21 / 71
思いがけない訪問者
しおりを挟む
離宮から引っ越して五日目、私は庭でお茶をしないかとセレン様に誘われました。今日はお天気もいいし、庭には今が季節の花も咲いて、確かに外でのお茶は楽しそうです。この離宮の庭は自然な雰囲気を残していて、木々に囲まれるように四阿があり、ちょっと隠れたそれは秘密の場所のような特別感がありました。
今日はセレン様お好みの紅茶と、私が好きなチーズケーキです。チーズケーキは神殿にいた頃に食べる事が出来た唯一のケーキで、私の大好物です。ここに来てから色んなケーキを頂きましたが、やっぱり食べ慣れているこれが一番です。
ただ、セレン様とピッタリとくっ付いた状態では食べにくいのですが…いえ、これは治療のようなものですから仕方ありませんね。
「ルネ、近々結界の事で協力して貰いたいんだ」
「結界ですか?」
「ああ。王から結界の維持を頼まれたけど、実際に見てみないとわからないからね。ルネが結界を維持していたあの部屋へ一緒に行って欲しい」
「それは…構いませんが」
「これからどうするかは、見てから考える事になるだろうね」
「そうですか」
結界がずっと気になっていましたが、今のところは問題ありません。セレン様の話では、私が十分力を送っていたので、暫く何もしなくても問題ないと言う事ですが…本当に大丈夫なのでしょうか。ただ、私は結界そのものについてはよくわからないし、見える部分では特に変化はないので、大丈夫そうですが…
「心配しなくてもいいよ。今のところ結界に問題はないからね」
「え?あ、はい…」
思っていた事を指摘されて、思わず変な声が出てしまいました。そんなに顔に出てしまったでしょうか。それともセレン様は人の心も読めるのでしょうか。こんな風に考えている事が相手にわかってしまうのは、あまり褒められた事ではありませんね。
「まぁ、セレン様。こちらだったのですね」
私が顔に出やすい自分を反省していると、聞き慣れない声が耳に届きました。声のする方に視線を向けると…そこにはセレン様よりも少し薄い金色の髪と、青空のように煌めく瞳、愛らしさよりも美しさが勝る、私よりも少し年上と思しき華やかな女性が立っていました。青を基調としたドレスがとてもお似合いです。
「…これは、オレリア王女殿下」
「ああ、そのままで結構よ」
(ええっ?王女殿下?)
立ち上がろうとしたセレン様を女性が止められましたが…セレン様の言葉に、私は思わず声を上げそうになりました。王女殿下にお会いするなんて…今の私はドレスとは言え普段使いのもので、とても王族にお会いできるような格好ではありません。それに…セレン様の腕がしっかり私の腰に回されています。離れて礼をしようとしましたが…一層腕に力を込められてしまいました。さすがにこの体勢はマズいのではないでしょうか…
「セレン様、私の事はどうかリアとお呼びくださいな」
そう言って微笑む様はまるで花が開くようにすら見えます。美人はそこにいらっしゃるだけで違うのですね。それに…気品があって小さな動きすらもキラキラして見えます。
「王女殿下を愛称で呼ぶ立場にはございません。それに、私の事もアシャルティとお呼び下さい」
「まぁ、そんな事、お気になさらずとも…」
「私のペットの名がリアでしてね。その名を呼ぶとどうしてもペットの事に思えてしまうのですよ。王女殿下と同じでは不敬極まりないでしょう」
「な…」
にこやかにそう仰るセレン様に、王女様は思いがけない返答だったのか、言葉を詰まらせていました。確かにペットと同じ名前となると…セレン様も抵抗があるでしょう。そもそも、王女殿下を愛称で呼ぶなど、陛下達に知れれば不敬罪にもなり兼ねません。
「それにしてもどうしてこちらに?ここは私が認めた者しか通さないと、国王陛下と話が付いていますが?」
「それは申しわけありませんわ。でも、私、どうしてもセレン様とお話がしたくて…」
そう言ってはにかむような笑みを浮かべる女殿下ですが、どうやらセレン様の話を聞く気はないようで、また名前呼びになっていました。私の手を握るセレン様の力が一瞬強くなりましたが…もしかしてご不快に思われたのでしょうか。相手は王女殿下ですのに…
「そうですか。ですが今の私は魔力のコントロールの訓練中でしてね。いつ暴走するかわからないので、必要最低限の方以外は近づけないようにしているのです」
「まぁ…でも、その娘は…」
素っ気なく説明されるセレン様に、王女殿下は眉を顰めました。その姿すらお美しいですが、視線を向けられて私は背中に汗をかきそうになりました。絶対に王女殿下に不快に思われていそうです。
「彼女の聖力は、私の魔力暴走を止めてくれる唯一の力なのですよ。今は彼女に協力して貰っている最中です。魔力暴走が起きれば建物一つくらい、簡単に破壊してしまいますからね。御身の安全を保障出来ませんから、ここには近づかないで頂きたい」
「まぁ、そんな…でもその時は、セレン様が守って下さるのでしょう?」
「それはお約束いたしかねます。暴走とはコントロール出来ない状態です。我が身すらもどうなるかわからないのに、他人にまで気をやる余裕はありませんから」
「な…」
身も蓋もないいい方に、王女殿下が声を詰まらせました。でも、確かに暴走とは制御不能の事を言うのですから、間違ってはいませんよね。王女殿下は守られるのが当然のお立場ですから、あまり気になさらなかったのでしょうか…でも、魔術は剣や弓で攻撃されるのとは違います。
「魔力暴走とは広範囲の落雷のようなものだとお考え下さい。一度始まったら力が放出し終わるまで止める事は不可能ですし、この世界では私を止める事が出来る者などおりません。そうならないようにするためにも、今はコントロールする事に集中したいのです。御身だけでなくこの王宮で暮らす方々のためにも、ここには近づかないで下さい」
そこまで言われても王女殿下はこの場を離れようとしませんでしたが、さすがに護衛騎士が危険ですからと再三促すと、渋々ながらも離れていきました。でも…最後に睨まれたように感じたのは…気のせいでしょうか…
「全く、もう一度国王陛下に釘を刺しておかないとな」
やれやれと言った風にセレン様がそう言いましたが…相手は王女殿下ですのに、いいのでしょうか…
今日はセレン様お好みの紅茶と、私が好きなチーズケーキです。チーズケーキは神殿にいた頃に食べる事が出来た唯一のケーキで、私の大好物です。ここに来てから色んなケーキを頂きましたが、やっぱり食べ慣れているこれが一番です。
ただ、セレン様とピッタリとくっ付いた状態では食べにくいのですが…いえ、これは治療のようなものですから仕方ありませんね。
「ルネ、近々結界の事で協力して貰いたいんだ」
「結界ですか?」
「ああ。王から結界の維持を頼まれたけど、実際に見てみないとわからないからね。ルネが結界を維持していたあの部屋へ一緒に行って欲しい」
「それは…構いませんが」
「これからどうするかは、見てから考える事になるだろうね」
「そうですか」
結界がずっと気になっていましたが、今のところは問題ありません。セレン様の話では、私が十分力を送っていたので、暫く何もしなくても問題ないと言う事ですが…本当に大丈夫なのでしょうか。ただ、私は結界そのものについてはよくわからないし、見える部分では特に変化はないので、大丈夫そうですが…
「心配しなくてもいいよ。今のところ結界に問題はないからね」
「え?あ、はい…」
思っていた事を指摘されて、思わず変な声が出てしまいました。そんなに顔に出てしまったでしょうか。それともセレン様は人の心も読めるのでしょうか。こんな風に考えている事が相手にわかってしまうのは、あまり褒められた事ではありませんね。
「まぁ、セレン様。こちらだったのですね」
私が顔に出やすい自分を反省していると、聞き慣れない声が耳に届きました。声のする方に視線を向けると…そこにはセレン様よりも少し薄い金色の髪と、青空のように煌めく瞳、愛らしさよりも美しさが勝る、私よりも少し年上と思しき華やかな女性が立っていました。青を基調としたドレスがとてもお似合いです。
「…これは、オレリア王女殿下」
「ああ、そのままで結構よ」
(ええっ?王女殿下?)
立ち上がろうとしたセレン様を女性が止められましたが…セレン様の言葉に、私は思わず声を上げそうになりました。王女殿下にお会いするなんて…今の私はドレスとは言え普段使いのもので、とても王族にお会いできるような格好ではありません。それに…セレン様の腕がしっかり私の腰に回されています。離れて礼をしようとしましたが…一層腕に力を込められてしまいました。さすがにこの体勢はマズいのではないでしょうか…
「セレン様、私の事はどうかリアとお呼びくださいな」
そう言って微笑む様はまるで花が開くようにすら見えます。美人はそこにいらっしゃるだけで違うのですね。それに…気品があって小さな動きすらもキラキラして見えます。
「王女殿下を愛称で呼ぶ立場にはございません。それに、私の事もアシャルティとお呼び下さい」
「まぁ、そんな事、お気になさらずとも…」
「私のペットの名がリアでしてね。その名を呼ぶとどうしてもペットの事に思えてしまうのですよ。王女殿下と同じでは不敬極まりないでしょう」
「な…」
にこやかにそう仰るセレン様に、王女様は思いがけない返答だったのか、言葉を詰まらせていました。確かにペットと同じ名前となると…セレン様も抵抗があるでしょう。そもそも、王女殿下を愛称で呼ぶなど、陛下達に知れれば不敬罪にもなり兼ねません。
「それにしてもどうしてこちらに?ここは私が認めた者しか通さないと、国王陛下と話が付いていますが?」
「それは申しわけありませんわ。でも、私、どうしてもセレン様とお話がしたくて…」
そう言ってはにかむような笑みを浮かべる女殿下ですが、どうやらセレン様の話を聞く気はないようで、また名前呼びになっていました。私の手を握るセレン様の力が一瞬強くなりましたが…もしかしてご不快に思われたのでしょうか。相手は王女殿下ですのに…
「そうですか。ですが今の私は魔力のコントロールの訓練中でしてね。いつ暴走するかわからないので、必要最低限の方以外は近づけないようにしているのです」
「まぁ…でも、その娘は…」
素っ気なく説明されるセレン様に、王女殿下は眉を顰めました。その姿すらお美しいですが、視線を向けられて私は背中に汗をかきそうになりました。絶対に王女殿下に不快に思われていそうです。
「彼女の聖力は、私の魔力暴走を止めてくれる唯一の力なのですよ。今は彼女に協力して貰っている最中です。魔力暴走が起きれば建物一つくらい、簡単に破壊してしまいますからね。御身の安全を保障出来ませんから、ここには近づかないで頂きたい」
「まぁ、そんな…でもその時は、セレン様が守って下さるのでしょう?」
「それはお約束いたしかねます。暴走とはコントロール出来ない状態です。我が身すらもどうなるかわからないのに、他人にまで気をやる余裕はありませんから」
「な…」
身も蓋もないいい方に、王女殿下が声を詰まらせました。でも、確かに暴走とは制御不能の事を言うのですから、間違ってはいませんよね。王女殿下は守られるのが当然のお立場ですから、あまり気になさらなかったのでしょうか…でも、魔術は剣や弓で攻撃されるのとは違います。
「魔力暴走とは広範囲の落雷のようなものだとお考え下さい。一度始まったら力が放出し終わるまで止める事は不可能ですし、この世界では私を止める事が出来る者などおりません。そうならないようにするためにも、今はコントロールする事に集中したいのです。御身だけでなくこの王宮で暮らす方々のためにも、ここには近づかないで下さい」
そこまで言われても王女殿下はこの場を離れようとしませんでしたが、さすがに護衛騎士が危険ですからと再三促すと、渋々ながらも離れていきました。でも…最後に睨まれたように感じたのは…気のせいでしょうか…
「全く、もう一度国王陛下に釘を刺しておかないとな」
やれやれと言った風にセレン様がそう言いましたが…相手は王女殿下ですのに、いいのでしょうか…
52
お気に入りに追加
2,740
あなたにおすすめの小説

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~
サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる