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どうして戻ってくるの?
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朝起きたら、ベッドに子犬がいました。昨日出会った、銀色の毛並みが綺麗なもふもふっ子です。柔らかくって温かくって…一日中でももふれそうです。
「それにしても…どこから入ってきたのかしら…」
「戸締りはしっかりしてあった筈ですが…」
「そうよね。窓は鍵を掛けてあったし、ドアの前には護衛騎士がいた筈だし…」
そう、聖女宮は聖女が住むので、不埒な輩が入り込めないよう、王宮内でも最も厳重な警備体制なのだと聞いた事があります。
なんせ国の結界が関わっているのです。結界がなければ魔獣が国に入り込んで大変な事になってしまうのですから当然です。以前聞いた話では、いなくなって困るのは、実は国王陛下よりも聖女の方だとも…陛下には王太子殿下がいらっしゃいますが、今のところ私の代わりが出来る聖力のある人がいないからです。
それでも貴族の皆さんからはこの扱いなので、それもどうかとは思うのですが…ただ、私に十分な力があるわけではないので、仕方ありませんが。
「それにしても…この子、どうしましょう…」
抱っこしたら、嬉しそうに尻尾を振って私を見上げるつぶらな瞳に、早くもノックダウンされそうです。いえ、もうされていますわね…王宮で好意とは真逆の感情ばかり向けられてきたせいか、この子の真っ直ぐな好意が眩し過ぎます。
でも…
「私がこの子を気に入っていると知られたら…殿下に酷い事をされてしまうかもしれないわ」
「ルネ様…」
そうです。私の事を嫌っているセザール殿下の事です。きっと私がこの子を気に入って飼いたいなんて言ったら、嬉々として酷い事をしそうな気がします。あの方は…貴族以外は人間ではないと考えているような方ですから、動物など物と同じくらいの感覚でしょう…きっと見つかったら…酷い目にあわされるとしか思えません。
「ごめんね。ここには置いてあげられないの」
「くゅう?」
「ここに来てはダメよ。怖い人や酷い事をする人もいるから。ね?」
「くぅ?」
わかっているのかいないのか…いえ、絶対にわかっていないでしょうが、私は子犬を抱っこしてそう言い聞かせました。この子のためにも、ここに来てはいけないのです。
「レリア、お願い。この子を侍女頭の元へ」
「…そう、ですね。畏まりました」
レリアの手に抱かれて、再び侍女頭の元に預けられた子犬でしたが…
「ええっ?」
「一体どこから…」
それから一刻もしない間に、子犬はまた私の部屋に入ってきました。嬉しそうに尻尾を振っている様がとんでもなく可愛らしいのですが…どこから、どうやって入ってきたのでしょうか…
「レリア…この子、どうなっているの?」
「でも、確かに侍女頭に直接お渡ししましたのに…」
レリアも困惑していますが…ここにいるという事は…
「もしかして、侍女頭が預かったふりをしてその辺に放したのかしら?」
「でも、王宮で生き物を放すのは…」
そうです。王宮内では動物を放つのは禁止です。それにペットを飼うのも許可制で、飼えるのは財があって自分で世話が出来る貴族だけです。住み込みの侍女や侍従も貴族出身ですが、彼らの中にペットを飼う人はいません。仕事中は世話が出来ませんし、寮はペット禁止だと聞きます。
「どうしましょう…」
「こっそり飼うなら…大丈夫ではありませんか?」
「でも…セザール殿下が…」
そうです、セザール殿下がここに来ることは滅多にありませんが、私がペットを飼い始めたと知ったら、直ぐにでもやって来そうです。この子を取り上げられるだけならいいのですが、あの殿下は私の目の前でこの子をいたぶって、私が悲しむのを楽しむとしか思えません。
それだけは絶対に阻止したかった私は、再びレリアに子犬を託し、侍女頭に渡したのですが…
「侍女頭の話では、あの子犬は檻にいれてあったそうです」
「檻に?」
「ええ、あの子犬を見た侍女が、実家で飼いたいと言ったそうです。連れて帰るまではと檻に入れておいたのだとか」
「でも…」
「ええ。なんでも、お昼にエサを上げようとしたらもういなくなっていたそうです」
「じゃ、誰かがあの子を?」
「それが…鍵もしっかりかけていたそうなのです」
「じゃ、誰かが合い鍵を?」
「いえ、鍵は一つしかなかったとか。その鍵も侍女がずっとポケットに入れていたそうなので、それはあり得ないと…」
「何だか不思議な話ね」
でも、あの子犬を飼ってくれる人が見つかったのは幸いでしょう。貴族の家でなら可愛がってもらえる筈です。
なのに…
「…また、脱走してきたの?」
湯浴みから上がってくると、子犬が私の部屋のソファにちょこんと座っていました。これは…
「ルネ様、この子はよっぽどルネ様が気に入られたのですわ…」
「そう、なのかしら」
「何度も言い聞かせましたし、それでも戻ってくるならもう仕方ないのでは?」
「でも…」
「そのうち怖い思いをすれば、自ずと離れていくでしょう。動物は本能で察しますし」
「そう…かもしれないわね」
ぱたぱたと尻尾を振りながら真ん丸な目で見つめられては、これ以上拒否する事は出来ませんでした。それでも、この冷たい王宮の中に突然現れた温かい存在に、私の胸はこれまでになく高まるのでした。
「それにしても…どこから入ってきたのかしら…」
「戸締りはしっかりしてあった筈ですが…」
「そうよね。窓は鍵を掛けてあったし、ドアの前には護衛騎士がいた筈だし…」
そう、聖女宮は聖女が住むので、不埒な輩が入り込めないよう、王宮内でも最も厳重な警備体制なのだと聞いた事があります。
なんせ国の結界が関わっているのです。結界がなければ魔獣が国に入り込んで大変な事になってしまうのですから当然です。以前聞いた話では、いなくなって困るのは、実は国王陛下よりも聖女の方だとも…陛下には王太子殿下がいらっしゃいますが、今のところ私の代わりが出来る聖力のある人がいないからです。
それでも貴族の皆さんからはこの扱いなので、それもどうかとは思うのですが…ただ、私に十分な力があるわけではないので、仕方ありませんが。
「それにしても…この子、どうしましょう…」
抱っこしたら、嬉しそうに尻尾を振って私を見上げるつぶらな瞳に、早くもノックダウンされそうです。いえ、もうされていますわね…王宮で好意とは真逆の感情ばかり向けられてきたせいか、この子の真っ直ぐな好意が眩し過ぎます。
でも…
「私がこの子を気に入っていると知られたら…殿下に酷い事をされてしまうかもしれないわ」
「ルネ様…」
そうです。私の事を嫌っているセザール殿下の事です。きっと私がこの子を気に入って飼いたいなんて言ったら、嬉々として酷い事をしそうな気がします。あの方は…貴族以外は人間ではないと考えているような方ですから、動物など物と同じくらいの感覚でしょう…きっと見つかったら…酷い目にあわされるとしか思えません。
「ごめんね。ここには置いてあげられないの」
「くゅう?」
「ここに来てはダメよ。怖い人や酷い事をする人もいるから。ね?」
「くぅ?」
わかっているのかいないのか…いえ、絶対にわかっていないでしょうが、私は子犬を抱っこしてそう言い聞かせました。この子のためにも、ここに来てはいけないのです。
「レリア、お願い。この子を侍女頭の元へ」
「…そう、ですね。畏まりました」
レリアの手に抱かれて、再び侍女頭の元に預けられた子犬でしたが…
「ええっ?」
「一体どこから…」
それから一刻もしない間に、子犬はまた私の部屋に入ってきました。嬉しそうに尻尾を振っている様がとんでもなく可愛らしいのですが…どこから、どうやって入ってきたのでしょうか…
「レリア…この子、どうなっているの?」
「でも、確かに侍女頭に直接お渡ししましたのに…」
レリアも困惑していますが…ここにいるという事は…
「もしかして、侍女頭が預かったふりをしてその辺に放したのかしら?」
「でも、王宮で生き物を放すのは…」
そうです。王宮内では動物を放つのは禁止です。それにペットを飼うのも許可制で、飼えるのは財があって自分で世話が出来る貴族だけです。住み込みの侍女や侍従も貴族出身ですが、彼らの中にペットを飼う人はいません。仕事中は世話が出来ませんし、寮はペット禁止だと聞きます。
「どうしましょう…」
「こっそり飼うなら…大丈夫ではありませんか?」
「でも…セザール殿下が…」
そうです、セザール殿下がここに来ることは滅多にありませんが、私がペットを飼い始めたと知ったら、直ぐにでもやって来そうです。この子を取り上げられるだけならいいのですが、あの殿下は私の目の前でこの子をいたぶって、私が悲しむのを楽しむとしか思えません。
それだけは絶対に阻止したかった私は、再びレリアに子犬を託し、侍女頭に渡したのですが…
「侍女頭の話では、あの子犬は檻にいれてあったそうです」
「檻に?」
「ええ、あの子犬を見た侍女が、実家で飼いたいと言ったそうです。連れて帰るまではと檻に入れておいたのだとか」
「でも…」
「ええ。なんでも、お昼にエサを上げようとしたらもういなくなっていたそうです」
「じゃ、誰かがあの子を?」
「それが…鍵もしっかりかけていたそうなのです」
「じゃ、誰かが合い鍵を?」
「いえ、鍵は一つしかなかったとか。その鍵も侍女がずっとポケットに入れていたそうなので、それはあり得ないと…」
「何だか不思議な話ね」
でも、あの子犬を飼ってくれる人が見つかったのは幸いでしょう。貴族の家でなら可愛がってもらえる筈です。
なのに…
「…また、脱走してきたの?」
湯浴みから上がってくると、子犬が私の部屋のソファにちょこんと座っていました。これは…
「ルネ様、この子はよっぽどルネ様が気に入られたのですわ…」
「そう、なのかしら」
「何度も言い聞かせましたし、それでも戻ってくるならもう仕方ないのでは?」
「でも…」
「そのうち怖い思いをすれば、自ずと離れていくでしょう。動物は本能で察しますし」
「そう…かもしれないわね」
ぱたぱたと尻尾を振りながら真ん丸な目で見つめられては、これ以上拒否する事は出来ませんでした。それでも、この冷たい王宮の中に突然現れた温かい存在に、私の胸はこれまでになく高まるのでした。
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