『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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新しい役目は…

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 その日を境に私は、毎日アシャルティ様の元に通う生活が始まりました。
 翌日、真っ先に助けて頂いたお礼と、お礼が遅れた事のお詫びを述べた私でしたが、アシャルティ様からは大した事じゃないから気にしないようにと言われてしまいました。
 でも、死にかかっていたのですから気にするなと言われても…そう思う私に、これから私がアシャルティ様の魔力を中和して助ける事になるから、長い目で見たら私の方がより助けて貰う事になるよ、と仰いました。いいのでしょうか…

 ところで、私の新しい役目はアシャルティ様の魔力の中和と聞いていたので、日に一刻程会いに行けば済むと思っていたのですが…
 どういう訳か、午後はずっとアシャルティ様と過ごす様になっていました。魔力を中和をするにも、一度に大量の魔力を流し込むと私に負担がかかるので、時間をかけてゆっくりやった方がいいのだとか。私は聖力の器は大きいのですが、その器を満たすだけの聖力を作る力がないのだそうです。その為、結界を張っている間も常に聖力不足に陥っていて、身体や成長に負担がかかっていたのだとか。私の身体が痩せすぎなのも、人より成長が遅いのも、その影響なのだそうです。
 あのまま聖力を結界に流していたら、あと数年で私は力尽きていただろう、とも言われました。聖女になってからずっと、身体の怠さや頭痛などがあったのはそのせいだそうです。ですが…

「あの…アシャルティ様。こんなにくっ付く必要は…」
「ん?ああ、でも、こうして触れ合っていれば少しずつ力を渡せるだろう?その方がルネの負担も小さくて済むじゃないか」

 そう言ってアシャルティ様はにっこり微笑まれました。きっとこの笑顔を見たら殆どのご令嬢がこぞって押しかけてきそうです。それくらいに麗しくて高貴な笑みなのです。見た目はセザール殿下も麗しいですが、色気といいますか、大人の魅力があってセザール殿下の比ではありません。しかも…

「あの、普通に座りたいのですが…」
「そう?私はこれが一番落ち着くのだけど」

 笑顔でそう言い切られてしまい、困ってしまいました。というのも、今、私は何故かアシャルティ様に手を握られているか腰に手を回されて、ぴたっとくっついた状態で座っているのです。その上で先ほどからクッキーや焼き菓子を食べさせられているのですが…これは普通の事なのでしょうか…

「それに、私の事はどうかセレンと呼んで?」
「…そんな…恐れ多い事です」
「私がそう呼んで欲しいのだよ。君と私の仲じゃないか」

 いえ、そんな風に言われるほどの仲でもないのですが…それに大事な国のお客様をお名前で呼んでいいのでしょうか…後で不敬だと言われそうで怖いのですが…

「ルネは真面目だね。でも、心配しないで。君の悪いようには決してしない。君に危害を加えようとする者は私が排除するから」

 そんな風に言われてしまうと、何も言えなくなってしまいます。そして呼び名の事は確定のようです。
 でも、私はもう聖女ではなくただの平民です。ここにいるだけでも恐れ多いのに…こんな姿を誰かに見られて、問題にならないのでしょうか…。

「ルネの身柄は私が預かっている。たとえ国王でも君に手を出させないよ。それは国王とも約束しているから」
「ええっ?」

 まさか国王陛下にまでその様なお約束を…でも、一体どうして私にそこまでして下さるのでしょうか。聖女の力だけなら、私以外にも力を持つ女性はいらっしゃいます。

「私の魔力はルネの聖力と相性がいいんだよ。これは意図してどうこう出来る事じゃないからね。君は私の救世主、女神様なのだよ」
「め…」

 何と言うか、例えが大げさすぎて、いまいち信用出来ない気がするのは気のせいでしょうか…そこまで言われると揶揄われているようにしか思えないのですが…

「あの、ですね。一応私はまだセザール殿下の婚約者で…」
「ああ、私をこの世界に呼んだあの無責任王子か。でも心配いらないよ。彼との婚約はもう解消されているから」
「ええ?!」

 それは初耳です。いえ、そんな大事な事をセレン様から聞く事になるなんて…王太子殿下、ちゃんと教えて下さい!と思った私は悪くない筈です。

「あれ?もしかして知らなかったのかい?」
「え?ええ…」
「そうか。まぁ、彼も君を嫌っていたし、君も彼の事は好いていなかったのだろう?」
「ええ、まぁ…」

 不敬かもしれませんが…紛れもない事実です。私の事を人とも思わない殿下と結婚なんて、人生の終わりだと思っていましたから。あの殿下と婚約が解消…私にとって今日は祝日ですわね。

「君のような愛らしく清らかな女性に、あんな男は釣り合わないよ。あれは自意識ばかりが無駄に育った子供だ。君の良さがわからないなんて、とんでもない愚か者だよ」

 自信満々にそう言われてしまうと、思わずそうなのかも…と思ってしまいますが、セザール殿下はこの国の第二王子で、王太子殿下に何かあった時には殿下が王位を継ぐ事だってあるのです。いくらセレン様でも、そんな言い方をして大丈夫なのでしょうか…

「ああ、心配はいらないよ。彼は未だに謹慎中だからね。今後の反省の度合いや態度によっては廃嫡になるかもしれないそうだし」
「は、廃嫡?」
「ああ。でも当然だろう?王の許可なく勝手に召喚術を使ったんだ。もし召喚されたのがとんでもなく魔力の強い極悪人だったら?それに彼が召喚に選んだ条件は、強い聖力を持つ身目麗しい者だ。私の世界には見た目の麗しい聖力を持つ魔獣もいるからね。そんなのが呼ばれていたら…この国はとっくに滅んだと思うよ」
「そんな…」

 まさか、そんな事があるのでしょうか…
 でも…セレン様が仰る通り、魔獣だったとしたら…結界の中に呼ばれたら、きっと手の施しようがなかったでしょう。

「そう言う事だから、彼の事は心配しないで。ルネに酷い事をしたら私が国王に突き出してやるよ」

 セレン様の言葉には迷いはありませんでした。きっとそんな状況になったら、この方は本当に殿下を捕らえて陛下の前に突き出してしまいそうです。まぁ、そうなっても殿下の自業自得ではあるのですが…
 それでも、異世界からのお客様で、後ろ盾も何もない方です。そんな事でセザール殿下の、何れは王家の不興を買っては大変な事になるかもしれず、私は安心するには至りませんでした。



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