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麗しき王女の勘違い
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黄金に輝く髪に、青く煌めく瞳。最も華やかな大輪の花のようだと称賛される美貌に、王女という身分。私は、この国の誰よりも美しくて尊い存在だ。そう、王妃という女性では至高の存在の母ですら、生まれは臣下である公爵家なのだ。そう言う意味では私こそが至高の存在だろう。
そんな私には、十五歳の時に決められた婚約者がいた。隣国エスタータの第二王子だった。一つ年上で、美しい銀の髪と紫の瞳を持つ大変麗しい王子だと聞いていた。美男美女でお似合いだと称賛されていたし、年齢的にも容姿的にも私に釣り合いが取れるのは彼しかいなかったとも言える。
なのに…その王子殿下は一年半前に病を得て、半年前に亡くなってしまった。
お陰で私は十八になったというのに、婚約者がいなかった。王族や高位貴族は早くから婚約者を決めてしまうから、急に相手がいなくなれば次を見つけるのは至難の業なのだけど…私はその困難な状況に陥っていた。
さすがに家格が低い相手は、私のプライドが許さなかった。公爵家ですら物足りないと思うのに、それ以下など問題外だ。
でも王族となれば、年が近い者でも既に正妃がいて、嫁ぐとしたら第二妃扱いになってしまう。こんなにも美しく高貴な私が、臣下出身の正妃の下など到底受け入れられるものではなかった。でも年下となると、一番近くでも八歳下…さすがに十歳の王子に輿入れする気にはなれなかった。
そんな感じで、八方塞がりだった私だったが、神は私をお見捨てにはならなかった。そう、私に相応しい相手が突如訪れたのだ。それは次兄が自分の婚約者の代わりにと召喚した異世界の者で、その者は元の世界では王族に連なる者で、これまでに見た誰よりも美しく雄々しく、そして類まれな力を持っていた。
(彼こそが、私にぴったりの存在だわ)
初めて彼を見た時、心が高まるのを私は喜びと共に感じていた。私よりもさらに豪奢に見える深みのある黄金の髪、この世界では見た事もない青みの強い緑の瞳は怜悧で、顔立ちは男らしいが武骨さなど欠片もなく、優美で神々しい程だった。均整の取れた身体は逞しくしなやかで、背は…背が少しだけ高い私でも十分に釣り合うほどに高い。堂々とした威厳のある態度と気品に溢れた所作。セレン=アシャルティと名乗ったその男性は、まるで私のために用意されたような存在だった。
なのに…
「御身の安全を保障出来ませんから、ここには近づかないで頂きたい」
私が彼と話をしようとわざわざ離宮に足を運んだというのに…彼から掛けられた言葉は、拒絶するものだった。特別に愛称呼びだって許したのに、ペットと同じ名だからと言って断ったのも失礼極まりない。
何よりも…私がいるというのに、聖女だったという貧相な娘にピッタリとくっ付き、離れようともしなかった。私には表情を変えなかったというのに、あの娘に向ける笑みは柔らかかった。この私よりもあんな小娘を優先するなど、あってはならない事なのに…
しかも、護衛に促されてその場を後にした私を待っていたのは、王太子でもある兄からの叱咤だった。
「彼には近づくなと行っておいただろう!」
「でもお兄様、大切なお客様をもてなすのは王女としての役目ですわ」
「彼はそんな事を望んではいない。彼は元の世界では王族だ。そんな彼は数多の女性に結婚をせがまれて、自分から押しかける女性は苦手だと言ったのだ。それはお前ですら例外ではないのだぞ?」
「まさか…この私を他の女たちと同じに見るなど不敬ですわ」
「彼にとってこの国は、無理やり祖国から引き離した相手だ。我々は彼に恨まれても仕方ない事をしたんだぞ?」
「まさか…そんな筈は…」
「彼にだって家族や友人がいて、これまでに築き上げてきたものもある。それを一方的に奪ったのは我々だ。お前はある日突然、知らない世界に飛ばされて平気なのか?」
「そ、それは…」
「知り合いが一人もいない。身の安全を保障してくれるものもない。習慣も何もかも違う世界に一人で放り出されても文句も言わずに生きていけるのか?そこでは王女としての特権も何もないのだぞ?」
「……」
「彼はこの国を護るために必要不可欠な存在になり得るが、一方で不興を買えば敵にもなり得る。どれほどの力があるのかわからない以上、彼の機嫌を損ねるような真似はやめろ」
お兄様にそう言われた私は、その場では何も言い返せなかった。いきなり知らない世界に飛ばされ、王女として扱われないなんて…そんな事、想像した事もなかったからだ。私はこの国の王女で、国一の貴婦人として称賛され、多くの男性に羨望の目を向けられる存在だ。そんな私が…いえ、そんな私だからこそ、違う世界に行ってもみんなが私の美しさや優美さに目を奪われる筈…
セレン様だって、お父様が王族に準じる待遇をなさったと聞いたけれど、だったら私と結婚すればその立場はもっと強固になる筈だ。
「そうよ、私と結婚なされば、セレン様だって堂々と王族の一員になれるし、誰も文句を言う者もいない筈よ」
彼だって私の夫になれると分かれば、きっと考えも変わるわ…それに、あの娘は彼の魔力をコントロールするために協力していると言っていた。そうよ、あの娘を優先したのは道具として必要だから。時期が来れば彼もあの娘が不要になる筈。それまではあの娘が側に居る事も仕方がない。
「でも、私が姿を見せたのに、臣下の礼もとらないなんて生意気だわ。何れはあの娘に罰が必要ね」
いくら聖女だったとはいえ、元は卑しい平民だ。あんな娘がセレン様の側に居るなんて分不相応だし、私を蔑ろにするなど許せない。
「それに…もしかしたらあの娘がセレン様を誘惑しているのかもしれないわ。でなければ、私が袖にされるなんてあり得ないもの。それにあんな素晴らしい方が、貧相な平民を相手にする筈がないわ」
そう、王国一の、いえ、大陸一の美姫と称賛される私が相手にされないなどあり得ない。きっとあの娘がよからぬ事を吹き込んでいるのだわ。その考えに至った私は、ようやく苛立ちが収まるのを感じた。
そんな私には、十五歳の時に決められた婚約者がいた。隣国エスタータの第二王子だった。一つ年上で、美しい銀の髪と紫の瞳を持つ大変麗しい王子だと聞いていた。美男美女でお似合いだと称賛されていたし、年齢的にも容姿的にも私に釣り合いが取れるのは彼しかいなかったとも言える。
なのに…その王子殿下は一年半前に病を得て、半年前に亡くなってしまった。
お陰で私は十八になったというのに、婚約者がいなかった。王族や高位貴族は早くから婚約者を決めてしまうから、急に相手がいなくなれば次を見つけるのは至難の業なのだけど…私はその困難な状況に陥っていた。
さすがに家格が低い相手は、私のプライドが許さなかった。公爵家ですら物足りないと思うのに、それ以下など問題外だ。
でも王族となれば、年が近い者でも既に正妃がいて、嫁ぐとしたら第二妃扱いになってしまう。こんなにも美しく高貴な私が、臣下出身の正妃の下など到底受け入れられるものではなかった。でも年下となると、一番近くでも八歳下…さすがに十歳の王子に輿入れする気にはなれなかった。
そんな感じで、八方塞がりだった私だったが、神は私をお見捨てにはならなかった。そう、私に相応しい相手が突如訪れたのだ。それは次兄が自分の婚約者の代わりにと召喚した異世界の者で、その者は元の世界では王族に連なる者で、これまでに見た誰よりも美しく雄々しく、そして類まれな力を持っていた。
(彼こそが、私にぴったりの存在だわ)
初めて彼を見た時、心が高まるのを私は喜びと共に感じていた。私よりもさらに豪奢に見える深みのある黄金の髪、この世界では見た事もない青みの強い緑の瞳は怜悧で、顔立ちは男らしいが武骨さなど欠片もなく、優美で神々しい程だった。均整の取れた身体は逞しくしなやかで、背は…背が少しだけ高い私でも十分に釣り合うほどに高い。堂々とした威厳のある態度と気品に溢れた所作。セレン=アシャルティと名乗ったその男性は、まるで私のために用意されたような存在だった。
なのに…
「御身の安全を保障出来ませんから、ここには近づかないで頂きたい」
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何よりも…私がいるというのに、聖女だったという貧相な娘にピッタリとくっ付き、離れようともしなかった。私には表情を変えなかったというのに、あの娘に向ける笑みは柔らかかった。この私よりもあんな小娘を優先するなど、あってはならない事なのに…
しかも、護衛に促されてその場を後にした私を待っていたのは、王太子でもある兄からの叱咤だった。
「彼には近づくなと行っておいただろう!」
「でもお兄様、大切なお客様をもてなすのは王女としての役目ですわ」
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「まさか…そんな筈は…」
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「知り合いが一人もいない。身の安全を保障してくれるものもない。習慣も何もかも違う世界に一人で放り出されても文句も言わずに生きていけるのか?そこでは王女としての特権も何もないのだぞ?」
「……」
「彼はこの国を護るために必要不可欠な存在になり得るが、一方で不興を買えば敵にもなり得る。どれほどの力があるのかわからない以上、彼の機嫌を損ねるような真似はやめろ」
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「そうよ、私と結婚なされば、セレン様だって堂々と王族の一員になれるし、誰も文句を言う者もいない筈よ」
彼だって私の夫になれると分かれば、きっと考えも変わるわ…それに、あの娘は彼の魔力をコントロールするために協力していると言っていた。そうよ、あの娘を優先したのは道具として必要だから。時期が来れば彼もあの娘が不要になる筈。それまではあの娘が側に居る事も仕方がない。
「でも、私が姿を見せたのに、臣下の礼もとらないなんて生意気だわ。何れはあの娘に罰が必要ね」
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「それに…もしかしたらあの娘がセレン様を誘惑しているのかもしれないわ。でなければ、私が袖にされるなんてあり得ないもの。それにあんな素晴らしい方が、貧相な平民を相手にする筈がないわ」
そう、王国一の、いえ、大陸一の美姫と称賛される私が相手にされないなどあり得ない。きっとあの娘がよからぬ事を吹き込んでいるのだわ。その考えに至った私は、ようやく苛立ちが収まるのを感じた。
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