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思いがけない訪問者
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離宮から引っ越して五日目、私は庭でお茶をしないかとセレン様に誘われました。今日はお天気もいいし、庭には今が季節の花も咲いて、確かに外でのお茶は楽しそうです。この離宮の庭は自然な雰囲気を残していて、木々に囲まれるように四阿があり、ちょっと隠れたそれは秘密の場所のような特別感がありました。
今日はセレン様お好みの紅茶と、私が好きなチーズケーキです。チーズケーキは神殿にいた頃に食べる事が出来た唯一のケーキで、私の大好物です。ここに来てから色んなケーキを頂きましたが、やっぱり食べ慣れているこれが一番です。
ただ、セレン様とピッタリとくっ付いた状態では食べにくいのですが…いえ、これは治療のようなものですから仕方ありませんね。
「ルネ、近々結界の事で協力して貰いたいんだ」
「結界ですか?」
「ああ。王から結界の維持を頼まれたけど、実際に見てみないとわからないからね。ルネが結界を維持していたあの部屋へ一緒に行って欲しい」
「それは…構いませんが」
「これからどうするかは、見てから考える事になるだろうね」
「そうですか」
結界がずっと気になっていましたが、今のところは問題ありません。セレン様の話では、私が十分力を送っていたので、暫く何もしなくても問題ないと言う事ですが…本当に大丈夫なのでしょうか。ただ、私は結界そのものについてはよくわからないし、見える部分では特に変化はないので、大丈夫そうですが…
「心配しなくてもいいよ。今のところ結界に問題はないからね」
「え?あ、はい…」
思っていた事を指摘されて、思わず変な声が出てしまいました。そんなに顔に出てしまったでしょうか。それともセレン様は人の心も読めるのでしょうか。こんな風に考えている事が相手にわかってしまうのは、あまり褒められた事ではありませんね。
「まぁ、セレン様。こちらだったのですね」
私が顔に出やすい自分を反省していると、聞き慣れない声が耳に届きました。声のする方に視線を向けると…そこにはセレン様よりも少し薄い金色の髪と、青空のように煌めく瞳、愛らしさよりも美しさが勝る、私よりも少し年上と思しき華やかな女性が立っていました。青を基調としたドレスがとてもお似合いです。
「…これは、オレリア王女殿下」
「ああ、そのままで結構よ」
(ええっ?王女殿下?)
立ち上がろうとしたセレン様を女性が止められましたが…セレン様の言葉に、私は思わず声を上げそうになりました。王女殿下にお会いするなんて…今の私はドレスとは言え普段使いのもので、とても王族にお会いできるような格好ではありません。それに…セレン様の腕がしっかり私の腰に回されています。離れて礼をしようとしましたが…一層腕に力を込められてしまいました。さすがにこの体勢はマズいのではないでしょうか…
「セレン様、私の事はどうかリアとお呼びくださいな」
そう言って微笑む様はまるで花が開くようにすら見えます。美人はそこにいらっしゃるだけで違うのですね。それに…気品があって小さな動きすらもキラキラして見えます。
「王女殿下を愛称で呼ぶ立場にはございません。それに、私の事もアシャルティとお呼び下さい」
「まぁ、そんな事、お気になさらずとも…」
「私のペットの名がリアでしてね。その名を呼ぶとどうしてもペットの事に思えてしまうのですよ。王女殿下と同じでは不敬極まりないでしょう」
「な…」
にこやかにそう仰るセレン様に、王女様は思いがけない返答だったのか、言葉を詰まらせていました。確かにペットと同じ名前となると…セレン様も抵抗があるでしょう。そもそも、王女殿下を愛称で呼ぶなど、陛下達に知れれば不敬罪にもなり兼ねません。
「それにしてもどうしてこちらに?ここは私が認めた者しか通さないと、国王陛下と話が付いていますが?」
「それは申しわけありませんわ。でも、私、どうしてもセレン様とお話がしたくて…」
そう言ってはにかむような笑みを浮かべる女殿下ですが、どうやらセレン様の話を聞く気はないようで、また名前呼びになっていました。私の手を握るセレン様の力が一瞬強くなりましたが…もしかしてご不快に思われたのでしょうか。相手は王女殿下ですのに…
「そうですか。ですが今の私は魔力のコントロールの訓練中でしてね。いつ暴走するかわからないので、必要最低限の方以外は近づけないようにしているのです」
「まぁ…でも、その娘は…」
素っ気なく説明されるセレン様に、王女殿下は眉を顰めました。その姿すらお美しいですが、視線を向けられて私は背中に汗をかきそうになりました。絶対に王女殿下に不快に思われていそうです。
「彼女の聖力は、私の魔力暴走を止めてくれる唯一の力なのですよ。今は彼女に協力して貰っている最中です。魔力暴走が起きれば建物一つくらい、簡単に破壊してしまいますからね。御身の安全を保障出来ませんから、ここには近づかないで頂きたい」
「まぁ、そんな…でもその時は、セレン様が守って下さるのでしょう?」
「それはお約束いたしかねます。暴走とはコントロール出来ない状態です。我が身すらもどうなるかわからないのに、他人にまで気をやる余裕はありませんから」
「な…」
身も蓋もないいい方に、王女殿下が声を詰まらせました。でも、確かに暴走とは制御不能の事を言うのですから、間違ってはいませんよね。王女殿下は守られるのが当然のお立場ですから、あまり気になさらなかったのでしょうか…でも、魔術は剣や弓で攻撃されるのとは違います。
「魔力暴走とは広範囲の落雷のようなものだとお考え下さい。一度始まったら力が放出し終わるまで止める事は不可能ですし、この世界では私を止める事が出来る者などおりません。そうならないようにするためにも、今はコントロールする事に集中したいのです。御身だけでなくこの王宮で暮らす方々のためにも、ここには近づかないで下さい」
そこまで言われても王女殿下はこの場を離れようとしませんでしたが、さすがに護衛騎士が危険ですからと再三促すと、渋々ながらも離れていきました。でも…最後に睨まれたように感じたのは…気のせいでしょうか…
「全く、もう一度国王陛下に釘を刺しておかないとな」
やれやれと言った風にセレン様がそう言いましたが…相手は王女殿下ですのに、いいのでしょうか…
今日はセレン様お好みの紅茶と、私が好きなチーズケーキです。チーズケーキは神殿にいた頃に食べる事が出来た唯一のケーキで、私の大好物です。ここに来てから色んなケーキを頂きましたが、やっぱり食べ慣れているこれが一番です。
ただ、セレン様とピッタリとくっ付いた状態では食べにくいのですが…いえ、これは治療のようなものですから仕方ありませんね。
「ルネ、近々結界の事で協力して貰いたいんだ」
「結界ですか?」
「ああ。王から結界の維持を頼まれたけど、実際に見てみないとわからないからね。ルネが結界を維持していたあの部屋へ一緒に行って欲しい」
「それは…構いませんが」
「これからどうするかは、見てから考える事になるだろうね」
「そうですか」
結界がずっと気になっていましたが、今のところは問題ありません。セレン様の話では、私が十分力を送っていたので、暫く何もしなくても問題ないと言う事ですが…本当に大丈夫なのでしょうか。ただ、私は結界そのものについてはよくわからないし、見える部分では特に変化はないので、大丈夫そうですが…
「心配しなくてもいいよ。今のところ結界に問題はないからね」
「え?あ、はい…」
思っていた事を指摘されて、思わず変な声が出てしまいました。そんなに顔に出てしまったでしょうか。それともセレン様は人の心も読めるのでしょうか。こんな風に考えている事が相手にわかってしまうのは、あまり褒められた事ではありませんね。
「まぁ、セレン様。こちらだったのですね」
私が顔に出やすい自分を反省していると、聞き慣れない声が耳に届きました。声のする方に視線を向けると…そこにはセレン様よりも少し薄い金色の髪と、青空のように煌めく瞳、愛らしさよりも美しさが勝る、私よりも少し年上と思しき華やかな女性が立っていました。青を基調としたドレスがとてもお似合いです。
「…これは、オレリア王女殿下」
「ああ、そのままで結構よ」
(ええっ?王女殿下?)
立ち上がろうとしたセレン様を女性が止められましたが…セレン様の言葉に、私は思わず声を上げそうになりました。王女殿下にお会いするなんて…今の私はドレスとは言え普段使いのもので、とても王族にお会いできるような格好ではありません。それに…セレン様の腕がしっかり私の腰に回されています。離れて礼をしようとしましたが…一層腕に力を込められてしまいました。さすがにこの体勢はマズいのではないでしょうか…
「セレン様、私の事はどうかリアとお呼びくださいな」
そう言って微笑む様はまるで花が開くようにすら見えます。美人はそこにいらっしゃるだけで違うのですね。それに…気品があって小さな動きすらもキラキラして見えます。
「王女殿下を愛称で呼ぶ立場にはございません。それに、私の事もアシャルティとお呼び下さい」
「まぁ、そんな事、お気になさらずとも…」
「私のペットの名がリアでしてね。その名を呼ぶとどうしてもペットの事に思えてしまうのですよ。王女殿下と同じでは不敬極まりないでしょう」
「な…」
にこやかにそう仰るセレン様に、王女様は思いがけない返答だったのか、言葉を詰まらせていました。確かにペットと同じ名前となると…セレン様も抵抗があるでしょう。そもそも、王女殿下を愛称で呼ぶなど、陛下達に知れれば不敬罪にもなり兼ねません。
「それにしてもどうしてこちらに?ここは私が認めた者しか通さないと、国王陛下と話が付いていますが?」
「それは申しわけありませんわ。でも、私、どうしてもセレン様とお話がしたくて…」
そう言ってはにかむような笑みを浮かべる女殿下ですが、どうやらセレン様の話を聞く気はないようで、また名前呼びになっていました。私の手を握るセレン様の力が一瞬強くなりましたが…もしかしてご不快に思われたのでしょうか。相手は王女殿下ですのに…
「そうですか。ですが今の私は魔力のコントロールの訓練中でしてね。いつ暴走するかわからないので、必要最低限の方以外は近づけないようにしているのです」
「まぁ…でも、その娘は…」
素っ気なく説明されるセレン様に、王女殿下は眉を顰めました。その姿すらお美しいですが、視線を向けられて私は背中に汗をかきそうになりました。絶対に王女殿下に不快に思われていそうです。
「彼女の聖力は、私の魔力暴走を止めてくれる唯一の力なのですよ。今は彼女に協力して貰っている最中です。魔力暴走が起きれば建物一つくらい、簡単に破壊してしまいますからね。御身の安全を保障出来ませんから、ここには近づかないで頂きたい」
「まぁ、そんな…でもその時は、セレン様が守って下さるのでしょう?」
「それはお約束いたしかねます。暴走とはコントロール出来ない状態です。我が身すらもどうなるかわからないのに、他人にまで気をやる余裕はありませんから」
「な…」
身も蓋もないいい方に、王女殿下が声を詰まらせました。でも、確かに暴走とは制御不能の事を言うのですから、間違ってはいませんよね。王女殿下は守られるのが当然のお立場ですから、あまり気になさらなかったのでしょうか…でも、魔術は剣や弓で攻撃されるのとは違います。
「魔力暴走とは広範囲の落雷のようなものだとお考え下さい。一度始まったら力が放出し終わるまで止める事は不可能ですし、この世界では私を止める事が出来る者などおりません。そうならないようにするためにも、今はコントロールする事に集中したいのです。御身だけでなくこの王宮で暮らす方々のためにも、ここには近づかないで下さい」
そこまで言われても王女殿下はこの場を離れようとしませんでしたが、さすがに護衛騎士が危険ですからと再三促すと、渋々ながらも離れていきました。でも…最後に睨まれたように感じたのは…気のせいでしょうか…
「全く、もう一度国王陛下に釘を刺しておかないとな」
やれやれと言った風にセレン様がそう言いましたが…相手は王女殿下ですのに、いいのでしょうか…
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