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聖女でなくなった?
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アシャルティ様との面会を終えた私が部屋に戻ると、レリアが今か今かと待っていました。気が付けばアシャルティ様の部屋には半日近くいたので、レリアとしても長すぎると心配になったのでしょう。私も初日なので挨拶をして軽く話をしたら終わり…と思っていたので、こうも長い時間拘束されるとは思っていませんでした。
「ルネ様、変な事されませんでしたか?」
ドアが閉まると直ぐ、レリアがそう尋ねてきました。思った以上に時間が長かったので、何かされたと心配してくれたのでしょう。
「大丈夫よ、レリア。酷い事はされなかったわ」
「でも…初顔合わせなのに随分長かったのは…」
「それが…」
これはちゃんと説明しないとレリアの不安は消えなさそうです。私はレリアを安心させるためにも、アシャルティ様の部屋での事を話しました。
「それじゃ、ルネ様は隣に座ってずっと手を?」
「そうなのよ。それだけでアシャルティ様の大きすぎる魔力が私の聖力と交じり合って中和されるんですって」
「何とも…不思議なお話ですのね…」
「私もそう思ったわ。でも、手を繋いでいると温かい何かがじんわりと流れ込んでくるような感じがするの。アシャルティ様のお話では、それがアシャルティ様の魔力なんですって」
「しかし…魔力とは…」
そうです。こちらの世界では魔力とは古の邪悪な者達が持っていた力で、今では魔獣たちに受け継がれていると言われています。彼らは聖力に弱いため、古の聖女たちが彼らの侵入を防ぐために結界を張ったとも。だからアシャルティ様の魔力が危険なものではないかとレリアは案じているのです。
「それが…アシャルティ様が仰るには、あちらの世界では聖力は魔力の一種なのだそうよ」
「魔力の一種ですって?」
「ええ。あちらでは聖力は白魔術とか聖魔術と呼ばれていて、アシャルティ様にもそのお力があるのだとか」
「では、ルネ様の聖力切れは…」
「ええ。聖力切れは魔力切れと同じなのだそうよ。だからアシャルティ様の魔力を私に与えて下さったのですって」
何とも信じ難い話ですが、アシャルティ様は嘘を仰っている様には思えません。それに…アシャルティ様の魔力を受け容れても体調に問題はありません。むしろ怠さがなくなって前よりも調子がいい様にも感じます。
「アシャルティ様の話では、私がずっと体調が悪かったのも、結界を維持するために聖力を使い過ぎて、いつも聖力切れ寸前だったからなんだそうよ」
「聖力切れですか…」
「ええ。アシャルティ様の魔力を頂いたのだけど、確かにあれからは身体が軽く感じるわ」
「そうですか」
まだレリアは納得いっていないようでしたが、私の話にも一理あると思ったのでしょう。以前の私は肌も髪も艶がなく、目の下のクマが消える事もありませんでした。
でも、聖力切れを起こしてアシャルティ様の魔力を頂いてからは、体調がいいのです。牢に入っていたにも関わらず、です。最も、あれから結界に力を送っていないので、その影響もあるのでしょうが…
「それから…私、もう聖女じゃないみたいなの」
「ええっ?!」
「先ほどアシャルティ様に挨拶した時、王太子殿下が私の事を、聖女だったって仰ったのよ」
「それは…」
「過去形って事は…もう聖女じゃないんじゃないかしら?だから服も聖女のものじゃなくなったのね」
「そんな…それならそうと一言くらい…」
「ええ。今度王太子殿下にお会いしたらお聞きしてみるわ。それに、セザール殿下との婚約は解消されたんじゃないかしら?」
「ええっ?!本当ですか?」
「私がセザール殿下の婚約者になったのも、聖女だったからよ。聖女でなくなったのなら…もう婚約者でいる意味はないと思うの」
「確かに、そうですわね」
こちらにレリアは思いっきり反応しました。きっと聖女じゃなくなった事よりも、こちらの方が重要なのでしょうね。同感です。私も殿下の婚約者でなくなるのはとても嬉しいですもの。
「一応確認はしないといけないけれど…もしそうならセザール殿下にお会いする事もないんじゃないかしら?あの方は私を疎んじていたから、あちらからわざわざ会いに来られる事はないでしょうし」
「そうですわね。よかったですわ、本当に…」
レリアがしみじみと、噛みしめるようにそう言いました。レリアこそ、セザール殿下に蔑ろにされ、暴言を吐かれている私に心を痛めてくれていましたから。もし婚約が解消されれば、レリアに心配をかける事も減るでしょう。それが私は一番嬉しく感じました。
「え?」
その日の夜、湯浴みを終えて寝室に向かった私は、ベッドの上の存在に驚きました。
「ルネ様、どうし…あら、まぁ、クルル…」
そうです。牢で別れたっきりのクルルが、ちょこんとベッドの上で座っていたのです。
「まぁ、クルル。無事だったのね!」
「くぅん!」
「何と言うか、不思議な子ですね」
「ええ。でもこの子、牢にまでやってきたのよ」
「牢にですか?どうやって…」
「それがさっぱりなのよね。この子のサイズでも入りそうな隙間がなかったから」
そうです。あれから何度も牢の中を調べましたが、クルルが入り込めそうな隙間は見つかりませんでした。本当に、どうやって入ってきたのでしょう。
「猫などは狭い隙間も入り込むといいますけど…子犬では珍しいですね」
「本当よね…」
「この子、よっぽどルネ様が好きなんですね」
「そうかしら?」
「くぅん!」
「ほら、返事していますわよ」
そう言ってレリアが笑みを浮かべました。以前は二人きりでも用心して笑みを浮かべませんでしたが…レリアなりに安心する何かがあったのでしょうか。なんにせよ、こうして笑顔でレリアと話が出来る日を迎えて、私はようやく心の底に積もっている不安が少しずつ溶けていくのを感じましたが…
「あ!」
「そうしました、ルネ様?」
「私、アシャルティ様にお礼を言っていなかったわ!」
「お礼って…」
「聖力切れを起こした時、助けて頂いたお礼よ。聖女じゃなくなった事に気を取られて、すっかり忘れていたわ…」
なんて事でしょうか。命を助けて頂いたのに、すっかり忘れていたなんて…
明日は何が何でも、お礼とお詫びをしなければ…そう思いながら私は、その日を終えたのでした。
「ルネ様、変な事されませんでしたか?」
ドアが閉まると直ぐ、レリアがそう尋ねてきました。思った以上に時間が長かったので、何かされたと心配してくれたのでしょう。
「大丈夫よ、レリア。酷い事はされなかったわ」
「でも…初顔合わせなのに随分長かったのは…」
「それが…」
これはちゃんと説明しないとレリアの不安は消えなさそうです。私はレリアを安心させるためにも、アシャルティ様の部屋での事を話しました。
「それじゃ、ルネ様は隣に座ってずっと手を?」
「そうなのよ。それだけでアシャルティ様の大きすぎる魔力が私の聖力と交じり合って中和されるんですって」
「何とも…不思議なお話ですのね…」
「私もそう思ったわ。でも、手を繋いでいると温かい何かがじんわりと流れ込んでくるような感じがするの。アシャルティ様のお話では、それがアシャルティ様の魔力なんですって」
「しかし…魔力とは…」
そうです。こちらの世界では魔力とは古の邪悪な者達が持っていた力で、今では魔獣たちに受け継がれていると言われています。彼らは聖力に弱いため、古の聖女たちが彼らの侵入を防ぐために結界を張ったとも。だからアシャルティ様の魔力が危険なものではないかとレリアは案じているのです。
「それが…アシャルティ様が仰るには、あちらの世界では聖力は魔力の一種なのだそうよ」
「魔力の一種ですって?」
「ええ。あちらでは聖力は白魔術とか聖魔術と呼ばれていて、アシャルティ様にもそのお力があるのだとか」
「では、ルネ様の聖力切れは…」
「ええ。聖力切れは魔力切れと同じなのだそうよ。だからアシャルティ様の魔力を私に与えて下さったのですって」
何とも信じ難い話ですが、アシャルティ様は嘘を仰っている様には思えません。それに…アシャルティ様の魔力を受け容れても体調に問題はありません。むしろ怠さがなくなって前よりも調子がいい様にも感じます。
「アシャルティ様の話では、私がずっと体調が悪かったのも、結界を維持するために聖力を使い過ぎて、いつも聖力切れ寸前だったからなんだそうよ」
「聖力切れですか…」
「ええ。アシャルティ様の魔力を頂いたのだけど、確かにあれからは身体が軽く感じるわ」
「そうですか」
まだレリアは納得いっていないようでしたが、私の話にも一理あると思ったのでしょう。以前の私は肌も髪も艶がなく、目の下のクマが消える事もありませんでした。
でも、聖力切れを起こしてアシャルティ様の魔力を頂いてからは、体調がいいのです。牢に入っていたにも関わらず、です。最も、あれから結界に力を送っていないので、その影響もあるのでしょうが…
「それから…私、もう聖女じゃないみたいなの」
「ええっ?!」
「先ほどアシャルティ様に挨拶した時、王太子殿下が私の事を、聖女だったって仰ったのよ」
「それは…」
「過去形って事は…もう聖女じゃないんじゃないかしら?だから服も聖女のものじゃなくなったのね」
「そんな…それならそうと一言くらい…」
「ええ。今度王太子殿下にお会いしたらお聞きしてみるわ。それに、セザール殿下との婚約は解消されたんじゃないかしら?」
「ええっ?!本当ですか?」
「私がセザール殿下の婚約者になったのも、聖女だったからよ。聖女でなくなったのなら…もう婚約者でいる意味はないと思うの」
「確かに、そうですわね」
こちらにレリアは思いっきり反応しました。きっと聖女じゃなくなった事よりも、こちらの方が重要なのでしょうね。同感です。私も殿下の婚約者でなくなるのはとても嬉しいですもの。
「一応確認はしないといけないけれど…もしそうならセザール殿下にお会いする事もないんじゃないかしら?あの方は私を疎んじていたから、あちらからわざわざ会いに来られる事はないでしょうし」
「そうですわね。よかったですわ、本当に…」
レリアがしみじみと、噛みしめるようにそう言いました。レリアこそ、セザール殿下に蔑ろにされ、暴言を吐かれている私に心を痛めてくれていましたから。もし婚約が解消されれば、レリアに心配をかける事も減るでしょう。それが私は一番嬉しく感じました。
「え?」
その日の夜、湯浴みを終えて寝室に向かった私は、ベッドの上の存在に驚きました。
「ルネ様、どうし…あら、まぁ、クルル…」
そうです。牢で別れたっきりのクルルが、ちょこんとベッドの上で座っていたのです。
「まぁ、クルル。無事だったのね!」
「くぅん!」
「何と言うか、不思議な子ですね」
「ええ。でもこの子、牢にまでやってきたのよ」
「牢にですか?どうやって…」
「それがさっぱりなのよね。この子のサイズでも入りそうな隙間がなかったから」
そうです。あれから何度も牢の中を調べましたが、クルルが入り込めそうな隙間は見つかりませんでした。本当に、どうやって入ってきたのでしょう。
「猫などは狭い隙間も入り込むといいますけど…子犬では珍しいですね」
「本当よね…」
「この子、よっぽどルネ様が好きなんですね」
「そうかしら?」
「くぅん!」
「ほら、返事していますわよ」
そう言ってレリアが笑みを浮かべました。以前は二人きりでも用心して笑みを浮かべませんでしたが…レリアなりに安心する何かがあったのでしょうか。なんにせよ、こうして笑顔でレリアと話が出来る日を迎えて、私はようやく心の底に積もっている不安が少しずつ溶けていくのを感じましたが…
「あ!」
「そうしました、ルネ様?」
「私、アシャルティ様にお礼を言っていなかったわ!」
「お礼って…」
「聖力切れを起こした時、助けて頂いたお礼よ。聖女じゃなくなった事に気を取られて、すっかり忘れていたわ…」
なんて事でしょうか。命を助けて頂いたのに、すっかり忘れていたなんて…
明日は何が何でも、お礼とお詫びをしなければ…そう思いながら私は、その日を終えたのでした。
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