『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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治療と応急措置

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 セレン様が現れた事に、私は身体と心の緊張が緩むのを感じました。あの異形が私達にはどうする事も出来ないほどの力の持ち主だとはわかりますが、セレン様なら対抗出来るかもしれない…そんな気がしたからです。身体を壊すほどの大きな魔力と、私達が知らない魔術を操るセレン様ならあるいは…
 そんなセレン様は異形に視線を向けながらも、私を抱きかかえてくれました。でも、そんな事をしたら…

「セレン様、そんな事をしては、服に血が…」
「ルナ、すまない。誰がこんな…なんて、聞く必要はないか」

 そう言ってセレン様は、異形に向けていた意識を一瞬だけ陛下達のいる方に向けました。その声は大きくはなく穏やかではありましたが、含まれている感情は酷く強いもののように感じられました。こうしている間にもあの異形が攻撃してこないかと気が気ではなく、そちらに視線を向けると、異形は何か丸くて薄い膜のようなものの中で暴れているように見えます。

「ア、アシャルティ殿!」
「た、頼む!あれを何とかしてくれ!」
「そうだ。ほ、報酬は弾む。だから…!」

 異形が捕らわれたように見えたせいか、国王陛下達が一斉にセレン様にあの異形を何とかして欲しいと騒ぎ出しました。でも…セレン様だってあの異形のように一方的に呼び出されて、同じように攻撃されたのです。幸いセレン様は私達と同じ姿形で話が通じたからよかったものの、一歩間違えれば同じ目に遭っていたでしょうに…そんなセレン様に助けを求めるだなんて、その神経が信じられません。

「…何を仰っている?召喚には反対だと、危険だからやめるようにとの警告を無視したのは誰だ?」
「そ、それは…」
「しかも…これはどういうことです?」
「何の事だ?それよりもあれを…」
「そうだ、アシャルティ殿。話は後だ。今はあの異形を…」
「…うるさいな」

 低い問いかけはセレン様の怒りを露にしていましたが、陛下達はセレン様の怒りに気付いていないようでした。セレン様は明らかに忌々し気な表情を浮かべているのに…偉業を前に恐怖に憑りつかれている陛下達にその呟きは届かなかったようです。

「暫く黙っていろ」

 セレン様がそう言うと、陛下達の声が聞こえなくなりました。セレン様が何かしたようで、陛下達は必死の形相で口を動かしていますが、声が聞こえません。それに…騎士ですらも時間が止まったかのようにその場を動きません。いえ、多少は動いているので、その場に縫い留められたような感じ、でしょうか…

「治療が先だ」

 そう言ってセレン様は私の腕の剣をそっと抜きましたが、私は痛みで思わず顔をしかめてしまいました。そんな私にセレン様は、すまないと謝って私の傷口に手をかざすと…驚く事に僅かな間に傷が綺麗になくなってしまいました。

「な…どうして…?」
「ああ、治癒魔法というのだよ。怪我を治すもので、聖魔術の一つだ」
「聖魔術って…」
「ああ、詳しくは後でね。時間がない。他には?」
「背中を、少し…」

 そう言うとセレン様は背中に手を当てて下さって、直ぐに痛みが消えてしまいました。まさか怪我まで治せるなんて…正直セレン様がやっている事に理解が及びません。

「聖力も切れているじゃないか。あいつら…」

 ぎりっと音がしそうなほど忌々しそうな表情を浮かべたセレン様からは、いつもの穏やかな表情が完全に消えていました。かなりお怒り…のようです。

「ごめん、応急措置だけするよ」
「え…ぁ」

 言葉の意味を理解する前に唇が塞がれ、セレン様の魔力を感じました。かなり力を奪われたせいか、セレン様の魔力がいつもよりも濃いと言うか、熱く感じられます。冷え切った身体にじんわりと温かみが戻ってきました。

「これで立てる?」
「え?ええ…」

 あまり時間がないのでしょう。性急に力を送られましたが、先ほどと違い立ち上がる事が出来ました。そんな私を見て、セレン様の表情が僅かに緩んだ気がしました。でも… 私を抱き起したセレン様の手が、何だかいつもよりも熱い気がします。今術を使ったせい…なのでしょうか。

「さて…あれをどうするべきか…」
「セレン様、あの異形の者は…」
「ああ、厄介な相手を呼び出したものだよ。あれは…どうやら魔術を使えるようだね」
「そう言えばさっき、私達との間に炎の壁が出来ていました。騎士が何人かそこに飛び込んで、あっという間に…」
「…そう、か」

 セレン様の声が一段と低くなりましたが…見上げるとその横顔は酷く真剣で、顔色が悪くすら見えます。あの異形の者はかなり強いと言う事でしょうか…もしかして、セレン様以上に…異形の者はセレン様が作ったらしい丸い何かの中で暴れていますが…かなり怒っているように見えます。

「参ったな…」
「…どうされたんですか?」
「相当怒っているようで、我を失っている。話が通じるならと思ったけれど…」
「話が?」
「ああ、私の世界では、異形であっても話が通じる者も存在するんだよ。魔獣とか聖獣と呼ばれる、人以上の寿命と魔術を使う存在がね」
「そんな者が…」
「ああ。彼らがこちらから手を出さなければ人を襲わない。だが…」

 セレン様の声に苦渋が混じったように感じました。確かに私達はあの者を一方的に呼び出して、しかも攻撃しようとしたのです。それは届きはしませんでしたが…こちらが敵意を持っている事は理解したでしょう。となれば…


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