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石畳の部屋と侵入者
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「こんな事になるなんて…」
私の呟きは、冷たい石の壁に吸い込まれて行きました。ここは王宮の地下牢にある薄暗い石造りの部屋の中で、私はため息をつく事しか出来ませんでした。
私に許されているのは、粗末な木のベッドとトイレ替わりの箱、そして食事などをするためのガタガタと音がする木のテーブルのみ。入り口には頑丈そうな鉄の扉、上の方に小さな採光窓が一つ、そして食事などを出し入れする小さな小窓です。着の身着のまま放り込まれて、真っ白だった聖女のドレスもすっかり汚れて灰色になっています。
あれから二日が経ちました。牢に押し込まれてから今まで、看守が日に二度の食事を届ける以外、誰もここに近づきません。直ぐに尋問が始まるのかと思い、何と答えようかと考えていましたが…それも今のところ空振りに終わっています。
正直言って、陛下が私を投獄したのは予想外でした。冷静に考えれば、私が召喚の儀など知る方法がないと分る筈だからです。私は聖女宮で暮らしていますが、実態は軟禁です。聖女宮とその庭、天明宮以外の場所に行く事は稀ですし、常に護衛騎士が私に付いています。会うのはレリアを含めた三人の侍女と護衛騎士、そして王子妃教育の講師の先生方、そしてセザール殿下とその側近や侍従です。
こんな状況なので仮に召喚の儀をしたいと思ったところで、それを調べる事など不可能です。そもそもその様な秘術は王家が管理しているので、見る事など不可能でしょう。先日の召喚の儀の最中も、大神官長様はあの儀式以外の事は知らなかったようですから、大神官長様でも見る事は不可能という事。私など、どう頑張っても無理でしょう。
私は…セザール殿下によって切り捨てられたのでしょう。きっと殿下の事です、ご自身が望むような聖女が現れなかったので、私が勝手にやった事にして、陛下からのお怒りを免れようとしたのでしょう。
殿下は私の事をその辺の石ころくらいにしか思っていません。自分のために私が犠牲になるのは当然、むしろ喜んで犠牲になるものだと思っていそうですし…確かあの時も、そんな事を言っていましたよね。
そうなれば…この先に待っているのは、尋問も何もなしでの処刑でしょうか…元より身分制度が厳しいこの国では、平民が貴族によって無実の罪で殺されるなど、珍しい事ではないのですから…
「ふぅ…」
考えたところで、いい事など何一つ思い浮かびません。元々孤児ですから家族もいませんし、私一人死んだところで悲しむ人もいない…訳じゃありませんわね。
(レリアは無事かしら…)
私の頭に浮かんだのは、私のたった一人の味方とも言えるレリアでした。幸い彼女は私と仲がいいとは思われていないので、私に何かあっても連帯責任にはならないとは思いますが…共犯者として無実の罪をでっち上げられる心配があります。そう思うと、心が重苦しくなりました。
(どうか…レリアが無事でありますように…)
逃げ出す術もなく、出来る事が何もない私は、彼女の無事をただ祈る事しか出来ませんでした。
(…え?)
いつの間にか眠っていたのでしょうか?ふと何かの気配を感じて目が覚めましたが…私は目の前にいるそれに、飛び上がらんばかりに驚きました。
「クルル…どうして…」
なんと、子犬のクルルが私のベッドの上にちょこんと転がって、私を見上げているのです。こここそ、まさに鼠一匹通るのも不可能な場所の筈です。壁は石造りですし、窓はかなり上の方にあるし鉄格子が嵌められているので、子犬が通れるほどの幅はありません。入り口は頑丈な鉄の扉ですし、食事などの受け渡し用の小窓も、今は鍵がかかっています。
「どうやって入ってきたの?」
「くぅ?」
「こんなところにいたら危険だわ。元来たところから早く外に出なさい」
「くぅう」
(ダメだわ、言葉が通じていない…)
私の焦りをよそに、クルルは尻尾を振ってご機嫌な様子ですが…看守にでも見つかったら大事です。何とか外に出て貰おうと思って牢の中を調べてみましたが、入って来れるような隙間は見つからず、私は首をかしげるばかりでした。
「おい、食事だ」
「え?あ、はい!」
突然声をかけられて、私は思わず上ずった声が出てしまいました。クルルが見つかっては大変なので、慌ててシーツで隠しました。私が大きめの声を出した事に看守は訝しげな表情を小窓から見せましたが…どうやら急に呼ばれて驚いたとでも思ったのでしょうか、そのまま行ってしまいました。
「見つからなくてよかったわ…」
私がほっと息を吐いている横で、クルルは呑気にシーツに戯れていました。いえ、この様な無邪気な姿に凄く癒されるのですが…状況が状況なのでそんな姿に冷や冷やしてしまいます。
「クルルも食べる?」
出された食事は固いパンと具のないスープですが…クルルも食べて大丈夫なのでしょうか…せめてパンだけでもと思い目の前に起きますが、クルルは匂いを嗅ぐだけでそっぽを向いてしまいました。
「ごめんね、こんなものしかなくて…」
そうは言っても、クルルのためにミルクでも…という訳にもいきません。私は囚人ですし、食事が出るだけでもマシな状態なのです。
「お腹がすいたら食べてね」
そう言ってクルル用にパンを半分残しましたが…どうやらクルルはパンは苦手のようで、それは手付かずのまま残っていました。
私の呟きは、冷たい石の壁に吸い込まれて行きました。ここは王宮の地下牢にある薄暗い石造りの部屋の中で、私はため息をつく事しか出来ませんでした。
私に許されているのは、粗末な木のベッドとトイレ替わりの箱、そして食事などをするためのガタガタと音がする木のテーブルのみ。入り口には頑丈そうな鉄の扉、上の方に小さな採光窓が一つ、そして食事などを出し入れする小さな小窓です。着の身着のまま放り込まれて、真っ白だった聖女のドレスもすっかり汚れて灰色になっています。
あれから二日が経ちました。牢に押し込まれてから今まで、看守が日に二度の食事を届ける以外、誰もここに近づきません。直ぐに尋問が始まるのかと思い、何と答えようかと考えていましたが…それも今のところ空振りに終わっています。
正直言って、陛下が私を投獄したのは予想外でした。冷静に考えれば、私が召喚の儀など知る方法がないと分る筈だからです。私は聖女宮で暮らしていますが、実態は軟禁です。聖女宮とその庭、天明宮以外の場所に行く事は稀ですし、常に護衛騎士が私に付いています。会うのはレリアを含めた三人の侍女と護衛騎士、そして王子妃教育の講師の先生方、そしてセザール殿下とその側近や侍従です。
こんな状況なので仮に召喚の儀をしたいと思ったところで、それを調べる事など不可能です。そもそもその様な秘術は王家が管理しているので、見る事など不可能でしょう。先日の召喚の儀の最中も、大神官長様はあの儀式以外の事は知らなかったようですから、大神官長様でも見る事は不可能という事。私など、どう頑張っても無理でしょう。
私は…セザール殿下によって切り捨てられたのでしょう。きっと殿下の事です、ご自身が望むような聖女が現れなかったので、私が勝手にやった事にして、陛下からのお怒りを免れようとしたのでしょう。
殿下は私の事をその辺の石ころくらいにしか思っていません。自分のために私が犠牲になるのは当然、むしろ喜んで犠牲になるものだと思っていそうですし…確かあの時も、そんな事を言っていましたよね。
そうなれば…この先に待っているのは、尋問も何もなしでの処刑でしょうか…元より身分制度が厳しいこの国では、平民が貴族によって無実の罪で殺されるなど、珍しい事ではないのですから…
「ふぅ…」
考えたところで、いい事など何一つ思い浮かびません。元々孤児ですから家族もいませんし、私一人死んだところで悲しむ人もいない…訳じゃありませんわね。
(レリアは無事かしら…)
私の頭に浮かんだのは、私のたった一人の味方とも言えるレリアでした。幸い彼女は私と仲がいいとは思われていないので、私に何かあっても連帯責任にはならないとは思いますが…共犯者として無実の罪をでっち上げられる心配があります。そう思うと、心が重苦しくなりました。
(どうか…レリアが無事でありますように…)
逃げ出す術もなく、出来る事が何もない私は、彼女の無事をただ祈る事しか出来ませんでした。
(…え?)
いつの間にか眠っていたのでしょうか?ふと何かの気配を感じて目が覚めましたが…私は目の前にいるそれに、飛び上がらんばかりに驚きました。
「クルル…どうして…」
なんと、子犬のクルルが私のベッドの上にちょこんと転がって、私を見上げているのです。こここそ、まさに鼠一匹通るのも不可能な場所の筈です。壁は石造りですし、窓はかなり上の方にあるし鉄格子が嵌められているので、子犬が通れるほどの幅はありません。入り口は頑丈な鉄の扉ですし、食事などの受け渡し用の小窓も、今は鍵がかかっています。
「どうやって入ってきたの?」
「くぅ?」
「こんなところにいたら危険だわ。元来たところから早く外に出なさい」
「くぅう」
(ダメだわ、言葉が通じていない…)
私の焦りをよそに、クルルは尻尾を振ってご機嫌な様子ですが…看守にでも見つかったら大事です。何とか外に出て貰おうと思って牢の中を調べてみましたが、入って来れるような隙間は見つからず、私は首をかしげるばかりでした。
「おい、食事だ」
「え?あ、はい!」
突然声をかけられて、私は思わず上ずった声が出てしまいました。クルルが見つかっては大変なので、慌ててシーツで隠しました。私が大きめの声を出した事に看守は訝しげな表情を小窓から見せましたが…どうやら急に呼ばれて驚いたとでも思ったのでしょうか、そのまま行ってしまいました。
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