『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
17 / 71

今度は引っ越し?

しおりを挟む
「ルネ、出来れば離宮に引っ越してきて欲しいんだ」
「はい?」

 セレン様のお側に控えるようになってから十日ほどが経ったある日。いつものようにセレン様の元を訪れると、いきなりそう切り出されました。

「引っ越しって…」
「毎日通うのも面倒だろう?この離宮には部屋がまだ余っているからね。だったらここに引っ越してきて欲しいんだ。その方がいつでも貴女の協力が得られるからね」

 そう言ってにっこり笑顔を浮かべるセレン様ですが…そんな勝手な事をしてもいいのでしょうか。それに…男性が住む離宮に引っ越すなんて、はしたなくないでしょうか…

「それは…」
「ああ、国王陛下の許可は取ってあるから心配いらないよ」
「え?」

 陛下の許可が出ているのなら…それはお願いではなく確定ではないでしょうか…そもそも私に選択権が与えられる事など今までなかったですし。

「もちろん、ルネが嫌だというなら無理にとは言わない。でも、ルネが側に居てくれると体調がいいんだよ」

 そう言って縋るような目で見るのは反則だと思います。そんな風に言われたら、無下に出来ないじゃないですか…結局、私は押し切られるようにして引っ越す事になっていました。

「可愛いルネが側に居るだけで体調がいいのは本当なのだよ」
「そうなのですか?でも、元の世界では…」
「ああ、あっちにも聖魔力を持つ者はいたけれど…純粋な力を持つ者は希少でね。私の力を中和する以前に、私の魔力に中てられてしまって使い物にならなかったんだ」
「そうなのですか。でも、それじゃ…」
「ああ、私は生まれた時、医者に三歳まで生きられないと言われたんだよ」
「ええっ?どうして…」
「魔力があり過ぎて身体を蝕んでしまう程だったんだ。あちらの世界では魔力過多症という病でね。魔力を抑える道具などで何とか抑えていたけれど…それも限界に近づいていてね。最近はもう無理かと諦めていたんだよ」
「そんな事が…」

 いつも人当たりのいい笑顔で、憂いなどなさそうに見えたセレン様がそんな事情を抱えていたとは思いませんでした。それに…私の見た限り、具合が悪そうにも見えませんし。それで三年もつかどうか…と言われていたというのだから驚きです。

「ああ、ルネが気にする必要はないよ。向こうの世界では珍しくないんだ」

 なんて事はないように笑顔でそう話すセレン様に、私は心が痛むのを感じました。そんな大変な事情を抱えていたのに、こちらの都合で呼び出してしまったなんて…今は私の力で中和できても、ここにはセレン様を治す医者どころかそんな知識のある人すらいません。これ以上悪化させないためにも、私も出来る限りの事はしたいです。セレン様が呼び出されてしまったのは、私の聖力のせいでもありますから。

「わかりました。私に出来る事なら出来る限りお力になります」
「ありがとう、ルネは優しいね」

 花のような笑顔というのが、男性でも当てはまるのだ…と私はセレン様の笑顔を見てしみじみと感じました。本当に、見た目の麗しさだけでもドキドキしてしまうのに、甘く優しい笑みを向けられると…何とも言いようのない気持ちになってしまい、落ち着きません。

 こうして翌日、私はセレン様が住み離宮に引っ越す事になりました。元より大した荷物もない私でしたから、侍女さん達がてきぱきと段取りを組み、さっさと荷物を運んでしまいました。

「セレン様、お願いがあるのですが…」
「何だい、可愛いルネのお願いを無下にするほど狭量ではないよ」
「……」

 何と言うか、サラッと恥ずかしい事を仰るセレン様ですが、私は中々慣れなくて今回も言葉に詰まってしまいました。可愛いだなんて…何かとそんな風に言われるのですが、向こうでは名前の前にそのような言葉を付ける風習でもあるのでしょうか…

「…私の侍女のレリアと…この子を連れてきてもよろしいでしょうか?」

 そう言って私は、レリアと手に抱いたクルルに視線を向けました。引っ越すならレリアも一緒に来て欲しいですし、クルルは勝手に付いてきそうですが、ここはセレン様の居住区なので一言お伝えしておいた方がいいと思ったのです。セレン様が動物嫌いだったり、アレルギーがあったりするなら側に置いておくわけにもいきませんから。

「別に構わないよ、ルネが望むのなら。レリアと言ったか、君はルネ付きの侍女?」
「はい。神殿にいた頃からご一緒させて頂いておりました。今はそのご縁で侍女としてお側に置かせて頂いております」
「レリアは私の姉のような存在なんです。ですから…」
「レリア、私の事もよろしく頼む。色々教えてくれ」
「ご厚情に感謝いたします」
「そんなに畏まらなくてもいいよ。もっと気楽に接してくれると嬉しい。後、その子犬も歓迎するよ」
「あ、ありがとうございます」

 断られる事はないだろうと、最近のセレン様の様子からそんな風に思っていましたが、実際に許可を貰って気が楽になりました。特にレリアは私の侍女を辞めると行き場がないのです。最近は聖力が弱くなって神殿に戻るほどの力がありませんし、実家も没落している上代替わりして、もう帰られる状態ではないからです。

 こうして私はレリアとクルルも一緒に、セレン様の離宮へと引っ越しました。そうしてその日から、食事も共に摂るようになっただけでなく、何をするにも一緒の生活になったのでした。



しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...