『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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異世界からのお客人

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 翌日、私は朝から湯浴みをした上にマッサージなども施されて、王太子殿下にお会いした時と同じくらいに磨き上げられました。今日は暖かみのあるクリーム色のドレスを着せられましたが…何と言いますか、ドレスに着られている感満載、のように感じます。牢から出された時からドレスで過ごす様にと言われていましたが…何だか落ち着きません。
 そりゃあ、聖女の服もドレスのような形ですが、あれは白一色でスカートの広がりも少なく、とてもシンプルなのです。こんなレースやフリルなどの施された可愛いドレスは、着慣れなくて変な感じです。

「きれいに出来ましたわ、ルネ様」
「そうかしら…ドレスに負けている気がするのだけど…」
「そんな事はありませんわ」

 褒めても何も出ませんよ…そうは思いますが、褒められると嬉しくてつい頬が緩んでしまいますわね。レリアだからこそ嘘偽りがないというのもありますが。
 でも、どうしてこうも着飾らなければいけないのか、甚だ疑問です。レリアに言われた情婦説がじわじわと私の中で存在感を増している気がします。いくら何でも貧相な私相手に…そんな筈、ないですよね…

「さぁ、ご案内しましょう」

 王太子殿下がいらっしゃって、私を連れて異世界の男性の元に向かいました。お会いするのは二度目ですが…まずは助けて下さったお礼を言わなければいけませんね。私の命の恩人も同じなのです。

「セレン殿、失礼する」

 訪ねたのは王宮の一角、王族の生活空間の近くにある簡素ながらも上品な佇まいの離宮で、ここに男性は滞在されているそうです。今はここで暮らしながらこの世界の事を学んでいらっしゃるのだとか。男性がいる世界とは色んな理が違うそうで、まずは習慣やマナーなどの講師が招かれているそうです。ルネ殿も色々教えて差し上げて下さいと言われましたが…神殿と王宮しか知らない私に、教えられる事があるでしょうか…

「やぁ、ジルベール殿」
「セレン殿、紹介しよう。彼女はルネ=アルトー嬢。我が国の聖女でいらした方だ」

 王太子殿下の言葉に、私は自分の立場を改めて理解しました。今、殿下は聖女でいらしたと、過去形を使われたのです。それは私が既にこの国の聖女ではない、という事なのでしょう。はっきり告げられませんでしたが…先日から聖女の衣装を着る事がなかったのは、そう言う事だったのですね。

「初めまして、ルネ嬢。私はセレン=アシャルティ。君も知っての通り、異世界から渡ってきた者だ」
「ルネ=アルトーです。よろしくお願いします」

 向けられた笑顔は目も覚めるような麗しさで、男性に慣れていない私はそれだけで心拍数が上がってしまいました。こんな風に蔑みの色がない笑顔を向けられるのも珍しいですし。この方は異世界の方なので、私が孤児だとご存じないのでしょうか。

「ルネ殿。どうか彼の悩みの解消をお願いする。我々には彼の力が必要なのだ」
「はい、心得ております。私に出来る事でしたら何なりとお申し付けください」
「任せたよ。ではセレン殿、ルナ殿を頼むよ」
「ああ、任せてくれ。決して粗雑には扱わないよ」

 暫く雑談を交わした後、王弟殿下は次の予定があるからと去って行かれました。王太子殿下とアシャルティ様は随分打ち解けていらっしゃる様です。王太子殿下は御年二十三歳、アシャルティ様とはお歳が近くて王族でいらっしゃるので、お話が合うのでしょうか。

「女の子が何なりと…なんていうもんじゃないよ」
「え、っと…」

 王太子殿下が去られると、男性は苦笑をうかべながらそう告げました。そんな風に言われても、私もどう反応したらいいのか悩んでしまいます。そもそも王太子殿下からの要請を、私が拒否出来る筈もないのですから。

「ああ、心配しないで。無下な事はしないと誓おう。それに、嫌だと思う事があったら何なりと教えて欲しい。私はこの世界の常識に疎いのでね。何が嫌がられるか、まだわかっていないのだよ」
「わかりました。それで…私は何をすれば…」

 そうです、肝心なのは私が何をするかなのですが…これは王太子殿下にもわからないので、本人に直接聞くようにと言われたのです。一体何をすればいいのでしょうか…

「ルネ嬢には…私の魔力の中和をお願いしたいんだ」
「魔力の中和、ですか。その…私が持つのは聖力で、魔力とは別のものでは…」
「私の世界では、聖力は魔力の中の一つなんだよ。そうだね、まずはそこから説明しようか」

 アシャルティ様はそう言って、魔力や聖力について教えてくれました。アシャルティ様の世界では聖力は魔力の一種で、白魔術とも聖魔術とも呼ばれているそうです。主に人を癒す力なのだそうですが、結界を張ったり何かの物の強度を上げたりすることも出来るのだとか。あちらの世界でもこの力の使い手は珍しいらしく、向こうにいらっしゃった時から探しておられたのだそうです。

「あっちの世界では見つからなかったのだけど、こちらに来て幸運だったよ。こんなにも純粋な聖力の使い手がいたなんてね」
「そうなのですか…」
「ああ、向こうでは複数の力を持つ者が殆どでね。私自身もこちらでいう聖力を持っているし、結界などを作り上げる事も出来るが…私の力の中和には純度の高い聖力の持ち主が必要なんだよ」

 なるほど、こちらの世界では魔力を持つ人はいませんし、力は聖力だけです。そういう意味ではアシャルティ様にとっては好都合だったようです。でも…

「あの…それで、その中和とは一体、どうやって…」
「まぁ、方法は色々あるんだ。例えば…こうして手を握るだけでも…」

 そう言ってアシャルティ様は、私の手を握られました。大きくて少し硬く、熱い手の感触に私はびっくりして固まってしまいました。だって…こんな風に異性と触れ合ったのは初めてなのです。聖女ですから神殿は神官を除けば男子禁制でしたし、婚約者のセザール殿下とは触れ合うどころか三歩以内に近づいた事もありませんから。

「…あ…」

 そんな事に気を取られていると…急に手から何か温かいものが使わってくるのを感じました。生まれて初めての感覚に、思わず手を引っ込めそうになりましたが、アシャルティ様はその手を放してくださいませんでした。

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