12 / 71
王太子殿下からの謝罪
しおりを挟む
「おい、出ろ!」
「ひっ!」
翌日、する事もない私がクルルを撫でていると、看守が声をかけてきました。クルルが見つかってしまったのではないかと焦る私を看守は冷たく一瞥しましたが…幸いにもクルルには気が付いていないようでした。
クルルも看守が来るのが分かるのでしょうか。看守が来る時にはシーツの中にもぐっていたり、看守から見えない位置にいたりと、上手く立ち回っています。子犬ながら侮りがたし、ですわね。
クルルの事は心配ですが…連れていくわけにもいきません。見つからないように大人しくしているか、こうしている間に外に出てくれるといいのですが…
連れて来られたのは、王族の生活エリアの中にある客間でした。一体どういう事でしょうか…
「失礼します、聖女様」
「え…ええっ?!」
声をかけてきたのは三人の侍女でした。衣装からして上級侍女なのでしょう。何を…と思う間もなく私は身ぐるみ剥がされて、湯船に放り込まれました。いえ、お風呂にずっと入っていなかったので有難いのですが…状況が分からないのでそれはそれで不安です。
「あの…何がどうなって…」
「陛下より御身の清めを命じられました。この後、王太子殿下の元にご案内します」
「殿下の元に?どうして…」
「それについては私共は伺っておりません」
相変わらず淡々と事務的に私を磨き上げる侍女達からは、好意の一片も感じられませんでした。謁見するのにあの格好では問題があったのでしょうが…それにしては随分と入念に磨かれました。
それから一刻程度後。ピッカピカに磨き上げられ、聖女の衣装ではなく普通の令嬢が着るような水色のドレスを着せられ、更には軽く化粧までされました。鏡に映るのは別人のような自分です。しかし、この格好は一体…王宮に上がって以来、こんなドレスを着るのは初めてなのですが…
「さ、ご案内いたします」
そう言って侍女に案内されたのは、直ぐ近くにある客間でした。ソファに案内されて暫く待つようにと言われましたが、一体何があるのでしょうか…侍女たちもこれ以上の事は何も教えてくれなかったので、不安ばかりが募ります。
「待たせたね」
暫くして入って来られたのは、王太子殿下でした。穏やかな笑みに少しだけ不安が軽くなった気がします。この方は常識的というか、王族の中でも私を蔑む言動をされないので、他の方々よりは安心出来ます。
「すまないね、ルネ殿。牢になど放り込んで」
「い、いえ……」
謝られてしまうと、かえって不安が募りました。これは…どう受け止めていいのでしょうか。
「セザールが陛下に無断で召喚術を使った事、それについて貴女の力を無理やり奪い命の危険に晒した事、更には貴女のせいだという弟の言葉を真に受けて牢に繋いだ事、すまなかった」
そう言って王太子殿下が頭を下げられたため、私は焦ってしまいました。王家の方がこんなに簡単に頭を下げてはいけないのではないでしょうか。
「あ、あの…王太子殿下のせいではありませんので…頭をお上げください」
そうです。全てはセザール殿下のせいで、王太子殿下は関係ありません。慌ててそう言いますが、殿下は中々頭を上げられませんでした。王家の方に頭をさせさせるなんて…それこそ不敬罪にならないでしょうか…
「ありがとう、貴女は優しいね」
「いえ、その様な…」
優しいとかどういう問題ではないのですが…じゃ、どういう問題だと言われると答えようもないので、私はそれ以上何も言えませんでした。
「謝罪したばかりで申し訳ないのだけど、実は貴女にお願いがあるんだ」
「お願い…ですか?」
「ああ、あの召喚した男性なのだが…」
「え?あの男性ですか?ご無事なのですか」
「ああ、今は客人として丁重に持てなしているよ。その彼だけど…かなりの力をお持ちのようでね。我が国の結界の維持を引き受けてもいいと言ってくれているんだ」
「まぁ…」
「だが、それには条件があってね」
「条件、ですか…」
結界の維持をして頂けるのは大変ありがたい事です。私では十分ではありませんが、あの方なら難なくこなせるのではないでしょうか。
でも、その条件を聞いてはいけない様な気がするのは気のせい、でしょうか…
「ああ、彼は貴女を側に置きたいと言っているんだ」
「…私を、ですか?どうして…」
それこそ意外な話でした。私など側に置いてどうしようというのでしょうか…侍女としてのスキルもありませんし、聖女の力だって十分とは言えません。お役に立てるとは思えないのですが…
「彼は魔力が大きすぎるらしくてね。この世界では暴走してしまうかもしれないというのだよ」
「まぁ…」
「だが、貴女の力があれば、それを緩和できると言うんだ」
「緩和?私の力で…ですか?」
「ああ。詳しい事は私もわからないのだが、彼は貴女が適任だというのだよ。そして、貴女が側に居てくれる間は結界を守ると約束すると。何なら綻びかけている結界も修復してくれると言うんだ」
「綻びた結界を…」
それは…願ったりかなったりですが、そんな事が可能なのでしょうか。この世界にはもう、結界を再構築する力はなく、維持する事も困難なはずです。でも…
「そう言う事でしたら…私でよければ…」
結界の維持は国を、民を守るためには必要不可欠です。私の身一つでそれが叶うのなら、私にはそう応える以外の選択肢などありません。私は…力が弱くても聖女なのですから…
「そう言って貰えると助かるよ」
王太子殿下が、ホッと安堵するような笑顔を浮かべました。何が何だかよくわかりませんが、私の罪はなかった事になり、牢から出られただけでも一安心です。最悪、死罪かも…と覚悟していましたから。
「ひっ!」
翌日、する事もない私がクルルを撫でていると、看守が声をかけてきました。クルルが見つかってしまったのではないかと焦る私を看守は冷たく一瞥しましたが…幸いにもクルルには気が付いていないようでした。
クルルも看守が来るのが分かるのでしょうか。看守が来る時にはシーツの中にもぐっていたり、看守から見えない位置にいたりと、上手く立ち回っています。子犬ながら侮りがたし、ですわね。
クルルの事は心配ですが…連れていくわけにもいきません。見つからないように大人しくしているか、こうしている間に外に出てくれるといいのですが…
連れて来られたのは、王族の生活エリアの中にある客間でした。一体どういう事でしょうか…
「失礼します、聖女様」
「え…ええっ?!」
声をかけてきたのは三人の侍女でした。衣装からして上級侍女なのでしょう。何を…と思う間もなく私は身ぐるみ剥がされて、湯船に放り込まれました。いえ、お風呂にずっと入っていなかったので有難いのですが…状況が分からないのでそれはそれで不安です。
「あの…何がどうなって…」
「陛下より御身の清めを命じられました。この後、王太子殿下の元にご案内します」
「殿下の元に?どうして…」
「それについては私共は伺っておりません」
相変わらず淡々と事務的に私を磨き上げる侍女達からは、好意の一片も感じられませんでした。謁見するのにあの格好では問題があったのでしょうが…それにしては随分と入念に磨かれました。
それから一刻程度後。ピッカピカに磨き上げられ、聖女の衣装ではなく普通の令嬢が着るような水色のドレスを着せられ、更には軽く化粧までされました。鏡に映るのは別人のような自分です。しかし、この格好は一体…王宮に上がって以来、こんなドレスを着るのは初めてなのですが…
「さ、ご案内いたします」
そう言って侍女に案内されたのは、直ぐ近くにある客間でした。ソファに案内されて暫く待つようにと言われましたが、一体何があるのでしょうか…侍女たちもこれ以上の事は何も教えてくれなかったので、不安ばかりが募ります。
「待たせたね」
暫くして入って来られたのは、王太子殿下でした。穏やかな笑みに少しだけ不安が軽くなった気がします。この方は常識的というか、王族の中でも私を蔑む言動をされないので、他の方々よりは安心出来ます。
「すまないね、ルネ殿。牢になど放り込んで」
「い、いえ……」
謝られてしまうと、かえって不安が募りました。これは…どう受け止めていいのでしょうか。
「セザールが陛下に無断で召喚術を使った事、それについて貴女の力を無理やり奪い命の危険に晒した事、更には貴女のせいだという弟の言葉を真に受けて牢に繋いだ事、すまなかった」
そう言って王太子殿下が頭を下げられたため、私は焦ってしまいました。王家の方がこんなに簡単に頭を下げてはいけないのではないでしょうか。
「あ、あの…王太子殿下のせいではありませんので…頭をお上げください」
そうです。全てはセザール殿下のせいで、王太子殿下は関係ありません。慌ててそう言いますが、殿下は中々頭を上げられませんでした。王家の方に頭をさせさせるなんて…それこそ不敬罪にならないでしょうか…
「ありがとう、貴女は優しいね」
「いえ、その様な…」
優しいとかどういう問題ではないのですが…じゃ、どういう問題だと言われると答えようもないので、私はそれ以上何も言えませんでした。
「謝罪したばかりで申し訳ないのだけど、実は貴女にお願いがあるんだ」
「お願い…ですか?」
「ああ、あの召喚した男性なのだが…」
「え?あの男性ですか?ご無事なのですか」
「ああ、今は客人として丁重に持てなしているよ。その彼だけど…かなりの力をお持ちのようでね。我が国の結界の維持を引き受けてもいいと言ってくれているんだ」
「まぁ…」
「だが、それには条件があってね」
「条件、ですか…」
結界の維持をして頂けるのは大変ありがたい事です。私では十分ではありませんが、あの方なら難なくこなせるのではないでしょうか。
でも、その条件を聞いてはいけない様な気がするのは気のせい、でしょうか…
「ああ、彼は貴女を側に置きたいと言っているんだ」
「…私を、ですか?どうして…」
それこそ意外な話でした。私など側に置いてどうしようというのでしょうか…侍女としてのスキルもありませんし、聖女の力だって十分とは言えません。お役に立てるとは思えないのですが…
「彼は魔力が大きすぎるらしくてね。この世界では暴走してしまうかもしれないというのだよ」
「まぁ…」
「だが、貴女の力があれば、それを緩和できると言うんだ」
「緩和?私の力で…ですか?」
「ああ。詳しい事は私もわからないのだが、彼は貴女が適任だというのだよ。そして、貴女が側に居てくれる間は結界を守ると約束すると。何なら綻びかけている結界も修復してくれると言うんだ」
「綻びた結界を…」
それは…願ったりかなったりですが、そんな事が可能なのでしょうか。この世界にはもう、結界を再構築する力はなく、維持する事も困難なはずです。でも…
「そう言う事でしたら…私でよければ…」
結界の維持は国を、民を守るためには必要不可欠です。私の身一つでそれが叶うのなら、私にはそう応える以外の選択肢などありません。私は…力が弱くても聖女なのですから…
「そう言って貰えると助かるよ」
王太子殿下が、ホッと安堵するような笑顔を浮かべました。何が何だかよくわかりませんが、私の罪はなかった事になり、牢から出られただけでも一安心です。最悪、死罪かも…と覚悟していましたから。
71
お気に入りに追加
2,740
あなたにおすすめの小説

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~
サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる