『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
14 / 71

異世界からのお客人

しおりを挟む
 翌日、私は朝から湯浴みをした上にマッサージなども施されて、王太子殿下にお会いした時と同じくらいに磨き上げられました。今日は暖かみのあるクリーム色のドレスを着せられましたが…何と言いますか、ドレスに着られている感満載、のように感じます。牢から出された時からドレスで過ごす様にと言われていましたが…何だか落ち着きません。
 そりゃあ、聖女の服もドレスのような形ですが、あれは白一色でスカートの広がりも少なく、とてもシンプルなのです。こんなレースやフリルなどの施された可愛いドレスは、着慣れなくて変な感じです。

「きれいに出来ましたわ、ルネ様」
「そうかしら…ドレスに負けている気がするのだけど…」
「そんな事はありませんわ」

 褒めても何も出ませんよ…そうは思いますが、褒められると嬉しくてつい頬が緩んでしまいますわね。レリアだからこそ嘘偽りがないというのもありますが。
 でも、どうしてこうも着飾らなければいけないのか、甚だ疑問です。レリアに言われた情婦説がじわじわと私の中で存在感を増している気がします。いくら何でも貧相な私相手に…そんな筈、ないですよね…

「さぁ、ご案内しましょう」

 王太子殿下がいらっしゃって、私を連れて異世界の男性の元に向かいました。お会いするのは二度目ですが…まずは助けて下さったお礼を言わなければいけませんね。私の命の恩人も同じなのです。

「セレン殿、失礼する」

 訪ねたのは王宮の一角、王族の生活空間の近くにある簡素ながらも上品な佇まいの離宮で、ここに男性は滞在されているそうです。今はここで暮らしながらこの世界の事を学んでいらっしゃるのだとか。男性がいる世界とは色んな理が違うそうで、まずは習慣やマナーなどの講師が招かれているそうです。ルネ殿も色々教えて差し上げて下さいと言われましたが…神殿と王宮しか知らない私に、教えられる事があるでしょうか…

「やぁ、ジルベール殿」
「セレン殿、紹介しよう。彼女はルネ=アルトー嬢。我が国の聖女でいらした方だ」

 王太子殿下の言葉に、私は自分の立場を改めて理解しました。今、殿下は聖女でいらしたと、過去形を使われたのです。それは私が既にこの国の聖女ではない、という事なのでしょう。はっきり告げられませんでしたが…先日から聖女の衣装を着る事がなかったのは、そう言う事だったのですね。

「初めまして、ルネ嬢。私はセレン=アシャルティ。君も知っての通り、異世界から渡ってきた者だ」
「ルネ=アルトーです。よろしくお願いします」

 向けられた笑顔は目も覚めるような麗しさで、男性に慣れていない私はそれだけで心拍数が上がってしまいました。こんな風に蔑みの色がない笑顔を向けられるのも珍しいですし。この方は異世界の方なので、私が孤児だとご存じないのでしょうか。

「ルネ殿。どうか彼の悩みの解消をお願いする。我々には彼の力が必要なのだ」
「はい、心得ております。私に出来る事でしたら何なりとお申し付けください」
「任せたよ。ではセレン殿、ルナ殿を頼むよ」
「ああ、任せてくれ。決して粗雑には扱わないよ」

 暫く雑談を交わした後、王弟殿下は次の予定があるからと去って行かれました。王太子殿下とアシャルティ様は随分打ち解けていらっしゃる様です。王太子殿下は御年二十三歳、アシャルティ様とはお歳が近くて王族でいらっしゃるので、お話が合うのでしょうか。

「女の子が何なりと…なんていうもんじゃないよ」
「え、っと…」

 王太子殿下が去られると、男性は苦笑をうかべながらそう告げました。そんな風に言われても、私もどう反応したらいいのか悩んでしまいます。そもそも王太子殿下からの要請を、私が拒否出来る筈もないのですから。

「ああ、心配しないで。無下な事はしないと誓おう。それに、嫌だと思う事があったら何なりと教えて欲しい。私はこの世界の常識に疎いのでね。何が嫌がられるか、まだわかっていないのだよ」
「わかりました。それで…私は何をすれば…」

 そうです、肝心なのは私が何をするかなのですが…これは王太子殿下にもわからないので、本人に直接聞くようにと言われたのです。一体何をすればいいのでしょうか…

「ルネ嬢には…私の魔力の中和をお願いしたいんだ」
「魔力の中和、ですか。その…私が持つのは聖力で、魔力とは別のものでは…」
「私の世界では、聖力は魔力の中の一つなんだよ。そうだね、まずはそこから説明しようか」

 アシャルティ様はそう言って、魔力や聖力について教えてくれました。アシャルティ様の世界では聖力は魔力の一種で、白魔術とも聖魔術とも呼ばれているそうです。主に人を癒す力なのだそうですが、結界を張ったり何かの物の強度を上げたりすることも出来るのだとか。あちらの世界でもこの力の使い手は珍しいらしく、向こうにいらっしゃった時から探しておられたのだそうです。

「あっちの世界では見つからなかったのだけど、こちらに来て幸運だったよ。こんなにも純粋な聖力の使い手がいたなんてね」
「そうなのですか…」
「ああ、向こうでは複数の力を持つ者が殆どでね。私自身もこちらでいう聖力を持っているし、結界などを作り上げる事も出来るが…私の力の中和には純度の高い聖力の持ち主が必要なんだよ」

 なるほど、こちらの世界では魔力を持つ人はいませんし、力は聖力だけです。そういう意味ではアシャルティ様にとっては好都合だったようです。でも…

「あの…それで、その中和とは一体、どうやって…」
「まぁ、方法は色々あるんだ。例えば…こうして手を握るだけでも…」

 そう言ってアシャルティ様は、私の手を握られました。大きくて少し硬く、熱い手の感触に私はびっくりして固まってしまいました。だって…こんな風に異性と触れ合ったのは初めてなのです。聖女ですから神殿は神官を除けば男子禁制でしたし、婚約者のセザール殿下とは触れ合うどころか三歩以内に近づいた事もありませんから。

「…あ…」

 そんな事に気を取られていると…急に手から何か温かいものが使わってくるのを感じました。生まれて初めての感覚に、思わず手を引っ込めそうになりましたが、アシャルティ様はその手を放してくださいませんでした。

しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...