘩を売ると?それが身を滅ぼす事になると何故思わないのです?」
「だが、我らの力をもってすれば…アシャルティさえ殺せば、あの異形の者達も…」
「そんな訳ないでしょ~」
必死に言い訳をする様にしか見えない陛下の言葉を遮ったのは、リアさんでした。私達が捕まった後は姿を消していましたが、いつの間にかセレン様の後ろに人の姿で立っていました。無事な姿を目にして、私はまた一つ緊張がほぐれた気がしました。
「な…何を…」
「セレンを殺しても私達には関係ないよ」
「だ、だが…従魔だと…」
「うん、従魔だよ。でも、セレンとは命の契約をしているわけじゃないわ。それに、いつだって契約なんか解除出来るし」
「そんな…従魔の契約は…」
「こっちの世界じゃそうかもしれないけど、私とセレンはそんなんじゃないわ」
「以前、我々の常識とこちらの常識は違うと、そう申し上げた筈ですよ。もうお忘れですか?」
リアさんとセレン様がそう指摘すると、陛下は玉座から崩れ落ちそうになりました。想定していたシナリオが、全て意味のないものだったと悟られたからでしょうか…
「国王陛下にお願いがあります」
「な…何だ…」
「私を廃嫡とし、バズレール大公領を賜りたく存じます」
王太子殿下の思いがけない申し出に、謁見の間がシン…と静まり返りました。
いつも通りの優しい笑みを浮かべながら、セレン様が私に声を掛けられました。陛下達が何をするつもりか、セレン様はどうなっているのかもわからず、不安しかありませんでしたが…いつも通りの優しい声に、不安が急速に萎んでいくのを感じました。
「だ、大丈夫です。セレン様は…」
「ああ、私も平気だよ」
そう言って私の頬にそっと手を添えたセレン様の指の温かさに、私はようやく無事だったのだと実感し、強張っていた身体から少しだけ力が抜けるのを感じました。目の奥がツンとして、気を抜いたら泣いてしまいそうです。
「彼らに私を害する事など出来やしないよ。そう、指一本触れる事もね」
「馬鹿な!眠り薬を仕込んでおいた筈だ。それも丸一日は目が覚めないような強力なものを」
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「お、お前達、ちゃんと言った通りにしたんだろうな?!」
「は、はいっ。ご命令通り、鞭打ちを五十回、確かに…」
殿下の怒りを受けて、セレン様の側に居た騎士達がオロオロしながらもそう答えましたが…ちょっと待ってください!鞭打ち五十回って…それは終身刑や死刑になるほどの重罪人への罰の筈です。そんな事をセレン様にやっていたなんて…
「ああ、彼らはちゃんと仕事をしていたよ」
覚えのある声のする方に視線を向けると…ドアに入り口にいたのは、身体中が傷つき、見るも無残な王太子殿下の姿がありました。いつもお使いとしていらっしゃる側近の方が、その身体を支えていました。
「な…ジルベール?!」
「あ、兄上…何故…?!」
「ひっ!ジルベールっ?!」
王太子殿下の姿に、陛下やセザール殿下だけでなく、普段は表情を一切変えないと言われる王妃様ですらも目を見開き、悲鳴のような声を上げました。オレリア王女様に至っては、驚きで声も出ないようです。これは一体どういう事でしょうか…
「貴様っ!まさか魔術でジルベールを身代わりにっ?!」
陛下の怒気が一層膨らみ、室内にはピリピリするほどの威圧感が広がっていました。さすがは一国の国王陛下でいらっしゃいます。その圧に私も今までの安堵の空気が一気に冷えるのを感じました。でも、セレン様は怯むどころか表情から笑みが消えません。
「父上、誤解のないように申し上げますが、これは私自ら申し出た事です」
「な、何だと…っ?!」
「アシャルティ殿が何れこうなると仰っていたが、私は信じられなかったのですよ。陛下が…父上がそんな身勝手な事をなさるなど…だから彼に頼んで、周りが私をアシャルティ殿と誤解するような術を掛けて欲しいと頼んだのです」
「馬鹿なっ…何故そんな事を…!一歩間違えればお前は死んでいたかもしれないんだぞ!」
王太子殿下がそう言うも、陛下は信じられないご様子でした。しかも陛下の言葉は、セレン様を消そうと、その命を奪おうとしていたと白状しているも同然です。
「…アシャルティ殿の言った通りでした、か…」
「い、いやッ…これは…っ!」
王太子殿下の苦渋の呟きに、陛下はご自身の発言思い出したのか、ハッと表情を崩しました。王太子殿下はずっとセレン様の協力を得て、結界を現状に合わせ、何れは結界に頼らない国作りをとお考えになっていました。その為、連日セレン様と話合いを重ねていたのです。
それを陛下は一蹴し、今回の暴挙に走ったのです。王太子殿下の意見を完全に無視したご自身の行為が、よりにもよって次代を継ぐはずの殿下に降りかかったのです。
「父上…いえ、陛下、残念ですよ。私の言葉は届かなかったのですね」
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「兄上!父上は国のためにご決断されたのですぞ。どうしてその者の身代わりになど!」
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「あ、あに、上…?」
いつも穏やかな表情を崩さない王太子殿下が、感情をそのままセザール殿下にぶつけました。王太子殿下の厳しい態度に、傍若無人なセザール殿下も呆然としています。もしかして、今までこの様に怒りをぶつけられた事がなかったのでしょうか。
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「だが、我らの力をもってすれば…アシャルティさえ殺せば、あの異形の者達も…」
「そんな訳ないでしょ~」
必死に言い訳をする様にしか見えない陛下の言葉を遮ったのは、リアさんでした。私達が捕まった後は姿を消していましたが、いつの間にかセレン様の後ろに人の姿で立っていました。無事な姿を目にして、私はまた一つ緊張がほぐれた気がしました。
「な…何を…」
「セレンを殺しても私達には関係ないよ」
「だ、だが…従魔だと…」
「うん、従魔だよ。でも、セレンとは命の契約をしているわけじゃないわ。それに、いつだって契約なんか解除出来るし」
「そんな…従魔の契約は…」
「こっちの世界じゃそうかもしれないけど、私とセレンはそんなんじゃないわ」
「以前、我々の常識とこちらの常識は違うと、そう申し上げた筈ですよ。もうお忘れですか?」
リアさんとセレン様がそう指摘すると、陛下は玉座から崩れ落ちそうになりました。想定していたシナリオが、全て意味のないものだったと悟られたからでしょうか…
「国王陛下にお願いがあります」
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