『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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国王陛下からの尋問

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 結局私の側を離れなかった子犬に、私はクルルという名をつけて側に置く事にしました。クルルはこの国に咲く白と薄紫の花です。何となく色彩がそっくりに見えたのでそう名付けました。
 レリアが内々に侍女頭に事情を話したところ、侍女頭もそう言う事なら…と目を瞑ってくれました。また殿下には内密にして貰えないかと頼んだところ、侍女頭も同じような懸念を抱いていたのだとか。侍女頭も実は犬好きで、出来るなら自分が飼いたいと思っていたそうです。子犬が戻ってきてしまうのなら仕方ない、勝手に居ついた事にしましょうと言ってくれたそうです。

「でも、私とレリア以外の人が来たら出来るだけ隠れてね」
「くぅん」
「…っ」

 きっとわかってはいないでしょうが、私が話しかけると嬉しそうに尻尾を振って、最後には首をかしげるような仕草をしました。はぁ、可愛すぎて…色んな意味で癒されますわね。ここに来てからこんなに癒された事はなかった気がします。




 倒れてから三日目。ようやく事態が動きました。国王陛下がお戻りになられたのです。その間の結界の状態が心配だった私は、何度かレリアを通して侍女頭に結界の祈りが出来るように頼んだのですが…大丈夫ですからゆっくりお休みくださいと言われるばかりでした。
 本当に大丈夫なのでしょうか…いえ、あの召喚された男性は力がおありのようでしたから、もしかしたらあの男性が私の代わりに結界を維持してくれているのかもしれませんが…

「聖女様、国王陛下がお呼びです」

 午後になってようやく、陛下の侍従がやってきて、私に謁見の間に来るようにと告げられました。一緒に来るようにと言われたので、慌てて準備をします。
 聖女として、公式の場では聖女用の白を基調としたドレスを身に着けるのがルールです。スカートの広がりは控えめで、レースやフリルもありません。ただ、金色の糸で精巧な刺繍があちこちに施されていて、生地もとても上質なものです。聖女らしく清楚に、でも品位を落とさない程度には豪奢に、というところでしょうか。
 着るのが私でなければ、もっとドレスも映えるのでしょうが…白髪の私が着ると、白一色が強調され、紅い瞳だけが異様に目立ってしまいます。もう少し…着る側の意見も汲み取って欲しいところです。

「来たか」

 謁見の間に入ると、国王陛下は既に壇上の玉座に座られていました。その隣には王妃様が、そして陛下の隣に立つのは王太子殿下で、その後ろには第三王子のアルマン殿下がいらっしゃいました。そして…セザール殿下と大神官長様が壇下に並んで立たれていました。
 不安を抱えながらも私は、侍従に促されるまま陛下の御前へと歩み出て、カーテシーをするとその場に跪きました。

「ここに呼ばれた理由がわかるか、ルネよ」

 陛下の威厳に満ちた声が謁見の間に響き渡りました。その威圧感だけで心臓がわしづかみにされたようで、私は一気に緊張感が高まりました。

「いえ」

 心当たりがないわけではありませんが…どれか一つを決める事も出来ず、私はそう答えるのが精一杯でした。元より貴族や王族の方とお会いする機会はなく、神殿育ちの私には貴族の方ですらも緊張を強いられる相手なのです。聖女宮で過ごして三年になりますが…その間顔を合わせるのは侍女や護衛騎士ばかりなので、私にとっては雲の上の存在であるのは変わりません。

「そうか。実はセザールが、そなたが勝手に召喚の儀を執り行い、異世界の者を呼んだと言っておるのだ。それは真か?」

 やっぱり…殿下は今回の事を私のせいにして、ご自身は逃げるおつもりなのでしょう。嫌な汗が背中を流れるのを感じました。こうなる予感はありましたから。
 ただ、だからと言って私に出来る事など何もないのは明白です。私は…聖女とは名ばかりで、実際のところ自由などありません。豪奢な聖女宮で過ごしてはいても、実際は軟禁とあまり変わりないのです。

「いいえ、私はあの日、騎士に天明宮へと連れていかれ、そこで初めて召喚の儀というものがあると知りました。そんな私にどうしてその様な事が出来ましょうか」
「嘘をつけ!聖女の力なくして儀式は行えない!お前以外に誰が出来るというのだ!」

 私を指さしてそう怒鳴ったのはセザール殿下でした。案の定彼は、私に今回の罪を擦り付けるつもりのようです。

「セザールよ、黙れ。そなたに発言を許した覚えはない」
「しかしっ!父上!」

 尚も言い募ろうとした殿下でしたが、陛下が一睨みするとビクッと身体を震わせ、拳を握り締めながら唇を噛みしめました。実のお父上でも殿下は陛下が怖いのですね。

「なるほど。それで」
「殿下は私に、聖女の力を捧げろと命じられました。新たな聖女を異世界より呼び出し、私の代わりになさると」
「なるほどな。それでそなたはどうした?」
「私は、国王陛下がご不在の時に勝手にその様な事をなさっても大丈夫なのかと尋ねましたが…セザール殿下も大神官長様も、私よりも力のある新たな聖女様がいらっしゃるから問題ないと仰いました」
「な…!」
「わ、私はそのような事は…」

 またしても殿下と大神官長様が声を上げようとすると、陛下がまたお二人を睨まれました。これは…陛下は…私が無実だと信じて下さっている…のでしょうか…

「そうしている間に儀式が始まってしまい、私は力を奪われて動けなくなりました」
「そうか」

 陛下がたった一言そう仰ると、その場は沈黙に包まれました。私は嘘は言っていない筈と自分の発言を思い返しながら、陛下のお言葉を待ちました。

「なるほど、それがそなたの言い分か?」
「え?あ、はい…」

 何でしょうか…その言い方ではまるで…

「わかった。そなたは王の許可なく秘術を使った。これは国家反逆罪である。即刻牢に捕らえろ!」

 陛下の命令に、私はただ茫然とその場に佇む事しか出来ませんでした。

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