『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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魔力の受け渡し

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「え…っと…あの…」

 そう言えばすっかり平常仕様と化した、ソファでほぼ隙間なしに座っていた私達です。しかも魔力の中和のためにと手を握られていた私は、すっかりテンパってしまい、もうしどろもどろです。

「た、試すって…」
「もちろん、魔力の受け渡しだよ」
「それって…」
「勿論、口付けだね」
「く、く、くちじゅけって…」

 セレン様の麗しいお顔が近づいてきますが、逃げようにも私の手はしっかりセレン様に握られていて、距離を取る事が出来ません。でも!でも!キ、キスだなんて…

「ふふ、ルネは可愛いね。緊張してる?」
「し、してましゅ…!」
「そう?でも大丈夫だよ」
「だだだ、だいじょうびゅって…」
「なんせルネとは、既に一度やっているからね」
「…ぇええええっ?!」

 すっかり噛み噛みだった私ですが、既にやっているとの一言に思わず大きな声が出てしまいました。既にって…一度って…いつの間に…

「あれ?もう忘れちゃた?それともあの時意識を失う寸前だったから…覚えてない?」
「な、何が…あ、あの時って…」
「私が召喚された時だよ。召喚に力を奪われて魔力切れになったルネに、魔力を渡しただろう?」
「えええっ?」
「もしかして…覚えてなかった?」
「覚えて…なかった、です…」

 そう言えば…セレン様が応急処置をしてくれたと聞いていましたが…それって…そう言う事だった、のですね…何をどうしたのかまでは聞いていませんでしたが、迂闊でした。

(という事は、私のファーストキスは、セレン様と…)

 そう思った瞬間、何とも表現しようのない恥ずかしさと居た堪れなさが、雪崩のように押し寄せてきました。唇が急に熱を持ったように感じられます。ええと…

「今のルネの聖力は…そうだね、器の三分の一もないんじゃないかな?」
「さ、三分の一、ですか…」
「ああ、ルネの器はかなり大きいよ。勿論、ここの世界では聖力はあまり必要じゃないから体調などには影響しない。ただ…」
「ただ?」
「聖力不足が長い間続いたから、成長がかなり遅れているのは間違いないね」
「そ、そうですか…」

 確かに私は、同じ年の子達に比べると身体も小さく痩せていますし、初対面の人からは十四、五歳と言われる事も多いです。胸もささやかと言えば聞こえがいいですが、いわゆるツルペタで寸胴の幼児体型です。聖女の衣装は身体のラインが分からないタイプだったので目立ちませんが…今はワンピースを着ていても貧相さがはっきりわかります。

「聖力が十分に満たされれば、きっと身体の成長も進むだろうね」
「そうなんですか?」
「ああ、実は私も昔は身体が小さかったんだよ」
「ええ?セレン様が?」
「私はルネとは逆で、魔力があり過ぎて身体に負担がかかる方だったんだけどね。魔力のコントロールが出来るようになってからだよ、成長したのは。それまではチビでひょろひょろした貧相な子供だったんだ。よく苛められたよ」

 意外でした。今は背も高く、お身体も鍛えられていて逞しい部類に入るセレン様が、子どもの頃はそんな感じだったなんて…だったら私にも希望があるのでしょうか?この貧相な身体も、聖力が十分になれば女性らしくなるのでしょうか。私もこの体系はコンプレックスといいますか、何とかならないかと思っていただけに、俄かに希望が生まれました。

「そういう訳だから、試してみよう」
「…え?…っ」
「嫌?」
「え…あ、あの…」

 幼児体型脱却の希望を見出したのは確かですが…そこでそんな風に小首をかしげて縋るような表情で問いかけるのは反則だと思います、セレン様。何と言いますか、男性なのにその表情って…

「あ、あの…」
「嫌なら嫌だと、はっきり言って構わないよ。そうでなければ…」

 そう言いながらセレン様の麗しいお顔が近づいてきて、もう指一本分の隙間しかないような至近距離です。ここで返事をしたら、く、唇が触れてしまうのではないでしょうか…そう思うと私は返事をする事も出来ず、でもどうしていいのかわからなくて、ぎゅっと目を閉じました。その瞬間…

「…っ…!」

 唇に何かが押し当てられる感覚がして、ビックリして目を開けると、ゼロ距離のセレン様のお顔が見えました。こんなに近いのに…お肌が綺麗って反則です…じゃなくて!

「…っ…ま…っ…」

 待ってください、セレン様!と言いたかった私の声は音にならずにそのまま口の中で霧散しました。その変わりに、何かが口の中に流れ込んでくる気配を感じます。それは形があるようでなく、でも不思議にも熱と甘さが感じられます。
 それでも、その感覚と今の状況が怖くてセレン様から離れようとしたら、より強い力で抱きしめられてしまいました。そのうちに口の中にぬるっとした物が入り込んできて、私の舌に絡みついてきました。

(こ、これって…デ、ディープキス?)

 あり得ない事態に私が混乱の極みに追いやられるも、セレン様の力は強くて微動だにしません。息が苦しいし、セレン様の匂いにも酔いそうでくらくらしてきます。それでも逃げる術のない私は、セレン様の気が済むまで離して貰えませんでした。

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